PROFILE
東野有紗選手・渡辺勇大選手
共に通っていた福島県富岡第一中学時代からペア歴10年。中学、高校時代を経て、現在は共に日本ユニシス実業団バドミントン部所属。ペアとして、全日本総合選手権大会 混合ダブルスを4連覇中。2021年は全英オープン 混合ダブルス 優勝。そして、東京オリンピック2020では、バドミントン混合ダブルスでは銅メダル! 躍進を続けている。
「諦めずに10年間、組んでくれてありがとう。勇大くんだから、この結果があると思います」(東野選手)
「他の誰にもわからないことも、先輩はわかってくれる。もう、家族より家族ですね」(渡辺選手)
撮影が行われたのは、オリンピックの興奮冷めやらぬ8月某日。晴れやかな表情でスタジオに現れた二人に、スタッフ一同大興奮! お互いを「勇大くん」、「先輩」と呼び合う、息ぴったりな二人に、まずはオリンピックの感想を聞いてみると……。
東野選手(以下、東野)
自分でも驚いたのですが、今回のオリンピックではこれまでの大会では経験したことないようなプレッシャーを感じました。やっぱりオリンピックは大きな夢の1つでしたし、周囲の期待もすごく大きい。今まではどんなに大きな大会でも、どんなに強い相手と戦う時でも、とにかく楽しくて、常にワクワクしてました。もっともっと戦いたい! 的な。だけど今回のオリンピックの試合では、全然楽しいって思えなくて……。明日、負けたらどうしようと、そんな不安のほうが大きかったです。
渡辺選手(以下、渡辺)
僕も普段は、緊張は全くしないタイプなんですが、オリンピックで人生初のプレッシャーを感じました。自国開催ということもあったんですかね、海外の大会よりも周囲の期待を感じました。普段出場している大会だって、手強い選手がたくさんいるし、勝ちたいという気持ちは変わらないはずなんですけど、これがオリンピックの特別感なんだなって思いましたね。
銅メダルを決めた3位決定戦。一度は劣勢になりながらも、声を掛け合い、お互いを支え合い勝利を手にする姿に日本中が感動をもらった。
東野
2ゲーム目、5点の差がついてしまいました。でも5点差ならまだまだ挽回のチャンスはあるし、ここで引き離されたらもっと辛くなる。だからここが踏ん張りどころ。私から積極的に声をかけて、二人で絶対乗り越えようと思ってました。
渡辺
あのタイミングで、先輩が『大丈夫』って声をかけ続けてくれたからこそ、劣勢でも気持ちが折れなかったんだと思います。これは今回だけじゃなく、いつの試合でもそうなんです。僕一人だったら諦めちゃうような場面でも、先輩がいつも前向きだから頑張れる。
東野
勇大くんはその前日にも男子ダブルスで試合をしていて、平気なふりをしてるけどものすごく消耗しているのがわかってました。それを見せずに頑張っくれているのも。だからこそ私が気持ちを切り替えて、ムードを保っていこうと思っていたんです。勇大くんのことも自分のことも信じてるから、そう強気で思えるんですよね。
確かに東野選手は、場を明るくさせてくれる天性のポジティブキャラ! 周囲からも「とにかく明るい」、「前向き」と言われることが多いそう。
東野
確かに、前向きかも。オリンピックの3位決定戦では、プレッシャーは感じていましたが、楽しくも感じていて。昔から、余裕で勝っている時よりも、競ってる場面の方が燃えるタイプ。だって、追い詰められてから勝った方が、カッコいいじゃないですか(笑)。
渡辺
僕は感情があんまり顔に出ないんです。でも他の人には気づかれないことも、先輩にはすぐバレます(笑)。あの試合中も僕が消耗していることに気づいてくれて、ずっと声をかけてくれた。そういうところ、カッコいいっすよね。
VOCE編集部
ペアを組んでもう10年。時には衝突することもある?
渡辺
ないですね。ケンカも一回もしたことがない。コミュニケーションがすごく大事な競技なので、練習する上でもいろんなことを意見し合うのですが、お互いが納得できないってことがないんです。感覚とか、バドミントンへの姿勢とかがすごく近いのだと思います。
東野
1年300日くらいは一緒にいますが、ムカつく!とかないです(笑)。試合中、私が動揺すれば必ず察してくれて声もかけてくれる頼もしい存在。そもそも考えてることがたいてい一緒なので、意見自体がすれ違わないからストレスもありません。あと勇大くんはわかりやすいので、何を考えてるか大抵わかります。
渡辺
いや、それは先輩だけですよ! ほかの人にはわかんないことも、先輩には即バレます。家族より家族ですからね、もはや。
2020年の3月。オリンピック、パラリンピック史上初となる開催延期が決定した。アスリートとして、当時二人はそのことをどんな風に受け止めたのだろうか?
渡辺
命の方が大事だから、当然だって思ってました。動揺もしませんでしたね。それに僕らにとっては、東京オリンピックが最終ゴールじゃなかったので。どんな大会でも世界一であり続けること、そのために日々の練習で、ピークを保ち続ける。今年に入っても、ギリギリまで(開催されるか)わからなかったけど、僕らにできることは“ある”と想定して粛々とトレーニングするだけですから。
東野
私も同じ気持ちでした。それに、1年開催が延びるってことは、備える時間が1年増えたったこと。だから『もっと練習できるなあ』と思ったほど。1日1日を大切にしようと。
VOCE編集部
オリンピックが終了した今、どんなことをお互いに伝えたい?
東野
10年間、諦めずに私と組んでくれてありがとう。それに尽きます!
渡辺
先輩じゃなければ、10年もペアを続けてこれなかったと思うし、メダルもとれなかった。だから僕が伝えたいことも“ありがとう”ですね。感謝してもしきれない。
東野
でも10年って実感がないんですよね。こうやって取材とかで言われて初めて、え? もうそんなに経ったの?と驚いたほど。
渡辺
この前しみじみ、二人で『あっという間だったね』と話したんです。だけど、今はまだ、ゴールじゃなくて通過点。次のパリオリンピックでは絶対に世界一、つまり金メダルをとろうという気持ちを共有しています。
東野
とりあえず、今の目標は9月にフィンランドで行われる世界大会。そこで1位を取ることを目指して、練習に励みます。
「カッコよくなれるのは嬉しい。モテたいですから(笑)」(渡辺さん)
スタジオに現れた時の私服は、オーバーサイズの白Tにストライプのデニム。ブレスレットやリング、バッグなどの小物もオシャレ。“イマドキ”のオシャレ男子といった渡辺選手。
渡辺
いや、オシャレも美容も全然わかんないっすね。流行とかも全然わからない。今日身につけてるものも、実はほとんど先輩からもらったもの。先輩は試合とか誕生日とかに『いつもありがとう』とオシャレなものをくれるからありがたい。
撮影当日、渡辺さんが持っていたコーチのバッグは、オリンピックの記念に東野選手からいただいたものだそう。
渡辺
僕、かなりのめんどうくさがりで。買い物も苦手だし、何を選べばわからない。僕が知る中で、先輩が一番オシャレだし流行にも詳しい。プレーだけでなく、そういう面でも頼れるひとです。
VOCE編集部
すっごくイマドキに見えますが、オシャレには興味がない?
渡辺
オシャレになりたいという願望はあります。僕も男なんで、そりゃあモテたいっすから。いくらモテてもかまわない! と思ってますよ。でもそのためにいろいろ調べたり、買い物するのがめんどくさい。髪を切るときも、ヘアサロンで『お任せしますので、カッコよくなるように切ってください』ってオーダーします(笑)。ちなみにちょっと前までロン毛になろうと伸ばしてたんですけど、先輩に『短い方がいい』と言われて速攻やめました。男性の友達とか先輩にはけっこう好評だったのですが、やっぱり女子受けの方が大事なので。
VOCE編集部
現在24歳の渡辺選手。ハードなトレーニングはトップアスリートの宿命とはいえ、たまには遊びたい!という気持ちになる?
渡辺
練習、めんどうくせえな〜とか、やらずにめちゃくちゃ強くなれればいいのにな〜と思うことはありますが、遊びに行きたいとかはあんまり……。オシャレに関してだけじゃなく、そういう面でもアグレッシブになれないんですよね。だからたまにあるオフの日なんて、ほぼ動かない。誰かに誘われなければ、外出もしません。思う存分寝たら、ウーバーで食べ物頼んで、スマホちょっと見て、再び寝る。歩数を計るアプリを見たら、玄関までしか歩かないから、30歩くらいしか歩いてない日もあったほど。オリンピックの後もTVとか取材以外は家にいて、ただひたすらボーッとしてました。
バドミントンコートを俊敏に駆け回る、試合中の凛々しい姿からは想像つかないほど“おっとり”というか、省エネタイプの渡辺選手。
渡辺
僕ってキャパがあまりないのかもしれません。混合ダブルスと男子ダブルス、二種目やってるからすごく体力があるように思われがちなんですが、そんなこと全然なくて。バドミントンに体力も気力も100%持ってかれちゃうから、それ以外のことに割くエネルギーが残らないんです。趣味もないから、取材などで“趣味は?”と聞かれたとき困ります。先輩はオシャレだし、ゲームも大好きで上手いし、こういう取材でも輝いてて羨ましい。去年4月の自粛期間中、練習もできなかったというのもあり、趣味でも作るかとジグゾーパズルに挑戦してみたんです。だけど3個作って飽きました(笑)。やっぱ僕、バドミントンしか、頑張れないみたいです。だから引退するまでは、他のことはできないでしょうね。いろんなことを要領よくできるものならしたいけど、なれねーな、と諦めてます。
VOCE編集部
今日のご自分の“変身”、どうでしたか?
渡辺
前回先輩がVOCEに出た時、めっちゃキレイになってたので、僕も今日は楽しみにしてました。普段こんな格好することも、ヘアメイクさんに髪や肌を整えてもらうこともないから新鮮でしたね。女性誌の取材が初めてなんで、最初は戸惑ったけど、緊張はしませんでした。カッコつけるの、得意なんで。先輩と取材を受けるときはいつもスポーツウエア。だから、二人揃ってこういうきちんとした格好することないから、なんだか照れますが。
女性誌の現場は初めてと言いつつ、堂々とポーズを決めてくれた渡辺選手でした。
「次のオリンピックでは金メダルを獲って、ゴージャスなドレス&メイクでVOCEにまた凱旋します!」(東野選手)
VOCEの撮影はこれで二回目。前回は華やかなイエローのドレスにオレンジメイクで登場してくれた東野選手。今回は淡いブルーのオールインワンと、ピンクメイクというトレンド満載のルックに挑戦!
東野
前回VOCEに出させていただいたとき、家族を含めて周りの方が見てくれて、『かわいい、別人だね!』と褒めてくれてすっごく楽しかったんです。撮影中もカメラマンさんをはじめ、みなさんが口を揃えて『かわいい!』って言ってくれるのもうれしい。だって普段生活してて、こんなにたくさん『かわいい』って言っていただけることってないじゃないですか(笑)。試合で応援したいただくのとはまた違った、やりがいというか、楽しさがありますよね。
VOCE編集部
今回の撮影ではVOCEでも大人気のヘアメイクアップアーティスト・長井かおりさんがメイクを担当。長年ペアを組む渡辺さんも「本当にきれいっすね〜」と感動していたほど。ご本人的に今日の感想は?
東野
いやもう、プロってなんてすごいんだろう!と感動の嵐です。普段の私のメイクは本当にナチュラルなんで。メイクは好きだけど、詳しくないし、冒険もあまりしない方なんですよ。そもそも、試合中は汗をめちゃくちゃかくので、それが流れるのが嫌で、スキンケアすらあまりしないくらい。だから目の下にキラッと大粒のラメがはいっているのも、ピンク系のマスカラも、生まれて初めての経験でした。実はオリンピック前に気分を上げようと髪をピンクトーンにしたのですが、それとも絶妙にマッチして、テンションが上がりました。撮影は慣れてないけど、緊張はしません。カメラの前に立ったら、とにかく笑おうと決めてきました。ただ、ポーズだけはどうすればわからなくて……。今日のポーズ、正解だったかな?
いつも笑顔で前向きで。周囲にいる人を明るい気持ちにさせる天才。そんな彼女は“気配りの人”でもある。
東野
大事な試合に勝つたびに、勇大くんと家族に“ありがとう”と“これからもよろしく”の気持ちを込めてプレゼントをするんです。家族はわかりやすいから選びやすいけど、勇大くんはけっこうむずかしくて。物欲がないタイプだから、今何が必要なのかをめっちゃ考えます。最近贈ったのは、スニーカーとか、アクセサリーとか。自分のために何かを買うより、何をあげたら喜ぶか?を選んでいる時間が楽しいのです。ちなみに、勇大くんからは今年の誕生日にセットのお椀をいただいて、嬉しかったですね。
VOCE編集部
今後の抱負を教えてください!
東野
絶対にオリンピックでも1位になりたいので、次のパリでは金を取ります。それが実現したら、次はゴージャスなドレスで登場したい。勇大くんも今日のセットアップすごく似合っていたから、また素敵な衣装を着てほしいです。二人で必ず、VOCEに戻ってきます!
大変身を遂げた東野選手のメイクレシピはこちら!
BASE
東野さんの透き通るような白肌を活かしたベースメイクに。トーンアップの下地に薄~くファンデーションを重ねて。
EYE
マットなベージュブラウンをベースとしてアイホールに仕込んで陰影を深めたら、上からラベンダーのシャイニーなシャドウをそれよりやや狭くふわりと重ねて。下まぶたの涙袋にも同じシャドウをのせて、きらめきをプラス。マスカラとアイブロウマスカラはパープル。さらっと塗って、透明感をアップ。
CHEEK
ピーチベージュのチークをシームレスに淡くのせて、血色と立体感をアシスト。
LIP
マット質感のブラウンのリップを輪郭通りにオン。肌とのコントラストで凛とした雰囲気を引き出す。
<渡辺選手>
シャツ ¥12980/シップス 渋谷店(シップス)<03・3496・048> ジャケット、パンツ、シューズ/スタイリスト私物
<東野選手>
オールインワン ¥69990/マサコ テラニシ(アプレドゥマン)<03・6274・8533> イヤーカフ ¥13200、右手のリング ¥17600、左手のリング ¥26400/FLYNK(ワールドスタイリング)<03・6804・1554>
撮影/岩谷優一 ヘアメイク/長井かおり スタイリスト/坂下シホ(渡辺選手)、浦田聡美(東野選手) 取材・文/中川知春