勝山康晴のマンガ超炎上
10年に1作くらい、時代の空気にハマりまくった漫画が登場します。今、まさにそれが『BEASTARS』、作は板垣巴留さん。
『BEASTARS』既刊11巻
登場人物は全て動物。擬人化した動物たちの高校生活を描いています。生徒は草食獣、肉食獣、は虫類、鳥類など多種多様。
様々な動物が共存するこの世界では「肉食」はタブー。他の動物を食べてはいけないのです。しかし、その高校内で草食獣が肉食獣に食べられる事件が起き、学園生活が一変してゆく。それが物語の始まりです。
主人公はオオカミのレゴシ。肉食獣で体格が良く、戦闘力も高いが、そこが逆にコンプレックスで、地味に生きたいと願う優しい心の持ち主。レゴシが恋するヒロインは小さな草食獣で恋愛経験豊富なウサギのハル。
色々な動物の特性を生かしたキャラ設定が魅力ですが、そこには現実の人間社会の人種や性別や貧富の差が反映され、物語には、格差問題、性差別、人種差別という現代のゆがみが内包されています。また同種でも希少で高価値な種による平凡な同種へのいじめがあったりと、視点が鋭い。
根底に流れる捕食者と被食者という絶対的断絶。「食べられるかも」という被食者、草食獣の弱者ゆえの不安と劣等感。「食べてしまうかも」という捕食者、肉食獣の強者ゆえの苦悩と罪悪感。「食べる側と食べられる側」というDNAに宿る本能がうごめき、わかり合いたくてもわかり合えない絶望感。ハルはレゴシに言います。「常に死と隣り合わせの動物の気持ちなんて知りもしないくせに」と。
しかし、それでも主人公たちは新しい共生の形を目指します。その情熱には光を感じます。分断と排除がのさばる、2019年の人間社会を照らす、強い光を。今、絶対必読。
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かつやま・やすはる 1971年、静岡県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した近藤良平が率いる、ダンス集団「コンドルズ」のプロデューサー。
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