「PSION(サイオン、80年代に登場した携帯情報端末)を手掛けた英国の偉人たちがAndroidベースのキーボードPDAを開発している」という情報は、この道の先人や達人の方々のブログや海外のICT系ニュースなどで何度も耳にしていた。
いつもの筆者なら速攻でクラウドファンディングサイトに飛び込んでとっくに買ってしまっているはずなのに、珍しく今回は、初動が鈍り、周囲の人達に海外から届いたブツの“開封の儀”を指を咥えて見ている状況だった。
そんな筆者にも運が向いてきたのか「飽きたらいつでも引き取るよ!」って伝えていたSNSの友人からお誘いがあり、速攻衝動買いとなった。
その友人宅ではなんとファミリーで4台目のGOLDカラー限定モデルの「GEMINI PDA」がやって来るというので、1台を養子に出すことになったらしい。筆者的には英語キーボードモデルでとてもラッキーだった。
さて話題のGEMINI PDAだが、久し振りに耳にする「PDA」(Personal Digital Assistant)という懐かしいジャンル名を冠しているが、実際に使ってみるとモバイルPCともスマートフォンとも違う少し古めかしいPDAという言葉が似合う極めて魅力的なハードウェアに仕上がっている。
クラムシェル型モバイル端末「GEMINI PDA」
昨今のスマホともモバイルPCとも少し形状の異なるボリューミーなパッケージを開くと、GEMINI本体とLCDクリーニングクロス、USB/ACアダプター、USB Type-Cケーブル、クイックスタートガイド、そしてSIMやmicroSDなどの抜き差し用に金属カバー開けるための同素材のツールが入っている。
GEMINI PDAは、クラムシェル型のモバイルPC形状であるため、フラットで板状のスマホと比較すると可動部分が多い。
なおかつ、内部を保護するために全体を金属パネルで覆う堅牢な構造をしている。実際に計測してみたところ、SIMとmicroSDカード込みの総重量は308gだった(仕様は320g)。
実際に手に持った時の堅牢感を考えれば、極めてがんばった軽量性だ。それでも「Galaxy S8+」あたりの6インチクラスの大型スマホと比較しても、2倍近くの重量である。
しかし、キーボードがあることによる生産性アップは一部のユーザーにとっては計り知れない恩恵だ。
筆者の最近の日常使いのスマホは「HUAWEI Mate 10 Pro」。サブのスマホとしてGalaxy S8+と世界最小の「Jerry Pro」を併用している。
平面図的に撮影するとGalaxy S8+とGEMINI PDAはサイズ的に長さが10mm少々大きいだけのようだが、分厚さの差か、実際にGEMINI PDAを手に持ってみると大きくズッシリ感満載だ。
小さくても打ちやすいキーボード
GEMINI PDAの最大の特徴であるメカニカルQWERTYキーボードのキーピッチは実測で14㎜。筆者の知る限り史上最少の物理的QWERTYキーボードは、今から20年以上前にIBMから発売された「ChipCard 100」だ。
ChipCardとの比較はまったく意味をなさないが、一般的なフルキーサイズのキーピッチは19㎜前後だ。
単純比較ならGEMINI PDAのキーピッチは5mmほど幅が狭いことになるが、キートップサイズがほぼ一辺14mmの正方形なので、ほとんどの人の指先が間違って隣のキートップを道連れにすることもなく、この手のキーボードとしては極めて打ちやすい部類のキーボードだろう。
筆者は、「HP95LX」「100LX」「200LX」「Nokia E90」「PSION Series 5」「Blackberry Bold」「PalmTop PC 110」「ChipCard 100」というように、比較的小さなQWERTYキーの商品を長く愛用してきたが、GEMINI PDAの14mmキーピッチの幅170mmほどのキーボードは、テーブル置きでも、両手で抱えて両親指で入力するHPLXスタイルでも入力可能なベストサイズだと思った。
microSDカードを付属のツールで装着
言語設定や普段使いのアプリ導入・設定が終了したら、microSDカードの設定だ。カードを取り付けるには、付属品として同梱されている金属製の「COVER REMOVAL TOOL」が必要となる。
天板の上3分の1ほどの隙間にツールを差し込み、ツールを向こう側へ押し倒すことで手前の大きな金属製カバーを取り外せる。最初はちょっとビビるが大丈夫だ。
カバーを開けた内部には、右側からmicroSDスロット、SIMスロット(micro)、オプションの「External Camera Add-on」(アウトカメラ)の3つのスロットが並ぶ。
今回、筆者は、64GBのmicroSDカードを挿入。External Camera Add-onのフィーチャーは出荷待ちでオープン状態だ。
金属カバーを閉めるのは開ける時の逆で、パネルの切れ目に金属パネルの湾曲の少ない部分を引っ掛けて手前側の3ヵ所ほどをパチパチとはめ込むだけで確実に固定できる。
本体を閉じた状態で電話もできる
GEMINI PDAの外装部分を簡単に紹介すると、まず上ブタである液晶部分の左右側面には各々16個小さな穴の開けられたスピーカーがある。
本体の向かって左側にはイヤフォン端子と、充電用とHUB機能付きのUSB Type-Cポート、マイクロフォンの3つが並ぶ。
反対側の側面には、同じくマイクロフォン、USB Type-Cポート(単一デバイス接続用のUSBポート+専用HDMIケーブルによる映像出力)、スマートボタン (フタを閉めた状態での着信オフフックやオンフック機能など)が配置されている。
液晶画面をオープンしたGEMINI PDAを側面下側から見るとすぐに理解できるが、液晶の開閉をサポートするヒンジ機能の金属板が、液晶を開いた状態では下側に膨らみ、GEMINI PDA本体をテーブルから持ち上げるスタイルとなる。
この機能で、キーボードでの文字入力時には適度なスラント(傾き)を確保できる。液晶画面を起こすとキーボード全体が前にせり出す過去のPSIONのキーボードほどのインパクトはないが、金属の復元性を上手く使った極めて合理的かつ軽量なギミックだ。
GEMINI PDAはキーボードを使用せずに閉じた状態でも、スマートフォンとしての音声着信機能がサポートされているようだ。 着信があると、一般的なスマホと同じく任意の着信音が鳴る。続いて着信を受ける場合は、受話器を上げるオフフック機能を先述のスマートボタンが提供してくれる。
スマートボタンを押して、GEMINI PDAをごく普通の伝統的なスタイルで口と耳に近づけると、内部の加速度センサーが自動的に判断して、GEMINI PADは瞬時に自動で、いずれかの端をマイクとし、もう一方をスピーカーとして設定してくれるとのこと。
右利き/左利きやその時の姿勢次第で、どういう持ち方になるか予測のつかないシチュエーションでは、GEMINI PDAを持ってただ電話に出ればいい、という極めてナチュラルな解決方法だ。
GEMINI PDAに搭載されるユーティリティーアプリ「LEDison」でユニークなLEDライトの光るパターンを作成し、イベントや人に割り振ればより一層楽しく活用できそうだ。
日本語入力環境は「Google日本語入力」がベスト
さて、物理キーボードが使えるとなると、否が応でも文字入力の生産性アップに期待を抱いてしまう。
しかし、筆者の悩んだのはかな漢字変換をどうするか、ということだった。仮想キーボードしか使っていないほかのスマホでは、かな漢字変換の筆者のスタンダードは「ATOK」だ。
最初はほかのスマホ同様、ATOKを導入して使ってみたが、一部の記号系文字が入力できず悩んだ。
しかしそれも何とか解決。英字とローマ字カナ変換の切り替えマルチキーはALT+スペースで自宅のパソコンとも同じ理想形。一方、Google日本語入力では縦に並ぶCtrlとShiftの同時押しと結構厄介なキーアサインだった。
しかし結局のところ、漢字、アルファベット交じり文を書くことの極めて多い筆者には、ATOKでは切り替え操作が極めて頻発し、小さなキーボードではかなりのストレスになりそうだった。
そこでひとまずはGoogle日本語入力をメインに試用中だ。ここ2~3年の筆者の個人的感覚では、Google日本語入力はどんどん成長しているのに、ATOKは何となく足ふみ状況という残念な感覚だ。
GEMINI PDAがほかのスマホとは異なるPDA的なユーザーインターフェースとして提供している「App Bar」は、Windowsのタスクバー的な感じで便利で使いやすい。
11個(ユーザー選抜は10個)までの頻繁に使うアプリを登録しておき、スペースバー左横のPlanet Computersのアイコンキーを押せば即座にスクリーンの下側から迫り出してきて、事前登録した任意のアプリを選択起動できる。
また、左端のPLANETボタンをタップすることで、同社のウェブサイトやサポートへの接続アクセス、画面の縦横強制回転、App Barへのアプリの登録削除画面などへのショートカットも表示される。
見るコンテンツによって縦/横を使い分けられる
物理キーボードが標準のスマホやPDAの場合、基本的には横型(ランドスケープ)使用が一般的だろう。 しかし、縦に流れるのが一般的なウェブの常識となりつつある現在、ウェブ閲覧などではついつい手に持って画面タッチで過ごしたい欲求に駆られてしまう。
そういう意味で、GEMINI PDAはブラウズ時には縦型(ポートレート)画面で使用し、細かな文字が見えずらければ、必要に応じてピンチイン、ピンチアウトを行なう。
そして短時間に多くの文字入力が必要なメールやメッセンジャーへの入力、モバイル環境でのブログやレポート作成入力、送信などでは横型(ランドスケープ)画面で物理キーボードを駆使して使うといった使い方がいいだろう。
反面、慣れ親しんだフリック入力でどんな長文もスピーディーに入力できる世代の人には、GEMINI PDAはまったくお呼びではないプロダクトかもしれない。
キーボードを開くだけで、デフォルトで安定した横型仕様であるGEMINI PDAは、個人的には動画プレーヤーとして便利だ。特に長時間の新幹線による移動などでは最大効果を発揮しそうだ。
画面にキーボードの跡が付くが、そこは工夫で解決
まだたったの数日だが、GEMINI PDAを使用して気になった点は、この手の物理キーボード搭載のPDAには付き物のキートップの一部の形が液晶表面に付着してしまうことくらいだ。
今のところキートップの角が液晶表面に傷をつけるという訳ではなく、キートップに付着した指先の油性分が転写しただけだと思うが、気になった筆者は、付属の液晶クリーニングクロスを少し周囲をカットして小さくして、フタを閉める時に液晶画面とキーボードとの間に挟んでいる。これで問題は100%解決した。
コンパクトで軽量、物理キーボード付きでいつでもどこでも即戦力のGEMINI PDAは、日常持ち歩くというスタイルが100%だ。
そこで、カバンに収納して移動する時の簡易的なケースをいろいろ物色してみたが、なかなかいいものが見当たらない。
同社の純正レザーポーチ(50ドル)も候補に上がったが、結局、銀座の伊東屋で買ってほとんど使っていなかった柔らかい革製のペンケースがピッタリだったので、最近は毎日愛用している。
==オプションのカメラを注文
久しぶりに超エキサイティングなハードウェア==
さて、使い出すとある世代には極めて便利で愛すべきGEMINI PDAだが、普段使いになればなるほど、アウトカメラのないことが気になって、昨日、ついにExternal Camera Add-onを注文してしまった。
同社のウェブを見る限り、すでに出荷中とあるが、まだ日本で取り付けたという噂は聞いていない。配達されてくればまた速攻で本連載で紹介したい。
GEMINI PDAはそのネーミング通り、スマホというより「音声電話もデータ通信もできる、Androidを採用したキーボードPDA」という表現がぴったりだ。
使い勝手の評価と必然性に関しては世代間の差はあるだろうが、久しぶりに超エキサイティングなハードウェアの登場を拍手で迎えたい気分だ。
今回の衝動買い
アイテム:
GEMINI PDA WiFi+4Gモデル
価格:友人から購入(INDIEGOGOで599ドル、約6万3000円で販売中)
T教授
日本IBMから某国立大芸術学部教授になるも、1年で迷走開始。今はプロのマルチ・パートタイマーで、衝動買いの達人。
T教授も関わるKOROBOCLで文具活用による「他力創発」を実験中。