【サハロフ佐藤のアキバ定点観測】でも、毎週のように観測されている2.5インチSSD TBモデルの特価品。毎週末の特価に期待できる秋葉原では、ついにメジャーメーカーの1TBモデルが、格安系メーカー品と並ぶ1万7000円割れを記録している。あくまで特価品での一例だが、SSD全体で見ても、容量あたりの単価は順調に下がっている。
このSSDの低価格化をさらに押し進める新技術が、QLC(Quad-Level Cell) NANDフラッシュメモリーになる。そんなQLC NANDフラッシュメモリーを採用したSSDは、すでにIntelとCrucial(Micron Technology)から発売されているが、新たにSamsungからも同社製QLC NANDと言える「Samsung 4bit MLC V-NAND」採用の2.5インチSSD「SSD 860 QVO」が発表された。
今回、2.5インチでは先陣を切った形となるQLC採用のSamsung製「SSD 860 QVO」の2TBモデル「MZ-76Q2T0」をいち早く手にできたので、ベンチマークテストを走らせてみた。
テラバイト級SSDの低価格化が加速する
Samsungの最新2.5インチSSDとなる「SSD 860 QVO」は、日本サムスンが7月に東京都内で開催した「Samsung SSD Forum 2018 Tokyo」でメモリー事業部のChanik Park氏が言及していたQLC(Quad-Level Cell)NAND採用モデルで、その名の通り1セルあたりのビット容量が4bitに増えている。そのため理屈では1セル/3bitとなるTLCの2倍の容量が実現できることになる。
この「SSD 860 QVO」は、NANDフラッシュメモリーに「Samsung 4bit MLC V-NAND」を採用しているほかは、既存モデル「SSD 860 EVO」と大きな違いはない。
コントローラーにSamsung独自の「MJX」を採用しているほか、キャッシュメモリーの容量やフラッシュメモリーの一部をSLCとして使い性能向上を図り、必要に応じてSLC領域の増減を行なう「Intelligent TurboWrite」を搭載している点も同じで、公称パフォーマンスもほぼ同じになっている。
ただ、メモリーセルあたりのビット容量が増えることでの耐久性低下は避けられず、総書き込み容量(TBW)は大幅ダウン。同容量「SSD 860 EVO」のきっかり60%となっており、製品保証期間も5年から3年間に短縮している。
容量ラインナップはNANDフラッシュの特徴を活かした1TB、2TB、4TBの3モデルが発売予定で、気になる国内価格は発表待ちだが、ドルベースでは1TBが149.99ドル、2TBが299.99ドル、4TBが599.99ドルとなっている。
ちなみに、ひと足先に情報が出ていた海外サイトと価格が異なるのは、土壇場でSamsungから連絡が来て変更になったためだ。この予定売価から国内価格を予想(1ドル118円換算)すると、1TBモデルは税込1万9800円と、正直微妙な価格になるが、2TBは税込3万8800円、4TBは税込7万6800円と、大容量かつ低価格化を実現していると言えるだろう。
新モデルSamsung SSD 860 QVOのスペック
容量 1TB 2TB 4TB
型番(海外) MZ-76Q1T0 MZ-76Q2T0 MZ-76Q4T0
フォームファクター 2.5インチ
NANDフラッシュ Samsung 4bit MLC V-NAND
コントローラー Samsung MJX
キャッシュメモリー 1GB LPDDR4 2GB LPDDR4 4GB LPDDR4
インターフェース SATA3.0(6Gb/s)
シーケンシャルリード 550MB/秒
シーケンシャルライト 520MB/秒
ランダムリード(QD1) 7500IOPS
ランダムライト(QD1) 4万2000IOPS
ランダムリード(QD32) 9万6000IOPS 9万7000IOPS 9万7000IOPS
ランダムライト(QD32) 8万900IOPS
MTBF(平均故障間隔) 150万時間
TBW(書き換え可能容量) 360TBW 720TBW 1440TBW
製品保証 AES256ビット暗号化、TCG Opal 2.0準拠、IEEE-1667準拠
製品保証 3年間
想定売価 149.99ドル 299.99ドル 599.99ドル
現行モデルSamsung SSD 860 EVOのスペック
容量 1TB 2TB 4TB
型番(海外) MZ-76E1T0B/IT MZ-76E2T0B/IT MZ-76E4T0B/IT
フォームファクター 2.5インチ
NANDフラッシュ Samsung 3bit MLC V-NAND
コントローラー Samsung MJX
キャッシュメモリー 1GB LPDDR4 2GB LPDDR4 4GB LPDDR4
インターフェース SATA3.0(6Gb/s)
シーケンシャルリード 550MB/秒
シーケンシャルライト 520MB/秒
ランダムリード(QD1) 1万IOPS
ランダムライト(QD1) 4万2000IOPS
ランダムリード(QD32) 9万8000IOPS
ランダムライト(QD32) 9万IOPS
MTBF(平均故障間隔) 150万時間
TBW(書き換え可能容量) 600TBW 1200TBW 2400TBW
製品保証 AES256ビット暗号化、TCG Opal 2.0準拠、IEEE-1667準拠
製品保証 5年間
実売価格(税込) 2万円前後 5万円前後 10万円前後
「SSD 860 QVO」の性能をチェック
ここからは定番のストレージベンチマークを使って「SSD 860 QVO」のパフォーマンスをチェックしていこう。テスト環境には、CPUに8コア16スレッドのAMD「Ryzen 7 2700X」、マザーボードにX470チップセットを搭載するASUS「ROG CROSSHAIR VII HERO(WI-FI)」を用意したほか、システム起動には別のSSDを使用。
容量2TBの「MZ-76Q2T0」には、なにもデータが書き込まれていない状態で各種ベンチマークを実行している。また、比較用には「SSD 860 EVO」の2TBモデルを用意している。
テスト環境
CPU AMD「Ryzen 7 2700X」
(8コア/16スレッド/定格3.70GHz/TB時4.30GHz/TDP105W)
マザーボード ASUS「ROG CROSSHAIR VII HERO(WI-FI)」(AMD X470)
メモリー G.SKILL「Trident Z RGB F4-3200C16D-16GTZR」(3200MHz/8GB)×2枚
ビデオカード NVIDIA「GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition」
SSD KingFast「F6 PRO 2710DCS23-360」(2.5インチ、360GB、SATA3)
Samsung「SSD 860 QVO 2TB」(2.5インチ、2TB、SATA3)
Samsung「SSD 860 EVO 2TB」(2.5インチ、2TB、SATA3)
電源ユニット Seasonic「SS-750KM」(750W、80PLUS GOLD)
OS Windows 10 PRO 64bit版
Intelligent TurboWriteの動作を確認
一般的にTLC NANDフラッシュメモリー採用SSDには、フラッシュメモリーの一部をSLCキャシュとして使用して書き込み速度を底上げする機能が採用されているが、SamsungはSATA SSDでは「SSD 960 EVO」から同機能を強化し、SLCキャッシュ領域を必要に応じて増減する「Intelligent TurboWrite」機能を採用している。
当然、「SSD 860 QVO」にも搭載されているが、キャッシュ領域を超える書き込みが発生した際のライトパフォーマンスが「SSD 860 EVO」と大きく異なっている。
Samsung SSD 860 QVO
1TB
(MZ-76Q1T0) 2TB
(MZ-76Q2T0) 4TB
(MZ-76Q4T0)
標準キャッシュ容量 6GB 6GB 6GB
可変キャッシュ容量 36GB 72GB 72GB
最大キャッシュ容量 42GB 78GB 78GB
キャッシュ内シーケンシャルライト 520MB/秒 520MB/秒 520MB/秒
キャッシュ外シーケンシャルライト 80MB/秒 160MB/秒 160MB/秒
Samsung SSD 860 EVO
1TB
(MZ-76E1T0B/IT) 2TB
(MZ-76E2T0B/IT) 4TB
(MZ-76E4T0B/IT)
標準キャッシュ容量 6GB 6GB 6GB
可変キャッシュ容量 36GB 72GB 72GB
最大キャッシュ容量 42GB 78GB 78GB
キャッシュ内シーケンシャルライト 520MB/秒 520MB/秒 520MB/秒
キャッシュ外シーケンシャルライト 300MB/秒 500MB/秒 520MB/秒
まずは「HD Tune Pro 5.70」の「File Benchmark」を容量200GBで実行。「Intelligent TurboWrite」の動作を確認してみた。
「SSD 860 QVO」2TBモデルの「MZ-76Q2T0」は公称値通り、最大キャッシュ容量の78GBを超えた80GBあたりでガクッと速度が低下し、160MB/秒まで落ち込んでいる。逆に「SSD 860 EVO」の2TBモデルは、容量200GBの書き込みテスト中に速度が低下することはなく、500MB/秒を維持している。
「SSD 860 QVO」は、「SSD 860 EVO」シリーズの下位に位置するのでやむを得ないが、残念なところだろう。とくに1TBモデルの「MZ-76Q1T0」は、42GB越えで80MB/秒まで低下することになる。
「SSD 860 EVO」の1TBモデル「MZ-76E1T0B/IT」は、11月に入ってから急激に値下がりし、2万円を切っている。さらに米Amazonでは、11月27日現在で127.98ドルになっており、日本への送料や消費税を含め、1万6000円前後で購入可能になっている。容量1TB狙いなら、「SSD 860 EVO」を購入するのがベストかもしれない。
データサイズに関係なく安定したパフォーマンスを発揮 CrystalDiskMark 6.0.2
続いては定番のストレージベンチマークを使って「SSD 860 QVO」の基本性能を見ていこう。1番手は「CrystalDiskMark 6.0.2」で、計測データサイズは1GiB、4GiB、16GiB、32GiBで実行している。
「SSD 860 QVO」はデータサイズに関係なく安定したパフォーマンスを発揮している。「SSD 860 EVO」と比べ「4KiB Q1T1」の数値が数MB/秒遅くなる傾向はあるが、パフォーマンス差はほとんどないと言えるだろう。
SATA3の限界に迫る性能 ATTO Disk Benchmark 3.05
2番手はシーケンシャルリード・ライトの最大パフォーマンスを見られる「ATTO Disk Benchmark 3.05」だ。
「SSD 860 QVO」の最大値はリードが566MB/秒、ライトが540MB/秒で、いずれもSATA3インターフェースの限界に迫るパフォーマンスとなっている。体感には感じられない微々たる差だが、シーケンシャルリード・ライトは「SSD 860 EVO」を上回るようだ。
スコアー、転送速度ともにEVOを上回る PCMARK8 Storage
ベンチマークの最後は、ゲームやアプリケーションの起動時間などを計測し、独自のスコアーでパフォーマンスを示す「PCMark 8」の「Storage」テストを実行している。
両モデルのテスト結果差は誤差の範疇だが、「SSD 860 QVO」がスコアー、データ転送速度(bandwidth)ともに「SSD 860 EVO」を上回っている。
データ保存先のTBクラスSSD化が近いかも
Samsung製QLC NANDと言える「Samsung 4bit MLC V-NAND」を採用する2.5インチSSD「SSD 860 QVO」のパフォーマンス面に関しては、頭打ちとなっているSATA3インターフェースのため、「Intelligent TurboWrite」の最大キャッシュ容量を超えない限り、まず不満は出ないだろう。
となるとあとは価格面だが、冒頭でも述べたように2TBと4TBは魅力的な価格で登場すると思われる。ただし、すでに2TBモデルはWestern DigitalなどのTLC NAND採用モデルが4万円を切っている。Samsungには、もうひとがんばりしてもらって、3万円台前半~中盤の手が出しやすい価格を実現してもらいたいところだ。
【関連サイト】
Samsung SSD
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