大塚氏は、それまでのEMCジャパン社長と兼務するかたちで、2019年8月5日付でデル社長にも就任していた。ただし、就任後に開催予定だった社長会見が突然中止となったこともあり、両社を統合した立場としては初めての記者会見となった。
デルとEMCジャパン、両社の強みをフルに生かすための「融合」
米本社のDell Technologiesは、2016年9月に発足している。現在はグローバル180カ国に約15万人の社員が在籍し、売上高は925億ドル(約9兆8000億円)に達するなど「テクノロジーカンパニーとしては世界最大規模」だと大塚氏は説明する。サービスプロフェッショナルが約3万4000人、営業専任チームにも約4万人が在籍するなど「最前線の人材を大幅に強化し、顧客満足度を高め、多くの市場でナンバーワンシェアを獲得している」(大塚氏)点も強調する。
また、2020年度における年間R&D投資額は44億ドル(約4700億円)だった。CTOの黒田氏は、このR&D投資額が前年度比で7%増加していることを紹介し、さらに2019年のDell、EMC、VMwareを合わせた米国特許取得件数は16位相当になること、IEEEが2017年に行った、特許価値を考慮したランキング調査では3社合計で2位になったと述べた。
「R&D推進においては、将来を見据えて対象とする技術分野を検討している。『Realizing 2030』という調査研究を公表しており、経済の未来や生活の未来を支える技術について紹介している。ここでは、未来の経済を形作るテクノロジーとして5G/6G、IoT、AI、ブロックチェーン、仮想通貨の5つを、また生活を形成するテクノロジーとしてはセンサーとIoT、モバイルエッジコンピューティング、5G、AI、XR(VR/AR)を取り上げている」(黒田氏)
国内においては、米本社の合併後もデルとEMCジャパンの2法人が存続してきたが、統合と融合を目指した取り組みを進めてきたという。まず、2017年から2019年8月までのチャプター1では、“バーチャル型ワンカンパニー体制”を敷いて統合を開始。既存ビジネスの「継続性」を重視し、両社の強みを統合してシナジーを最大することを目指した。そして2019年8月以降、現在や今後も含むチャプター2においては、チャプター1で築いた土台を生かしながら融合と革新を進め、ポテンシャルをフルに発揮することを目指すという。
「両社の持つケーパビリティやビジネスモデルの『融合』は、まだ道半ばだ。ここを統合から融合へと進めたい。広いマーケットを効率的にカバーするデルの特徴と、大規模顧客を対象にハイタッチでアプローチし、深い提案によって価値創造するEMCの得意手法を融合させることで、シナジーが生まれる。どちらかに寄せるのではなく、両社の強みをフルに生かすアプローチを取っている」(大塚氏)
こうした取り組みを通じて、国内におけるビジネス規模は、2016年からの3年間で2倍に拡大したという。また、国内市場におけるPCシェア(台数ベース)は13.2%から19.1%に、x86サーバーシェア(売上)は10.4%から15.5%に、外付けストレージシェアは10.3%から14.6%に、それぞれ増加している。大塚氏は、2020年度(2020年2月期)の売上高も「前年比2ケタ増を達成した。最初のケタは1ではない(=20%以上の増加である)」と述べ、今年度も市場成長率を上回る成長を目標にすると語った。
なお同社では2021年度下半期(2021年8月~2022年1月)に、東京・大手町の「Otemachi Oneタワー」(2020年完成予定)に本社を移転することを発表している。この新本社について、大塚氏は「新たな働き方を実現するオフィス環境を目指す。キーワードは『ハイブリッド』で、在宅勤務と新たなオフィスのいいところを取り、働き方の融合を図りたい」と述べた。
コロナ禍への緊急対応から「新しい時代を勝ち抜くIT変革」へ進むべきとき
現在の新型コロナウイルスによる経営環境や社会環境の変化については、「困難な時代を迎えても、経営者の多くはIT投資を増やす傾向にある。7割の企業がIT投資を維持あるいは拡大すると回答しており、デジタル変革の必要性が高まったとする経営者が多い」と語り、これまで企業の事業経営や経営基盤の確立に貢献してきたのに加えて、今後は企業変革や企業競争力の強化を支援する姿勢を強調した。
「日本市場では、生産性向上、デジタルガバメント、自動運転、キャッシュレス決済、5Gといった新たな市場機会が同時並行的に進行している。さらに、エッジコンピューティングやアナリティクス、AIといったさまざまな技術の飛躍的進化が、これを後押ししている。企業やビジネスリーダーのDX推進に対する意識が変化するとともに、新型コロナウイルスがデジタル変革を後押ししていることも見逃せない。デル・テクノロジーズは『パートナー』の役割を担い、新たな市場機会や変化に貢献できる」(大塚氏)
デル・テクノロジーズでは「WIN2(Win in New Normal)」という言葉を掲げている。これはニューノーマルの世界、新しい時代で勝ち抜くことを意味する言葉だ。
WIN2の実現に必要なIT変革については、ITのTCO低減と俊敏性向上の両立を図る「ITの競争力強化」、Work From Home(在宅勤務)にとどまらない“Everything From Home(xFH)”による事業継続と生産性向上を目指す「xFHの実現」、新しい収益源を確立するための「デジタル競争力の確立」、持続可能なデジタル社会を実現する「社会インフラの変革」という4つの柱を挙げた。
CTOの黒田氏はITの競争力強化について、デル・テクノロジーズでは「財務面のDellファイナンシャルサービス、戦略面のDell Technologiesサービス、テクノロジー面のDell Technologiesテクノロジーポートフォリオを組み合わせて、ロードマップを提供」しており、これによりTCO削減と俊敏性向上を両立させながら、顧客IT基盤の強化と競争力強化に役立ちたいと話した。
またxFHの実現では、在宅勤務の高度化とプロフェッショナル業務のリモート化、新たなビジネスプロセスへの改革などを要点に挙げている。黒田氏によると、Dell Technologiesでは2009年からテレワークに取り組んでおり、社員15万人のうち13万人が在宅勤務を行っても「生産性を落としていない」という。日本の顧客はまだテレワーク経験が少なく、生産性が上がらないケースが多いため、顧客の状況に合わせて最適な在宅勤務環境を導入できる提案を行っていると述べた。
もうひとつ、社会インフラの変革においては「持続可能なデジタル社会」の実現に貢献するという。黒田氏は、「人と人の接点がデジタルを前提としたものに変わるなかで、これまでの法律やルール、慣習が見直され、社会のデジタル化に向けた準備が進むことになる。そこに向けて社会基盤のデジタル化支援を、多くのパートナーと協力して行っていく」と説明している。
大塚氏は、デル・テクノロジーズの目標は「人類の進化を牽引するテクノロジーを創出すること」だと説明し、日本においてはテクノロジーの提供に加えて、顧客の変革にも貢献する真のパートナーを目指したいと語った。
「デル・テクノロジーズは、統合から融合へと進化し、新たな船出を迎えた。今後は、より実践的なアプローチを進めたいと考えている。WIN2イニシアティブで推進する4本柱を通じて、お客様とともに先進プロジェクトを推進し、デジタルトランスフォーメーションの実現に貢献。変革に貢献する真のパートナーを目指す」(大塚氏)
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