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「以前は友だちとケンカすると、『もう知らない』と諦めていたけれど、今はなんとか解決できないかと向き合うようになっています。東京にいたころからは考えられないくらい活発に走り回っているし、触れなかったはずの虫やカエルも気が付けば自然に触ってみようと思えるようになった。何といっても伸び伸び楽しそうに過ごしていて、大人びていたのがとても子どもらしくなりました」(温子さん)
■増えた教育の選択肢
「予兆」は、2年前に参加した1日体験会からあったという。
「初めはすごく緊張していました。でも、親と離れてプログラムに参加し、戻ってきたときには、普段楽しんでいるときに自然に出る、一番いい笑顔をしていたんです。心配して送り出して、その表情で帰ってきたときは本当に驚きました。娘もそれ以来、大日向小に行きたいと言い続けていました」(次朗さん)
「これまで学校での学び方は、大きく見ると一斉授業型がほとんどで、一人ひとりに合った学び方や環境を作りたいというのが一番の願いでした。必ずしもイエナプランだけがいいわけではなく、大切なのは、本当の意味で『学び方を選択できる』ことだと思っています」
「ご両親が、保育園でできた友だちとの関係性や、その子に合った環境を考えて学校を選択できたのは、大日向小学校と公立の小学校の両方が存在していたからで、それは大きな価値だと思っています」(中川さん)
■学びを求める移住者も
「先生一人ひとりは個人を尊重しようと思っているし、試行錯誤を繰り返して本当に頑張っている人が多い。それでも、特に大規模校では一律の方法で教えることや決まったペースで授業を進めることが求められがちです。私自身は幸いにも教職員のアイデアが大事にされる行政区にいましたが、それがかなわない状況も何度も見聞きしました」
「息子は2年生までは普通の公立小学校に通っていました。学校を嫌がるようなことはなかったけれど、親の目から見てクラス運営を円滑に進めるためのルールが優先されすぎ、個々が持つ独自の良さが失われるのではと思うことがあった。もっと彼自身の意思を前に出せるところで育ったほうがプラスになるんじゃないかと思い、移住を決めました」
「でも、結局それは人が敷いたレールの上で頑張ってきていただけで、限界が見えてしまったんです。自分の内側から湧き出てくる『これが好き』『これがやりたい』という何かがないと、エネルギーが発揮できない。勉強よりも自分が好きなものに素直に向き合って、それを積み上げていくことが大切だと今になって感じるし、息子にはそう生きていってほしいです」
【コロナ時代の移住先ランキング関東1位は「群馬県で3番目に小さい町」 東北は?】
※AERA 2021年6月21日号より抜粋