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「O」がキリル文字になっています──。
多様な経験を生かす
「なぜ同じiOSなのにヒットするものとしないものがあるんだろうと、しばらく悩みました。キリル文字になっているからだとわかったときは、自宅で『これだ!』と叫びました」
「この季節・この場所なら日の出はもう少し遅い」
「(20年以上前の野球の試合の記述で)リリーフ投手がマウンドに上がったイニングが違うのでは」
「(アニメに登場する用語について)この言葉は第5話ではなく第6話に出てくるのでは」
「校閲者は深い日本語の知識はもちろん、これまでの多様な経験を生かして疑問を出してくれます。出版物のクオリティーを高めるために欠かせない存在です」
「いまは書籍の電子化やウェブでの一部転載などが一般的になっています。別の体裁で見たとき、もしかしたら表示がおかしくなるかもしれない。また、電子書籍を読むときに検索機能を使う人もいるでしょう。そのとき正しくヒットしなければ書籍の、ひいては出版社全体の評価を落としかねません。最高の状態で読者にお届けするためのお手伝いだと思っています」
校閲した作品が芥川賞
「5年ほど前に、プロの校閲者への発注を原則やめました。編集部員の回し読みで対応していますが、重版の際に修正する誤字の数や読者から指摘される誤りは確実に増えたと思います」
「作家の方ももちろん完璧を期して書かれているけれど、どうしても事実関係の誤りや矛盾が出てきてしまう。それを見つけて疑問として指摘し、確認してもらうことが私たちの仕事です。自分なりに、出版文化に少しは貢献できていると感じられるところがやりがいですね」
十人十色で正解はなし
「昔は『誤植のほうから俺の目に飛び込んでくるんだ』と豪語していたこともあったけれど、それは大いなる勘違いで、申し開きのできない誤字を見逃してしまうことがあります。また、文芸は同じ単語に別の漢字が使われていてもそれが作家さんの意図だったりする。十人十色で、正解がありません。40年経っても、校閲者として完成していないと思っています」
「新潮社の出版物は、これまでも編集者と校閲者が分業しながら内容を研ぎ澄ませてきました。新潮社の出版部に原稿を預けてくださるということは新潮社の編集と校閲に預けてくれているということですし、作家さんからも新潮社の校閲だから任せられるという声も聞きます」
「校閲者がチェックして編集部に戻ってくるゲラを見ても驚きますが、彼らが作業中のゲラを見ると、すさまじい量のファクトチェックが行われています。調べ倒して、間違いないものをどんどん消していく。鳥肌が立つほどの量です」(矢野さん)
新聞はスピード勝負
「大きな事件が起きると、1時間のうちに何度も原稿が更新されて内容が全く変わってくることもあるし、締め切り5分前に新たな記事が飛んでくることもあります。まず全体を読んで大きな誤りがないか確認し、あとは時間の許す限り1カ所ずつ気になるところをつぶしていきます」
「それが採用されて記事がよくなったなと思えると、仕事をしている実感が湧く。校閲は取材記者と違って記事に名前は入りませんが、自分も紙面をつくる一人だと確かに感じられます」
「ただ、慣れ過ぎもよくない。凡事徹底を忘れずにいたいです」
(編集部・川口穣)
※AERA 2022年4月18日号
【答え】本文の冒頭の「徴妙」は「微妙」、最後のほうの「息」は「域」が正しい