NVIDIAのロードマップは前回のアップデートが昨年8月末だったので、10ヵ月以上開いた形になる。アーキテクチャーとしては相変わらず、という状況ではあるが、製品はだいぶアップデートされたので、この機会にロードマップもアップデートしておきたい。
なお今回からPascal世代の製品と、Volta世代の製品(今のところコンシューマー向けにTitan Vがリリースされているが、これが最後の製品になりそうだ)、それとQuadro RTXはロードマップから落とさせていただき、Turing世代のみとしている。
GeForce RTX 20シリーズが発売
さて、前回のロードマップはRTX 2080 Ti/2080/2070の3製品が発表された段階でお届けしたが、発売は2018年9月になった。当初はGeForce RTX 2080のみで、1週間遅れでGeForce RTX 2080 Tiが発売、GeForce RTX 2070は10月に入ってからの発売となった。
このGeForce RTXシリーズに関する説明は不要だろう。性能についても、すでに細かく説明がなされている。単に性能が高いだけでなくDXR(DirectXレイトレーシング)に対応した現状唯一の製品群であり、競合製品の不在ということもあって、ハイエンド~メインストリームの上の方の製品群を綺麗に置き換えることになった。
これに続く製品が、今年1月のCESのタイミングで発表され、1月中に発売開始されたGeForce RTX 2060である。RTXシリーズ、つまりDXRに対応したローエンド製品であり、349ドルという価格付けをされた。
おそらくNVIDIAとしてはこれをメインストリームの中核に据えるつもりだったのだと思うが、加藤勝明氏のレビューの結論にもあるように、やはりメインストリームの中核とするにはやや高額という問題もあり、爆発的に売れる感じにはなっていない。
差別化要因としては、RTコアを利用したDXRと、Tensorコアを利用したDLSS(Deep Learning Super Sampling)で性能が改善できるというものだが、どちらも利用にはソフトウェア側の対応が必要で、しかも性能がそんなに伸びるとは限らない(このあたりの事情についてはBattlefield Vを例にレビューで説明されている)わけで、未対応のゲームをプレイする場合には「単に要らない機能がついててその分割高」という判断になるのも無理ないところである。
廉価なGeForce GTX 1600シリーズを投入
そのあたりもあってか、今年2月から投入され始めたのがGeForce GTX 1600シリーズである。まず最初に投入されたのが2月22日のGeForce GTX 1660 Tiである。こちらに搭載されたコアはTU106をベースとしたTU116であるが、TU106が445mm2とかなり大きなダイなのに対し、TU116は284mm2と面積を4割近く削減したものになっている。
当然価格もその分下がっており、300ドル切りの279ドルが実現している。もっともメモリーバスが192bitになるなど、若干構成はGeForce RTX 2060を下回るものになっているが、性能的にはGeForce RTX 2060の9割程度のパフォーマンスを確保しており、メインストリーム向けの非常に良いソリューションとなった。
このTU116コアをそのまま利用しながら、より廉価な構成としたのが3月に発表されたGeForce GTX 1660である。
こちらはAMDのRadeon RX 590などへの対抗策として、219ドルという非常に廉価な価格で提供されており、ただし性能も絶妙と言うか微妙というか、なかなか難しいポジションにあることがレポートされている。
そして4月に発表されたのがGeForce GTX 1650である。こちらは149ドルという、メインストリームの下限というかバリュー向けといった扱いになっている。
このGeForce GTX 1650は、TU116ではなくTU117という別のダイを利用しているが、こちらはダイサイズが200mm2と、TU116に比べても一回り小さいもので、性能もそれなりとなっているが、TDPは75Wで補助電源ピンが不要な構成になっている。
実のところこのTU117コアは、単にGeForce GTX 1650向けではないと筆者は考えている。もともとNVIDIAはリテール向けの製品とは別に、OEM向けの製品(GeForce GTシリーズ)を多くラインナップしているが、こちらの最新製品がGeForce GT 1030で、もう少し性能を底上げする必要がある構成になっている。おそらくはTU117はこのGeForce GT 1030の後継(GeForce GT 1630?)向けも念頭において作られたものであろう。
Radeon RX 5700シリーズに対抗し GeForce RTX Superシリーズを準備
これで終わるかと思いきや、AMDのRadeon RX 5700シリーズの投入に向けて、急遽発表されたのがGeForce RTX Superシリーズである。
もっともこちら、YouTubeに謎のディザー広告を出したのは5月23日のことだったのに、その後開催されたCOMPUTEXやE3で一切詳細が明らかにされなかったのは、「カウンター策を打つ」ことは決めており、ラインナップもある程度は固めつつも、AMDの製品ラインナップがわかるまで最終的な構成は決定してなかったのではないか?という気もする。
さてそのRTX Superシリーズであるが、まずはGeForce RTX 2060 SuperとGeForce RTX 2070 Superのみが7月2日に発表(発売は7月9日)となり、GeForce RTX 2080 Superは7月23日以降とされる。
もっとも構成で言えば、GeForce RTX 2060 SuperはGeForce RTX 2070と同じコアを、若干構成を下げ(シェーダーを36SM→34SMに削減)、その分ブーストクロックを若干引き上げ(1620MHz→1650MHz)、おおむね同等の性能になるように調整した(おそらくSM数が減った分、動作周波数が上がりやすくなっているのだろう)もので、それをバーゲンプライス(499ドル→399ドル)で発売するというもの。
GeForce RTX 2070 Superは、GeForce RTX 2080を、こちらも若干SM数を減らし(46→40)、その分ベースクロックを引き上げた(1515MHz→1605MHz)というもので、こちらもおおむね同等の性能になる様に調整したうえで、価格を699ドルから499ドルに引き下げたものである。そういう意味では、あまり技術的には新しい話はなく、純粋にマーケティング的な要素のみである。
ちなみに現状GeForce RTX 2080/2080 Tiのみで利用できるNVLinkであるが、実はGeForce RTX 2070 Superにもコネクターは用意されている。ただ、これが利用可能かどうかははっきりしない。
おそらくリファレンスのものはGeForce RTX 2080用の基板を利用してGeForce RTX 2070 Superを製造したためにコネクターも存在してしまっているのだろうが、OEM製品ではこのあたりが無効化されている可能性がある。
さて、最後がハイエンドのGeForce RTX 2080 Superである。こちらは同じくTU104を使うものの、48SM構成になっており、これはTU104の最大構成である。スペック的にはワークステーション向けのQuadro RTX 5000とほぼ同じ構成であるが、このままだとGeForce RTX 2080との性能差が十分に取れず、差別化が難しいと考えたためだろうか。15.5GbpsのGDDR6を搭載するという無茶な構成になった。
連載515回でも書いたが、Samsungを始めとするメモリーベンダーは現在GDDR6の14Gbps品を幅広く量産出荷しており、これに次いでGDDR6の16Gbpsを用意しようとしている。
ただこちらは歩留まりが低い(Speed Yieldがそこまで上がらないらしい)という話が伝えられており、一般に採用されるのはもう少し後になるかと思っていた。
実際16Gbps品はまだ量産にはおよばない程度の数しか取れていないのだが、15.5Gbpsまで下げればGeForce RTX 2080 Superに利用する程度の数量が確保できる、という判断が下されたようだ。
もちろん根本的にTU102のようにメモリーバスの幅を広げれば簡単なのだが、それはTU104のままでは不可能である。だからといって、TU102ベースで製品を提供するのはコスト面では無理だったようだ。
これは当然で、TU102は754mm2という巨大なダイであり、GeForce RTX 2080 Tiは999ドル、Titan RTXに至っては2499ドルもの価格がついている。これを従来のGeForce RTX 2080と同じ699ドルで出すのはかなり厳しかったのだろう、というのは容易に想像できる。
NVIDIA自身、GeForce RTX 2080 SuperはGeForce RTX 2080 Tiにはおよばない程度の性能としており、ちょうど従来のGeForce RTX 2080とGeForce RTX 2080 Tiの間に位置する、という形を考えたようだ。
Voltaの後継と思われるAmpereは Samsungの7nm EUVプロセスで製造
ということでやっと現在に追いついたわけだが、気になるのは今後である。こちらに関しては、相変わらず一切話がない(なにせコード名すら伝わって来ない)。それもあって各所の情報サイトも以前はPost-Volta/Post-TuringだのVolta-Next/Turing-Nextだのといったコード名を使っており、6月に入ってやっと“Ampere”というコード名が広く伝わるようになった。
ただこれも正確なものかどうかはわからない。Voltaの後継でHPC向けという可能性もあるからだ。コード名だけで考えればVoltaの後継と考えたほうがスムーズである。
昨年10月に都内で開催されたSFF(Samsung Foundry Forum)2018 Japanの質疑応答の際に、7nmのTarget ApplicationにはGPUが含まれるという話が出ており、この段階で次世代製品がSamsungの7nm EUVプロセスを利用することがほぼ既定路線だった模様だ。
いろいろ話を聞くと、次世代が全部Samsungの7nm EUVというわけではなく、一部製品はTSMCの7nm(N7)を利用するということらしい(おそらくTU106/TU116あたりのグレード向けと思われるが正確には不明)が、トップエンドの製品はSamsungのEUVになる模様だ。
最近になって、Samsung Foundryが7nmプロセスでNVIDIA GPUを量産するというニュースが改めて出てきたが、これはおそらくなんらかのマイルストーンを達成したため(たとえば最初のコアをテープアウトしたなど)と思われる。
登場時期は2020年(まだEUVのスループットがそれほど高くないことを考えると、TSMCの7nmよりも下手をすると時間がかかるだろう)となっており、実際今テープアウトしたとして、最初のサンプルが10月か11月。それをベースに量産サンプルが12月とか1月というあたりが妥当な数字であることを考えると、来年のE3あたりで発表があるのではないかという気がする。
ただ、最初の製品はVoltaの後継(つまりHPC向け)で、コンシューマー向けはその次になりそうな気がするのだが。このあたりはまた情報が入ったらアップデートしたい。