![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/89f6db82ba9f97598aa17e78785b1b36d4a20f35.jpg)
{{}}
3DCGアニメの雄、オレンジの井野元英二代表に訊く『宝石の国』
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/7bc6665a6b7fe8a97878aa70d9e7a922cda00951.jpg)
フルCGアニメーションという、日本のTVシリーズ作品ではまだ珍しい形で制作されたアニメ『宝石の国』。日本のフルCGアニメは、主にメカなどの硬質なものを描くSFジャンルで発展してきたが、『宝石の国』でメインとなるのは、「宝石」と呼ばれる人型キャラクターだ。
手がけたのは、本作品が「初元請け」となる3DCG制作会社 オレンジ。同社を設立し、自らも『宝石の国』CGチーフディレクターを務める井野元英二氏は、『宝石の国』をフルCGアニメーションで表現するにあたり、キャラクターへの感情移入を最も重視したという。TVシリーズという、まだ3DCGアニメを見慣れない層にも受け入れられるCG表現とは何か。“不気味の谷”の越え方を伺ってみた。
井野元英二氏:プロフィール
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/3f4f91a7f638886fcfb3f7edffa80ef674de728f.jpg)
1970年生まれ。CGアニメーション制作会社「有限会社オレンジ」代表。マンガ家アシスタント、イラストレーターを経てCGの世界へ。ゲームムービーなどを手がけた後、TVアニメ『ゾイド -ZOIDS-』(1999年)への参加を皮切りに『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002年)をはじめ多数のアニメCGパートを担当。2005年にオレンジを設立。同社CGパートの代表作として『創聖のアクエリオン』(2005年)、『マクロスF』(2008年)、『コードギアス 亡国のアキト』(2012年)、『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』(2013年)などがある。手描きの作画と違和感なく共存するCG表現に定評があるが、初元請け作品のTVアニメ『宝石の国』(2017年)ではフルCGアニメに挑戦、大好評を得た。現在もCGディレクターとして第一線で活躍中。
TVアニメ『宝石の国』ストーリー
宝石たちの中で最年少のフォスフォフィライトは、硬度三半とひときわ脆く、靭性も弱くて戦闘に向かない。また、他の仕事の適性もない。そのくせ口だけは一丁前という、まさに正真正銘の落ちこぼれだった。そんなフォスに、三百歳を目前にしてやっと初めての仕事が与えられる。それは、博物誌編纂という仕事。地味な仕事に不満なフォスだったが、彼はその目で世界を見、様々なことを経験する中で、しだいに大きなうねりに飲み込まれてゆく。そしてついに、彼は望まぬかたちで、欲しかった“強さ”を手にするのだが──。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/a24fcff49d58bbf63fd3c444a30de2b2127fc16f.jpg)
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/7c4d0e20761caac3e97e5113aebdf42142ef1afa.jpg)
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/664f3a8fd158c2761c9d95adae2cb8ac0dd9c8a3.jpg)
スタッフ
原作:市川春子「宝石の国」(講談社『アフタヌーン』連載)、監督:京極尚彦、シリーズ構成:大野敏哉、キャラクターデザイン:西田亜沙子、CGチーフディレクター:井野元英二、コンセプトアート:西川洋一、色彩設計:三笠 修、撮影監督:藤田賢治、編集:今井大介、音楽:藤澤慶昌、音響監督:長崎行男、制作:オレンジ
キャスト
黒沢ともよ/小松未可子/茅野愛衣/佐倉綾音/田村睦心/早見沙織/内山夕実/高垣彩陽/内田真礼/伊藤かな恵/小澤亜李/種﨑敦美/茜屋日海夏/広橋涼/皆川純子/能登麻美子/釘宮理恵/中田譲治/生天目仁美/桑島法子/原田彩楓/上田麗奈/伊瀬茉莉也/朴璐美/M・A・O/斎藤千和/三瓶由布子
Blu-ray&DVD Vol.6 初回生産限定版 好評発売中!
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/afb1d3e7bf1646d146dd287adf1c48d6aaafd6a7.jpg)
収録話数:第11話~第12話、【Blu-ray】品番:TBR27356D、価格:6800円+税、【DVD】品番:TDV27362D、価格:5800円+税
初回生産限定特典
【封入特典】キャラクターデザイン・西田亜沙子描き下ろし全巻収納BOX、オリジナルアートワーク集 Vol.6(32P)、復刻版キャラクターカード(ちびキャラver.)【仕様】キャラクターデザイン・西田亜沙子描き下ろしデジパック
基本仕様
【Blu-ray】1080p High Definition 16:9ワイドスクリーン/1層(BD25G)/リニアPCM、【DVD】16:9LB/片面1層/リニアPCM
■Amazon.co.jpで購入
「CGは好かれない」を乗り越えるための15年間
―― TVアニメ『宝石の国』は、オレンジさん初の元請け作品となりました。井野元さんはTwitterで喜びの声をあげられていましたね。そして、『宝石の国』はセールス的にもヒットしました。おめでとうございます。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/c5e18285926e42ebeb9a54e0639d0353591c8f85.jpg)
井野元 ありがとうございます。私がオレンジを設立してから約15年、フリーランスだった頃も含めると20年以上CG制作に携わってきましたが、ようやく元請け作品を作ることができました。
―― 『宝石の国』はフルCGアニメのTVシリーズものという、現在の日本のアニメーションとしてはレアな形で制作されましたが、会社としての目標にはどんなものがありましたか?
井野元 まず、日本でフルCGでTVシリーズというのは、他社さんも含めて制作する会社というのはごくごく限られていて、2~3社ぐらいしかないのが現状なんですね。フルCGは、制作に時間もかかりますし、まず日本のアニメのなかで、CGは、お客さんに受け入れてもらいにくい、好かれてこなかったという状況がありました。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/9c060b73c1dd60e1d3d252daf457ce128471ec4f.jpg)
作画の中にCGが入る形式だとCGは「浮いて」しまう
―― 好かれてこなかったと。この連載でも『楽園追放 -Expelled from Paradise-』の野口光一プロデューサーが近いことを仰っていました。「CGは好かれにくい」ということを、井野元さんはどのようにお考えになっていましたか?
井野元 アニメの中でCGが浮いて見えることがあるんですね。たとえば作画のアニメの中にCGが入ると、見ている人が『あれ?』と違和感を持ったりする。
作画アニメにCG班として参加していたときにずっと思っていたことなんですけれども、「作画の中にCGが入る」という形式だと、CGは見た目で不利な立場に置かれてしまうんです。
なぜならば、アニメをずっと見ていると、視聴者の目と脳内は作画に慣れてくる。そこに急にCGで、それっぽいんだけど微妙に違うものが挟まれる。すると、そこで視聴者には『CGって嫌なものだな』という印象がどうしても残ってしまうわけですね。おそらく「不気味の谷」に落ちているんだと思いますけれども。
下請けサイドとしては、できるだけ嫌なイメージにならないようにCGを「作画に寄せていく」ところをゴールにして作らざるを得ないのが、私としては残念でした。
―― 作画に寄せていくというのは、CG本来の持ち味ではない、ということでしょうか?
井野元 はい。作画に寄せるだけでは、CGならではの良さを出すところまではいけないと思います。CGが動くことを、純粋にアニメーター視点で見ると、じつはそんなに悪いものではないんです。ただ、「作画アニメと合っていない」ということでCGが嫌われてしまうところがあって、それがCG屋としての不満点でした。
「作画に寄せざるを得ない」経験がオレンジを独自進化させた
―― 『宝石の国』は、フルCGで作画に寄せることなく制作できたわけですね。けれども一方で、現状は、フルCGはアニメファンに馴染みがある表現ではない。オレンジさんでは、フルCGをお客さんに受け入れてもらうために、どんな工夫や作り方をされましたか?
井野元 フルCGが気持ち悪く見えてしまう理由は作画との差異以外にもいくつかあって、動きの作り方が良くないとやっぱりダメなんです。これは、他社さんもいろいろ工夫されているところだと思いますが、オレンジは元々、ガラパゴス的といいますか、独自の進化を遂げているところがありまして、その独自性を活かしたいと思いました。
―― オレンジは、どういったところが「ガラパゴス」だと思われるのでしょうか?
井野元 CGの作り方は、現在のところ2つの主流があります。1つは、アニメのレイアウトに即して作画に合わせる作り方。もう1つはモーションキャプチャーを使ったゲームムービー的な作り方。各制作会社さんでも、二極化されている感じです。
そのなかでオレンジは、両方のハイブリッド的な使い方を独自色として出しているかなと思います。
これは、作画アニメに合わせたCGを作ってきたと同時に、ロボットのように単体で独立した動きのものをフルCGにするということを比較的早い段階からやってきたことが経緯としてあります。たとえば、私がフリーランス時代にやった仕事ですが『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のタチコマなどもそうですね。
そのためオレンジは、作画的なアニメのレイアウトシステムを使いつつも、ゲーム屋さん的なモーションキャプチャーの使い方をするという、両方の性格を持つようになっていたんです。
―― なるほど。フルCGを作中に入れつつも「作画アニメに寄せざるを得なかった」というその経験が、かえって独自の進化につながっていそうです。
井野元 そうなのかもしれません。だから『宝石の国』では、お客さんにとって従来のアニメの見やすさと、感情移入ができるシーンの作り方を、レイアウトやタイムシートといった作画アニメ的な手法を使うことで提供しつつ、CGならではの動きの面白さを挟んだ映像作りをすることで、CGの良さをできるだけ多くの人に伝えられるようにしたいと思いました。
最初は作画とCGを組み合わせる「ハイブリッドCG」を目指してきましたが、現在ではその更に上、「双方を調和」させるという意味で『ハーモナイズCG』という表現をして、常に新しい表現に挑戦しています。
―― 『宝石の国』では、具体的にはCGの良さをどのように出していきましたか?
井野元 1つは、芝居の情報量を上げることができました。特に日常芝居などの細やかな動きというのは、もちろん作画でもできるんですが、TVシリーズの枠内でやろうとすると難しいんです。
たとえば、キャラクターが画面内にトコトコやってきて、座って、何か小芝居をやって、また立ち上がって去って行く。そんなシーンを、作画でカメラの切り替えなしにワンカットでやろうとすると膨大な枚数かつ日数がかかってしまいます。
そういったシーンは、作画であればカットを割って顔のアップと遠景で場面を切り替えたり、喋るときには全身は動かさない、もしくは口パクだけで済ませたりという演出が多いかと思います。それに対してCGでは、切り替えなしにワンカットで歩きながら喋るということが自然にできるんですね。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/241b0d46c4c26ab64e87521920ebe62f1c9ec480.jpg)
“中の人”が越える「恥ずかしさの壁」!?
―― アニメではフォスフォフィライトたちが自然に会話しながら動いていましたが、実はああいったシーン自体がTVシリーズとしては異例だったと。では、どのように作っていったのですか?
井野元 実際に人間が芝居をして、その動きをモーションキャプチャーで取り込んで、キャラクターモデルに反映させて作っていきました。
―― キャラクターの動きはモーションキャプチャーということですが、フォスたちの動きの“中の人”は、やはり役者の方ですか。
井野元 これは、自分たちでやるんです。社内にモーキャプができるスタジオを作りまして。マットを3つズラッと敷いてゴロゴロと転がったりとか、そういったアクションもやっています。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/cc0953a4f098446b9ee4c6c4fa0f1f1933cd961f.jpg)
―― えっ、制作スタッフの方が演じるんですか。たとえばアイドル作品だと、ダンスシーンは役者さんやダンサーさんが担当することが多いですが……。
井野元 ダンスシーンであれば、3Dカメラを多用するので、役者さんにはステージ上で踊る感じで演じてもらえるんですが、日常芝居などはアニメのレイアウトがわかっている人がやらないと、どうしてもちょっと違うものになってしまうんです。「カメラで撮っているこのフレームの枠の中で、これくらいの動きの幅に収めて芝居をしてほしい……」といった細かいことが、役者さんに説明できないこともありまして。
だから実際にそれがわかっている現場スタッフに演じてもらいました。
『宝石の国』では、3人のCGディレクター、茂木(邦夫)、越田(祐史)、都田(崇之)に、それぞれ担当話数のモーションキャプチャーをやってもらっています。
―― たとえば、初期のフォスだったら、ほわんとしたかわいい動きになるとか、ボルツだったらシャープな動きになるといったことはありますか?
井野元 キャラクターの性格も意識して撮ってもらっているところはあります。
ただ、初めてやる人間って、恥ずかしさがちょっと前面に出てしまうんですね。たとえば、男性に女の子っぽい芝居をやってくれと言っても、どうしても恥ずかしがってしまうんですよね。
―― 最近、美少女アバターを使って喋るVtuberが流行っていますが、Vtuberのなかには美少女アバターの“中の人”が男性だったりすることもあるようです。CG制作の現場では、前々からそうしたことが起きていたわけですね。
井野元 役者としては素人ですから、うまく収録できているものと、そうでないものがありますが、修正ツールを使えば絵にできるケースもありますし、これはもうやり直したほうが早いとこちらで判断した場合は、私が後日撮り直すこともあります。私自身は他の数タイトルをまたいでモーションキャプチャーを経験していますので、もう恥ずかしさとかは全然ないですから(笑)
人間の動きをアニメとして気持ちよくするのは「速さ」
井野元 ただし、人間の動きそのままだと、キャラクターの動きとして完成しません。そのままだと生っぽ過ぎて気持ち悪いという領域に入ってしまうんです。そこで、モーションキャプチャーを撮った後、修正して加工するわけです。どの程度、加工すればアニメ作品として見栄えがよくなるかなという分水嶺というか、閾値というか、その辺を探るのが、1つの勘所だと思います。
―― そこに作画アニメに参加したノウハウが活きてくるわけですね。
井野元 作画アニメには、人間が見て気持ちが良い動きのノウハウがたくさんあります。
まず、全体的に尺を縮めるんです。そのままだとアニメの作品としては動きが緩くなってしまうので。わかりやすくたとえると、ジャッキー・チェンの昔のアクション映画みたいに、フィルムをわざと緩めに撮って、実際に再生するときにちょっと早回し気味にさせるという感じです。
実際の人間の動きよりも、ちょっと早回しなのが、アニメのデフォルト的な動きなので。
―― そうなんですか!
井野元 アニメの動きは、通常の実写のスピード感とはちょっと違うところがあって、縮めてやると、それだけでだいぶ気持ち良くなる。その上に、これもアニメ独特の手法で「タメツメ」と言いますけれど、動きの速いところはさらに上げて、その後スローに持っていったりと緩急を付けると、気持ちがいい動きになります。
プラス、もう1つポイントがあるとしたら、ずっと動き続けるというのが、アニメ作品としては気持ち悪い領域に入ってしまうんです。たぶん、見ている人の脳が休む暇がなくなるからだと思うんですが。あとは、作画アニメは止まっている尺が意外と長いので、お客さんの感覚もそれに慣れているんですよね。
だから、意味のないところで動かすことはせずに、きちんと止める。どこまでなら止めなくてもいいという領域もあって、細かく技術的なことを言うと、これは私個人の感覚ですけれども、たとえば20~30フレーム(秒数でいえば1秒弱程度)ならば、止まらずに動き続けてもいい。だけれども、それ以上じわっと動くような部分は止めちゃう。
―― 「アニメの動き」というのは、「人間の目がそう見たがっている」という生理的なものまで計算した上で作られているのですね。
井野元 フルCGの動きだと、どの辺の水準が気持ちがいいのかなと、『宝石の国』に入る前からいくつかの作品でトライしつつ、調整ツールなどのソフトウェアも少しずつ開発を進めていきました。『宝石の国』に入るまでの準備に1~2年かかったと思います。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/d631acb05a4067f69330571af031537f0e11ccc0.jpg)
京極監督はじめ3名の演出家を軸とした3班制で制作
―― 演出に関しては、どのような方針を立てられましたか?
井野元 『宝石の国』は、京極尚彦監督、松見真一、武藤健司という3人の演出家を軸にして3班の制作体制にしました。1班で1話を担当する形ですね。じつは『宝石の国』では、各班ごとにやり方が違っています。本当は統一したほうが良いのかもしれませんが、うちもフルCGでのTVシリーズは初めてなので、今回はその形で様子を見ることになりました。
―― それぞれの演出家でどんな個性がありましたか?
井野元 たとえば、京極監督はCG作品をよくやられているので、キャラクターの周りをカメラがあらゆる角度で回り込むとか、CGならではのカメラワークや演出法を熟知していて、CG屋としては非常に作りやすいですね。
松見さんは、非常にキャリアも長く、ストーリーの中でも少し雰囲気が変わる話数をお願いしまして、全体のクオリティとバランスを見て演出の指示をして頂けて、一番安定して現場を進めることが出来ました。
武藤さんは、従来の作画の手法を用いたオーソドックスな作り方なんですが、アクションに関してはかなり冒険をしてCG映えするような演出をされていて、アクション性の強さが独特の面白さになっています。
超長尺のアクションシーン制作は作画/CGどちらでもキツい
―― CGらしいアクションというのは、具体的にどのような表現なのでしょう?
井野元 武藤班の第10話「しろ」回、ダイヤが巨大な月人に追われるシーンで、全体で3カットほど、1カットが1分以上の非常に長い尺で構成されているカットがあります。私も20年以上CGをやってきて、こんなに長い尺は初めてです。
―― ダイヤが巨大な月人からが逃げようとする様子を、カメラが長回しでずっと追っていますね。構図がダイナミックで、カメラが切り替わらないためなのか、見ているこちらまで息継ぎするのを忘れるような切迫感がありました。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-784/rssitem-2794381/f3e89a90788a8c2d32ff4551c7fcbbe417f94d51.jpg)
井野元 1カット処理で60秒とか作らないですね、普通は。通常だとだいたい3秒とか4秒、長くても10秒前後でカットを割る……カメラを切り替えるんです。件のシーンは時間と手間の作業カロリーが非常に高かったですね。
―― 作画だと、1カットを長くするとその分だけ全部描くので大変ですが、CGでも同じく大変なんですか?
井野元 激しいアクションは、人間が先に芝居をしてモーションキャプチャーで録るといったことができないので、全部「手付け」になるんです。キャラクターのCGモデルをちまちまと手で動かし動かし……というのをひたすらやり続けなければいけなくて。手付けで1分以上って、本当にきつい。これは恐らくまた10年後ぐらいにならないと、他社さんも含めておそらくできないだろうものだとは思いますね。
スケジュールも予算もギリギリのラインを狙った
―― 途方もない作業量だということがわかりました。制作期間はどれくらいかかりましたか?
井野元 通常のアニメ作品より少し長めに、『本来ならこれぐらいないと作れないんじゃないか?』という、ちょっと余裕をもたせたスケジュールで進めてきたところはあります。
フルCGって、CGをあまり知らない方だと、『作画より楽なんじゃないか』『オートマチックにできていくんじゃないか』みたいなイメージが、もしかするとあるのかもしれないんだけれども、実際はとてつもなく時間と手間がかかります。
―― TVアニメシリーズというスピード感のあるフォーマットのなかで、手間と時間がかかるというのはリスクもありそうですね。
井野元 だからフルCGのTVシリーズって本数が少ないと思うんです。なかなか簡単にはやれない。今回やってみて、本当にそう思いました。
でも、これは作画のアニメも同じですよね。予算的な部分とかも含めて、「この期間内で作らないと大赤字になる」という分水嶺もあるわけです。TVシリーズ全12話を2~3年かけて作れればいいのですが、そんなことをしたら制作予算が途中で尽きてしまう。だから今回、オレンジ的には予算がギリギリ取れるところも含めて、可能な限り期間をとりました。
―― 『宝石の国』ではどうしてそこまで頑張っちゃったんですか?
井野元 初元請けなので、今までの集大成として全てを出し切りたい、という気持ちもありましたが、今まで下請けでずっとやってきて、スケジュールがどうしても自社でコントロール出来ないところがありました。
モデリングもあるから早めに入りたいんだけれど、まだ仕様も決まっておらず、資料も来ないからできないという。そういったことを経験して、満足できない感じでやらざるを得ないときが本当にたくさんあったんです。
翻って、今回は元請けなのでスケジュールを自社で調整出来る。だったら、そのスケジュール感も含めて理想を追求したいなと思ったんです。
―― スケジュールまで含めて理想を追求したことで、オレンジさんとしては、どんな進歩があったとお考えでしょうか?
井野元 たとえば製作委員会に入っている各社の方々に、フルCGのスケジュール感と予算感を把握していただく最初の入り口ができた、ということですね。
通常の作画アニメーションと同じ形で提示されたときに、「フルCGだとこれぐらいかかります」ということをこちらから説明して相談に乗っていただく。制作に入る前段階であればスケジュール調整も利きますので。これが浸透すれば、今後フルCGの作品が他社さんも作りやすくなるのかなと。そこも含めてやっています。
―― 『宝石の国』ではリスクも含めた大きな挑戦がいくつもあったようですが、今回のヒットには勝算があったのでしょうか?
井野元 これは賭けでもありました。事前にいくつかの作品でフルCGの表現を試したりはしていましたが、それでも脳内シミュレーションの範疇でしかないから、実際に放送して、感想を聞くまでは、お客さんの反応がわからないところもあったんです。ただ、「もう行ってしまおう。叩かれてもいい」というある種の開き直りもありました。
そうしたら、思いのほか好評だったんです。
たぶん、1話の冒頭など初めて観た方だと、『えっ、これは何だろう?』っていう感想を、まず持たれたと思うんですね。
しかし5分も見ていると、「これって普通に観られるじゃないか」みたいな感じで受け入れてくださったんです。アニメ『宝石の国』の感想について、ネットでよく見たのは「最初CGって聞いたときは嫌だったんだけど、観てみると結構いいよね」というものが非常に多かった。オレンジが目指した表現は間違っていなかったのかなと実感を、今現在は持っています。
井野元さんは元・漫画家アシだった!? 『宝石の国』に至る道のり
後編では、フルCGならではの美しい表現、そして井野元さんとCGの出会い~フリーランス時代~オレンジ設立~『宝石の国』制作までの歩みをお伺いする。
{{}}
■関連サイト
TVアニメ『宝石の国』
オレンジ