ソニーが新製品「Xpeira 1 VI」を発表した。
これまで5世代に渡って4Kディスプレー、21:9というアスペクト比を貫いてきたが、今回はフルHD+の19.5:9に生まれ変わった。
正直、最初にその話を聞いたときには「これまでのソニーとしてのこだわりはどこに行ってしまったのか」と、嘆いてしまったが、体験会などで担当者の話を聞いたり、実際に触っていくうちに納得感が出てきたのであった。
「21:9」にこだわってきたソニー
Xpeira 1が初めて登場したのは2019年のMWCだ。
ソニーとしては来たる5G時代に向けたスマートフォンとして、Xperiaをフルモデルチェンジさせてきた。5Gの普及によって、動画配信サービスの利用が増えると予想し、21:9という縦長ディスプレーにより、映画コンテンツを画面いっぱいに楽しめるというコンセプトを打ち出してきたのだ。
しかも、他のスマートフォンメーカーがインカメラをディスプレーに配置する際、パンチホールを開けたり、画面に切り欠きを入れるなどしてきた中、Xperiaは頑なにフチの部分にカメラを内蔵させ続けてきた。
当時、ソニーモバイルコミュニケーションズの社長だった岸田光哉氏は「映画は我々ソニーグループにとって大切な存在。クリエイターの映像表現を最大限、尊重するため、画面に穴を開けることは絶対にしない」と力説していたほどだった。
オーバースペックを「現実的な路線」に軌道修正
個人的にもこれまでXpeira 1は何機種か使ってきた。
実際にいくつかのXpeira 1シリーズで動画配信サービスを使ってきたが、視聴するのはもっぱらYouTubeやDAZN、SNSが中心。Netflixを視聴しても、16:9の映像がほとんどで、21:9というアスペクト比の恩恵を受ける機会は本当に希であった。
むしろ、YouTubeなどを視聴する際、サイドの黒い部分が邪魔であり、「もうちょっと大きな画面で見たいんだけど」と不満を感じることもあったぐらいだ。
その点、Xpeira 1 VIでは解像度も変わり、そうした映像がやや大きく表示できるのはかなりの改善点と言えるだろう。
解像度も4KからフルHD+になったことで、バッテリーの持続時間がかなり伸びることとなった。また、「サンライトビジョン」という新機能により、ディスプレーの輝度を保ち、直射日光下でも視認性が確保できるようになった。
4KからフルHD+ということで「スペックダウンしたのか」と感じてしまいがちだが、使い勝手という点においては相当進化している。4Kというスマホにはややオーバースペックと言える解像度よりも、かなり現実的な路線に軌道修正したと言えそうだ。
アスペクト比が変わり、見た目の印象も従来シリーズとは違っているだけに、「Xperia 1 VI(マークシックス)」ではなく、もっと違ったXperia 1の型番にしても良かったのではないか。
4Kディスプレー、日本メーカーは調達厳しく
今回、大きく変わったXpeira 1 VIだが、別のメーカー関係者は「ソニーとしては難しい選択を迫られたのではないか」と見る。
メーカー関係者は「4Kディスプレーを調達するのが難しくなってきたのではないか。コスト面もあるし、そもそもディスプレーメーカーに作ってもらうのも大変なはずだ」と語る。
Xperia 1シリーズはハイエンドモデルということで、割引もほとんど適用されず、販売台数的には厳しいものがある。メーカー関係者は「ディスプレーメーカーに大量発注できれば何の問題もないが、少量の発注となればコストは上がる。ただ、これ以上、価格を上げられない中、4Kは諦め、フルHD+にしたのではないか」と予想する。
中国メーカーのように中国国内だけでなく、グローバルに向けて大量に生産する体力があれば、際立ったデバイスを部品メーカーに発注しても、コストを抑えることが可能だろう。
しかし、日本という小さな市場がメインであり、総務省の割引規制によって、かつてのようにハイエンドモデルが売れなくなっている日本メーカーにとっては、これまでのように他社と差別化するための個性的な部材は使いにくくなっているようだ。
ソニーは日本メーカーとして岐路に立っている
昨今の円安基調により、チップを含め、あらゆる部材が高騰している中で、従来の路線を維持するのが難しくなっているはずだ。
この夏商戦において、シャープもAQUOS R9シリーズでは、昨年まであった1インチセンサーの搭載を見送り、チップもSnapdragon 8シリーズではなくなっている。
メーカー関係者は「カメラセンサー、ディスプレー、半導体。スマホ向けの部材メーカーは大量に買ってくれる中国メーカーをターゲットにしている。少量生産の日本メーカーは見向きされなくなりつつある」と語る。
世界に向けて大量生産できるメーカーが、独自の部材を大量に調達し、コストを抑えた製品を市場に投入できる中、日本メーカーとしてどのように生き残っていくのか。まさに岐路に立たされているのかも知れない。