そもそも家電量販店は、大きく2つのタイプに分かれます。それは、幹線道路沿いに立地した広い駐車場を備え低層階の”郊外型”と、都市部や駅前に立地した多層階の”都市型”です。
郊外型は、どちらかというと「何か買おう」という目的意識をもって来店することが多いのに対し、都市型は通勤・帰宅途中や休み時間などに目的もなくふらっと立ち寄ることが多いといえます。そのため、都市型の方が、売り場を頻繁に変えたり、昼休みなどにあわせてタイムセールを行ったり、おもしろい商品を扱ったりと、幅広い商品の品揃えと提案により力をいれる傾向があります。
その都市型店舗の中でも、「似ている」といわれることが多いビックカメラとヨドバシカメラ。ともにカメラ販売店から家電量販店に成長してきた2社にも、実は明確な違いがあります。その違いとは一体何なのでしょうか。店づくりや品揃えにフォーカスして比較していきます。
その1:店舗の形は"変形型"vs"スクエア型"
ビックカメラはテナント出店することが多いのに対し、ヨドバシカメラは自社店舗が多いという点が大きな違いです。そのため、両社を比較すると、ビックカメラは有楽町店に代表されるような「いびつな形」の売り場が多く、ヨドバシカメラは長方形の売り場が多くなります。売り場面積も、ヨドバシカメラの方が広い傾向にあります。
この違いは商品陳列に大きく影響し、ビックカメラは「いびつな形」で狭い売り場を逆手にとり、壁や柱などにも商品を並べ、商品のジャングルのような売り場を作っています。例えば携帯電話コーナーにBluetoothスピーカーを置くなど、商品同士のカテゴリーを超えた展示をすることもあります。店舗を歩くと思わぬ商品に出会う楽しさがあります。
一方、ヨドバシカメラは広い売り場を生かした品揃えが魅力です。1つの商品カテゴリーのアイテム数が多く、それでいて商品が探しやすく配置されています。
その2:売り場レイアウトは"大胆"vs"マメ"
先に説明したように店舗の形がそれぞれ特徴的なので売り場レイアウトにも違いがあるのはご想像の通りです。しかし、それ以外にも2社の間には売り場レイアウトの作り方、アプローチの仕方にも大きな違いがあります。
ビックカメラは省エネ意識が高まった時期に「節電相談カウンター」のような世の中の時流を敏感にキャッチした特設売り場を設けることが多い傾向にあります。そのため、頻繁に売り場を変更しています。まずは試してみて、期待した効果がなければすぐに変えるので、先月と今月では売り場レイアウトが変わっていることが多いです。
一方、ヨドバシカメラは、ビックカメラほど頻繁に大きな売り場レイアウト変更はありませんが、商品コーナーごとの展示は季節などに合わせてマメに変わっています。また、カメラコーナーでカメラと一緒にカードリーダーやカメラのお手入れ商品を紹介するなど、「その家電と一緒に買うと便利な商品」の提案がしっかりされています。
その3:ウェブの使い方は"拡散型"と"包囲網"
ウェブについては両社とも、通販サイトを運営しているほか、ウェブサイトのアプリを通して在庫確認ができ、さらに店舗に取り置きをすることができます。
ただヨドバシは、店舗とネットの距離感が近く、他社や他業態からも、その送客の仕組みが注目されています。
例えば、ヨドバシでの店頭商品についている「バーコード付きの値札」。これは値札のバーコードをアプリで読み取ると、ヨドバシの通販サイトにつながり、そのままネットで買い物ができるという仕組みです。キャンペーン期間などを除けば、基本的に店舗とネットの価格は同じ。ポイントも共通利用できます。
これは店舗ではなくネットでお客が買ったとしても、ヨドバシ全体で売り上げがあがるのでそれでよいという同社の考えからです。つまり、店舗・ウェブの両面から"ヨドバシ包囲網"を作っているような形です。
ヨドバシの通販サイトは13時注文分まで無料当日配送対応エリアも日本全国、人口カバー率は75.04%(15年8月時点)と広範囲です。また、ネットで注文した商品を店頭で受け取ることもできます。中でも、秋葉原、梅田、博多では夜10:00~翌朝9:30と、営業時間外にも商品を受け取れるので忙しい時や、すぐにほしい時に便利です。(※15年10月下旬現在)
一方ビックカメラは、ビックカメラグループ傘下のコジマとソフマップがそれぞれアマゾンと楽天市場に出店し、グループ全体でタッグを組んでネット通販を強化しています。自社通販サイトだけでなく、複数の通販サイトに出店することで、さまざまなお客との接点を増やし、利用してもらおうという考えです。
その4:「品揃え」は"集合体"vs"マニアック"
ビックカメラは布団、酒類、ルイガノなどのスポーツ自転車、ゴルフ用品、処方薬、コンタクトレンズなど、家電の枠組みを超えたバラエティに富んだ商品を扱っています。いわば各カテゴリーの専門店の集合体です。
ヨドバシは、店舗では家電に加えて趣味性の強い商品が多いことも特徴です。家電でいえばミシンやハイエンド高級オーディオといったマニアも満足できる趣味性の強い商品の品揃えが厚い傾向にあります。ほかにも、例えば玩具でいえば、プラモデルの工具、塗料なども豊富に取り揃えています。
ヨドバシのウェブ通販では店舗の商品にプラスして、さらに幅広い商品も展開しています。例えば、書籍、産地直送有機野菜、オーダーごとに焙煎した焼きたての新鮮な豆を焙煎後24時間以内に発送する「生珈琲」なども扱っています。ウェブ通販においても、趣味性の強い商品を取り揃えているヨドバシの特徴がよくあらわれています。
クリスマスに買い物するならどっち?
ここまで2社の違いを比較してきましたが、似ているようで全然違うこと、お分かりいただけたのではないでしょうか。この違いをふまえて、最後に「買い物の目的別」に整理してみます。
まず私が家族や友人にクリスマスプレゼントを買うなら、ビックカメラに行きます。理由は大きく2つ。
1:商品が家電に限らず家電、酒類、おもちゃ、布団などバラエティに富んだ品揃えなので子どもから大人までプレゼントが選びやすい
2:ギフトラッピングコーディネーター監修のラッピングサービスがある
一方、自分用のご褒美を買う場合はヨドバシカメラにいきます。こちらの理由は以下の通り。
1:ネット通販で下見をした後、実際の商品を店舗に見に行くことができ、在庫の有無も確認できる。なければネットで注文できるのでほしいものがほしい時に手に入る。
2:趣味性の高い商品の品揃えが厚く、売り場担当者は店で扱っている商品に関する知識が豊富なのでいろいろと相談できる
同じように見えるビックカメラとヨドバシカメラですが、サービスや店づくりにおいて大きな違いがあります。サービスの違いを知った上で買い物の目的に合わせて使い分けをすると面白いですよ。
文:伊森 ちづる(家電マーケティングガイド)