カメラを向けられると、ゆっくりとポーズを変える。
まるでバレエダンサーの舞台をスローモーションで見ているかのように、その動きはしなやかで、美しい。
女優・永野芽郁。19歳。
「Seventeen」など、さまざまな雑誌でモデルとしても活躍している。
「静かだな…なんか気まずい(笑)。音楽かけてもいいですか?」
彼女に目を奪われるあまり、場は静まり返っていた。
その空気を変えたのは、永野がスタッフに発したひと言だった。
自然とその場の緊張が解け、周囲は笑顔になる。
和やかなムードで、撮影は再開された。
「心がつながってお芝居している」と思えた瞬間
NHK連続テレビ小説「半分、青い。」では、主人公を演じた。
先日、最終回を迎えたばかりのドラマ「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」など、多くの注目作に出演している。
3月15日には、主演を務めた映画「君は月夜に光り輝く」が公開された。
永野が演じているのは、不治の病にかかった高校生・渡良瀬まみず。
「命の輝きはすごくきれいだけど、どこかはかなくて。きれいなものって、はかなく見える瞬間もたくさんあるので、表裏一体だなって思うんです」
「生きてることもそうだけど、日常生活の中で当たり前になってることとか、軽くでいいから考え直そうかなと思いましたね」
まみずは、病院から出ることを許されない。
そんな役だからこそ、「明るく」演じることを心がけた。
「不治の病、だから私は死ぬ、だから悲しい。そういうのを全部イコールでつなげるのが嫌だったんです。彼女は病室で過ごす中で、自分が死ぬかもしれないって、ずっと昔から理解している」
「だから、そこをいつまでも引きずっているのは人間らしくない、作り込まれたものでしかない、と思いました」
「ふとしたときに、そういえば余命があるんだってことがよぎったりする方が人間らしいと思ったので、そこは意識的に感情の中に持ち込みましたね」
映画の中では、まみずの"かなえられない願い"を、同級生の岡田卓也(北村匠海)が代わりに実行し、その感想を伝える"代行体験"を重ねていく。
北村と一緒に芝居をする中で「変わっていくものがすごくたくさんあった」と語る。
「目を合わせていなくても泣きそうになる瞬間があったり、手をつなぐだけでもお互いのことを感じたり。これが本当に、心がつながってお芝居をしているってことだなと思う瞬間が、多々ありました」
「セリフを言うだけじゃなくて、ちゃんとセリフを自分の言葉に落とし込んで、心の底から会話している感じがあった」
「この世界はファンタジーだけど、リアルだなって思う瞬間があって、気持ちいい時間だったなと思います」
こんな青春が自分にもあるんだ
永野自身は1年前、2018年3月に高校を卒業した。
在学中はすでに女優として活躍しており、学校行事には参加できないことが多かった。
「宿泊行事みたいなものは出ないと単位に響くし、周りの人が協力してくれて行けてたけど、高校3年の文化祭とかには出られなかった。体育祭も、3年間で1度も出られなかったですね」
「練習は出られたのに、本番だけ出られなかった。運動することが好きだから、体育祭には出たかったなって、何度か思っていましたね」
「でも高校生活の中で、こんな青春が自分にもあるんだって、感動した記憶もあります。映画の世界だけじゃなくて、現実世界でもこんなことがあるんだって」
「学校の授業が終わったあとに、仲良い友達で教室に残って、テスト勉強をしていたんですよ。でも結局、近況報告をしたり、お互いのノートに落書きをしちゃったりして、勉強にならない。そこに先生が来たときだけ、勉強してます、みたいにやって(笑)」
「他にも、学校帰りにプリを撮ったり、タピオカドリンクを飲みに行ったり。一応、実体験として青春みたいなものを経験しましたね」
この仕事が好きなんだなって気付いた
小学生の頃にスカウトされ、芸能界入り。
子役として、ドラマや映画に出演するようになった。
しかし当初は、演技に特別な思いがあるわけではなかった。
「ターニングポイント」となったのは、中学2年の時に撮影した映画「繕い裁つ人」。
永野に与えられたのは大きな役どころではなかったが、意識が変わる「きっかけ」になったという。
「現場がタイトなスケジュールで進んでいて、寝る時間もないし、体調も万全ではなくて、しんどかったんです。その上、地方ロケだったので、家族も友人もいない。一人で戦うしかなかった」
「それでも撮影中、投げ出したいと思ったことがなかったんです。それで、私はお芝居が、この仕事が好きなんだなって気付いて、自分が嫌になるまで、とことん突き詰めてやってみようと思いました」
「それから本腰を入れたというか。それまでは将来の夢を聞かれたときに、答えられることがなかったけど、『私はこの仕事を続けていきたいです』と、明確に言えるようになった」
その後、中学3年の終わりに受けたオーディションで映画「俺物語!!」(2015年公開)のヒロインに抜てき。
2016年放送の「こえ恋」でドラマ初主演、2017年公開の「ひるなかの流星」で映画初主演を務めるなど、活躍の場を広げていった。
朝ドラ撮影は「生きてる感じがしなかった」
そして2018年。
朝ドラ「半分、青い。」のヒロインの座を、オーディションで勝ち取った。
約10カ月に及んだ撮影は過酷だった。
クランクアップ直前の8月10日のブログ。
「これほど壊れたことも無かったし でもこれほど達成感で溢れるのも きっと中々無いことで とんでもない経験が出来たんだなって」とつづられていた。
当時について「全部が大変だった」と振り返る。
「ロケは寒いし、セットに入ったら外の景色は全く見られないし、セリフは長いし、多い。毎日、朝から晩まで撮影で寝られないし、休みはないし、大人しかいないから同世代には誰にも会わないし(笑)」
「誰とも会いたくないと思ったこともあって、生きてる感じがしなかった。けど、それも含めて、今思うと楽しかったなって思いますね」
最後までやり遂げられたのは、他の出演者の存在が大きかった。
「どこに助けを求めても、みんな必ず救ってくれて、最後までずっと寄り添ってくれていました。全力で受け止めてくれる人しか、周りにいなかったんです」
「だからほんとに関わってくれる人、全ての存在が、私を最後まで連れて行ってくれました。一人でやれって言われたら、一週間で無理でしたね(笑)」
今では、再び朝ドラに出演することも夢見ている。
「もう1回出たいってお願いしているんですけど、5年くらいは空けてくださいって言われました(笑)。だから、またオーディションを受けてみようかなと思っていますね」
「朝ドラは、本当に昔からつながっている大きなものがあって、だからこそ出会えた先輩たちもたくさんいます。その先輩たちと、また違うところでお芝居できるように頑張りたいです」
「いつまでも朝ドラの(楡野)鈴愛って役で止まらないように、自分自身も変化して、成長していかなきゃなと思っていますね」
朝、目が覚めて最初にすること
「半分、青い。」のクランクアップの次の日。
8月18日、19日には音楽フェス「SUMMER SONIC 2018」を観に行った。
「朝ドラの最中、勝手にチケットを取ってて、絶対に行ってやるって思っていました。だから、なんとしても予定通りに撮影を終わらせたくて、最後の一週間は、それまで以上に気合が入っていましたね(笑)」
「そしたら案の定、クランクアップした日に安心して熱が出ちゃったんです(苦笑)。でも、なんとかサマソニには行けました。めっちゃ良かったですね。かっこいい人がいっぱいいた」
「あいみょんさんもビーチステージに出ていて、海の音が聞こえる中であの素晴らしい演奏をされていて、ぽけーっと聴いていました。これが夏かって。太陽の下にずっといるのは、久しぶりだったので」
ギターやドラムなど、自ら楽器演奏も行う。
普段は撮影中や移動中も含め、朝から晩まで一日中、音楽を聴いているという。
「朝、目が覚めて最初にすることは、音楽をかけることからです。それから顔を洗ったりする感じなので」
朝ドラ終了後に、「君は月夜に光り輝く」の撮影があった。
それが終わると、初めて一人で海外旅行に行き、リフレッシュした。
「ハワイに行ったんですけど、めっちゃ楽しかったですよ。楽だった。一日中、ホテルのベランダで、ずっと海を見ていました。日が沈んで行くのを見て、心が洗われましたね」
「みんなあると思うんだけど、自分自身や、自分じゃない他人の声に、心が荒らされている時期もあったんです。それがようやく正常の心拍数に戻った感覚があって、また頑張ろうって、気持ちを切り替えられました」
悪者になってでも伝えるべきことはある
女優として躍進を続ける中、今年の9月24日には20歳を迎える。
「19歳と20歳と言っても、そんなに変わらない気はするんです。でも成人という節目で自由になれることは多いだろうし、一応大人の仲間入りではあるので、まずはちゃんと責任を自分で考えながら過ごしていかないとなって思っていますね」
「やりたいって思ったことは今までもやって生きているので、それは20代になっても変わらないかな。今やりたいと思ったことを、ずっとやっていきたいなと思いますね」
永野は女優である前に、大切にしていることがある。
それは「人に直接、思いを伝えること」。
「小さい頃から母親に、自分のことはもちろん、それ以上に人のことを大切にしなさいって言われて育ってきました」
「人のことを大切にするっていうのは、自分が意見を述べないことではなくて、その人のことを思って、何かを伝えることだったりすると思うんです」
「好きだからこそ言わないこともたぶんあるし、好きだからこそ言わなきゃいけないこともある」
「自分がちょっと悪者になってでも、伝えるべきことはたくさんあると思うし、思ったことはその時に言わないと伝えられないなと思って、伝えるようになりました」
女優としても、一人の人間としても、より輝きを増した存在となっていく。
【取材・文 : 前田将博(LINE NEWS編集部)、写真 : 飯本貴子、動画 : 二宮ユーキ】
お知らせ
映画「君は月夜に光り輝く」公開中
公式サイトはこちら
https://kimitsuki.jp/