前回から、MacのOSとCPUの変遷の歴史を振り返る記事を連載としてお届けしている。1984年に初代Macが登場してから40年近い歴史を、ハードウェアとソフトウェアの両面で振り返るという趣向だ。それによって、単に懐かしさを感じるだけでなく、今あるMacの姿を意味を再確認し、さらに今後のMacの発展の方向性を考えるヒントが得られれば、と考えている。
初回の前回は、これまでに大きな動きが3回もあったCPUの変遷をざっとたどってみた。第2回の今回は、Macに搭載されたOSの変遷を、Mac OS X以前を中心に思い出してみることにした。
SystemからMac OS、そしてMac OS XからmacOSへ
前回も少し触れたように、これまでに採用されてきたMacのOSの種類は、もっとも大きく分けると2種類になる。それは現在使われているmacOSの始点となったMac OS X以降のOSと、それ以前のOSだ。本記事ではMac OS X以前のものを、まとめてClassic系と呼ぶことにしている。しかしその分け方は、話を思い切り単純化するための仮のものであり、かなり乱暴な分類と言わざるを得ない。そこで今回は、まず前半のClassic系と後半のOS X系の中を、もう少し細かく見るところから始めよう。
もちろん、そのつもりになれば、それぞれの時代の中をいくらでも細かく分けることができるのだが、いきなりそうしても些末な話になりかねない。そこで、Classic系をさらに4つに、OS X系は3つに分けて、流れを確認することにした。
まずClassic系の4つとは、MacのOSがまだ「System」と呼ばれていた時代のうち「System 7」が登場する以前、つまり「System 6.x」までの時代が1つ、次にSystem 7.xの時代が2つめ、それからMacのOSに「Mac OS」という固有の名前が付けられてから、そのバージョンが8.xまでの時代が3つめで、バージョンが9.xになった以降の時代が4つめだ。
年数で見ると、System 7以前の時代がざっと7年、System 7の時代が6年、8と9がそれぞれだいたい2年ずつとなる。ただしMac OS 9.xは、OS Xが登場してからもしばらくは生きながらえている。ここでは、正式版のMac OS X 10.0(Cheetah)が登場した2001年に、世代交代したと仮定した。
次にOS X系は、OSのアーキテクチャ自体にそれほど大きな変化がなかったので、単純に名前で分けることにした。最初期の「Mac OS X」と、なぜか名前から「Mac」が削られた「OS X」、そして表記がiOS風のものになった「macOS」だ。これらのOS X系では、基本的なバージョン番号は最近まで連続していた。初代から10.7(愛称はLion)までがMac OS X、10.8(同Mountain Lion)から10.11(同El Capitan)までがOS X、そして10.12(同Sierra)から10.15(同Catalina)までと、バージョン番号が11に繰り上がった現在のBig SurがmacOSと呼ばれている。
次に、今挙げた少し細かな分類に従って、前半のClassic系OSの具体的な姿を見ていこう。
OSというよりアプリプレーヤーの初期「System」
まずは、最初期のMacの起動直後のデスクトップ画面を見てみよう。初期のMacは、画面の解像度が512×342ピクセル(=ドット)しかなく、各ピクセルがオン/オフ(白/黒)しかないモノクロなので、現在のMacの画面と比べると、かなりスケール感が異なるもののように見えるかもしれない。
しかし同時にそこから受ける印象、あるいは雰囲気は、現在とさほど大きくは違わないのではないかとも思われる。特にアイコンの意匠やウィンドウのデザインなど、それほど違和感を覚えることはないだろう。メニューバーの左端に近い部分には、今と同様のアップルメニューも配置されている。
ここに見えているのは、現在のmacOSで「デスクトップ」というものを実現しているのと同じ、Finderの画面だ。現在のMacでは、何かアプリケーションを起動しても、Finderが見えなくなってしまうということはない。デスクトップに置いたアイコンは表示されたままだし、Dockも隠さない限り常に表示されている。
しかし、当時のMacでは何かアプリを起動すると、ウィンドウの背景としてのデスクトップも含めて、すべてそのアプリの画面に切り替わってしまう。上のデスクトップに表示されている、ディスクのアイコンやゴミ箱も消える。それらはFinderが表示していたものだからだ。これは単にアプリが全画面で動作するという意味ではない。Finder自体がメモリから追い出され、起動したアプリだけが動作している状態になってしまう。Finderも1つのアプリに過ぎないのだ。
このあたりの話を始めると長くなるので、それはまた別の回に先送りしよう。ここでは、とにかく初期のMacのOSが、この上もなくシンプルなものであり、ちょうどレトロなゲーム機のようなものだったことを知っていただければ十分だろう。つまりゲーム機が、差し込んだカートリッジのゲームマシンになりきって、そのゲームだけをプレイできるのと同様に、Macはフロッピーで供給したアプリを動作させるだけのアプリプレーヤー的なものだったのだ。それでいて、画面の雰囲気や操作性については、今のmacOSにも通じるものを持っていたことは、やはりMacならではの特徴だった。
さらにもう1つ先送りしたいのは、Mac OSの日本語化の話だ。純正の日本語表示/入力機能は、早くも1986年に「漢字Talk」という不思議な名前で登場した。基本のシステムは、英語版で言えばSystem 3.0に相当する。このあたりについても、そこにいたるまでの経緯や、その後の発展も含めて、1つのテーマとして改めて取り上げたい。
新機能を多く盛り込んだ「System 7」
初期のMacのOSとしてのSystemは、バージョン番号の付け方にユーザーを混乱させるようなものがあったものの、全体としては順調にアップデートを重ねていった。そのバージョン改定のきっかけには、大きく2種類があった。1つは、ソフトウェア自体に新しい機能を追加したり、発見された不具合を修正するためにリリースするもの。もう1つは新しいMacの機種が登場する際に、そのハードウェアの機能をサポートするためにリリースするものだ。
現在のmacOSでは、年に1度大きなアップデートがあり、その間に細かなバージョンが変化していくので、バージョン改定のタイミングは昔とは異なるように見える。とはいえ、改定の根本的な要因として、ソフトウェアとハードウェアの2つある点は変わらない。
さてそのSystemもバージョン6.0.xで、とりあえずの完成の域に達したような感もあった。この6シリーズは、1988年から1992年まで、1つのSystemのメジャーバージョンとしては最長に近い6年間も使われた。そのことからも、ある種の踊り場にたどり着いたようなものだったのがうかがえる。古くからのMacユーザーも、初めて使ったのがSystem 6.0.xだったという人が多いのではないだろうか。
そして、その停滞感を打ち破るような形で華々しく登場したのが、1991年のSystem 7だった。このバージョンでは、ユーザーインターフェースが本格的にカラー化されて洗練されたものとなり、誰もがMacの新しい時代の到来を感じたものだ。CPUをはじめとするハードウェアの進化にも対応し、より安定した動作を実現した。これはSystem 7から始まったことではないが、複数のアプリケーションを起動したまま、瞬時に切り替えて使えるものとなっている。少なくとも操作感覚としては、今のOSと大差ないものになったと言える。
すでに述べたように、このSystem 7.xの使われた期間もかなり長い。その間には、MacのCPUの68000系からPowerPCへの転換も経験している。また、途中でOSの正式な名前がSystemから「Mac OS」に変更されるという、いわばアイデンティティの危機も乗り越えた。それはアップルが、サードパーティにライセンスを与えて製造を許可したMacの互換機が登場したことと関係がある。その話も今回はスキップする。
モダンOSを目指したが挫折した「Mac OS 8」
表面的には新しくなったSystem 7だったが、実はOSの中身のアーキテクチャは、初期のSystemの時代から、それほど大きくは変わらないものだった。そのころ世間では、「モダンなOS」ということがよく言われるようになっていた。そこで言うモダンとはどういうことか。一般的な単語の意味としては「現代的な」ということになるが、それは簡単に言うと信頼性の高い堅牢なOSという意味を持っていた。
具体的には、メモリ保護機能やいわゆるプリエンプティブなマルチタスク機能を備えていることが最低条件となる。それにより、1つのアプリが不具合を起こしても、他のアプリやシステムへの影響が避けられる。こうした機能は、すでにワークステーションなどの高性能マシンでは当たり前のものだったが、もともとアプリプレーヤー的なところからスタートしているMac OSには備わっていなかった。
アップルでも、そうした機能の実装に手をこまねいていたわけではない。実はCoplandというコード名で開発されていた当初のMac OS 8は、そうしたモダンなOSへの進化を図ったものだった。まったく新たに、そうした特徴を備えたOSを開発することは、実はそれほど難しくはない。
しかし、これまでMac用として開発されてきたアプリや、周辺機器用のドライバーなど、膨大な資産を活かしつつ、同時にモダンな機能を備えたOSを開発するのは至難だった。開発作業は予想以上に難航し、ついにCoplandを満足な形で完成させることはできなかった。そしてアップルでは、従来のOSにさらに機能を追加して、モダンではないMac OS 8をリリースすることで、当面は妥協するしかなかった。
新世代のMac OS Xへの橋渡しを果たした「Mac OS 9」
モダンなOSではない、という点ではMac OS 9はMac OS 8と大差ないものだった。しかしこの新たなバージョンは、その代わりに別の大きな役割を背負って登場した。それは従来のMac OSをいったん総括すると同時に、その上に構築されたさまざまな資源を次世代のモダンなMac OSに、そしてそのために設計された新世代のMacのハードウェアに受け渡すことだった。
それ以前のモダン化の試みが失敗に終わったのは、簡単に言えば旧来のアプリをそのままモダンな環境上で動作させることを目指した結果だった。それに対してOS 9は、いわば古いOSをMac OS Xという新たな環境の中で動作させることで、細かな問題を回避するという手法を採用した。これは今で言えば一種の仮想環境のように見えるもの。OS X上で動作するOS 9の環境を使って、OS 9以前のアプリを動作させる。OS Xからすれば、OS 9環境は1つのサンドボックスと見ることもできる。当時のOS Xでは、この環境を特に「Classic」と呼んでいた。
この記事では、OS 9以前のOSを広義のClassic系と呼んでいるが、OS X上で動作するOS 9は狭義のClassicと言うべきものだ。
ただしこのようなOS 9環境は、Macのハードウェア上で直接動作するClassic系OSとは微妙に異なる部分があったため、100%の互換性を保証できるものではなかった。そこでOS 9は、それ以前のMac OS同様、Macのハードウェアの上で直接動かすことも可能としていた。その際には、OS Xと同時に動かすことはできないが、起動時にOS 9とOS Xを選択できる、デュアルブート機能を備えていた。
現在のmacOSに直接つながる「Mac OS X」の登場
Classic系のOSで行き詰まりとなっていたMacの救世主となったMac OS Xは、簡単に言えば、それまで一時的にアップルを離れていた共同創立者、スティーブ・ジョブズがアップルに復帰したことによって生まれた。アップルを離れていた期間に創立したNeXT社で培ったワークステーション用OSの技術を最大限に活用して、Mac用のモダンなOS、つまりMac OS Xを開発したのだ。そのあたりを含め、OS X系の話はまた次回以降にお届けしよう。
訂正:初出時、一部表記に誤りがありましたので訂正しました。(2021年5月6日)
筆者紹介――柴田文彦
自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。
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