M-1グランプリ2020を制し、一躍芸能界の中心に躍り出たマヂカルラブリー。テレビ番組出演本数は上半期だけでも前年より163本増加した。
しかし、彼らのキャリアが順風満帆かと言えばそんなことはない。2017年のM-1決勝戦では最下位、20年に優勝した際には「あれは漫才なのか?」という批判も多く寄せられた。
栄光も挫折も味わい尽くしたマヂラブにとって、2021年はどのような年だったのか。
怒濤(どとう)の1年を振り返りながら、「仲は良くもなく、悪くもない」というコンビ間の関係性やコミュニケーション、二人が考える炎上との向き合い方などを語ってもらった。
村上
ありがたいことに、めちゃくちゃ忙しいです。
野田クリスタル
スケジュールはGoogleカレンダーで管理してるんですけど、5月くらいから空欄もなくびっしり埋まってます。
村上
体も慣れてきたというか。9時間くらい寝ないと不安になっちゃう人間だったんですけど、今は4〜5時間でも全然大丈夫ですし。
野田
効率のいい体になってるかもしれません。移動中に死んだように休んで回復する感じで。
野田
舞台の合間も座る暇ないくらいスケジュールが詰まってるんですけど、去年までは何もない時間なんていくらでもあったんですよね。その時間何してたのか、もう全く思い出せないです。
── 忙しすぎて記憶が朧げになってるんですね。
野田
仕事してるときは流れに身をまかせてるんで、「昨日の最後の仕事はなんでした?」って言われても何も出てこないっすね(笑)。
野田
ふと振り返ると、ゴールデンの番組で自分たちがメインのコーナーがあったりするんで、「マジか!?」ってびっくりします。とんでもない芸能人と普通に喋ってるぞ、って。
── 年明けには久しぶりのまとまった休みがあるそうですね。
村上
逆に体調を崩しそうで怖いんですよね。
野田
たまに1日だけの休みがあると、「カイジ」の地下労働施設に入れられた人間が1日外出券を使ったみたいになっちゃうんですよね。
野田
猛ダッシュでやりたいことを詰め込んじゃって、全然休めてないっていう。ニットの毛玉を取るくらいの余裕がほしいっすね。
野田
マネージャーから仕事の情報が送られてくるだけで、特にトラブルもないですよ。
「了解です」
「ありがとうございます」
「◯◯の仕事が入りました」
「こちらのアンケートに記入してください」
みたいなのが延々と続くだけです。
村上
マネージャーが優秀なんですよ。
野田
常に言葉を選んでる感じですね。早急に欲しいものもあるだろうに、こちらを急かすこともなく、本来の締め切りには間に合うように送ってくれるんで。すごい塩梅だなと思う。
村上
僕らは言われた期限から2日遅れてるのに「そろそろどうですか?」みたいな感じで送ってくれるんです。「次からは遅れないようにしてください」とも言ってこないし。
── お二人のコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
村上
感情的にならないようにはしてますけど、そこまで気をつけてはないですね。二人とも穏やかな人間なので。
野田
ネタ合わせをすることが一番のコミュニケーションだと思うんですよね。僕が一人で一から十まで作っていくよりも、二人で相談しながら作っていく方が面白くなる。
野田
でも、僕たちはほとんどネタ合わせをしないんですよ。
村上
後輩のインディアンスとか、何もなくても毎日2時間くらいネタ合わせしてるんですよ。試合もないのに素振りしてるみたいな。僕らは半年で2時間くらいですかね(笑)。
野田
単独ライブのネタが3時間くらいで出来上がってますから(笑)。
村上
ライブとライブの合間にちょちょっとやってる感じなんで。どんだけ忙しくなろうと大丈夫です。
野田
たまにネタが最後まで完成してないのに舞台でかけてる(「披露する」の意)ときもありますから。
村上
「これオチどうなるんだろう」と思いながらやってます。
野田
そういうときの方が現場脳が働きますよね。
── 現場で考えながら、の方がウケますか?
野田
両パターンありますね。「やっぱり考えときゃよかった」ということもあるし。やりながら「これはオチねぇな」っていう。
村上
そういうときの方が多いんじゃない(笑)?でも、アドリブで漫才やってM-1を獲れたら、それが一番かっこいいんじゃないですか。
野田
練習量は点数に入らないので。
── お二人は大宮の舞台(大宮ラクーンよしもと劇場)を大事にされてる印象があります。
村上
大事にしてるというか、断ってないという方が正しいですかね。大宮が僕らを育ててくれたんで、もちろん声かけられたら出ますし。
村上
気を使ってくれて出番減らしてくれることもあるので、劇場として自信がないんですかね(笑)。「M-1チャンプを呼んでいいのか…?」っていう(笑)。ありがたいですよね。
村上
「マヂラブ」で検索すると、ポジティブな意見が出てくるんですよ。「マヂカルラブリー」で検索すると、ネガティブなものが混ざってくる。
「マ"ジ"カルラブリー」だともっと悪いんですよ(笑)。良くない意見は、僕たちのことをよく知らない人たちが書いてるんだなと。
野田
マイナスの意見なんて、「お前に何が分かんだよ」以外に言うことないんで。
村上
M-1で優勝したのは大きかったですね。何を言われても、どっかで「いや、優勝してるし」って思えるので。
村上
2017年の最下位になったときは「僕たちの漫才つまんねーのかな…」みたいに思ったんですけど、もう優勝してますからね。
お笑いレジェンドたちが選んでいるわけですよ。そういう自信があるので、そんなにへこまなくなりました。
── 自分たちの中に「優勝」という足場ができたわけですね。
村上
そこはもう揺るがないですからね。僕らがめちゃくちゃなことをやらない限りは、剥奪は多分ないと思うので。
野田
(めちゃくちゃなことを)やった人も剥奪されてないから。
村上
とろサーモンさんが未だにチャンピオンとしてやってるから、ほぼほぼ大丈夫だと(笑)。やっぱり根底には「M-1獲ってるし」という自信がありますから。
── キングオブコント2021では惜しくも9位でした。
野田
キングオブコントに関しては、芸歴の制限がないから一生出られるんで。M-1で優勝してるから、あとはライフワークとしてキングオブコントに取り組んでいけばいいと思っています。
わからせられた
— マヂカルラブリー 野田クリスタル (@nodacry) October 2, 2021
悔しい
だがこれでいい!
いずれ優勝します pic.twitter.com/aAoUYDBiAr
野田
僕からしたらM-1を獲った時点で勝ち確の人生なんで、「もう勝負はついてるんだよ」と言いたい。
村上
なんなら芸人辞めちゃってもいいんですよ。M-1獲ってるんですから。
野田
そのくらいM-1を獲るってのは大事なことだよね。
野田
思いのほか変わらなかった。僕はもっと変わると思っていたので。
── どういうことですか?
野田
インターネットをやっていた人たちって、心の底で自分にしかない情報を持ってる優越感があったと思うんです。
同級生に「どうせこんなの知らねえだろ」とか「こんな情報あるの知らねえだろ」とか、優越感に浸れるのがインターネットだった。
野田
でもインターネットが普及しても、みんな同じ知識量になるわけではなく、普通にそのまま広がっていっただけなんですよね。
村上
うんうん。
野田
ネットにしかない情報を自分だけが持っている、みたいな優越感を持っている人は引き続きずっといるなという感じはしています。
村上
確かにね。
野田
2ちゃん(現5ちゃんねる)のレスバ(ネット上での口論)がTwitterのやり合いになっているだけ。
野田
2ちゃんでは「お祭り」って言われていたんですけど、当時から炎上はあったし、意外に何も変わっていないんじゃないかという気がしています。
インターネットの本質は変わらないまま、人が増えただけっていう。
村上
そんなに意識はしてないつもりでしたけど、小っ恥ずかしいんですよね。
村上
例えば収録で、もう中学生さんとかと一緒になっても「写真撮りましょうよ」って言えないんです。照れちゃうから(笑)。
高校生のときも、クラスの一軍の人たちが自撮りしてるところに混ざれなかったんで。一生無理でしょうね。
野田
プライベートを明かすならクソでありたいんですよ。「店員にメンチ切られた」とか、そういうエピソードならいいですけど。
今はテレビとか華やかなところにいるんで、なかなかそういうのがないんです。
── 仲の良さを発信する人が一定数いる中で、コンビ間でも仲が良いことが美徳とされている風潮も感じます。お客さんもそれを期待してますよね。
村上
お笑いにBL(ボーイズラブ)っぽさを求める人もいますからね。(カメラマンに)今日の写真はBL狙ってます?BLじゃない?アート?
野田
アートみたいなBL。
村上
結局BLですよ、それは(笑)。
野田
今年はしょうがないので、来年からBLはNGにします!
── お二人の仲はいかがですか?
村上
まあ、別段良くもないですけど、悪くはないくらいですかね。
野田
というか、お互いをよく知らないんですよ。
村上
そうそう、あんまり知らない。めちゃくちゃ仲悪いっていうのも、やっぱり大変ですから。これくらいがいいんじゃないですかね。
M-1王者として駆け抜けた1年間を終え、2人は2022年に何を見据えているのだろう。
村上
時間ができるのであれば、もう少しダラダラしたい。今年は本当に動いたので、もうちょっと自分らしく生きたいです。
── 今の何割の仕事量だと自分らしくいられますか?
村上
4割ですね。
── 半分以下!
村上
それはそれでめちゃくちゃ不安になりそうだから、精神的によくないか。
村上
9割になってくれたら、多少休めるし、いいですね。「チャンピオンイヤーじゃないからこんなもんか」って思えるくらいの減り方がいいです(笑)。
野田
今年はその日の仕事をしていく毎日で、お笑いについてあんまり考えられなかったなと。毎年数回やっているよく分からないライブや、自分から何かを発信しているときが一番楽しいんです。
時間さえあれば突発的に何かできるのが強さだと思ってるので。あとは、死ぬほど筋トレしてゲームしたいっすね。
── 今、一番やりたいことは何ですか?
野田
ダンクですね。
── ダンク…?
野田
本当にダンクがしたいんです。もし時間の余裕があったら、とんでもなく綺麗なダンクを決められるように、完璧なメニューを組んでトレーニングします。