クアルコムは10月24日(現地時間)、アメリカ・ハワイ州マウイ島において、年次イベント「Snapdragon Summit」を開催した。
マウイ島は今年8月、山火事をきっかけにラハイナという中心市街地に大火災の被害が発生した。あれから3ヵ月半が経過したが、ホノルルからマウイに向かう機内は満席。さらにカフルイ空港も例年通り混雑しており、観光客は回復しているものと見られている。このイベントも、マウイ島の一日も早く復興を目指して自治体などと相談した上で開催された。
Snapdragon Summitでは例年新しいSnapdragonが発表される。スマートフォンメーカーは発表されたSnapdragonを搭載したハイエンドモデルをこれから発売していくことになる。すでにシャオミが「Xiaomi 14」を10月26日に発表済みだ。今後、来年2月にスペイン・バルセロナで開かれる通信関連見本市「MWC」などで、各社から新製品が発表されることになる。
発表された「Snapdragon 8 Gen 3」の仕様をチェックすることで、来年のAndroidスマートフォンのトレンドが見えてくる。
クアルコム「Snapdragon 8 Gen 3」はオフラインでもAIが使える
今回、Snapdragon 8 Gen 3でアピールされたのが「On-device AI」だ。ここ最近、どのテック企業でもAIの話しかしてないが、クアルコムもご多分にもれず「AI推し」が印象的であった。
他のテック企業のAIといえばクラウドに問いかけるカタチで答えを引き出すのが一般的であるが、クアルコムではSnapdragon 8 Gen 3上でAIが処理するというのを売りにしている。
実際に様々なデモを見せてもらったが、たとえば「東京からマウイ島までの行き方」を聞けば、なんとなく移動時間なども含めて教えてくれるし、さらに画像処理であれば、カメラで撮影した被写体の周り、実際には撮影できていないところの画像をAIが描いてくれたりもする。
この手のAI処理では特に目新しさもないかもしれないが、何がすごいって、こうした処理を「機内モード」で実現しているのが驚きだ。インターネットに接続することなく、デバイス上のみで処理するのがSnapdragon 8 Gen 3の強みなのだ。
処理が高速、プライバシーにも配慮できるが、性能は発展途上
では実際のところ、デバイス上で処理するというのはどんなメリットがあるのか。
ある程度の質問や要望に対しては端末上で処理してしまうため、反応速度が速いことが魅力といえる。また、個人的な情報が端末上だけで処理され、ネットに流れないため、プライバシーを守った上でAI処理に頼れるという利点もある。
また、会話ごとにインターネットにデータが流れないと言うことで、データ消費量を抑えられるというメリットもありそうだ。
ただし、クアルコムが見せてくれたデモではメタの「Llama 2」(大規模言語モデル)を使っており、最新のデータを元にAIが答えるということは不可能、というか無理な感じであった。また、固有名詞も苦手のようだ。
当然のことながら、デバイス上でのAI処理には、クラウドに比べてかなりの制約があるため、実際はデバイス上のAI処理とクラウドの処理というハイブリッドなカタチになっていきそうだ。
たとえば「東京からマウイまでの行き方」「年末年始に旅行したい」「大人2人と子ども2人」といった条件をデバイス上のAIと対話して条件を決めつつ、最後の最後でクラウドに質問を飛ばし、航空券検索サイトからベストな条件だけを抜き出し、AIが答えてくれる……といった使い方になりそうだ。
アップルがiPhone上で処理できる生成AIを出してもおかしくない
かつて、グーグルの「Googleアシスタント」やアップル「Siri」、アマゾン「アレクサ(Alexa)」など、スマートスピーカーやスマートフォンのAIアシスタントが流行ったが、その後は定着することなく、陰が薄くなってしまった感がある。自分も「オッケーグーグル、3分後に教えて」と、キッチンタイマーぐらいでしか使っていない。
ただ、来年、クアルコムの「Snapdragon 8 Gen 3」がOn-device AIを売りにすることで、AIアシスタントが復活してくると面白いことになりそうだ。
アップルは、これまで個人情報をできるだけiPhone上で処理して、ネットには上げず「ユーザーのプライバシーを徹底的に守る」というスタンスであったため、生成AIには不向きかと思われた。しかし、ティム・クックCEOがアメリカのメディアのインタービューにおいて「アップルは何年も前から生成AIについて研究している」と今年8月に言及したことを考えると、iPhone上で処理する生成AIというのが来年あたりに出てきてもおかしくないだろう。
クアルコムのプロダクトマネジメント担当シニアヴァイスプレジデントのジアード・アスガル氏は、AIアシスタントは携帯電話時代のキーボード、スマホ時代のタッチスクリーンに次ぐ新しいユーザーインターフェースだと力説する。
今後、デバイス上のAIが賢くなることで、タッチ画面をポチポチする機会は一気に減り、AIアシスタントに話しかけることで、アプリを起動したり、メッセージを書いたりするようになるのかも知れない。
いずれにしても、スマートフォンのデザインやカタチは来年も変わることはないだろう。しかし、中身としてAI処理能力については、飛躍的に進化し、これまでとはひと味違う使い勝手になっていくことだろう。