先日のアップルイベントで発表されたばかりのまったく新しいMacBook Proが、早くもユーザーの手元に届き始めた。ここでは、編集部で早速入手したM1 Pro搭載の14インチモデルと、M1 Max搭載の16インチモデルを、昨年登場したM1搭載の13インチモデルと比較する。今回はベンチマークテスト結果の速報として、一般的なベンチマーク用のアプリを利用して、CPU性能、GPU性能に加え、ブラウザーの性能を、上記3モデルで比較することにした。
●ベンチマークテストで使用した機器
・MacBook Pro 16インチ(Late 2021)M1 MAX CPU:10コア / GPU:32コア / RAM:64GB / SSD:2TB/ Silver
・MacBook Pro 14インチ(Late 2021)M1 Pro CPU:10コア / GPU:16コア / RAM:16GB / SSD:1TB / Space Gray
・MacBook Pro 13インチ(Late 2020)M1 CPU:8コア / RAM:8GB / SSD:256GB / Space Gray
M1 Maxの「高出力」モードとベンチ条件について
新しいMacBook Proの発売と前後して、M1 Maxだけが搭載するという「高出力」モードが話題となっていた。これは、システム環境設定の「バッテリー」を開いて設定できるモードのこと。バッテリー使用時と電源アダプタ使用時のいずれについても「エネルギーモード」を、「自動」/「低電力」/「高出力」から選べる。
デフォルトは「自動」になっていて、システムが必要に応じて「低電力」と「高出力」を自動的に切り替えてくれる。言うまでもなく、前者よりも後者の方が、M1 Maxが高性能を発揮できるモードとなっている。
今回は「高出力」モードを選択してテストした。「低電力」モードを選んだ場合のテスト結果についても、後日掲載予定のより詳しいベンチマークテスト記事で改めて述べる予定だ。
実は、M1 Pro搭載モデルの「バッテリー」設定にも「省電力モード」というチェックボックスが用意されている。これもM1 Maxの「エネルギーモード」と、少なくとも趣旨は同じと考えられる。チェックすれば、より少ない消費電力となるが、パフォーマンスは劣る。チェックを外せば、消費電力は増えて、パフォーマンスは向上する。大きな違いは、M1 Proには「自動」モードがないことだ。もちろんデフォルトではチェックが外れているので、今回もその状態でテストした。
先に、今回のテスト結果を一覧表で示しておこう。使用したベンチマークテスト用のアプリは、Geekbench 5(https://www.geekbench.com/)、Cinebench R23(https://www.maxon.net/ja/cinebench/)とウェブアプリのJetStream 2(https://browserbench.org/JetStream/)の3つ。JetStream 2はSafari上で動かした。
これらのうち、GeekbenchのCPUテストと、Cinebenchの結果は、主にCPU性能を反映したものとなっている。それに対してGeekbenchのComputeテストは、GPUを数値計算用に利用した場合の結果で、M1シリーズのGPU性能を反映している。なお、こうしたベンチマークテストによって、M1シリーズのチップやMacBook Pro本体性能がすべて詳らかになるわけではない。むしろこれらの結果は、チップや本体の性能のほんの一面を映し出すに過ぎない。その点は、ご留意いただきたい。
CPU性能はM1から大幅に向上するもProとMaxの違いは小さい
CPU性能テスト結果を見て、まず最初に言えるのは、MacBook Proを通常に使用する状態と同じく、マルチコアを動かした場合には、M1と比べて、M1 Pro、M1 Maxともに大幅に向上していること。2倍まではいかないが、軽く6割以上は速くなっている。
次に気付くのは、M1 ProとM1 MaxのCPU性能が、さほど大きくは変わらないこと。これは意外に感じられるかもしれない。このテストは、大量のデータを動かすものではないため、Proに比べて最大2倍も速いというMaxのメモリ帯域幅が、ほとんど活かされていないためと考えられる。
また、通常の使用状態とは異なるが、CPUのコアを1つだけ動かした場合の性能は、M1から、M1 Pro、M1 Maxまで、ほとんど同程度だと言ってもいい。それでいて、8コアのM1と、10コアのM1 Pro、M1 Maxの性能がこれだけ違うのは、驚異的と言える。マルチコア動作時の効率が、M1 Pro、M1 Maxでは、素のM1から大幅に向上しているのだ。グラフからは読み取りにくいが、シングルコアとマルチコアの性能比率は、Cinebenchの場合、M1で5.16、M1 ProとM1 Maxでは8.08となっている。単純にコア数を倍数の期待値と考えると、マルチコアの効率は、M1では65%(8コアで5.16倍)、M1 ProとM1 Maxでは約81%(10コアで8.08倍)となり、マルチコアの高効率化がはっきりと読み取れる。
GPU性能ではM1 ProとM1 Maxの差が顕著に現れる
今回のテストの中で、GPU性能が反映されるのは、GeekbenchのComputeだけだ。
このテスト結果からは、M1とM1 Pro、M1 Maxの違いが顕著に読み取れる。とはいえ、テストに使用した各モデルのGPUのコア数が、それぞれ8、16、32となっているので、この結果は当然と言えば当然のものだ。
仮に、Metalを使用したテストで、結果のスコアをGPUの1コアあたりに換算してみると、M1で2697、M1 Proで2407、M1 Maxが2135となる。1コアあたりでは、あまり大きな差がないし、効率的にはむしろM1がいちばん高い。とはいえ、1つのSoCにM1 Proでも最大16コア、M1 Maxでは最大32コアものGPUを搭載できるのはM1 Pro、M1 Maxの大きなメリットだ。
ブラウザー性能はM1からM1 Pro、M1 Maxまで大差なし
もう1つのテストは、ウェブブラウザー(ここでは標準のSafari)上で動かすウェブアプリとして動作する。このテストは、CPUやGPUといった、生のハードウェアの性能ではなく、日常的に使用するユーティリティやプロダクティビティ系のアプリの体感速度を反映するものと考えられる。
結果は、それぞれM1、M1 Pro、M1 Maxを搭載する3モデルのMacBook Proのいずれも大きくは変わらないものとなった。これは、負荷の軽い一般的なアプリでは、どれを選んでも使い勝手に大差がないことを示している。逆に言えば、M1 ProやM1 Maxのメリットを享受できるのは、負荷の重いプロ用アプリを利用するときだけだということになる。当然といえば当然だが、そうした使い方をするのでない限り、M1 ProやM1 Maxの高性能が無駄になりかねないのは確かだろう。
今回のテストだけからでも、CPUの基本性能がそれほど大きく変わらないとして、GPU性能はコア数にほぼ比例する形で増強されることが明らかになった。ユーザーとしては自分の用途に要求されるGPU性能を考慮して、M1 Pro、M1 Max、そしてそれぞれのGPUコア数のチップを選択すればいいことになる。これは新しいMacBook Proの選択、カスタマイズの基準として有効だろう。
今後、ベンチマークテスト用のアプリだけでなく、一般のアプリを使ったテストを加えて、総合的な性能をより詳しく評価する記事を掲載する予定だ。
筆者紹介――柴田文彦
自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。
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