2019年のデビュー曲「夜に駆ける」が日本初のストリーミング累計10億回再生を突破したYOASOBI。
2023年4月に配信リリースされた「アイドル」は、「Billboard JAPAN Hot 100」で21週連続1位を獲得し、その名は世代を超えて知れわたっている。
一方で、YOASOBIのAyase(29)とikura(23)は、ヒットを出し続けることへのプレッシャーがあることを認める。
はた目には順風満帆に見えるYOASOBIに何が起きているのか。
「アイドル」大ヒットに「またこれを超えなきゃいけないのか」
Ayase
「アイドル」のリリース直前ぐらいは、だいぶプレッシャーはありました。
そうした感覚をikuraにも共有していたのかと聞くと、Ayaseは「詳しくは言わないですけど」と笑う。
しかし、多くは語らずとも、ikuraにも伝わっていたという。
ikura
2022年は、かなりいろいろ考えながら過ごしてましたね。でも、やっぱりYOASOBIの曲を作るのはAyaseさんだし、歌うのは私なので、とにかく自分の役割を全力でやるということですね。
TVアニメ「【推しの子】」のオープニング主題歌である「アイドル」は、MVも3億回再生を突破しており、これまでのYOASOBIの楽曲でもっとも再生されている動画となった。
その「アイドル」の大ヒットにも、Ayaseは驚くほど浮足立っていない。大ヒットがなくとも「良い曲」をリリースし続け、コアなファンがいて、大規模の会場でのツアーができるのが、Ayaseが目指すYOASOBIの姿だという。
Ayase
そうならないと、一生、競争意識の中で生きていかなきゃいけないので、つらいんです。
だけど、「アイドル」が生まれたことで、また殿堂入りは遠のいたなって。ヒットをひもといたら、僕ら的にももちろん「楽曲が良かったから売れたんです」って思っているし、そう言いたいけど、「【推しの子】」のパワーがすごくあったんです。
だから、僕は「アイドル」のチャート結果が生まれて、もう目に見えたムーブメントになり始めたぐらいで、すごく絶妙な気持ちになりました。やっとこれまでを超えられたと思ったら、「またこれを超えなきゃいけないのか」って。
アメリカのビルボードの1位を取って、グラミー賞を取らないと、もうこれは超えられないなという、明確な目標にもなったし、プレッシャーもあるなという感じです。
ikuraは、自身が「幾田りら」としてシンガー・ソングライター活動をしているからこそ、Ayaseの葛藤を理解する。
ikura
自分が曲を作る人間だからこそ、YOASOBIにおけるヒットについてはAyaseさんを信頼しきって、これから作ってくれる曲に対して誠心誠意向き合うっていうのがikuraとしてやるべきこと。そういう意味でプレッシャーは感じてないです。
「小説を音楽にするユニット」っていう基盤があるからこそ、誰にでもなれる、七変化みたいに何色にもなれるikura、というものを定着させていきたいです。
日本だけって意識をしていない
Yahoo!ニュースが初めてYOASOBIに取材したのは2020年夏。
その際に「紅白に出たい」と明言していたふたりは、その年末に「第71回NHK紅白歌合戦」に「夜に駆ける」で初出場。翌年には日本武道館公演まで実現させた。
コロナ禍では大ブレイクを実感しにくかったというが、2023年に開催された全国ツアー「YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"」では、全国7カ所、14公演で約13万人を動員。ファンが声を出せるようになったライブの影響は大きいとふたりとも語る。
また、「YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"」の前後には海外公演も行った。
2022年12月にはインドネシアのジャカルタとフィリピンのマニラで、今年8月にはアメリカのロサンゼルスでそれぞれフェスに出演した。
Ayase
いやあ、もう素晴らしかったですね。国民性もあると思いますけど。
ikura
日本語曲を日本語のまま大合唱してくれて、「海外でこんなことが起きるんだ」って。
インドネシアで「たぶん」を歌ったときに、Aメロから大合唱してくれて、「えっ、こんなに歌うんだ」って、歌いながらめちゃくちゃ驚いていて。
驚いたのはライブ中だけではない。街中でもファンに声をかけられたという。
ikura
このAyaseとikuraを見たときに、YOASOBIだってわかるっていうのが、すごいなと思って。
海外で街中を歩いてて声をかけてもらえて、すごく浸透しているんだなというのを感じました。
アメリカ公演の模様はAmazon Musicでも生配信されたが、YOASOBIはそこでも観客から熱狂的な反応を受けていた。「アイドル」は、「Billboard Global 200」でもトップテン入りを果たしている。
Ayase
アメリカで聴いてくれている層がいることはわかってはいたんですけど、インドネシアのときと同様に、こんなに一緒に歌ってくれる人、待ってくれてる人が実際にいるっていうのは、やっぱりびっくりしました。
ikura
LAのお客さんは、曲をたくさん知らなくても、そのアーティストへの興味だけで、初めて聴いた曲でも、とりあえず体でノることができるんです。「YOASOBIいいじゃん、なんか楽しそう」みたいな感じで、踊ってくれているのはすごく感じました。
では、なぜ「アイドル」はここまで海外でも受けたのだろうか。
Ayase
もちろんアニメや時代性、SNSでフォロワー数の多い人が発信してくれたこともあると思うんです。
でも、「海外を意識した、意識してない」とかというよりかは「日本だけって意識をしていない」っていうイメージです。
今までのレジェンド的なアーティストたちは、どこを市場のメインにするかを断定しないといけなかったけれど、サブスク時代にもなったし、SNSもYouTubeもみんなシームレスで世界中で見られる状態にあるからこそ、別に市場を断定せずとも活動できるようになった。
日本にだけ意識を向けているわけじゃないことが、楽曲の強度だったり、僕らのパフォーマンスの評価だったりとちゃんと結びついた結果として、広まってくれたのかなって思うようにしています。
もちろん裏ではスタッフが知恵を練ってやってくれている作戦もあると思うし、現地のメディアの取材を受けるとか、すごく小さなところからの努力もあるはあるんですけど、根本的には商品が良かったって思っています。
では、「曲が良い」とは、どう判断しているのだろうか。
Ayase
僕は本当にメロディーオタクなので。僕がかっこいいと思っているメロディーと、かっこよく録れた歌声と、かっこいいと思えるアレンジが、まず楽曲全部のパッケージですよね。
その組み合わせとしてできあがったものを、「いい曲だな」って自分が思うかどうか。これはもう感覚の問題なので、ちょっと難しいですけど、自分の感覚と時代がマッチしたっていう感じなんだろうなとは思います。
現実的には、タイアップや時代の流れ、別のアーティストの動きも絡んでくるので、そういうタイミングと、自分らの今できる最高傑作がうまく噛み合ったという感じなんでしょうね。
ikura
私たちが世界に向ける用に曲を作ってなくて、「アイドル」もそうですけど、J-POPをしっかり突き詰めて、一番かっこいいJ-POPを私たちでやる、っていうことが芯にあるからだと思います。
SNSには自分で心にフィルターをかける
2020年のYOASOBIは、SNSについて「めちゃめちゃ見ています」と発言していた。あれから3年、SNSとの接し方にも変化が起きたという。メディアでは、YOASOBIのプライベートな話題がニュースになり、SNSで広まることもあった。
Ayase
僕はSNSをやめることで乗り越えてます。
今やってるのは、Instagramのストーリーを定期的に更新することと、Threadsをごくたまに更新すること。自分が発信するためにしか触ってないんです。
Twitter(現X)も、エゴサをかけずとも、やっぱり目に入ってくるものは入ってくるし、見たくないものもバンバン入ってきちゃうので、それはノイジーだし。ウェブでも、ニュースの文面だけ見ちゃって、「あっ」って思うようなこともあるので。
自分の精神衛生を優先することにしたので、僕はもう勝手に脱ネットしてますね。
かたやikuraは、SNSを見ていながらも距離感を保てるほうだという。
ikura
私はわりと自分で心にフィルターをかけられるタイプなので。
家族や友達とか身の回りの人、一番近いチームの人間との関係性を健康的に保つことが、自分の心と体の健康につながっているので、そこが崩れていかなければ、外からの意見が来たときもパッてはね返せる感じはします。
自分でフィルターをかけるのがいいし、そうじゃない場合は離れるようにしています。やっぱり心と体が一番大事ですから。
自分たちが音楽を長く続けていくために、それが必要かなと思いました。
この1年の楽曲すべてが自信満々の作品
さまざまな葛藤や雑音を乗り越えて、活動し続けるYOASOBI。10月には、「アイドル」も収録した3枚目のEP(ミニアルバム)「THE BOOK 3」がリリースされる。
その中の新曲「勇者」はTVアニメ「葬送のフリーレン」のオープニングテーマであり、さらに多くの人々にYOASOBIの音楽が届く可能性を秘めている。
Ayase
「THE BOOK」の「2」が出たときはこうだったね、「3」が出たときはこうだったね、って、写真のアルバムみたいな立ち位置ですね。それぞれの思い入れ、思い出たちがギュッとなってできました。
「アイドル」でYOASOBIを知ったけど、それしか聴いてないような人たちが、「アイドル」がアルバムに入ったときに、「せっかくだから聴いてみよう」って、知らなかった曲に触れる機会になってくれればいいなという感じです。
ikura
アニメを入り口に「アイドル」だけを知ってる方もいらっしゃると思うんです。YOASOBIはこの1年、いろんな曲を出してきて、全部、自信満々のいい作品だと思っているので、そこにも触れてもらえる機会になればいいなと思います。
ikura
私自身、新しいアーティストを掘っていくときに、アルバム単位で聴くことが多くて、いろんな曲を聴きながら、「ああ、こういう人なんだ」って、どんどん好きになっていくっていう過程があるんです。
そういうふうに、これを機会にどんどん知ってもらえるアルバムになったらいいなと思います。
YOASOBI(ヨアソビ)
コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる、「小説を音楽にするユニット」 。2019年11月にMVが公開された第一弾楽曲「夜に駆ける」はBillboard JAPAN Hot 100にて2020年年間1位を獲得し、2023年8月に史上初のストリーミング累計10億回再生を突破。2021年12月には日本武道館で初の有観客ライブを開催し、大成功をおさめた。2023年10月4日、3rd EP「THE BOOK 3」がリリースされる。
クレジット
撮影:河邉有実莉
Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部