何をくらべているのかな
『AIに負けない子どもを育てる』などの本で知られる数学者・新井紀子先生が読解力のつけ方を教えます。前回につづいてグラフがテーマ。社会科のグラフを読み解いてみましょう。
帯グラフ タイトルや単位に注目
先日、5年生の社会の授業をしました。「日本の工業生産の特色」というところです。今回、イラストの帯グラフを読み解き、特色を挙げるこつを伝授します。
まず、グラフのタイトルと単位に着目しましょう。[1]のグラフは「工業種類別の工業生産額のわりあいの変化」で、単位はパーセント(%)です。1935年から2017年にかけて、それぞれの工業がしめるわりあいがどのように変化したかを表しています。
時の流れによる変化を表すグラフの場合、「増えているもの・減っているもの/変化がはげしいもの」に注意します。この二つに気をつければ、自然に特色を文章で書くことができます。「①機械工業のわりあいが増えている」「②せんい工業のわりあいが減っている」といった感じです。
タイトルや単位に注意せず「せんい工業が減っている」と答えた人はいませんか。くらべてみましょう。
(A)せんい工業のわりあいが減っている。
(B)せんい工業が減っている。
(A)と(B)は一見、同じことをいっているようです。でも、ちがうのです。それを理解するには「全体の数字はどのように変化しているか」を理解する必要があります。1935年には工業生産額は150億円でした。それが1960年には15兆円をこえ、2017年には322兆円にたっしました。15兆は150億の何倍ですか? 4年生の算数「大きな数」で習いました。
150億×1000=15兆
なんと、千倍に増えています。つまり、せんい工業の生産額は増えているのに「わりあい」は減っているのです。全体の数字に着目することで、三つめの特色として「③日本の工業生産額は戦後、ひやくてきに増加した」ことがわかりました。
[2]のグラフも読み解いてみましょう。タイトルから三つの帯グラフはそれぞれ何かについて「大工場と中小工場のわりあい」をくらべているとわかります。何についてくらべているのかを読み解き、「どちらがどのように多いか」に注目します。多い・少ないを表すときは「どれくらい多いか」がわかるようにします。
上の帯グラフは工場の数をくらべています。「④中小工場の数があっとうてきに多い」ことがわかります。その下の帯グラフは働く人の数をくらべています。「⑤中小工場で働く人の数のほうが大工場にくらべてとても多い」といえるでしょう。最後は生産額です。「⑥生産額は大工場のほうがやや多い」といえます。
[1]、[2]のグラフを読み解き、六つの特色を挙げることができました。箇条書きは、もれなく特色を挙げるのによい方法です。ただし、最後は接続詞や対比表現、指示語を使い、イメージがわくように文章でまとめます。
【日本の工業生産は、せんい工業から機械工業へと中心を変えながらひやくてきに発展した。その生産は、あっとうてきに数が多い中小工場と、数は少ないが生産額が多い大工場によって支えられている。】
プロフィル 国立情報学研究所教授。一橋大学や米イリノイ大学、東京工業大学で学ぶ。読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導する。
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