自衛隊、巡航ミサイル導入か
2017年に入り、自衛隊への巡航ミサイル導入を検討するという報道が相次いでいます。
7月にはF-35搭載用となる射程300kmの巡航ミサイル「JSM」についての報道があったばかりですが、11月には新たにF-15への搭載を見込む射程1000kmの巡航ミサイルAGM-158B JASSM-ERや、艦艇発射型となる「日本版トマホーク」なるミサイルの開発についての報道がありました。
ロッキード・マーチンのJASSM-ERは、航空機から発射される地上攻撃用の巡航誘導ミサイルで、射程はおよそ1000kmにもおよぶ(画像:ロッキード・マーチン)。
F-35が標準搭載を見込む「JSM」の調達はほぼ確定とみられますが、そのほかの巡航ミサイルについてはいまのところ不透明であり、また小野寺防衛大臣は11月21日に「現時点で、今回の研究については、あくまでも対艦用の装備」であるとしています。ただ対地攻撃用と対艦攻撃用の巡航ミサイルは、標的を直接捕捉する終端誘導方式を除けばほとんど同一のものと見なせます。
現代では「地対空ミサイルの射程圏内に戦闘機が入ることは自殺行為」であるため、島嶼防衛などにおいてもこうした長射程の巡航ミサイルは必須の装備ではありますが、日本政府はかつて、戦闘機の対地攻撃能力を削除したり航続距離を短くしたりと、「他国に対する攻撃能力は専守防衛に反する」ということで意図的に制限してきた歴史があります。ゆえに、他国に対し脅威を与えかねない巡航ミサイル導入については議論があるようです。
巡航ミサイルとは大違い、弾道ミサイルとは
今回日本への導入が検討された「巡航ミサイル」と、近年東アジアの安定において大きな懸念となっている北朝鮮の「弾道ミサイル」は、どちらも対地攻撃用の武器です。では北朝鮮の弾道ミサイル開発は国際的な批難を浴びているのに、なぜ日本が巡航ミサイルを導入することは許容されているのでしょうか。そもそも巡航ミサイルと弾道ミサイルは何が違うのでしょうか。
巡航ミサイルと弾道ミサイル、両者の定義の違いは「爆弾の投射方法」にあります。具体的には「宇宙ロケットで爆弾を放り投げる」ものを弾道ミサイルと呼び、そして「爆弾を積んだ無人飛行機で体当たりする」ものを巡航ミサイルと呼んでいます。
一般的に弾道ミサイルは数千km~1万kmの飛翔も数十分と恐ろしく高速であり、迎撃が非常に困難な利点があります。またその一方で命中精度が低く、特に長距離を飛翔する大陸間弾道ミサイルはコストも高いという欠点もあわせ持ちます。弾道ミサイルは高価かつ命中精度が低い欠点を補うため、基本的に核弾頭とセットで大量破壊兵器として運用されます。核弾頭を持っていない場合においては、都市に対する無差別攻撃といった程度でしか使用方法はありませんが、これは違法性の高い行為とされています。
報道では混同されがち、飛距離に注目
周知のとおり北朝鮮は弾道ミサイル開発に加え、弾道ミサイルに搭載する核弾頭の開発を目的とした核実験を繰り返し行っていることから、国連安全保障理事会は同国に対する弾道ミサイル開発・核開発の停止要求を決議するなど、国際社会は協力して北朝鮮に対する圧力を強めています。
アメリカ空軍の大陸間弾道ミサイルLGM-30G「ミニットマンIII」の、運用試験の様子。製造元はボーイング(画像:アメリカ空軍)。
対して巡航ミサイルの速度は通常のジェット機とほとんど変わらず、マッハ1以下のものがほとんどです。そのため比較的迎撃されやすいと言えますが、命中精度が非常に高く、相対的に安価という利点があります。ゆえに核弾頭を搭載する巡航ミサイルも存在しますが、ほとんどは一般的な爆弾であり、多くの巡航ミサイル自体は通常兵器の一種としてみなされています。
ゆえに北朝鮮も巡航ミサイルを保有しており、時折、日本海へ向けて発射試験を行っていますが、これ自体については北朝鮮が合法的に保有する戦力であり、特に問題とはされていません。日本においては巡航ミサイルも弾道ミサイルも単に「北朝鮮がミサイルを発射」として混同し報じられることが多いようですが、飛翔距離が100~200km前後であった場合は巡航ミサイルである可能性が高く、核開発・弾道ミサイル開発とはわけて考える必要があります。
【写真】F-16に搭載されたJSM
ノルウェー空軍のF-16に搭載された、米・レイセオン社のJSM(統合打撃ミサイル)(画像:レイセオン)。