東京・銀座6丁目。
観光客でにぎわう中央通りから少しそれると、さっきまでのにぎやかさがうそのように、あたりは急に静まり返る。
バーニーズ ニューヨーク銀座本店。数々の画廊。
通りの景色は「大人の世界」を思わせる。
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その店は、雑居ビルの中にあった。
俳優・飯島寛騎は、意を決したように敷地内に足を踏み入れた。
エレベーターのボタンを押す指に、必要以上の力がこもる。
「ザギンの、シースーですからね」
冗談めかして、笑ってみせようとした。
そのほほが、少しだけ引きつっている。
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エレベーターのドアが開いた。
黒い壁に、間接照明で店名が浮かび上がっている。
「はっこく」
オープンからまだ半年だが、すでに「銀座でトップクラス」との評価を得ている注目店だ。
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ゆったりとしたウェイティングエリアを抜け、のれんをくぐる。
見事な吉野ヒノキのカウンター。整えられた調度に、思わず息を飲んだ。
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「いらっしゃいませ」
きれいにそり上げた頭に、真っ白なはんてん。
振り返りざま、声をかけてきたのは、店主の佐藤博之さんだ。
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佐藤さん
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「予約のお名前をうかがってもよろしいでしょうか」
飯島
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「ええっと…飯島でお願いしているかと思います」
佐藤さん
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「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
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飲み物は、お好きなものを―
緊張した様子で、飯島は手元をじっと見つめていた。
佐藤さんから声をかけられると、ハッと身じろぐ。
佐藤さん
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「お飲み物、いかがしましょうか?」
飯島
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「あの…何がいいんでしょうか?実は、こういうお店は初めてで…」
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緊張した様子に、佐藤さんは思わずほほ笑んだ。
佐藤さん
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「なんでも合いますから、大丈夫ですよ。ぜひ、お好きなものを」
飯島
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「そうなんですか!じゃ、お言葉に甘えてビールを…」
言い終えると、飯島はようやく酸素にありついたかのように、深く息を吸った。
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どう注文したらいいんだろう―。
まだ「関門」を一つ越えたにすぎない。
自らを戒めるように、深く座席に座りなおす。
どう注文したらいいんだろう―。
こっそりスマホを取り出して、調べてみようとした。
再び、佐藤さんが声をかけてきた。
あわてて、スマホを隠す。
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佐藤さん
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「召し上がれない食材、アレルギーとかはございますか?」
飯島
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「いえ、強いて言うならトマトですけど…。おすしには関係ないですね。ごめんなさい!」
佐藤さん
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「ではトマト、抜いておきますね(笑い)。うちはおつまみなしで、全部おすしになります。全部で30貫です」
飯島
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「ええっ!30貫も!」
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佐藤さん
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「食べきれない方は、おつまみとして15貫分のお魚を出させていただくなどのアレンジもできます」
飯島
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「そうなんですね!僕は30貫、おすしでいただきます!」
佐藤さん
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「かしこまりました」
「お値段」はネットで公開
意外なほどあっさりと、注文も済んだ。
とはいえ、30貫。いったいいくらになるのか…。冷や汗がにじむ。
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そんな様子を見て取ってか、佐藤さんが言葉を継いだ。
佐藤さん
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「では、お料理が税抜き3万円、それにサービス料10%になります」
飯島
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「えっ!こういうお店って、とにかく時価なんじゃないんですか?」
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佐藤さん
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「いえいえ。ネットでもお値段は公開しています。そういうお店、銀座でも増えてきていますね」
飯島
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「そうなんですか…。正直、そこが一番怖かったです」
実は「ユーザーファースト」
佐藤さん
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「さて、始めさせていただきます。まずはこちらから。手渡しをさせていただきますので」
そう切り出され、飯島はあわてて手を差し出した。
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佐藤さん
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「マグロの手巻きずしです。中トロっぽいところに、赤身が入っていまして」
飯島
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「なるほど…。いただきます」
一口ほおばる。やや硬かった表情が、思わずほころんだ。
飯島
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「おいしい…。やわらかくて、マグロの味もしっかりしていて、すごくおいしいです」
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佐藤さん
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「ありがとうございます」
飯島
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「最初に手巻きずし、なんですね」
佐藤さん
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「はい。皆さん、おなかをすかせてきてくださるじゃないですか。そういう時は、やっぱり食べ応えあるものがいいかなと」
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飯島
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「失礼な言い方かもしれませんけど、思っていたよりカジュアルというか…」
佐藤さん
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「われわれはあくまで接客業だと思っています。お客さまにリラックスして、楽しんでいただけないと」
リラックスできる雰囲気作りを―
意外だった。
いかにも職人然とした店主が「だまってオレのすしを食え」と握ってくるのが高級ずし。そう思っていた。
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手巻きずしの手渡しは、それとは真逆のスタイルと言ってよかった。
何が客の求めるところなのか。そこから逆算しての「一手目」だった。
急に緊張がほぐれてきた。視野がパッと広がった気がした。
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店内に、音楽が流れているのに気づいた。
飯島
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「BGMを流されているんですね。こういうお店って、無音の空間だってイメージを勝手に持ってました」
佐藤さん
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「確かに、音楽を流すのは珍しいかもしれませんね。僕も前のお店では使ってませんでした」
佐藤さん
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「前のお店からの常連さまに、作曲家の方がいらっしゃいまして。このお店を始める時にこの曲をプレゼントしてくれました」
飯島
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「それはまた、珍しいプレゼントですね!」
佐藤さん
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「流してみたら、すごくいい。おすしを提供させていただく中で、どうしても『間』はできます。でも、無言の間は、無用な緊張感も生む」
佐藤さん
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「音楽が流れているだけで、そういう緊張感が和らぐ気がします。リラックスしていただけないと、おすしの味も分かってもらえない」
飯島
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「はい!正直言って、手巻きずしを受け取る時はかなり緊張しました。どう受け取ったらいいのか、とか考えましたし」
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佐藤さん
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「そうですよね。たまに手が震えちゃってる方とかもいらっしゃいます(笑い)。そこを解きほぐすのも仕事かなと」
銀座のすし屋で撮影、あり?なし?
リラックスしたかに見えた飯島だが、しばらくすると、再び落ち着かない様子を見せはじめた。
やがて、意を決した様子で、佐藤さんに質問する。
飯島
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「ごめんなさい!やっぱり、写真撮ったらまずいですよね…?」
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佐藤さんは思わず笑う。
佐藤さん
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「何かお口に合わないものでもあったかと思いました。写真なら、全然大丈夫ですよ」
飯島
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「本当ですか!ありがとうございます!」
佐藤さん
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「おすしは見栄えも大事だと思っているので、撮りたいと思っていただけるのは光栄です」
飯島
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「これこそ、失礼に当たるんじゃないかと思って緊張しました…」
佐藤さん
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「いえいえ(笑い)。ただ、どこのお店でも、一言断りを入れた方がよいかもしれません。撮影禁止のお店もありますし」
なぜ、カウンターを3つ構えるのか
飯島
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「そういえば、他にもお部屋ありますか?お客さんがそっちにもいるような感じがするんですけど…」
佐藤さん
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「はい。うちはここの左右にも、6人がけのカウンター席がある部屋を設けてます」
飯島
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「そうなんですね!あれ?佐藤さん一人で3つのカウンターを回るんですか?」
佐藤さん
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「いえいえ、さすがにそれはムリですね(笑い)。それぞれに若い職人を配置しています」
カウンターを複数構え、若手と分担することには、リスクもある。
2014年に同じ銀座のすし店「とかみ」で、佐藤さんは開店わずか1年にしてミシュランの星を獲得した。
同様に新店の「はっこく」でも、星を獲得することが有力視されている。
ただ、関係者が懸念するのは、ミシュランの審査員が佐藤さんのカウンターに座るとは限らないということだ。
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飯島
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「ミシュランの星を取ることを考えたら、佐藤さんお一人で回せる規模のお店がいいんじゃないですか?」
佐藤さん
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「確かに、そうですね。ただ、自分としては星よりも、人を育てる方が大事だと思っています。若い人を育てないと、文化は続かない」
佐藤さん
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「おすしを握るだけなら、ホント誰でもできます。でもお客さまを相手に握るのは、話が別です」
「お客さまの前で握らないと、力量は上がらない。だから、そういう場をつくりたかったんです」
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飯島
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「分かる気がします。役者も、せりふを覚えるだけなら誰でもできる。でもカメラの前とかで演じるとなると、違ってきます」
佐藤さん
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「そうそう、そういうことだと思います。俳優の皆さんも、お客さまあっての仕事ですよね」
すし文化を世界に広めたい―
飯島
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「今はどんな方に、隣のカウンターを任されているんですか?」
佐藤さん
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「一つはデンマーク人に任せています」
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飯島
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「えっ!?外国の方ですか?」
デンマーク出身のマスさんは1年半ほど前、佐藤さんにSNSのダイレクトメッセージで弟子入りを志願してきた。
断り続けていたが、一向にあきらめないため、熱意にほだされる形で受け入れたという。
飯島
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「修行1年でカウンターを任せるということは、以前から日本でおすしを握っていた方なんですか?」
佐藤さん
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「いえ。自分の国でフレンチのシェフをやっていたと聞いています」
佐藤さん
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「基礎的な技術に加えて、前職で培われた接客意識の高さがありました。そして何より、熱意ですね」
前の店を退職してからの1年あまり、佐藤さんは世界を旅して、各地ですしを振る舞うイベントに参加してきた。
本場日本から来た、ミシュランの星持ち職人。
世界中で歓迎された。現地紙にも取り上げられた。
いかに世界ですしが愛されているかを実感した。
そして世界中に「うまいすしを握れるようになりたい」という情熱を持っている料理人がいることも知った。
佐藤さん
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「マスもそうです。てっきり、フレンチに生かすためにすしを学ぶのかと思ったら、すしを極めるつもりでやっている」
マスさんをカウンターに立たせているのは「卒業試験」の意味合いだという。
2カ月間、客前できちんと握れるようになったのを見届けて「はっこく」から送り出す。
佐藤さん
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「デンマークですし屋をすると言っています。有名店が海外に支店を出すのが流行っていますが、僕としてはこういう形がいいなと」
飯島
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「教え子に、自分の国でやってもらう形、ですか」
佐藤さん
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「はい。今はフレンチやイタリアンでも、世界に認められるようなお店が日本にもある。それらは、かつて本場で修行した日本人が、戻ってきて始めたお店です」
飯島
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「あ…今ここでマスさんがやっているのと同じですね!」
佐藤さん
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「そうなんです。いずれ、世界のすしが日本のすしを追い抜く日も来る。デンマークにすごい店があると話題になった時に『そこの大将、実ははっこくで修行していた』みたいなことになったら、ステキだなと思うんです」
飯島
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「確かに!それは、夢がありますね!」
佐藤さん
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「逆に言えば、自分を頼ってくれているからには、きちんと伝えないといけない。それは、すしの本場である銀座でやらせてもらっている者の使命だとも思っています」
コースの終盤。
香ばしくあぶられたアナゴをほおばると、飯島は目を閉じて思いにふけった。
飯島
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「懐かしい香りがします。日曜の夕方の匂いだ。地元が北海道なので、週末はいつも家で焼き魚を食べていました」
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カウンターの中で、佐藤さんが小さくうなずいた。
飯島
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「休みがもうすぐ終わる。切ない気持ち。ちびまる子ちゃんの時間。そう、さくらももこさん、お亡くなりになりましたよね」
しみじみと、飯島は語る。
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飯島
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「味、見た目だけじゃなく、香りまでがすごく鮮やかだから、思い出までが鮮明によみがえる。素晴らしいおすしって、五感を刺激するんですね」
佐藤さん
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「ありがとうございます。コースはそろそろおしまいですが、おなかの方は、もう大丈夫でしょうか」
飯島
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「はい、とてもおいしかったです!また来られるように、頑張って仕事をします!」
佐藤さん
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「そう思っていただけるとうれしいです。うちは若い職人を育てていますが、それだけでもすしの文化は続いていかない。やっぱり、若い人に食べてもらえないと」
SNSをフォローしあうと、丁寧にお礼を言って、飯島は店を出た。
エレベーターを待ちながら、熱っぽく語り出す。
飯島
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「いつか料理人を演じてみたい。だから、一流の方に会ってみたいと思って、今日はここに来ました」
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芸歴3年だが、すでに「仮面ライダーエグゼイド」で主演も経験している。
ライダーシリーズの主演と言えば、近年は菅田将暉、福士蒼汰、竹内涼真らそうそうたるメンバーが名を連ねる。
飯島にも、同様のブレイクが期待されている。
だがそれだけに、早く実力をつけていかなければならないと、あせりにも似た思いを抱く。
飯島
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「確かに、演技の参考になる部分はたくさんありました。おすしを握る様、そして僕の手元におすしを置く所作も美しくて。まめに包丁やまな板を拭いているところとかも、いつか自分の演技に生かしたいなと」
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飯島
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「ただ、銀座のおすし屋さんの世界は、僕が思っていたよりもはるかに高い次元にありました。佐藤さんのお仕事ぶり、そしてお話は人生の教科書のようで」
「銀座のすし屋」の見識、所作は、演技の手本以上のものだった。
飯島
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「業界の将来を見据えていたり、世界にすし文化を広めるために尽力されていたり、お話のスケールがとても大きかったです。自分もいつか、ああいう視座で話ができるようになりたい。そう強く思いました」
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飯島
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「きっと、お店にいつも超一流の方を迎え続けているからこそなんだと思います。それは銀座だからこそ、ですよね」
そんな大人の世界をのぞいてみることを、同世代にも勧める。
飯島
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「何より、純粋に楽しい時間を過ごせました。3万円は安いとは言えないですけど、でもここで得られる素晴らしいひと時と比べたら、決して高くはないと思います」
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地下鉄なんでこっちで、と言って、深々と頭を下げる。
別れ際も、言葉にこもった熱はさめなかった。
飯島
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「若いから、まだ早いと思っていました。でも、早く来てよかった。同世代にも、ぜひ来てほしいです。来ないと分からない世界、来ないと受けられない刺激が、ここにはありますから」
【取材・文=塩畑大輔(LINE NEWS編集部)、撮影=宮川勝也】