ジャニーズ事務所は生き残れるのか? 危機管理のプロが考える3つの最低条件
ジャニーズ事務所が未曽有の「危機」に直面している。
ジャニー喜多川氏の約30年に及ぶ未成年者への性加害について、元ジャニーズJr.だけではなく有名グループに所属していたメンバーなども被害を訴えるなど「告発ドミノ」が発生。テレビCMを出稿している大企業のスポンサーも、ジャニーズタレントの広告起用に腰が引けてきた。こうなると、広告ビジネスをしている民放テレビ局としても、番組への出演オファーを見送らざるを得なくなるのも時間の問題だろう。
ただ、厳しいことを言うようだが、このような事態を招いたのは自業自得の側面もある。3月に英国BBCのドキュメンタリー番組が放映されてからの、ジャニーズ事務所の危機管理ははっきりいって最悪だった。「これだけはやってはいけない」という典型的なミスが3回も続いたからだ。
スルーし続けた“ツケ”がきた
まず1回目は「初動」の遅さだ。海外では、ショービジネス界の有力者がデビューをちらつかせて未成年者へわいせつ行為を働くというのは、一発で「業界から永遠追放」という重罪である。しかし、ジャニーズ事務所にはそういう危機意識が欠如しており、スルーし続けてしまった。これによってインターネットやSNSでの論調が荒れに荒れた。
そして2回目は、元ジャニーズJr.の男性が記者会見を開いてから出したコメントだ。以前公開した記事「ジャニーズ事務所の『性加害報道』コメント、危機管理の視点で企業はお手本にできるのか」の中で詳しく解説したが、これは事実関係への言及もなければ、謝罪もなしという「ゼロ回答」だった。これは令和の時代、炎上必至の「悪手」だ。
一方的なメッセージ
さらに極め付きが3回目のジュリー藤島社長のビデオメッセージとQ&Aを一方的に流すという強引なスタイルである。
普通、この手の不祥事でこんな対応をしたら、マスコミはその企業をボロカスにたたいて、ワイドショーのコメンテーターは、「社会をナメている」なんて嫌みを言うのがお約束だが、今回はそういう動きはほとんどない。そういうマスコミの露骨な「報道しない自由」も相まって、ジャニーズ事務所への不信感と「傲慢(ごうまん)さ」が際立ってしまった形なのだ。
謝罪内容に納得できない人は半数以上
このビデオメッセージが逆効果だったことは、All About編集部が5月18~22日に、全国10~70代の500人を対象に実施した「ジャニーズ事務所の性加害問題に関するアンケート」からも分かる。
謝罪内容に対して納得できないという回答は45.4%と半数近くになり、その中でも最も多いのが「知らなかったはずはない」(多数)という回答だった。他にも、「外圧に負けて、表面的に謝罪したようにしか見えない」(大阪府、30代女性)「『謝罪』という言葉を使っていなくて、『当社の見解と対応』という表現にしている。謝罪だと受け取ることは難しい」(東京都、40代男性)など、ジャニーズ事務所の「対応」に不信感が募っているという意見が多い。
ジャニーズ事務所がクリアすべき3つの「最低条件」
では、ジャニーズ事務所が信頼回復をするにはどうすべきか。これまで日本中から批判されるような企業の危機管理の経験もある立場から言わせていただくと、「最低条件」としてクリアしなくてはいけないのは以下の3つだ。
1. 第三者による調査報告書の公表
2. 藤島ジュリー社長の辞任、および外部から経営者を招聘(しょうへい)
3. 「ジャニーズ」の看板を下ろす
1に関しては報道によれば、ジャニーズ事務所は現役タレントへのイメージダウンや、「セカンドレイプ」になるかもしれないので及び腰だという。ただ、アンケート機能のあるデジタルツールなどを用いれば、身元を特定せずに被害実態を調査することも可能である。
また、そこまで被害にフォーカスを当てなくてもいい。この調査のポイントは、30年も続いた創業者の犯罪を、社内で本当に誰も知らなかったのか、週刊誌や裁判にもなったのに、なぜ社内では調査もしなかったのか、そこにはどんな力学が働いのか、ということである。
なぜこれを第三者が明らかにしないといけないのかというと、「不正を隠蔽(いんぺい)する芸能事務所」という悪いイメージが今後も定着してしまうのだ。そうなると、ジャニーズのタレントをテレビCMや広告に起用する企業が減る。番組側もキャスティングしずらい。ジャニーズ事務所は黒いイメージを引きずったまま経営も苦しくなるという負のスパイラルに陥ってしまうのだ。
これを避けるためにも、2の「社長辞任」と3の「社名変更」は避けられない。
ジュリー藤島社長の「最悪」だった対応
まず、ジュリー藤島社長は叔父の犯罪行為を「知らない」と断言したが、これは企業危機管理の常識からはありえない「悪手」だ。通常このように「次々と被害者が名乗り出て、新事実が明らかになっていく流動的な時期」に経営トップは「調査中です」などを繰り返して決して断定的な物言いをしないというのが鉄則だ。
後で簡単にひっくり返されて、経営トップとしては命取りの「うそをついた」ということになってしまうからだ。実際、ジュリー藤島社長の「知らなかった」発言には、近藤真彦さんや元「忍者」のメンバーなどから「そんなわけがない」と全否定されている。
残念ながら、こういう「うそつき」のレッテルを貼られた経営者が助かる道はない。では、次に誰がトップになるかだが、所属タレントはやってはいけない。被害者かもしれないし、性加害を黙認して傍観していたかもしれない「関係者」がトップの座に座ったところで、再びどこかで「過去」が蒸し返されてしまう。やはり外部から新しい経営者を招くのがベストだ。
社名変更もマスト
そして、社名変更もマストであることは言うまでもない。日本人は「あの人は性犯罪もしたかもだけど、日本のショービジネスへの貢献は計り知れないよね」なんて感じで「功罪」を評価することが多いが、海外では「どんなに立派なことをしても性犯罪をしたら社会的評価はゼロ」が当たり前だ。
「性犯罪者」と目される人の名を冠した事務所のタレントは、グローバルでビジネスを展開する大企業は広告起用しづらい。ジャニー喜多川氏のやったことを全否定したくないという社員や所属タレントの願いもあるかもしれないが、「組織を守る」というのはそういうことだ。
以上の3つはジュリー藤島社長にとって、なかなか受け入れ難いものもあると思うが、ファンや所属タレントのためにもぜひご決断を願いたい。
窪田 順生 プロフィール
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
文:窪田 順生