その異色さと振れ幅の大きさに驚かされるが、話を聞くと、どれも本当に大好きなことが伝わってくる。
政治の話題を振った時も、目をキラキラと輝かせながら「この選挙区が面白いんです!」と早口で熱っぽく喋り続けていた。
しかし井上も、もともとは政治に無関心だったという。そんな彼女が、なぜその世界に惹かれていったのか。今月末行われる衆議院選挙の楽しみ方と共に、語ってもらった。
栃木県出身の井上が人生で初めて国会議事堂を目にしたのは、小学校の修学旅行で東京に行った時のことだ。
当時は政治に対して一切関心がなく、「建物の造りが半円になっていて面白いな」という程度だったという。
「小学校高学年の時、授業で国の法律を国会が決めている、ということを習いました。でも、自分の生活の中にどのように影響しているのかについては正直さっぱり分からなかったので、興味も全然湧かなかったですね」
「だから、国会議事堂に行った時に見かけた国会議員も自分にとってはもはや『別の国の大人の人たち』というか、全く関係のない人たちだと思っていました」
2011年の3月、東日本大震災が起きた時に中学生だった井上は、ある政治家が連日テレビに映し出される姿を目にしていた。それは、枝野幸男氏(当時官房長官)だ。
しかし、「枝野さんは毎日作業服を着て会見を開いていたので、政治家だとは全く思わず、『東京電力の社員さんを毎日テレビで見かけるな』と思っていました」という。
「テレビでニュースを眺めていたら、『ヌカガハの分裂』っていうワードが耳に入ってきました。ヌカガハって何?ミドリムシみたいな細胞の分裂なのかなと思いネットで調べてみたら、額賀(ぬかが)福志郎という政治家の名前で。『えっ、人なの?』と驚きました」
調べてみると、分裂というのは自民党の派閥争いだということが分かった。当時15歳だった井上の目には「大人の人たちが人間関係でゴタゴタしているのがとても新鮮」で衝撃的だったという。
「よく分からない別の国の人」だった国会議員が「自分と同じように人間関係がうまくいかないこともある」ひとりの人間だということを知り、どんどん政治に関心を持つようになっていった。
気になることは記事をスクラップしたり、政治家に直接聞いたりしてノートに書きためていった。井上がまとめてきた「取材ノート」は、今では10冊を超えるまでになった。
「たとえば『海苔ばっかりを食べています』とか、『梅干しを1日30個食べるんです』という意味での『すごいね』とは、またちょっと違うじゃないですか」
「政治について勉強しているだけなのに、自慢している、生意気などとマイナスのイメージを持たれてしまうのではないかという不安はとてもありました」
ただ、「政治に詳しい」ことはタレントとして強みになり、テレビの情報番組などへの出演依頼は増えていった。
「芸能界で働く中で、『人と違うことをしなきゃいけない』とか『唯一無二にならなきゃいけない』という意識はすごくありました」
「だから、テレビで政治について『高校生はどう思う?』と聞かれて答えた時に、『よく知っているね』と言われることはすごくうれしくて。だからこそ、日常ではあまり話せないことにモヤモヤするようになっていきました」
一方、井上は「政治ウォッチが趣味」と公言することで予想外の反応が周囲から返ってくることにも気づいた。
「お話したことがある政治家の方たちからは、だいたい『ゆくゆくは政治家になりたいの?』と聞かれるんです。でも、そもそも政治を行っている政治家自身が"政治に興味を持っている人=将来政治家になりたい人" と思う時点で、一般の人たちは、政治に興味を持ちづらい」
「それに、たとえ関心を持っていたとしても『意識高い』『政治家になりたい人』と見られちゃうと、政治について気軽に話すのが難しいのは当然だよなと感じています」
「コロナが大変な状況で自分の身に困ることがあるから、政治に興味を持っているわけじゃないですか。それに対して、『今、政治に興味を持つ人が増えているから良いよね』と言える状況なのかな…と」
「それに、コロナが落ち着いて、また別に困ることがなくなったら興味なくなっちゃうんじゃないかな…とも思いますね」
今月末には約4年ぶりに衆議院選挙が行われる。井上流の楽しみ方はあるのだろうか。
井上は、まず「自分がいつも使っているSNSで政治家のアカウントを検索してみることがおすすめです」と話す。
「多くの政治家がTwitterやInstagramをやっています。たとえば国会議員がどうやってアカウントを運用しているかなど、SNSの使い方に慣れている私たちの世代から見ると結構面白いと思うんですよね」
「たとえば、ハッシュタグの使い方が上手だな、とかインスタ映えする写真を上げようとしているけどあまりうまくいっていないなとか、親近感が湧いて興味が少し出てくるのかなと」
また、井上は「直接候補者に会ってみる」ことも大切だという。
「自分の選挙区の候補者が駅で話している様子を、遠くから見てみるのも良いと思います。その場に行ってみたら、その人がスタッフや有権者にどんな対応をしているのかが分かり、SNSで見ていた時とはまた違った部分が見えてくることも多いです」
「私も以前、選挙権はないんだろうと思われて政治家の方にすごく冷たく当たられることもあったので、そういう人間っぽさも含めて分かるのではないでしょうか」
さらにマニアックな楽しみ方として、自分の住んでいる選挙区かどうかに関係なく、「推しの選挙区」を作ると開票当日を楽しめるという。
「私は人間模様がすごく面白くて政治に興味を持ったので、ぜひ『推しの選挙区』を持ってもらえたらなと思っています」
「たとえば、祖父の世代から3代にわたってずっと戦っていたり、現職の議員に勝つために『刺客』を送り込む政党がいたり。少し調べてみるだけでもこれまでとは違う一面も見られるのかな、と」
今回の選挙戦の最も大きな争点の一つはコロナ対策だ。井上はこう話す。
「国防や憲法などの話をされても、正直難しいなと感じてしまうと思いますが、たとえばコロナワクチンの接種証明書はいつ発行になるのか、3回目のワクチン接種をするのかなどは、とても身近で分かりやすいのではないかと」
「各党がさまざまな政策を打ち出すので、どう違っているのかを見るのも面白いですし、そうした意味でも、今回の選挙がここ数年だと一番興味を持ちやすいことは間違いないと思います」
井上は今、衆議院選でどの候補者が当選するかどうか、選挙区ごとの予想をノートに書き込んでいるという。
「私の予想が当たっていたか外れていたか…投開票日に『答え合わせ』をするのが今から楽しみで仕方ないです」と笑顔を見せた。