妻の浮気を疑いながら、それを口にしたら妻に捨てられるのではないかと戦々恐々としている男性は少なくない。彼らはなぜ妻を問いただすことができないのか。今どきの「家庭と夫」のありようとは?
妻の不倫を追求できない夫の本音
「寝取られ離婚」は増えているように思う。ただ、このことが表面に出ないまま夫婦生活を続けている男性も少なくない。つまり、妻の不倫を疑いながらも問いただすことなく、静かに悶々としている男たちである。彼らの声は非常に興味深い。
「どうも最近、妻の様子がおかしいんですよね。うちは子どもたちがまだ小学生だから、妻は週に3回、パートで仕事をしているんだけど、仕事に行ってない日、用があって電話しても携帯は留守電になっていることが多い。帰宅してから『今日、電話したんだけど』と言っても『あ、そうなの。なんだったの?』と自分がどこにいたのかは言わないんですよ」
アキラさん(38歳)はそう言う。そこでひと言、どこにいたのかを突っ込むことができず、いつもはぐらかされたままだそうだ。
「突っ込んで妻が不機嫌になるのが怖い。揉めたくないし。最悪、妻が子どもたちを連れて出ていったらどうしようと思うし、子どもを残されてもひとりじゃ育てられないし。なんとか現状維持でいてもらいたいから、何も言えないんです」
出ていく以前に、夫婦関係を改善しようとは思わないのだろうか。
「うまくいっていないわけではないんですよ。僕が抱いている不信感をあらわにしなければ、このまま円満にやっていける。疑惑はあるけど、それをはっきりさせてはいけないような気もして……」
けなげというかなんというか。この「向き合おうとしない姿勢」が、ひょっとしたら妻の目を外へ向けさせているのではないだろうか。
外泊する妻をとがめない夫
さらに年齢が上がると、夫婦の距離はもっと広がっていく。双方に家庭がありながら恋に落ち、それぞれ離婚、再婚したユタカさん(46歳)の場合は、妻が外泊を繰り返しているという。
「不倫、離婚を経て再婚したのが33歳のとき。前の結婚ではふたりとも子どもがいなかったんです。再婚してすぐに双子が生まれましたが、共働きで今までがんばってきました。子どもが中学に入った去年あたりから、妻がときどき外泊するようになって……。外泊といっても始発の電車で帰ってくる感じ。決まって金曜の夜です。最初は『私もたまには友だちと飲みに行きたい』というので、金曜の夜ならいいよと言ったんです。遅くなることが増えて、終電で帰るようになり、さらに始発になって」
毎週ではない。しばらく早く帰っているなと思うと、立て続けに2週続けて朝帰りだったりする。
「帰ってくるとほっとして、それ以上は聞けないんですよ。妻のほうが先に『カラオケに行ってて気づいたら夜が明けてた』とか『仕事が深夜まであって、その後、飲み屋で寝ちゃった』とか言うので、そんなのウソだろうとも言えない。僕の周りの女友だちは、『それは絶対不倫してる!』と言うんだけど、真実は知りたくないのが本音です」
しかも妻は、朝帰りするとしばらく機嫌がいいので、ユタカさんも「ま、いいか」と思ってしまうのだそうだ。
「いつの間にか、金曜日は妻から早く帰るときだけLINEで連絡が来るようになりました。遅くなったり朝帰りになるときは連絡がない。だから連絡がなかったら僕は早めに帰って、子どもたちと一緒に夕飯を作るんです。それを残しておくと朝帰りしてきた妻が喜んで食べる。なんとなく、そんな習慣ができてしまいました」
子どもたちには、妻が仕事で忙しく、帰ってこられないときがあると説明している。ユタカさん自身、そう信じ込むことにしているので不信感が子どもたちに伝わってはいないだろうと言う。
なにより、妻に悪びれた様子がないので、月に2回くらいの夜遊びはかまわないとも思っているそうだ。
家庭を壊したくない、夫の本心
「ただ、本当に友だちと夜遊びしているだけならいいんですけど……。実はうち、もう何年もセックスレスだから、本当は心配なんです。いや、外でセックスしているだけならまだいい。でもいつか妻が家庭を捨てるんじゃないか、僕たちを見捨てて出ていくんじゃないか。そんな不安もときどきわいてきて……」
以前、夫たちは「うちのに限って」と妻を女として小バカにするような発言をしていたものだ。だが、最近は「家庭を捨ててしまうかもしれない妻」に怯えているように見える。
ただ、妻にそれだけの魅力があると思っているわけではないようだ。漠然とした、見捨てられ不安が夫たちにあるのかもしれない。
「寝取られているとわかっても離婚はしたくない。妻を女として見るか見ないかという問題ではなく、家庭を壊したくないんですよね。一度離婚しているし、今回は子どももいるのでそれだけは避けたい」
ユタカさんは真剣な表情でそう言った。家庭という形にこだわる男と、その枠を壊したがっているように見える女。どこかで大きな齟齬があるのかもしれない。
文:亀山 早苗 (恋愛ガイド)