トナカイは日本でも飼育されているのを知っていますか? もともとは北極圏を中心にすむため、暑さは苦手です。そこで、秋田市大森山動物園はトナカイの健康を考えて、園内で放牧し、泳いでもらう、より自由な飼育に取り組んでいます。6年かけて考えた飼育方法が、トナカイの豊かな暮らしにつながっていると評判です。(猪野元健)
園内放牧で暮らし豊かに
動物園のトナカイは、柵にかこまれた運動場で飼育するのがふつうです。それが大森山動物園では今年6~9月の暑い時期、園内の森や池がある約2200平方メートル(バスケットボールコート約5面分)のエリアで放牧されていました。
日本ではすずしい秋田県でも、トナカイにとっては暑い場所です。血を吸うサシバエがトナカイに集まり、それをふりはらうために走ることでさらに体温が上がります。暑さで体力が落ち、健康への悪い影響が心配されていました。
大森山動物園でも以前は限られたスペースでトナカイを飼育していました。飼育員の柴田典弘さんは6年前にトナカイ担当になり、暑さとサシバエの対策を考えました。
水が入ったペットボトルをこおらせて運動場に置いたり、直射日光が当たる場所に水をまいたり。日かげを増やすために、トナカイ舎の周りの森を育てました。
トナカイはこうした体温が少しでも下がる場所を選んで過ごしました。しかし、体温を下げる効果には限りがあります。また飼育員の仕事の負担も大きくなりました。
ほかにも、トナカイが食べるえさの葉が合わず、歯がすり減る課題がありました。そこで柴田さんたちは、トナカイに食べる葉を選んでもらおうと、園内の散歩を始めました。
そして2015年、自由に草を食べさせようとトナカイを園内の一部エリアに放してみました。するとトナカイたちは真っ先に池に入り、泳ぎ出したのです。
「まったく想定していませんでしたが、上手に泳いだので、おどろきはすぐに安心に変わった」と柴田さん。草もより自由に食べました。
次の年も同じトナカイとその子どもをためしに池に放すと、親が子に泳ぎ方を教えていました。「野生に近い自然な姿だった」といいます。
ざぶ~ん!で暑さ乗り切る
園内での放牧は、暑さとサシバエ対策にもなるかもしれない――。柴田さんたちは放牧しても脱走しないことを確認して、19年は4か月間にわたり計4頭を放牧しました。園内での過ごし方をトナカイにより自由に選んでもらうことが、体温の調整に加えて歯にやさしいえさの発見にもつながりました。
大森山動物園のトナカイ飼育は、動物の豊かな暮らしを実現する動物園・水族館を評価する「エンリッチメント大賞2019」で、35の取り組みの中から大賞(総合評価賞)を受賞しました。12月上旬に東京大学(東京都文京区)で開かれた表彰式で、柴田さんは「ざぶーん」と泳ぐトナカイの映像を流し、出席者をおどろかせました。
「繁殖を成功させて頭数を増やし、群れで飼育していきたい。これからもトナカイの幸せを追求していきたいです」と話します。
(秋田市大森山動物園は冬季休園中。1月4日から2月29日までの土曜・日曜・祝日・2月24日は開園します)
トナカイってどんな動物?
北極圏とその周辺に生息。体長1.2~2.2メートル、体重約60~250キロ。おもに草や葉、コケなどを食べます。シカの仲間で、トナカイだけがおす、めすの両方に角があります。一部の地域では家畜にされています。釧路市動物園(北海道)、那須どうぶつ王国(栃木県)、多摩動物公園(東京都)、東山動植物園(愛知県)などで飼育されています。
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