2007年12月24日。
7年前に終幕した場所、東京ドーム。
そこに5人が再びそろい、LUNA SEAとしてステージに立っていた。
「GOD BLESS YOU 〜One Night Dejavu〜」と題された一夜限りの復活ライブ。
チケットは、発売からわずか5分で完売した。
やっぱり、このバンドなんだな
この公演を提案したのは、終幕前から長らく彼らを支えているスタッフだった。
しかし当初、メンバーは復活に慎重だった。
RYUICHI「正直、まだ(活動再開は)早いと思っていたし、みんなも同じ考えだったと思うんですよ」
J「自分自身、夢半ばでそういうこと(終幕)が起きたわけだしね」
終幕している間も、ファンクラブ「SLAVE」はずっと続いていた。
長らく待ってくれている人たちのためにも、一晩でいいから戻ってきてほしい。
そんな熱意も、強く感じていた。
真矢「もちろん判断をくだすのは5人だけど、ずっとLUNA SEAに関わってくれてるスタッフさんによって、また集まらせてもらった。そのきっかけを作ってくれたんです。そこから新たなLUNA SEAの風が吹いたような感じがしますね」
INORAN「7年の間に、みんなそれぞれにファミリーができて、バンドやソロ活動をやっていた。それをやめるわけにはいかないから、調整も大変だったと思いますよ。そういう意味でも、スタッフには感謝ですね」
リハーサルで久しぶりに5人がそろい、音を出した。
この瞬間、「やっぱり、このバンドなんだな」と、強いひらめきを感じたという。
迎えた公演当日。
その内容は、7年のブランクをまったく感じさせないものだった。
当時を懐かしむのではなく、最新型のLUNA SEAを提示するようなストイックな演奏を聴かせた。
今後の予定は白紙だった。
しかしRYUICHIはこのライブの最後、ファンにこう告げた。
「いつかどこかの空の下で、また会おう」
リハーサルで感じた手応え。
ライブを経て、それはより確かなものとなっていた。
RYUICHI「本当に、すごいバンドだなって思いましたね。この音だったら、海外に行っても通用するんじゃないかって思うくらいで」
SUGIZO「音を出して、お互いを再認識したときに、その存在のありがたさが痛いほど分かった」
真矢「まったくエナジーが変わっていないのに、みんなほどよく大人になってる感じが心地よかったですね。それはメンバーやスタッフ、ファンの人含めて、みんなあったと思うんですよ」
それから再始動を決めるまで、時間はかからなかった。
J「バンドはもう、俺たち5人だけのものではないわけですよ。例えば、曲を聴いて勇気が出ましたとか、元気が出ましたとか。いろんな思いを乗せてくれるやつらがいる」
J「LUNA SEAがそういうやつらも乗った一つの船だとすれば、ここでずっと停留してるのって、船長としてどうなの、と」
かけがえない、一生にひとつだけのバンド
本格的な再始動への準備は、しっかりと時間をかけて行った。
3年後の2010年、ついにLUNA SEAは「REBOOT」(再起動)した。
この年には世界ツアーを実施。
2013年には、実に13年5カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「A WILL」を発売。
完全復活を印象づけた。
終幕前は険悪だった5人の関係も、時間とともに修復。
メンバー間の絆は、かつてないほど深まっていった。
SUGIZO「終幕の時は非常に危ない状況でした。夫婦とか恋人同士でいうと、倦怠期みたいな」
SUGIZO「でも例えばそんな状況の夫婦に子どもが生まれて、以前よりも愛情が深まるというようなこともあるじゃないですか。今のLUNA SEAは、そんな感覚かもしれないですね。絶望的な倦怠期を経て、一度完全にバラバラになって、再び戻ってより強固なものになった」
INORAN「みんなそれぞれ年を重ねてきたので、変わらない部分もあるけど、強くなった部分もある。それは優しさであったりする。でも人間として、すごく自然なことだと思うんです」
彼らにとってLUNA SEAは「故郷」であり、「家族」のような存在でもある。
同時に、ここでしか出せない音があることも強く感じている。
SUGIZO「少なくとも僕個人としては、ロックバンドってフォーマットで、本気で魂をこがせる場所はここしかないんです。10代の頃に運命的な出会いをして、一緒に走り続けて、いいことも悪いことも経験して、こうやって帰ってきた」
RYUICHI「自分を育ててくれたバンドのグルーブ。それは何年も何十年も一緒にやってきたバンドじゃないと出せないんですよね」
RYUICHI「すべての楽器の個性という癖が、お互い鎖のようにつながり合って、自分を育てていた。どんなにうまい人とインスタントにバンドを組んでも、そういう癖は共有し合えないんです」
INORAN「やってる年月が長いので、自分の細胞がそれでできている。子どもの頃の原風景というのは、やっぱ影響するじゃないですか。大人になって、そこに気づく人もいれば、そこから逃げる人もいる。でも自分の音楽人生をほとんど作っているところなので、やっぱり特別なんです」
SUGIZO「気が合おうが合わなかろうが、趣味嗜好が近かろうが遠かろうが、かけがえのない、一生にひとつだけのバンドなんですよ」
SUGIZO「新しい境地に行くことはこれからもできるけど、どこまで遠くに歩いても、LUNA SEAが故郷であり家族というのは、変えようのない事実なんです」
真矢「一個の体みたいなもんだよね。前は5人それぞれいたんだけど、今はLUNA SEAというひとつの体になってる。ボーカルが顔だとしたら、俺とJは足で、ツインギターは両手みたいな」
J「終幕してからの長い時間、いろんなことを感じて、ここにたどりついた。純粋にこの5人が存在しているだけで鳴ってる音があるし、それを鳴らさなきゃいけない。それができるバンドに、やっとなれたんじゃないかな」
音楽への夢や創作意欲は、強くなる一方
おのおのの活動を経て、それぞれの音楽的なスキルも磨かれていた。
それにより、時間をかけてメンバー全員で練り上げていた曲作りの手法も、変化していった。
SUGIZO「長年やっているから、相手の出方は予想できますよね。だから近年は、おのおのがより精巧なデモを作ってきます。LUNA SEAとして、ある程度どうなるか、完成図が見えていることが多いので」
RYUICHI「最初のようにぶつかるのではなく、お互いを認め合ったキャッチボールができるようになった」
真矢「ひとりひとりののりしろが広がったって印象ですね。前は歩み寄らないと分かり合えなかったんですけど、今はそこのポジションにいても分かり合えるようなね」
以前と比べ、表現しやすい時代にもなった。
ジャンルを超えた「タブー」といったものも、なくなってきているという。
SUGIZO「例えばヒップホップ勢は、昔はビジュアル系を否定していた。僕らが影響を受けた1970年代のイギリスのロックシーンは、パンクとプログレが一緒にやることはタブーだった。でも今は壁がなくなって、ありとあらゆることが可能だし、認められる。だから、音楽に対する夢とか、創作意欲っていうのは、強くなる一方ですよね」
そんな中で生まれた彼らの最新作「宇宙の詩 ~Higher and Higher~ / 悲壮美」。
新たに書き下ろされた「宇宙の詩 ~Higher and Higher~」は、もっともLUNA SEAらしい部分を集約した楽曲だという。
一方の「悲壮美」のモチーフは、メジャーデビュー直後の1992年に作られたもの。
当時すでにメロディの片りんはあったが、完成には至らなかった。
SUGIZO「当時の僕らでは表現できなかったんじゃないですかね。そういう曲って、他にもたくさんありますよ。その時はしっくりこなくてボツになっても、10年後とかに、ものすごく映えることは、少なくないですね」
30年間、一緒にいられることは奇跡
平成の最初に結成されたバンドは、次の時代を迎えた。
30年という年月を、彼らはどう捉えているのか。
RYUICHI「どんどん大きくなっていく過程を駆け抜けて、終幕もあっという間だったし、一瞬でここまでワープしてきたような感覚がある。でも、その間の情報量は、すごく多いんですよね。振り返ってみて初めて、歴史に長さを感じました」
J「他に30年間、何かをやり続けてきたことはないので、誰かにやらされていたのでは、到底たどり着けない場所なのかなと思います。その瞬間瞬間にがむしゃらだったので、今終わってもいいというか、そういったシーンの連続だった気がします。その結果、30年も続けられていた」
誰かが欠けることなく、30年もの間、同じメンバーで活動してきた。
それは何より尊い、一つの事実でもある。
INORAN「縁の話ではなく、トラブルでメンバーが変わらなかったのは、すごくラッキーなことだと思いますね」
RYUICHI「SUGIZOが今、X JAPANでお世話になってるけど、やっぱり僕らにとってもHIDEさんやTAIJIさんは大きな存在でしたからね。全員が健康で、今も変わらずプレーできることは、ものすごく幸せなことだと思います」
SUGIZO「RYUICHIはこの前、がんを患いました(2019年1月に肺腺がんで手術)。その件もあって、30年間、一緒にいられることが奇跡で、ちゃんと演奏できることがどれだけありがたいか。今はもう、感謝の気持ちしかありません」
ファンの存在も、5人の結びつきをより強いものにしている。
「僕らメンバーの間には、いつも好きでいてくれるファンがいる。それでLUNA SEAが30年あり続けられたというか」と、INORANは加える。
REBOOT以降も毎年のようにライブを行いながら、新作もリリースしている。
しかし終幕前ほど、過密なスケジュールではなくなった。
真矢「義務感で音を出すとか、そういうことは一切ないので、そのあたりは心地いいですね。ソロがあっての母体(LUNA SEA)というのもあり、うまくコントロールできているんじゃないですかね」
RYUICHI「LUNA SEA漬けになって、準備も即席で進んでいくと、また前と同じように息ができなくなったり、ルーティーンが生まれたりしかねない。だからメンバーもスタッフも、いろんなシミュレーションを考えながら組んでいます」
5人が思い描くLUNA SEAの未来
これまでも一歩一歩進んできたように、決められた未来はない。
ただ、これからもこのメンバーで、できる限りともに歩き続けたい。
その思いは、5人とも共通している。
INORAN「長期計画を立てられない5人なので。立てられてたら、もっと売れてますよ(笑)。だけど、そこがLUNA SEAっぽいんです。一歩一歩、地面を踏む足の感触を確かめながら進んでいく。それの積み重ねに未来があると思っているから」
SUGIZO「メンバーみんながもう無理だって思うまではステージに立ち続けたいし、LUNA SEAとして音を奏でたい。メンバーが生きている限り。演奏できる体をもっている限り」
SUGIZO「疲れて休むことはあっても、LUNA SEAに対して愛想が尽きてしまうとかは、もうないと思いますね」
INORAN「これから先も、嫌な妥協は一切したくない。いい妥協というか、人を許すことはしていきたいな。それがLUNA SEAで教わったことだし、ファンのみんなに教わったことなので。その願いをもって、これからも進んでいきたいなと思います」
J「新しい世界を作り上げていくことを想像するだけでわくわくする。その感じは、絶対になくしちゃだめだと思う。俺たちの冒険はまだまだ続いていて、誰も見たことない世界をこれからも追い求めて、突き進んでいくんだろうなと感じていますね」
SUGIZO「昔は人と違うことをやりたかったし、人をびっくりさせたかった。そういう自己顕示欲の塊だったんですけど、ここ10年ほどは、まったくそういう気持ちがないんですよ。ただただ、自分が求める音楽を生みたい。それだけですね」
真矢「50歳目前の男たちが、真剣に遊んでいる。その感じは、ずっと変わらないでしょうね。でも、こうじゃなきゃLUNA SEAじゃない、というのには縛られたくないよね」
RYUICHI「LUNA SEAらしさをずっと続けていくと苦しくなる。それでも自分たちの残してきた遺産をしっかりと背負いながら、新しいものを生もうと、もがいていくのかなと思います」
2019年5月29日。
30周年を迎えた当日、彼らはZepp Tokyoのステージに立っていた。
ファンクラブ会員向けに行われた無料ライブ。
彼らなりのサプライズであり、感謝の思いも込められている。
ここ数年、恒例となっている日本武道館公演を経て、6月には海外公演も控える。
記念すべき10枚目のオリジナルアルバムも制作中だ。
より強固な絆とともに、これからも彼らは歩み続ける。
「終幕の瞬間、大切なものを失った…」LUNA SEA30周年インタビュー前編はこちらから。
【取材・文 : 前田将博(LINE NEWS編集部)、写真 : 宮脇進、動画 : 二宮ユーキ】
LUNA SEAお知らせ
ダブルAサイドシングル 「宇宙の詩 ~Higher and Higher~ / 悲壮美」発売中。詳細は公式サイトまで。
https://www.lunasea.jp/