中国では一般向けとほぼ同数の 子供向けのスマートウォッチが販売されている
ガラパゴスな中国の子供用スマートウォッチがアツい。いや、そのアツさは今に始まったわけでなく、以前から盛り上がっている。
2021年の世界におけるスマートウォッチの出荷台数は1億2800万台で、このうち中国の出荷台数は米国に次ぐ3956万台なのだが、一般向けが2013万台、子供に特化したモデルが1943万台とほぼ同じ台数が売れているのだ。
主なメーカーは、OPPOやvivoと同じルーツを持つ「歩歩高」のブランド「小天才(imoo)」に、シャオミ、ファーウェイ、360だ。この小天才は技術力に定評があるシャオミやファーウェイなどを抑えて、一番人気のブランドとなっている。この小天才のスゴいスマートウォッチにフォーカスする。
親にとって都合がいい機能だけでなく、 ガジェット好きが欲しくなるような機能・性能が搭載
この記事を書くにあたり、そもそもどれくらいスマートウォッチが普及しているのか、内陸省都在住の中学生にヒアリングしてみた。なんでもクラスの3分の1が持っており、一般向けと子供向けが半々くらいなのだとか。地域差や学校差はあるが中国の学生の間ではそれなりに普及していそうだ。
子供向けスマートウォッチ全般に言えることだが、ピンクや青などのファンシーめのデザインと、通信機能では通話やビデオチャット、それに安全のための電子フェンスやSOSボタンといった機能がある。これは親側の子供を見守りたいというニーズに即している。そのため求められている性能としては、子供の様子がわかるカメラにGPS、4G、将来的には5Gの通信機能、すぐには切れないバッテリー容量がある。
とはいえこれらは親の都合。子供のニーズに応えているとは限らない。そこで親だけでなく、子供も欲しいと思うように、小天才はフラッグシップマシンに親側のニーズをふまえつつ、大人でも欲しくなるようなギミックを加えて、子供の興味を惹いている。
今回は、各種製品の中でも圧倒的存在感の「小天才Z8」を紹介する。他社が日本円で数千円程度の製品を用意する中、小天才Z8は実売価格で3万円台というなかなか高価格なハイエンド機だ。
「小天才Z8」のどのあたりがハイエンドなのか。スペックはSoCにSnapdragon Wear 4100、通信は4GとWi-Fi/Bluetooth、1GBメモリー、32GBストレージ、バッテリーは760mAh。OSは同社開発のCaremeOSとなっている。当然のようにカメラを搭載し、ビデオ通話が可能で、居場所はどこのモールの何階にいるかまで把握できる。歩数計のほか、睡眠計や心拍計機能を内蔵。泳ぐ程度ならまったく問題ない防水機能を備える。
ベルトから取り外してアクションカムに! 勉強に使うのに便利な機能も
そしてギミック的にすごいのは、専用ベルトから簡単に一部か全部を外せるということだ。電話がかかってきたらパッと本体を外して通話できるし、カメラのように構えて撮ることもできる。内蔵の各種アプリも外して利用すると便利なこともあるだろう。
なにより本体ユニットをGoProのように自転車やドローンなどに取り付けて撮影できる。それだけでガジェットとしてうらやましく思ってしまう。防水や衝撃にも耐えられる仕様なので安心だ。またベルトに立たせて変形しての利用もできる。フィットネスアプリを見ながら使ったり、本を読むときにわからない文字をカメラで撮影して検索するといったことも容易だ。
小天才ユーザー同士だけで繋がれる専用SNSも人気
ソフトもすごい。特に専用SNS「微聊」が、中国で一般的なSNS「微信(WeChat)」を上回る人気で、このことが子供用スマートウォッチ市場でトップの存在にしている。この微聊は小天才のスマートウォッチ同士を近づけることで繋がることができるクローズなSNSで、NFCではなくBluetoothを活用している。
微聊に参加すると、チャットやグループチャットのほか、歩数や勉強での競争、いいねの送りあい、キャッシュレス(アリペイ)送金も可能。そう言えば日本でも、端末同士の通信機能で「TAMAGOTCHI 4U」が子供たちの間で人気になったことがあった。
ライバルのファーウェイやシャオミが一般向けブランドをメインで推しているのに対し、小天才はテレビやリアルショップでの広告や販売を重視し、親や祖父母世代に「小天才があれば友達ができる!」と刺さるマーケティングを展開。中国で学校が始まる9月の前の7月、8月に新モデルが登場するのも特徴だ。クラスの何人かが小天才を持ち始めてSNSでリンクすると、そこを基点にクラス内でその良さが広がり購入者が出てくる。
小天才のスマートウォッチは、年間2000万台売れているという。なるほど、ハード・ソフト・マーケティングともに実によく考えられた製品で、大企業に負けずガラパゴスな中国市場で普及したわけだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)