アップルは、第2世代のコンテンツストリーミングプレーヤー「Apple TV 4K」を5月21日以降、発売する。2017年に誕生した初代4K対応モデルから強化したポイントや、デザインを一新したSiri Remoteの使い心地など実機をレポートしよう。
映画も、音楽も。小さな総合エンターテインメントプレーヤー
Apple TV 4Kは、テレビやモニターにHDMI接続して様々なオンラインのエンターテインメントコンテンツを楽しむための再生機器だ。他社の製品では「Chromecast with Google TV」や「Amazon Fire TV Stick 4K」などが使い勝手のイメージは似ている。だが設置スタイルが違う。Apple TVは誕生当初からスティック型のHDMI端子直結スタイルは採らずに、ボックス型の筐体に高性能なSoCや大容量ストレージを搭載した据え置き型デバイスとして一貫したスタイルとしている。
第2世代のApple TV 4Kには、高性能なA12 BionicチップやスマートプラットフォームとしてtvOSが搭載されている。いわばテレビサイドで楽しむエンターテインメントPCのようなデバイスなのだ。
とはいえ、Apple TV 4Kの本体サイズは縦横98mm、高さ35mmと手のひらサイズと言って良いほどコンパクトだ。質量は約425g。デザインは初代のApple TV 4Kから変えていない。
今回大きな変貌を遂げたのは、本体に付属するリモコン「Siri Remote」だ。使い勝手などはこの後詳しく説明する。その前にApple TV 4Kが「できること」を大まかに整理しておこう。
動画サービスは、Apple TV+のストリーミングコンテンツやiTunes Storeで購入した映画などのほか、Netflix、Amazonプライム・ビデオやHulu、Disney+、DAZN、U-NEXT、AbemaTVなど幅広く対応する。またYouTubeもアプリをインストールして楽しめる。iPhoneやiPadに保存した動画や写真も、AirPlayを使ってApple TV 4Kをつないだテレビの大きな画面で見ることができる。
定額制音楽配信サービスはApple MusicのほかSpotify、Amazon Musicなどが利用可能だ。動画系サービスに比べると、tvOSにアプリをダウンロードして楽しめる音楽サービスはやや少なめだ。
ゲームもApp Storeから購入できるものから、Apple Arcadeの定額制ゲーム配信サービスまで幅広く楽しめる。Bluetoothワイヤレスゲームコントローラーは、MFi(Made for iOS)対応のものがApple TV 4Kにもつながる。最新のtvOS 14.5ではソニーのPlayStation 5用「DualSense」や、マイクロソフトのXboxワイヤレスコントローラーもサポート対象とした。もしApple TV 4Kでゲームを積極的に楽しむことを検討している方は、本体内蔵ストレージが大きい64GBのモデルを選択した方が賢明だ。価格は64GBモデルが2万3800円、32GBモデルが2万1800円と価格差もわずかだからだ。
第2世代のApple TV 4Kが進化したポイント
続いて第2世代のApple TV 4Kから進化したポイントを深掘りする。
内蔵プロセッサはA10X FusionからA12 Bionicにアップグレードした。操作の体感が変わるかどうか新旧モデルで比較してみた。結果は電源投入後からホーム画面を起動するまでの時間に体感の差はなく、またアプリの起動、Siriの音声操作のレスポンスなども新旧モデルの間で大きな差はないように感じた。
A12 Bionicに関わるところでは、第2世代Apple TV 4Kの動画表示性能の向上が見込めそうだ。新しいモデルにはHDMIインターフェースの最新規格であるHDMI 2.1が搭載されており、最大4K/60fpsのハイフレームレートで記録された動画をテレビに出せるようになる。4K/30fpsの動画よりも表示が滑らかに見えるところが4K/60fps動画の魅力。それはスポーツの映像、ゲームなど被写体がダイナミックに動きまわる映像を見る時にアドバンテージとして実感されるものだ。
現在のところまだ該当するスペックの4K/60pハイフレームレートHDR動画が多く見つからないため、取り急ぎiPhone 12 Pro Maxのカメラで撮影した4K/60fpsのビデオをAirPlay経由でApple TV 4Kに送り出して再生してみた。初代Apple TV 4Kで見ても十分に安定しているのだが、新しいApple TV 4Kでは映像の細部までぶれないので立体的な空気感が引き立つ。第2世代のApple TV 4Kは無線接続が新しい高速規格のWi-Fi 6に強化されている。有線接続もギガビットEthernet対応なので、iPhone/iPadやMacとのAirPlay連係はよりスムーズになる。
今後は多くのスポーツ映像を配信する「Red Bull TV」など、日本国内でも視聴できる動画サービスにApple TV 4Kが対応するドルビービジョン対応のハイフレームレートHDRコンテンツが増えるというから楽しみだ。
アルミボディの新しいSiri Remoteが使いやすい
第2世代のApple TV 4Kには、一体型アルミニウムデザインになった新しいSiri Remoteが付属する。従来機のSiri Remoteには「Touchサーフェス」という名前の付いた、クリック・スワイプ操作に対応するフラットなパネル形状のインターフェースが搭載されていた。新しいSiri Remoteにはこの代わりにホイール形状の「クリックパッドコントロール」が載っている。これがとても使いやすかった。
クリックパッドコントロールは、上下左右のスワイプと押し込んでクリックする操作に対応する。どちらの入力操作に対してもレスポンスが正確だ。その外周には、12時/3時/6時/9時の方向にクリックできるボタンがある。コンテンツ選択や文字入力を行う際のカーソル移動は、クリックパッドコントロールのスワイプ操作よりも、外周ボタンの十字方向をクリックする方がストレスなく操作できる場合がある。
さらに外周部分は、指でなぞるとジェスチャー入力操作になる。使い方は動画の再生中に一時停止して、外周ボタンの白いドットが配置されている箇所に1秒ほど指を置きっぱなしにすると、画面シークバーの再生地点にあるアイコンが白いホイールに変わる。ここで外周部分を右回り・左回りに指でなぞるように操作すると、コンテンツの早送り・巻き戻しができる。Apple TVにNetflix、Amazonプライム・ビデオのコンテンツ再生時にはこれが使えたが、YouTubeは非対応だった。アプリによって、ジェスチャー操作を受け付けない場合があるようだ。
音声アシスタントのSiriを呼び出すボタンは、リモコンのフロント側からサイドに移した。Siriによるコンテンツ検索や15秒スキップバックなど、再生コントロールは初代のApple TV 4Kの感覚を踏襲する。また新しいSiri Remoteに、本体とHDMIケーブルで接続しているテレビをまとめてオフにできる、独立した電源ボタンが搭載されたことが地味ながらとても便利だ。
Apple TV 4Kの動画コンテンツの色バランスを自動調整
春に提供がスタートした最新のtvOS 14.5から、新旧Apple TV 4KのほかApple TV HDで利用できる新機能「自動カラーバランス調整」が加わった。Apple TVをHDMIケーブルで接続したテレビの画質を、HDTV規格の業界標準となる色温度のD65(6500K)に自動調整して正しい色調に整える機能だ。
通常、テレビのカラーバランスを調整するためには専用の測定機器が必要だ。Apple TV 4Kの場合、Face IDを搭載するiPhoneを使って誰でも簡単に、時間をかけることなく自動カラーバランス調整ができる所に魅力がある。
Apple TV 4Kの「ビデオとオーディオ」設定に入り、カラーバランス調整を選択する。iPhone 12シリーズなど、Face IDを搭載するiPhoneをテレビの画面に近づけて、ガイダンスに従って設定を進めると、1分もしない間に素速くApple TV 4Kの画質調整が完了する。
筆者宅ではソニーの“BRAVIA”「KJ-43X8300D」という4K対応のテレビに、Apple TV 4Kを接続して試した。テレビにプリセットされている映像モードの明るさや色合いを自身でカスタマイズしていた場合、自動カラーバランス調整が途中でエラーになって進まない場合があるようだ。筆者もテレビの映像モードをリセットしたところ、最後まで設定を完了できた。
自動カラーバランス調整後の画質は、筆者の好みよりも色の彩度や明暗コントラストのバランスが少し強調されている印象を受けた。コンテンツの「あるべき正確な画質」のひとつの指標を知るために試してみるといいだろう。
リッチな音を楽しみたいなら、外部オーディオ機器を足せばいい
Apple TV 4Kで再生するコンテンツのサウンドは、HDMIを経由してテレビの内蔵スピーカーで再生される。薄型テレビのサウンドシステムに力量不足を感じる場合は、HomePod miniを導入しよう。Apple TV 4Kと直接AirPlay 2で接続して迫力のあるサウンドが楽しめる。
生産を完了してしまったが、初代HomePodがあればApple TV 4Kで再生するコンテンツのドルビーアトモスサラウンド音声も1台のスピーカーで聴ける。6月からApple Musicで新しいサービスとして始まる、ドルビーアトモスの空間オーディオコンテンツの提供についても、Apple TV 4KとHomePodの組み合わせで対応するのだろうか。そうなのだとすれば、HomePodに代わるAppleの新しい「空間オーディオ対応スピーカー」をぜひ早く商品化してもらいたい。
BluetoothでApple TV 4Kに接続して楽しめる、アップルのAirPodsシリーズなどワイヤレスヘッドホンやイヤホンが手元にあると、夜間のコンテンツ鑑賞も心強い。筆者宅のテレビのようにNetflixなど動画サービスをアプリで見ることはできてもBluetoothワイヤレスヘッドホンを接続できない機種は、Apple TV 4Kを追加すると夜間でもワイヤレスオーディオ機器を使って静かにコンテンツを視聴できるようになる。
家族といっしょに安心・安全に楽しめる
Apple TV 4Kは、アップルによるスマートホームのプラットフォームであるHomeKitに対応している。HomePodからSiriによる音声操作を使ってApple TV 4Kを起動してテレビを起動することも可能だ。
Apple TV 4Kはリビングルームに置いて家族と一緒に楽しむ使い方が普通だと思うが、マルチユーザー機能を設定すると、家族のメンバーをデバイスのユーザーとして個別に登録して、Siri Remoteのテレビボタンを長押しすると開くコントロールセンターからメンバーが切り換えられる。それぞれにカスタマイズしたApple TVやApple Music、App Storeのコンテンツ環境をすぐに呼び出して楽しみたい場合に便利だ。Apple TVの設定から「ユーザーおよびアカウント」を開き、「新規ユーザーを追加」してApple IDを入力すると家族のユーザー登録が行える。
Apple TV 4Kからアクセスできるコンテンツの中には、小さな子どもには見せたくないものもあるだろう。Apple TVの設定から「一般」を開き、「制限」メニューからペアレンタルコントロールを設定すると、映画コンテンツのレーティング設定に応じて視聴ブロックがかけられる。またiTunes Storeからの購入レンタルの許可などについても、細かく制限項目が決められるようになっている。これを安心・安全にApple TV 4Kをシェアできそうだ。
もちろんApple TV 4Kは、ひとり暮らしの方のエンターテインメントセンターとして最適なデバイスだ。これまでにもしApple TVを使ったことがなければ、この最新機種の登場を“買い時”と考えたい。初代Apple TV 4Kを既に持っていて活用している方は、新しいSiri Remoteが6500円で単品販売されることにも目を留めておこう。リモコンを変えて気分一新を図るのも楽しいだろう。
筆者紹介――山本 敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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