「Slack」で組織内のチャットコミュニケーションができるということはなんとなく知っていても、実際にビジネスの現場でどう活用されているのかはわからないという人も多いだろう。今回はそんな人たちのために、2018年11月26日に開催されたSlackのユーザー事例紹介セッションを紹介しよう。
パブリックチャネルが導入の決め手となった「ナビタイムジャパン」
「Slack」が日本でサービスを開始してからちょうど1年が過ぎた。デイリーアクティブユーザー数は50万人を超え、世界第2位の規模となっている。グローバルでは100カ国で展開し、1000万人以上のユーザーを抱えるイケイケのサービスとなっている。
まずは、SLACK JAPANの越野昌平氏のあいさつ。今回は「Why Slack?」ということで、なぜSlackを検討し、なぜSlackを導入し、どのように活用しているのかを紹介する。
最初に登壇したのは、経路検索アプリを開発しているナビタイムジャパン 経営推進部 情報システム担当 天野剛志氏。1998年、世界初のトータルナビゲーションシステムを開発し、2000年3月に会社を設立した。天野氏は、社内システムの運用や構築、推進を担当している。
同社がSlackを導入したのは2016年7月。社内にはチャットアプリが乱立していたそう。各部署によってアプリが異なり、独自の運用が行われていた。個人間の会話にしか終始しなかった。もちろん、他のシステムとの連携もできない。そん中、Slackに出会って、検討を始める。
「Slackの優位性は3つあります。充実したAPIとパブリックチャネル、機能追加のスピード感です。この3点を評価し、導入に踏み切りました」(天野氏)
情報システム部が「Slackを導入します」と言ったところ、社員から「前から使いたかったのでうれしい。API連携の豊富さを知っているので、早く使いたい」という声が上がった。パイロットユーザーを募集したら、なんと3分の2も手が上がったそう。そこで、即導入に踏み切った。無料版だと1万件までしか扱えないので、情報保全のために製品版を契約した。
1ヶ月間、既存のチャットシステムと併用したが、好意的に利用されたという。もとからエンジニアに知名度があるシステムだったのが理由だ。天野氏が導入に際して留意したのは、使用開始までの敷居を下げること。
社内全員にSlackのアカウントを配布したが、同時に「#help_slack」という質問専用のパブリックチャネルを作った。さらには、全社向けのマニュアルを用意し、よくある質問に対応したそう。当初は、一気に質問が来たそうだが、1ヶ月くらいで落ち着いた運用ができるようになった。
マニュアル内には、各チャンネルの命名ルールも定めた。会社の組織構造に合わせて、チャンネルの作成ルールを規定したのだ。たとえば、部署系なら「div_xxxxxxx」、日報なら「times_xxxxxxx」といった感じだ。
元から用意されている「#general」チャンネルには、全社員に対する連絡用として活用。「#random」は全社員の雑談チャンネルとした。フットサル部が大会に出場したといった内容はここに投稿する。この二つで全社連絡の情報も集約したのだ。
「Slackの導入により、社内情報の可視化と情報格差の撤廃が進みました。パブリックチャネルのおかげです。業務に関わるほとんどの情報がパブリックチャネルに投稿されており、自発的な情報の発信と取得が行なわれています」(天野氏)
導入当初はパブリックチャネルの割合は高くなかった。2016年7月の段階では、パブリックチャネルとプライベートチャネル、DM(ダイレクトメッセージング)の割合は、3:5:2だったという。2018年11月では、8:1:1なっており、情報の共有がスムーズに行われるようになった。パブリックチャネルという適切なコミュニケーションの場があると、自発的にコミュニケーションするようになり、価値を生み出すようになるそう。パブリックチャネルの会話は他人から見られるので、洗練されていくという。
現在は、職種を超えてボットを活用している。社内のミーティングスペースは予約なしで使えるが、実際に行ってみると空いていないということがあるそう。そこで、ウェブカメラを設置して画像を確認できるようにした。さらには、トイレの個室の空きを確認したり、社員名で座席位置を教えてくれるボットもあるそう。
「Slackはチャットツールの枠を超えたコラボレーションツール、情報集約基盤です。パブリックチャネルの存在は、自発的に情報を共有し、取得するという企業文化を醸成してくれます。今後は、SSO連携や2要素認証の導入促進、Slack疲れを防ぐ、社内システムと連携したボットの開発などを目指しています」と天野氏。
Slackユーザーとしては当たり前にも思えるパブリックチャネルを活用することで、社内文化の醸成に寄与し、業務に活用しているナビタイムジャパン。ボットもがっつり使いこなしており、今後の取り組みにも注目していきたい。
2ヶ月で移行完了! Slackとの連携も予定している「カオナビ」
クラウド人材管理ツール「カオナビ」は、顔と名前が一致しないというコンセプトで生まれたサービス。社員が100名くらいになると、顔と名前が一致しない人が出てくるのがネック。カオナビを利用すれば、顔写真と個人の情報が並び、確認できるのが特徴。イベント当日から、タクシー広告が流れるということで動画も再生された。コテコテの社長が社員の顔を覚えず、モチベーションが下がってしまうという内容で面白かった。
「カオナビでは、元々Chatworkを使っていました。あるエンジニアが広げた感じで、運用していく中で問題が出てきました。エンジニアの採用で『Slack使ってますか?』と言われ、ギクりとしたり、Chatworkのグループが乱立して見えにくくなったり、情報がきちんと流通していないと感じました。ほかのアプリケーションと連携したいということもありました」(和賀氏)
カオナビでは四半期に一回、ボードメンバーで断捨離会議を行っている。そこで「Slack」への移行を提案し、承認をもらった。Slack移行プロジェクトが発足し、もちろんプロジェクトオーナーは和賀氏。リーダーやメンバーも用意し、2か月で移行を完了した。
移行の際に重視したのが、Slackの社内啓蒙だったという。和賀氏は「Slackって便利だよ」とずっと言い続けたそう。加えて、チャンネルの命名規則やプロファイルにおける表示名とユーザー名の規定などを進めた。検索性に関わるので、細かいところだがこだわっている。既存のチャットサービスのグループには責任者を立てて、それぞれで移行させたという。
さらに、意識的に社内メールをやめるように上からお達しを出した。それで、大きくメールのやりとりが減ったようだ。社内にあったファイルサーバーもなくして、Googleドライブに移行し、Slackと連携させた。
「Slackを導入した効果としては、見た目がかっこいいこと。これはモチベーションとしては結構重要です。エンジニア採用に際にも自慢げに言えます。各個人が情報の取得量をコントロールしやすくなったかなと思います。後は、絵文字による応答のしやすさもよかったです。絵文字で回答できると、チャンネルが間延びしないので便利です」(和賀氏)
導入したことで、気になるポイントも出てきた。以前のチャットツールであまりグループに酸化していなかった社員は、Slackになったことで情報過多になったのだ。しかし、これは情報処理能力が鍛えられるという効果もあったそう。また、Slackに慣れていないために、「@everyone」の乱用など利用マナーが悪い人もいる。ここはさらなる啓蒙が必要だという。
Slackに対しては、チャンネル名の小文字固定をなくしてほしいという要望が出た。これは、同様に感じている人が多そうだ。
「これからやりたいこととしては、便利ボットの開発を選手権として競ってもらいたいなと思っています。カスタム絵文字も拡充したいです。弊社2か月ちょっとで100ちょっとなので、独自のカスタム絵文字を増やしていきたいと思っています」(和賀氏)
カオナビは昨年までは人材データベースと人材評価の2本柱だったが、今年からはいろんなところとつなごうと動いているという。すでに、組織改善やエンゲージメントでは「SPI 3」、求人のマッチングでは「リクナビ HR Tech」、給与計算では「MFクラウド給与」などと連携している。さらに、2018年度中には、ナオナビとSlackの連携も予定しているという。これはとても楽しみな取り組みだ。
セキュリティにこだわったSlack環境を構築した「シンプレクス」
シンプレクスは「創業以来20年にわたり、金融機関に向けたフロントソリューションを提供している。メガバンクなどの機関投資家向けディーリング&リスク管理システムや、個人投資家向けのオンライントレーディングシステムを提供。案件をコンサルティングするところから、開発、運用、保守まで一気通貫で支援している。
ミッションクリティカルなシステムを扱っており、24時間365日、安定したシステム運用がマスト。その中で、いかに業務を効率化するかというところにも携わっているそう。
「我々が抱えていた課題は大きく3つありました。1つ目が、複数のサテライトオフィスに従業員が点在していたという状況です。1200人いるのですが、そのメンバー間でかなり密にコミュニケーションを取らなければいけません。しかし、その時はメールや電話しかなかったのです」(盛田氏)
2つ目が、昨今の金融システムの成長に伴い、難易度の高いプロジェクトが増加してきたこと。そして、3つ目が高いセキュリティ要件を求められるという金融系IT企業ゆえの苦悩があった。
Slackの導入を検討し始めた時に、公募による有志チームを立ち上げた。監査検証も行ない、クリアしてから部門単位での本運用を開始した。Slackを使いたいという人が多かったので、立候補が多かったそう。とはいえ、ユーザー・監査検証の段階でいくつか課題は出た。
まずはコンプライアンス課題。セキュアな監査ログが必要になるが、内部監査指摘でひっかかったそう。ログの閲覧ビューがSlackにないので、自作もしくはサードパーティ製のツールが必要になったのだ。そのためのセキュアなインフラも必要になる。そこで、有志チーム3人が3週間でAWS上に監査ログ基盤を構築したという。
次に、技術課題。アプリ連携をしたいので、CI/CD環境を構成する各ツールからの通知をSlackに集約させたいというニーズがあった。ネットワーク制約により各ツールを構築しているサーバーに対して、プロキシ設定が必要になってくる。しかし、同社の社内ネットワークでは、CI/CD環境が多岐にわたって構築されており、個別にプロキシを設定することができなかった。そこで、中継サーバーを立て、それに対してプロキシを使って連携するようにした。
最後で、さらに一番重い課題だったのが、ユーザー対応におけるアプローチ。
「当初、使いたい人が使えばいいというスタンスで始めたのですが、ワークスペースが乱立してしまい、ピーク時には20以上にもなってしまいました。アプリ連携や社外ユーザー招聘のフローも不明瞭。それによって、問い合わせが膨大に発生したのです」(盛田氏)
そこで森田氏は、運営整備の一環として、Slackの設定とガイドの整備に着手した。まずは、ワークスペースを20個から3つに絞った。これで、ユーザーが参加すべきところが一目瞭然になった。Slack上で意見収集とディスカッションをできるようにした。そこで精査された内容をユーザー利用ガイドに反映した。
「Slackを全社導入できた理由としては、社内外で協力体制を整備できたことです。一人でやっていたら、おそらく監査ログ基盤を構築することはできませんでした。各ステークホルダーに根気よく説明して、協力を仰いだことで、導入推進モードに切り替わったということは実感しています」(盛田氏)
今後は、全社統一されたワークスペースの整備や、SlackからSaaSや社内ツールを操作できる環境を整備していきく予定だそう。「全社導入からが本当のスタートだと思います」と盛田氏。より付加価値のある環境整備を進めていくとのことだ。
セキュリティは? 優位性は? 過去のデータはどうした?
最後に登壇したユーザー企業の3社によるQ&Aが行なわれた。
Q:セキュリティは大丈夫?
「認証周りはSSOでHDE Oneを使っています。情報のやりとりでは、パブリックで話せないものはプライベートにしています。メールと比べるとSlackの方が安全ということもあります。間違った添付ファイルを送ったときも、メールだと消せないので、その分安全だと思います」(和賀氏)
Q:ITにあまり強くない社員でも使えるのか?
「非エンジニアは9割がチャットで、1割が業務でボットを使っています。このBotはエンジニア用意しています」(天野氏)
「カオナビでは在籍150名のうち100名がバックオフィスの人間です。いろんなことを試させるということをやっています。もし、間違っていても、おおらかに見ています。そこで、変に叱ったりすると萎縮したりするので、みんなと盛り上げるばと考えています(和賀氏)
Q:他社ツールと比較した場合のSlack優位性は?
「Slack使っている会社がとても多いと感じていて、え、シンプレクスさん使ってないんですかと言われます。そこの市民権も優位性かなと考えています。外部ユーザーを招聘したときに、シンプレクスさんSlack使ってるんですね、ではそれでとなることも増えてきました」(盛田氏)
Q:以前使ったチャットツールからの移行時に過去のデータはどうしましたか?
「前のツールのログを取ってほしいという話はありました。ダイレクトメッセージとグループチャットによって機能が異なり、ダイレクトメッセージは各個人にお願いしました。グループチャットの利用度の高いモノに関しては情報システム部で取得しました」(天野氏)
「カオナビでも同じようなことがありました。ログは移行できないという啓蒙をしていました。もし、前のチャットのログが欲しいのであれば、ログはあるので参照するというルールを設けました」(和賀氏)
「弊社の場合は、移行しませんと宣言して、捨てました」(盛田氏)
今回は、既存のチャットサービスからSlackへの移行検討、導入、活用といったステージを具体例と共に紹介してくれ、参加者にとってもとても参考になる内容だった。3社とも、導入に大成功し、業務の課題を解消できている。似たような課題を抱えている企業は、Slackの無償版を利用し、まずは検証することをお勧めする。
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Slack Japan