コロナ禍が生んだ数少ないプラス面。それは通勤せず家で働くテレワークの普及だ。結果、都心から移住を検討する人が増えている。では、どこに住めばよいのか。アエラは、コロナ時代の後悔しない移住先ランキングを調査した。ここでは北海道・東北エリア、関東エリアの結果を紹介する。
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憧れやイメージだけで移住先を決めてしまうと、現実とのギャップに「こんなはずじゃなかった」となりかねない。そこで今回アエラは、不動産の目利きであるSUUMO編集長池本さんと、移住の専門家である移住情報誌「TURNS」プロデューサー堀口正裕さん(48)の2人に協力を依頼。コロナ時代の「後悔しない移住先」を見極めるために重要な八つの指標を決めた。
まず池本さんが挙げたのは「広い家に住める街」だ。池本さんは「オフィスの役割が住まいに入ってくるわけですから、ワークスペースを確保できる広い住まいが必要になります」。
二つ目は「大規模商業施設が充実した街」。様々なエリアが住民からどれぐらい愛されているかを調べたSUUMOの調査によると、大規模商業施設がある街は「住民からの愛され度」が高いという傾向が、特に郊外の街で顕著だったという。
三つ目は「カルチャーを感じる施設がある街」。こちらも「愛されている街」の調査で、愛され度に大きく影響する項目だったという。池本さんは「ウィズコロナの時代、自宅周辺の滞在時間が長くなるので、そのエリアにカルチャー要素が充実しているかも大切です」と話す。
四つ目は「将来伸びる街」。人口が増えていく街では暮らしの利便性が増していくことが期待できるし、不動産を購入した場合は将来価値にも影響する。池本さんは、「商業集積のある中核駅よりも、その恩恵を受けながら静かで広い家を確保しやすい“中核駅の隣町”がこれからの狙い目かもしれません」と言う。
ここからは、移住の専門家である堀口さんに聞いていこう。
五つ目として堀口さんが挙げるのは、「子育てのしやすい街」。「少子高齢化の人口減少時代だけに、子育てしやすい街であることは絶対条件」と指摘する。子育てだけではなく、女性を大切にする街なら安心して住めると話す。
六つ目は「治安のいい街」。自宅やその周辺にいる時間が長いコロナ時代だけに、安心して暮らせる環境は極めて重要だ。子育ての面でも、「過疎化や少子化で学校の統廃合が進み、通学時間が長くなっているだけに、街全体で子どもたちを見守るような仕組みができていないと心配です」(堀口さん)。
七つ目は「医療体制が充実した街」だ。新型コロナの感染拡大はどこで起きてもおかしくない。医療崩壊が懸念される時代、「いざという時に近隣市町村を含めて通院できる病院があるかどうかは絶対にはずせないチェックポイントです」(同)。
最後、八つ目は「災害対応や行政サービスが期待できる街」だ。「何十年に一度という災害が毎年のように起こる時代ですから、過去に地震や水害を経験するなど、対策を学んでいる市町村が安心ではないでしょうか」(同)。一方、近年は局地的な豪雨が増え、災害がどこで起きるかを予測するのは極めて難しい。もしもの場合にしっかりと対応できる体制作りや財政力を備えた自治体を選ぶことが一つの備えになりそうだ。
一方、通常の移住では重要とされる移住先での就労先や自治体の移住支援策などは、項目に入れなかった。テレワークを伴うことが多いコロナ時代の移住では、これまでとは違う指標を重視する必要があるのだ。
これら8項目について、アエラは公表されている統計データから東京都内と政令指定都市を除く1659市町村について数値を算出し、エリアごとにランキングを作成した。
それでは、地域ごとのランキングを見ていこう。
まずは北海道・東北だ。「買い物」や「医療」が充実し、財政的にも豊かなことが多い県庁所在地が上位に挙がるのは、他のエリアでもみられる傾向だ。そんな中で1位に入ったのが、宮城県岩沼市だ。仙台市の玄関口的な役割で、市東部には仙台空港があり、JR東北線と常磐線が岩沼駅で交わって仙台市につながっている。
東日本大震災の津波で大きな被害を被ったものの、「保育所が再開されるなど、復興著しく、その象徴が『千年希望の丘』です」(さわやか市政推進課)。移住者の受け入れにも力を入れ、人口も増えている。八つのテーマのうち、「災害・行政」は9点。災害対策が整備されているのは心強い。
同点1位の秋田市は人口30万人超、東北日本海側最大の都市で、秋田新幹線、秋田空港で東京などへダイレクトにつながる。大規模商業施設が充実し、「買い物」は10点満点。秋田大学医学部附属病院、秋田赤十字病院など「医療」の充実度も高いポイントを得ている。
続いては関東。トップは群馬県吉岡町だった。
県庁所在地の前橋市に隣接し、群馬県最大の都市である高崎市とも近い。群馬県で3番目に小さい町だが、吉岡バイパスなどの幹線道路沿いには大型の商業施設が並んでいて、最近もドン・キホーテの群馬吉岡店がオープン。豊かな自然と町の将来性を評価して首都圏などから移住してくる人も少なくない。町企画室は「通勤に便利で、町内に大きなショッピングセンターもあって、買い物にも便利で、人口が増加しています」。
2位の千葉県柏市は人口40万人を超え、JR柏駅の周辺には百貨店や大規模商業施設も多い。一方、つくばエクスプレス沿線は柏の葉キャンパス駅を中心に大学、研究所などが並ぶ文教エリアで、子育て世代の流入が目立つ。
同点2位の神奈川県開成町は関東で最も面積が小さい町だが、駅前には大手スーパー、幹線道路沿いには家電などの量販店が並び、人口も増えていることがランキングを押し上げた。
4位に入った埼玉県三芳町は、ホームページで「東京から一番近い町」をうたっている。同町秘書広報室は「東京から30キロ圏内にありながら、ホタルが見られるなど自然豊かな“トカイナカ三芳町”。農業が盛んで落ち葉堆肥農法は日本農業遺産に認定されています」とアピールする。(住宅ジャーナリスト・山下和之、ライター・吉松こころ)
※AERA 2020年8月10日-17日合併号より抜粋
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