黒柳徹子さんが始めた「分割睡眠」
2017年に84歳となった黒柳徹子さんは、「徹子の部屋」などのテレビや舞台で活躍し、執筆や社会活動まで行っているバイタリティあふれる女性です。彼女はこれまで仕事が終わった後も、自宅でデスクワークやテレビの番組のチェックなどを行い、朝の5時ごろからお昼まで眠っていたそうです。
ところがここ数年、生活パターンを一新しました。きっかけは、「午後10時から午前2時の間に、成長ホルモンがたくさん出る」という話を聞いたことです。成長ホルモンは、子どもだけでなく大人にも大切なホルモンです。成長ホルモンは、深く眠っている間に大量に分泌されて、全身の細胞をメンテナンスしてくれます。
普通の人なら、成長ホルモンをしっかり浴びるために、午後10時から朝まで眠るのでしょうが、黒柳さんの新しい眠り方は少し変わっています。まず、帰宅したら顔だけは洗って、すぐに眠ります。その時刻は、だいたい午後10時。そのあと、午前2時ごろに一度目覚めて、3時間ほどデスクワークをします。一仕事終えたら、温かい牛乳を飲んで再び眠りにつきます。
長い時間まとめて眠ることを、「単相性睡眠」あるいは「単相睡眠」といいます。黒柳さんのように2回に分けて眠ることは、「分割睡眠」と呼ばれています。若い人は眠る力が強いので、一度に長時間眠れます。しかし、高齢になると「睡眠力」が衰えてくるので、夜中に目覚めることが増え、再び眠ろうとしてもなかなか眠れなくなります。実は高齢者の中には、分割睡眠をとっている人がかなりいるのです。
分割睡眠こそ自然な眠り方?
私たちは、夜はまとめて長時間眠ることが、当たり前だと思っています。しかしそれは、本当なのでしょうか? 実は、分割睡眠こそが本来の眠り方ではないか、という研究があります。
500以上の分割睡眠に関する文献を調べたある歴史家は、昔の人が夜中に起きだして活動していたことを指摘しています。トイレに行ったりタバコを吸ったりするだけでなく、近所へ出かけて友人に会うこともありました。このような分割睡眠の習慣は、街灯や家庭内照明の発達によって1920年代に行われなくなり、人々も忘れ去ってしまいました。
電灯が普及する前と同じように毎日14時間、暗闇の実験室で1力月間生活すると、分割睡眠になることも分かっています。実験の参加者は、4時間眠ると一度目を覚まし、1~2時間起きていて、その後また4時間眠るというパターンを示しました。
夜中に目が覚めることに悩んでいる人や、夜の早い時間帯に眠くてしようがない人は、単相性睡眠にこだわらず、4時間睡眠を2回とる分割睡眠に挑戦してみてはいかがでしょうか。
(文:坪田 聡)