厚生労働省がとりまとめる「毎月勤労統計」という調査で、調べる会社の数を勝手に減らすなどの不正が見つかり、通常国会で論戦となっています。そもそも統計がどれほど重要で、不正があるとどんな影響が出るのか、第一生命経済研究所主席エコノミストの新家義貴さんに聞きました。(松村大行)
統計は国の調子を測る体温計
日本の人口、平均寿命、全国でインフルエンザにかかった人の数……。こうしたデータは、政府がとりまとめる統計の数字が元になっています。その中でも経済に関する統計は「国が今どんな調子なのかを示す体温計のようなもの」。
熱が高ければ休んだり薬を飲んだりするように、統計のデータに気になる変化があれば、政府はふさわしい政策を立てて対処します。経済の変化を予測するエコノミストの仕事でも貴重な情報だそうです。
働く人がもらう給料や働く時間などを調べるのが毎月勤労統計です。「給料が増え、人々の消費(買い物など)がのびるかどうかといった予測に重要な統計です」。政府が特に大切とみる56の基幹統計=イラスト参照=の一つで、国の経済の全体像を示す国民経済計算(GDP統計)など、ほかの統計をつくるときにも使われます。
今回、毎月勤労統計で10年以上にわたる不正が見つかりました。給料の調査で、従業員500人以上の大きな会社はすべて調べる決まりなのに、2004年から東京都分だけ勝手に対象を3分の1に減らしていました。全体の中で、給料が高めな東京都の会社の数が減ったため、正しく調べるよりも低い結果に。統計の数字をゆがめました。
新家さんは①許可なく調査の方法を変えた「ルール違反」②集めたデータに必要な処理をしなかった「計算ミス」③去年から処理をしていたのに公表しなかった「説明不足」が重なったと考えています。統計の調査方法などをチェックする、総務省の統計委員会の一員である新家さんにとって、この不正は「ありえないことでおどろき」だったそうです。
さらに他の基幹統計にも次々と誤りが見つかっています。政府は233ある一般統計をふくめ、点検を続ける考えです。
雇用保険、本来より低額に
統計調査については、調査の範囲やたずねる内容などが法律や省令で細かく決まっています。ただし、ルール通りに調査しているかは、専門家でも出てくる結果をみるだけではわかりません。これまでは「正しいという信頼のうえで成り立ってきた」といいます。毎月勤労統計の不正も、厚労省の職員の報告で初めて明らかになりました。
この統計で調べられた給料のデータは、仕事を失った人がもらう失業手当をふくむ雇用保険などの額を決める基準になります。今回の不正によって本来より低い額におさえられていた人は、延べ約2015万人にのぼるとみられています。「統計は生活から縁遠く思えますが、実はいろいろなことに関わっています」
一方で、将来の経済予測にあたえる影響は少ないのではと考えられています。もっとも新家さんは、「正確な統計をつくる意識の低さや、ミスをかくそうとする姿勢が明らかになったことで、政府の統計全体に対する信頼が落ちてしまうのでは」と心配しています。
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