新型コロナウイルスの変異型オミクロン株が猛威を振るい、ピーク時には1日の感染者数が10万人を超えた「第6波」。
従来のデルタ株より重症化リスクは低いとされるものの感染力は強く、子どもたちにも感染が急拡大。各地で休校や休園が相次ぎました。
これを受け、国は5歳から11歳までのファイザー社製ワクチン接種を承認し、近畿地方の多くの自治体でも3月から子どもへのワクチンの接種が開始されました。
病床がひっ迫し、医療非常事態宣言を発出した大阪府の吉村知事は「保育所で感染が広がり、そこで増えると親世代、おじいちゃんおばあちゃん世代へと逆流していく」、「最後は家族の判断となるが、感染拡大防止のためにもできればワクチン接種を受けてほしい」と子どもへのコロナワクチン接種を呼びかけています。
しかし、 ある自治体の首長がこの”呼びかけ”に異論を唱えました。
「接種券は送らない」 大阪・泉大津市長の決断
「健康な子どもに接種をする合理性が見出せない」
「コロナに感染するより、ワクチンによる副反応の方が、症状が厳しくなる可能性がある」
そう話したのは、大阪府南部に位置し市民の2割を19歳以下が占める、泉大津市の南出賢一市長(42)です。
泉大津市では「5歳~11歳」の市民へのコロナワクチンの接種券について、一斉送付しないことを決めました。
その代わりに各家庭に届けることにしたのが、1枚の葉書。
葉書の裏面には、ワクチンの接種を希望する家庭は市へ接種券の申請が必要だという案内が記載され、表面にはこんな一文が添えられていました。
「この年齢層への接種の安全性やワクチンの効果に関する十分な情報やデータが揃っておらず、予防接種の努力義務の規定は適用されていません。また、これまでの感染で若年層での重症化や死亡はほとんど起こっていないことから、極めて慎重に判断することが求められます」。
重い副反応に苦しむ子どもの報告 「安全性に納得いかない」 課長の提案で実行
インタビューで南出市長は今回の施策について、
「自治体から接種券が届いたからこのワクチンは安心というのではなく、ワクチンが子どもにとってはメリットがどれくらいのものか各家庭で考えてほしい」と回答。
厚生労働省の副反応検討部会への報告資料では、コロナワクチンが原因ではないとしながらも、接種後に死亡した事例が国内の10代~30代と若い世代でも確認されていることや、泉大津市内でも接種後に何日間か歩行障害になったり、2ヶ月間も熱が続いたりするなど重い副反応とみられる症状に苦しむ中学生などの相談を市長自身も受けているとも話しました。
そして、子どもへのコロナワクチンの接種券を一斉送付しないと決めたのは「市長のアイデア」かと尋ねると、「実はそうじゃないんです」と意外な答えが。
国からの大号令の下で子どもへのワクチン接種の準備にかかる中、ある日、市長のもとを訪れたのは、子どもの健康管理を担当する「健康こども部健康づくり課」の課長。
課長からは、「部局内でも子どもへのワクチン接種について疑念を抱いていて、調べれば調べるほど「安全性」というところに納得がいっていない」といった報告がされました。
厚生労働省のホームページには、「子どもの接種においても大人と同様、接種部位の痛みや倦怠感など様々な症状が確認されていますが、”現時点で得られている情報”からは、安全性に重大な懸念は認められていない」(一部略)と記載されてますが、この「現時点で得られている情報」が十分ではないのではと市長に相談。
国や大阪府からは「接種義務」とはしないものの接種を推奨するようなメッセージが出されていて、板挟みの状態になり南出市長も困ったそうです。
しかし、市長自身のもとにも「ワクチン後遺症」の相談や、子どもへの接種についての相談が日に日に増していたことから、自治体として何が一番市民にとっていいのか、ここを最優先に考えた結果、保護者もワクチンについて考えるきっかけとなる「申請制」にすると決断を下しました。
その後は、どのようにしたら市民に対して混乱なく説明できるのか熟考し、今回の「葉書」にたどり着いたということです。
「ハードル上げる必要ない」市議会でも議論
3月の子ども接種開始を前に、葉書は2月下旬ごろから送付が開始されました。かねてから議論を呼んでいた子ども接種という事もあり、この施策は様々なメディアが取り上げることになります。
そんな中、3月3日に開催された泉大津市議会では大阪維新の会所属の中村与志子議員が、「ワクチン接種を望む市民のハードルをあげる必要は無く、他の自治体と同じように接種券を送付すべき」との意見を述べました。
中村議員は加えて、「接種券の申請に時間を要する間に子どもがコロナ感染で重症化、亡くなるケースが発生したときに国民に与えられたワクチン接種の権利と機会を泉大津市がうばうことになるとも言える」と主張。
これに対し市議会内で南出市長は「毒性の強いデルタ株でも子どもの重症化は極めてまれであり、泉大津市民でも副反応に苦しむ人の話を複数聞いている。現段階では健康な子どもへのワクチン接種の合理性を市民に説明できない」と改めて反論し、ワクチンの申請制に理解を求めました。
保護者の声 反対無くとも「もう少し情報が欲しい」
今回の泉大津市の決断について、市内で子育てをする保護者がどう考えているのか聞いてみると・・・
「一斉に接種券を配られると、打ちなさいと強要されているように感じるので今回の取り組みはありがたい」
「児童手当など、市役所で保護者が申請の手続きをしないと得られないものもあるので、コロナワクチンに関しても手続きを挟むことに問題はない」
と市長に賛同する声が複数聞かれ、話を聞いた4組の家族から、反対の意見はありませんでした。
しかしその中でも、「5歳~11歳へのコロナワクチンは有効成分の量が3分の1となっていること」など、ワクチンの情報をきちんと調べて判断している保護者がいる一方、
「リスクが分からず、周りの様子を見たい。市に対応を任せたい」とあまり情報を調べ切れていない保護者がいる事も感じました。
インタビューに応じてくれたみなさんに共通していたのは「ワクチンを打つことに関する子どもへの影響」についてもう少し情報がほしいといった声でした。
「将来的な影響?」に対し国は”確定的なことは言えない”
新型コロナワクチンの子どもへの接種に対して厚生労働省の報道発表などを見ると、「特に基礎疾患を有する等、重症化するリスクが高い小児には接種の機会を提供することが望ましいとされる」とするものの、「小児については、現時点においてオミクロン株に対する効果が確定的でないことも踏まえ、努力義務の規定は適用しない」としています。
つまり、「オミクロン株」に対する子どもへのワクチンの有効性について現時点では、直接的なデータが存在しておらず不透明ということになります。
取材を通して
保護者は、ワクチンの有効性に疑問が残る中、副反応リスクや住んでいる地域の感染状況、重症化リスクのある高齢者が身近にいるか・・・といった様々な要素を考慮して、子どもに接種を受けさせるかどうか決断しなければなりません。
接種を受けさせても、受けさせなくても、判断を先送りにしても、多くの保護者には不安が残ることでしょう。
新しいワクチンであるため不確定な要素が多いのは事実ですが、保護者が納得して接種の有無を判断できるようにするためには、国や自治体が積極的にワクチンに関して、メリット・デメリット双方の情報を発信する必要があると感じます。また、それと同時に、取材をして報道する必要性についても再認識しました。
そして、そういった観点からすると、泉大津市の「ワクチン申請制」は、泉大津市民だけではなく多くの人たちがワクチンについて、改めて調べてみようと考えるきっかけになる施策だったのではないでしょうか。
朝日放送テレビ 大阪府政担当記者 大野聡美・大沼淳己