『へいわとせんそう』は、詩人の谷川俊太郎さんが文を、イラストレーターのNoritakeさんが絵をかいた絵本です。戦争とはどんなものか、平和な世界のためにどんなことができるのか、子ども書評委員が、谷川さんに話を聞き、考えました。(構成・谷ゆき、撮影・畑山敦子)
生まれたときはみんな同じだった
絵本『へいわとせんそう』を開くと、左ページに「へいわのボク」、右ページに「せんそうのボク」が、それぞれシンプルな絵で対照的にえがかれています。
次の見開きには「へいわのワタシ」と「せんそうのワタシ」。さらにページをめくっていくと、ぱっと見ただけでは左右の絵が全く同じに見える場面が登場します。「みかたのあかちゃん」と「てきのあかちゃん」です。
「ほとんど同じあかちゃんが出てくるでしょ。どうしてだと思った?」。谷川さんが、書評委員に聞きました。
「戦争はたいがい大人がやるから」と答えた書評委員に、谷川さんが言いました。
「人種がちがうとか国がちがうとかいうことで戦争をするけれども、人間としてみたら、特に生まれたばかりのときは敵も味方も、みんな同じじゃないかっていうことをえがいているんです」
それなのになぜ、戦争がおこるのか、この場面では問いかけています。
「次元がちがう」原爆、リアルに感じて
32ページのうち、絵ではなく写真が使われているところがあります。「せんそうのくも」です。そこにうつるのは、太平洋のマーシャル諸島で行われた、水爆実験のキノコ雲の写真。水爆は、原爆と同じ、核爆弾です。
1945年8月に広島と長崎に落とされた原爆は、当時では新しい爆弾でした。谷川さんは東京で、しょうい弾による空襲を受けましたが、原爆は、「次元がちがう」爆弾だったと話します。
「原爆っていうのは、われわれの世代にとってすごくリアルなもの。広島・長崎は強く印象に残っていて、読む人にもリアルに感じてもらいたいと思いました。写真の方が絵よりも少し現実的だから、写真にしようと思ったんですね」
書評委員が、「へいわのどうぐ」が、なぜ紙とえんぴつなのかとたずねました。
「戦争っていうのはやっぱり、言葉が通じないからおこることが多いんだよね。だけど、条約を結ぶとか、敵同士が話し合うとかして戦争をさけることができる。そのときは、絶対言葉が必要なんだ」と谷川さん。
詩や作品を書くことが直接世界を平和にすることにつながるとは思っていないけれど、ごくごく小さな力にはなるかもしれないと谷川さんは言います。
「この本を読んでくれた人が『あ、こうなのかな』って気がついたりすることはあると思う。一人ひとりがそう感じることが、力になるんじゃないかな」
* *
たにかわ・しゅんたろう
1931年生まれ、東京出身。詩人。絵本に『わたし』(絵 長新太)、『もこもこもこ』(絵 元永定正)、翻訳に『スイミー』(作 レオ・レオニ)ほか、作品多数。
外部リンク