「悔しいことのほうが多い毎日でした」10年間着実に歩んできた"ラブソングだけじゃない"wacciのこれから
「常に悔しいことのほうが多い毎日でした」
今年、メジャーデビュー10周年を迎えた5人組バンドのwacci。10年を振り返り、ギター&ボーカルの橋口洋平はそう話した。
4月にリリースした楽曲「恋だろ」がドラマ「やんごとなき一族」の挿入歌に起用され、YouTubeの関連動画や楽曲の総再生数は1億回超えとなる大ヒット。まさにアニバーサリーイヤーにふさわしく、2022年は華々しい1年となった。
しかし、彼らの今日に至るまでの道のりは、決して平たんなものではなかったようだ。
バンド結成以来、ゆっくりだが着実に歩みながら紡いできた人間味こそが、"ラブソングだけじゃない"wacciというバンドの魅力を形成してきたのではないだろうか。
それが結実し、花開いたとも言えるこの1年。
当の本人たちは、どのように感じているのだろうか。
──2022年はどんな1年でしたか?
橋口洋平(Vo.Gt)
バンド名と楽曲の認知度はすごく上がった1年だったのかなと思います。
村中慧慈(Gt)
友人たちから、「最近すごいね!」って言われますね(笑)。誰でも知っているというわけではないですけど、知ってくれている確率が高くなった実感はあります。
小野裕基(Ba)
街中で「恋だろ」を聴く場面が増えましたね。「大丈夫」や「別の人の彼女になったよ」は、「街中で聴いたよ」っていう声を聴いたことはあったんですけど、自分ではそういう場面にあったことがなくて。
でも「恋だろ」は、自分がたまたま寄ったコンビニでかかっていたことがあったので、「こんなに聴いてもらえているんだな」ってようやく思えました。
因幡始(Key)
「こういうところで流れてたよ」っていう話は、バンド内でもしてましたね。
橋口洋平
学祭とかに呼んでいただくことも多くなりましたし、曲名を言うたびに「これが聴きたかった!」って拍手をもらったりして、wacciのライブを観るのを楽しみにしてくださっている人たちが多いことがわかりました。そういうときに、この1年で大きく広がっていったことの喜びを実感します。
横山祐介(Dr)
学祭に出たときに「今日のリアクション、ヤバかったね!」「あの曲で拍手が来るんだ!?」って、みんなで言い合いましたね。
橋口洋平
どうなんですかね?天才なのかな…。
村中慧慈
それは否定できないね。
橋口洋平
否定しろよ!恥ずかしいだろ(笑)。
一同
(笑)。
橋口洋平
誰かの言葉に出来ない感情を、しっかり言葉にして歌に乗せて届けること。そして普通に生きていて感じるうれしさや悲しさを、ちゃんとつまんで歌にすること。
この2つは、結構頑張ってやってきたんです。そういうところが聴いてくださる方の日常の中で、感動してもらえることにつながっていたら良いなと思います。
──wacciは様々なアーティストへ楽曲提供も行っていますよね。橋口さんの作詞・作曲だけでなく、バンドとして編曲や演奏で参加している曲も多くありますし、それらの曲を通して、wacciを知った人も多いと思います。
橋口洋平
そうですね。ジャニーズのグループとかにも楽曲提供しているので、そこから知って、wacciの曲を聴いてくれている方もいると思います。
そういうふうに、他のアーティストへの楽曲提供を通してwacciの曲が広がって行くことはすごくうれしいですね。それに「曲をお願いします」と依頼されるのも、バンド冥利に尽きるできごとだなと思います。
橋口洋平
「トータス」は、自分たちのことを一番ストレートに歌った曲で、あんまりそういう曲は他にないんです。なので、アルバムからこの曲を挙げて、これまでの歩みを訊いていただけるのはすごくうれしいです。
橋口洋平
やっぱり、デビューしたての頃は、みんな根拠のない自信を持っていたんですよ。「すぐ行けるだろ」みたいな(笑)。
一同
ははははは(笑)。
橋口洋平
「俺たち最高だもんな!」みたいなね(笑)。
因幡始
不思議だよね~(笑)。
橋口洋平
でもやっぱり、そううまくはいかないこともわかってきますし、つかめなかったチャンスもあった。僕らより後に出てきたバンドに追い抜かれたりとか、10年間、常に悔しいことの方が多い毎日でした。
そんな思いを抱える中で、信じ続けてくれて応援してくれたファンのみなさんや、支えてくれるスタッフのみなさんがいて。だからなんとか前を向いて、一歩ずつでもいいから頑張って行きたい、という思いでここまでやってきたんです。
横山祐介
10年やってみると、デビューまでの経験よりもデビューしてからの10年の方がだいぶ僕らの糧になっているというか、形作っているなと思います。
それは「トータス」という曲、そして「suits me! suits you!」というアルバムを作れたときにすごく感じました。それこそ遅い歩みで進んで行く僕らを活動させてくださっている、事務所やレーベルの方たちへの感謝も感じています。
村中慧慈
悔しさもあったけど、僕は結構ポジティブで、振り返ると「いろいろあったけど楽しかったよなあ」って思っちゃう人間なんです。ただ、2人が言っていることもすごくわかります。
10年続けていることも幸せだし、こういう節目に「恋だろ」がヒットして、さらにレコード大賞の優秀作品に選ばれたりして。やらせてもらえる環境に居続けられたことに対して、こういう賞を受けることでちょっとでも恩返しできたのかなって思います。
小野裕基
デビュー当時を思い返せば、僕自身は一気にヒットするとかよりも、地道に登っていつか高いところからゆっくり降りて行くような、長い活動をしたいと望んでいました。
小野裕基
振り返ると、10年一歩ずつ歩いて来るのは大変だったなという思いがあります。一段飛ばしできずに、ようやくここまでこられたっていう時間の長さと、その間に活動を支えてくれたファンのみなさん、スタッフ陣、メンバーへの感謝をこの10周年で感じています。
因幡始
僕個人としては、デビュー当時から自分ができるベストは尽くしてきたので、この10年に対して長かったとか短かったとかっていうことは、自分の評価基準として考えたことは実はあまりなくて。
これからもありのままを受け入れて、自分ができることのベストを尽くしながら、進んでいけたらいいなって、この10年という節目でより考えるようになりました。
橋口洋平
振り返れば10年間頑張った足跡があって、こうやってこのタイミングで曲が広がって行って、LINE NEWSで賞を頂いたりしてっていうひとつひとつが、「ああ、やってきて良かったな」と思えます。
──10年という月日の中で、メンバー間でそれぞれ変わった部分などはありますか?
橋口洋平
あんまり変わっていないところが、良いところだと思っていますね。行動で言うと、ほとんど毎日会うのでプライベートで飲みに行くことはなくなりましたけど。あと、語る夢もなくなっていくんですよね(笑)。
一同
ははははは(笑)。
橋口洋平
あの頃は、「明日にはドーム公演」ぐらいのノリで、「和民」で語っていましたから(笑)。
因幡始
あったあった(笑)。
村中慧慈
言語化するとすげえさみしく感じるなあ(笑)。
橋口洋平
開店から終電までいたからね。まあ、叶った夢も叶わなかった夢もあって。ただ、いくら夢を語っても、結局やることは目の前の一歩なので。だったら語っている時間を全部曲づくりに費やそう、っていう思考回路になってきていますね。
横山祐介
47都道府県ツアーの1回目で、「地方のおいしいものを食べよう!」みたいな流れも半分ぐらいでなくなったんですよ。毎日ずっと一緒にいるんで。
──それだけ一緒にいると、けんかになったりも……?
村中慧慈
ちょっと怒られたりとかはあります。
橋口洋平
それは慧慈君だけでしょ?(笑)。
因幡始
まあ、それなりに不機嫌になってぶつかることはありますけど(笑)。
橋口洋平
そうなっても、2、3日ムッとし合ってる、みたいなことはないですね。
小野裕基
うん、そうだね。
橋口洋平
僕は、世の中の5人組って意外と仲良くて上手く回っているイメージがあるんですよ。それはなんでかなって考えたんですけど、1対1で喧嘩になったときに、他の3人で多数決が取れるんですよね。だから、それが一番良いんじゃないかなと思います。
村中慧慈
2018年に47都道府県ツアーで初めて青森でライブをやったときに、お客さんが13人だったんですよ。
横山祐介
15人でしょ?
村中慧慈
いや違う、13人だった。
──多数決取ってもらっていいですか(笑)?
一同
ははははは(笑)。
村中慧慈
とにかく、そんな状況でもみんな「やってやろう!」って、人数の多さじゃなくて1人ひとりに歌を届けるんだっていうことを、そこで改めて思ったんです。それを踏まえて、青森でホールライブができたらすごく良い思い出になりそうだなって思います。
横山祐介
以前横浜アリーナでのイベントでライブをやらせていただいたことがあって、そのときは正直、広すぎるし奥まで届いている感もなかったんです。
でも去年、ぴあアリーナMMでのイベントでライブをやったときに、以前、横アリでやったときとちょっと変わった感覚があって。今ホールツアーを回っているんですけど、すごく楽しい空間が作れているので、アリーナツアーをいつかやってみたいですね。
因幡始
フェスにいっぱい出たいです。いろんなアーティストから刺激をもらえるし、本当に音楽が好きなお客さんが多いので。
過去に出たフェスでも、終わった後に高ぶっている自分に気付くこともあったんですよ。今、このタイミングでフェスに出て、僕らの音楽をもっと届けたいですね。
橋口洋平
コロナ禍で有観客の日本武道館ワンマンライブをやったんですけど(2021年11月12日「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」)、満員にできなかったという思いもあるので、次は絶対満員の武道館でワンマンライブをやりたいという思いで活動しています。
橋口洋平
それは大きすぎる夢じゃなくて、バンドとしてのちゃんとした目標になっているので、そこに向けて頑張って行きたいです。
小野裕基
長く続けるためにはいろいろクリアしなきゃいけないことがあるんだなって、この10年でわかってきたんですけど、バンド内の関係性、事務所、レーベル、お客さんたちとの関係性を長く保って、活動を続けることを目指して引き続き頑張ろうと思います。
橋口洋平
あと、僕は子どもの頃から「ドラえもん」が好きで。wacciは「ドラえもん」に対して一番良い曲が書けると思うので、いつか主題歌をやってみたいです。
今年は賞をいただいたりして、楽曲とか活動に対して「間違ってなかったんだ」って背中を押してもらえる瞬間がたくさんあったので、自分たちのことを信じて1日1日、良い曲を作ったり良いライブをしたりしながら、前に進んで行きたいと思います。