■「能動的な読書」をすれば、地頭がよくなる!
「読む力」がキーワードになっている昨今、『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく東大読書』という本が12万部のベストセラーとなっている。著者の西岡壱誠氏は、もともと偏差値35からのスタートで、この本で紹介した本の読み方を実践したところ、みるみる成績が上がって東大に合格したという。東大生なら誰もが実践しているという、その読み方の秘密とは。(取材・構成=前田はるみ)
■東大合格に必要なのは「読む力」だった!
「東大読書」は、高校3年生で偏差値35、2浪して崖っぷちだった僕が、東大合格を目指す過程で編み出した読書術であり、「読む力」と「地頭力」が一気に鍛えられるというものです。僕は、本の読み方を変えたことをきっかけに、東大合格を果たしました。「地頭力」は、「本の読み方」を変えるだけで誰でも鍛えることができるのです。
「本の読み方」に着目したのは、東大の入試問題を詳しく分析したことがきっかけでした。たとえば現代文。問題に使われている文章は比較的平易で、読めば内容は理解できます。それでも問題を解くことができないのは、文章を理解したうえで、自分の考えをアウトプットすることが求められているからでした。他の科目もすべて「自分で考えて、アウトプットする」ことが求められていることに気づき、東大に合格するためには、知識を増やすことより、思考力を高める必要があると気づいたのです。
また、東大の入試会場で周りの受験生を観察すると、皆、教科書を読んでいました。同じ教科書で勉強し、入試問題もそこから出題されているのに、問題を解ける人と解けない人がいるのはなぜだろう。そこで思いついたのが、東大に合格する人は、教科書の読み方が違うのではないかということだったのです。
■現代文の問題と思って本を読んでみる
では、「東大読書」とはどのような読書術なのかというと、僕がここでお伝えしたいことはただ一つ。本と対話するような、「能動的」な読み方が肝だということです。
例えば教科書に、「〇年に〇〇王朝が誕生しました」と書かれていたとします。以前の僕は、「ふーん、そうなんだ」と何の疑いもなく、受動的に読んでいました。それに対して、「なぜこの時期にこの王朝ができたのだろう?」と疑問を持ちながら、能動的に読むのが「東大読書」です。教科書の記述を鵜呑みにせず、「なぜそう言えるのだろう?」「本当にそうなのだろうか?」と本と会話するつもりで読んでいくのです。
すると、自分で立てた問いの答えを探しながら読むので、本の内容をより深く理解することができます。また、自分の頭で考えながら読むことで、自然と地頭が鍛えられていくのです。僕が能動的な読書を意識するようになってから成績がぐんぐん伸び、東大に合格できました。
東大に入って驚いたのは、僕が試行錯誤してたどり着いた「東大読書」を、東大生が当たり前のように実践していたことです。東大生は本の内容にツッコミを入れ、感想を語り合うのが大好きです。
東大生がよくやるのは、まるで現代文の入試問題を解くかのように本を読むことです。現代文の問題では、テキストに下線が引いてあって、「この部分はどういう意味ですか」という問いが立てられていますよね。東大生が教科書や参考書を読むときも、同じように、「どこに下線部を引けば理解が問えるだろうか」と、遊び感覚で友達と議論しているのです。そうした議論の輪に入ると、「なるほど、その部分を疑問に思っているんだな」ということがわかり、自分の考えを深めるヒントになります。
■著者の主張をひと言で表現できるかどうか
受動的に本を読んでいても、「なんとなくわかった」気にはなります。これには一番気をつけなければなりません。
「わかった気になっている」だけかどうかは、「著者が伝えたかったことは何か」を表現してみればわかります。著者の主張をひと言で言い表せなければ、理解できていない証拠です。
本の中の一部分を切り取ってみたり、印象に残っているエピソードを語ったり、説明が長くなる場合は要注意です。本を「魚」に例えるなら、それらは「身」の部分です。おいしいかもしれませんが、著者が一番伝えたいことではありません。
著者の主張は、魚でいえば「骨」の部分です。どんな本にも、最初から最後まで貫通する一本の骨のような主張があります。骨と身を分離し、骨だけを残してはじめて、著者の主張は「要するに何なのか」を言い表すことができます。「わかった気」になっている状態を脱して、著者の主張を正しく理解するには、本の内容を短文で要約できなければならないということです。
要約は、やり慣れていない人にとってはハードルが高いかもしれません。ですが、要約しようと試みること自体が、実はとても効果があります。
というのも、要約は読者が自分で情報を整理し、短文にまとめ直すという能動的な動きを必要とする点で「アウトプット」です。「あとでアウトプットしなきゃ」と思いながら読むだけで、自然と本の内容が頭に入りやすくなります。つまり、「要約しよう」と思うだけでも、本の読み方が変わってくるのです。ぜひ実践してみてください。
■ベストセラーは「議論を呼ぶ本」である
最後に、読むべき本の選び方についてお話ししたいと思います。理想は、「そのときの自分に合った本」を選ぶことですが、そのためのテクニックの一つとして、僕は「今売れている本」を読むことをおすすめします。
ベストセラーがすなわち良い本とは限りませんし、誰が読んでも得られるものがあるとも限りません。しかし、売れている本には、それなりの理由があります。売れているからといって、書かれていることを受け入れるのではなく、「なぜこの本が今売れているのか?」と疑問を持ちながら読んでみてください。
ベストセラーは往々にして「議論を呼ぶ本」であることも、読むべき理由の一つです。自分で問いを立てながら読み、自分なりの結論を導き出すことで、考える力が身につくはずです。
■「東大読書」の5つのステップ
● 1.仮説作り
読み始める前に準備をするかしないかで、読み方の精度は大きく変わってくる。ここで必要な準備は2つ。本の装丁から内容を推測する「装丁読み」と、その本から何を学ぶのか目的を明確にする「仮説作り」だ。
まず「装丁読み」では、本のタイトルや、カバー・帯に書かれた文言から、本の内容を示唆する情報を抜き出し、付箋に1枚ずつ書き出していく。それを本の見返しに貼っておき、読書中も頻繁に見直すことで、本の内容を理解するためのヒントとして活用することができる。
「仮説作り」には4つのステップがある。①「その本を読んで何を得たいのか」という目標を設定する。②目次を見ながら、どの章を読めば目標を達成できそうか、目標までの道筋をイメージする。③読む前の自分の状況(その分野やテーマに関する理解度など)を認識する。①~③については、一つずつ付箋に書いて本の見返しに貼る。④実際に読み進めながら、仮説とのズレが生じたら、その都度修正する。このように「ゴール地点」「目標までの道筋」「スタート地点」を設定することで、読書の効果を高めることができる。
● 2.取材読み
文字面を漠然と追うだけの読み方ではなく、記者になったつもりで質問を投げかけたり、「なるほど」と心の中で納得したり、不明点は取材でとことん解明するくらいの気持ちで読むのが「取材読み」だ。
まずは「記者の姿勢」を意識しよう。記者が取材対象に前のめりで話を聞くように、本に対して前のめり気味で読むのが記者の姿勢だ。「寝そべりながら読むのをやめて、姿勢を正すだけでも読書の効果は倍増する」と西岡氏。
そして、本を読むときには、書かれた情報を鵜呑みにせず、「なぜそう言えるの?」「その根拠は何?」と質問を投げかけながら読み進めていく。質問への回答を自分で探すというプロセスを経ることで、理解が深まっていくという。最も簡単な質問の見つけ方は、著者からの問いかけを探すことだ。「たとえば、『なぜこのような傾向があるのでしょうか?』と書かれていれば、それが質問です。素通りせず、しっかりと意識に引っ掛ければ、そのあとに続く回答から能動的な学びが得られるはずです」(西岡氏)。
● 3.整理読み
本の内容を正しく理解できているかどうかは、「要するにこの本は何が言いたいのか」をひと言で表現できるかどうかで判別できる。「もし、ひと言で言い表せなければ、わかった気になっているだけで、わかっていないのと同じです」と西岡氏。ひと言で言い表すためには、本の内容を整理して理解する必要がある。そのための読み方が、「整理読み」だ。
整理読みの最初のステップは、「著者が最も伝えたいこと」が表現された「要約的な1文」を探しながら読むことだ。「要約的な1文は、文章の『最初』と『最後』に置かれていることが多いので、この2箇所に注意して読んでみてください」と西岡氏はアドバイスする。
要約を意識しながら読むことに慣れてくると、次の展開を推測できるようになるという。実際に自分の推測がどれくらい正しかったのか、確認しながら読み進めてみるとよいだろう。このように要約と推測を繰り返し、情報を整理しながら読み進めていけば、「著者が伝えたいこと」を外さず理解できるようになるというわけだ。
● 4.検証読み
本は1冊ずつ読むよりも、同じ分野で複数の本を同時並行で読むほうが「主体的に読む」ことができるという。なぜなら、1冊の読書では、そこに書かれた内容を素直に受け入れてしまいがちだが、複数の本から多角的な視点を手に入れることで、自分なりに考えながら読み進めていくことができるからだ。
複数の本を同時並行に読む「検証読み」は、「実は私たちが普段から実践している読み方です」と西岡氏。たとえば、難解な言葉を辞書で調べながら読む、あるいは入門書を片手に専門書を読む。これらも検証読みだという。こう考えると、検証読みを難しく考える必要はなさそうだ。
ここでのキーワードは、「パラレル読み」と「クロス読み」だ。「パラレル読み」は、同じ分野について異なる切り口で書かれた2冊の本を選び、共通点と相違点を探しながら読んでいく。それぞれの解釈の違いの原因を探ることで、多面的な思考が身につくという。その応用編が「クロス読み」で、複数の本を読みながら「同じ事柄を論じていて、議論が分かれる論点」を探す読み方だ。「この本ではこう論じていたけれど、別の本ではこう論じていた」と検証しながら読み進めることで、読解力が上がり、思考の幅も広がるという。
● 5.議論読み
最後に、読書でインプットした情報を「アウトプット」してこそ、読んだ内容が自分のものになり、知識として活用される。読み終わった後のアウトプットを意識した読み方が、「議論読み」だ。「議論といっても、難しく考える必要はありません。読後に感想を言い合うのも、立派なアウトプットです」と西岡氏。「良かった」「悪かった」という感想だけでなく、読んだ内容をかみ砕いて理解し、それに対して自分はどう考えるかを表現してみよう。そうすることで、より理解が深まり、本の内容が記憶に残るという。
もう一つ、西岡氏が勧めるのは、本を読む前に立てた「仮説」の答え合わせだ。「その本を読んで何を得たいのか」の目標は達成できたのか、目標までの道筋は正しかったか、を確認するのだ。目標が達成されなかったのなら、目標達成のために次に読むべき本を考える。目標が達成されたのなら、次の新しい目標を設定する。これらのアウトプットを行なうことで、読みっぱなしにしないことが大切だ。
西岡壱誠(にしおか・いっせい)現役東大生/ビジネス書作家
1996年、北海道生まれ。元偏差値35だったが、「『読む力』と『地頭力』を身につける読み方」を実践した結果、みるみる成績が向上し東大に合格。現在、東京大学3年生。1973年創刊の学内書評誌「ひろば」編集長。人気漫画『ドラゴン桜2』(講談社)に情報提供を行なう。「ドラゴン桜2 東大生チーム『東龍門』」のプロジェクトリーダーを務める。著書に、ベストセラー『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく東大読書』(東洋経済新報社)などがある。(『THE21オンライン』2018年10月号より)