ズラリと並ぶ中古飛行機、出自も様々
役目を終えた旅客機や貨物機が世界中から集められる、「飛行機の墓場」と呼ばれている場所が世界に数か所あります。アメリカでは、テューペロ・リージョナル空港(ミシシッピ州)、サザン・カリフォルニア・ロジスティックス空港(カリフォルニア州、通称ビクタービル空港)、そして今回訪れたモハベ空港(カリフォルニア州)が有名です。
「飛行機の墓場」として知られる米カリフォルニア州のモハベ空港&宇宙港(2017年11月、加藤博人撮影)。
静かな乾いた広大な場所に、世界各国の航空機が並んでいる様は遠くから見ると壮観ではありますが、近づいてみると、一部解体が始まってエンジンのない機体や、乗降口のドアが開いたまま放置されている機体、ブランドが分からないようにトレードマークも白く塗りつぶされている機体がたくさんあることに気づきます。荒涼とした砂漠の真んなかにある駐機場に並ぶ機体は、少し寂しげな雰囲気です。ここは、どんな場所なのでしょうか。
モハベ空港。空港であり宇宙港でもある。
BMW i8と擬装した2シリーズ。モハベ空港近くにて。
筆者(加藤久美子:自動車ライター)はこの場所に来るのが2回目で、前回来たのは2014年の3月でした。年に1~2度アメリカを仕事と家族旅行を兼ねて訪れるのですが、毎回ロス~ラスベガスをレンタカーで往復します。このモハベ空港はメインルートからは少し外れますが、ロスから車で2時間という便利な場所です。ちなみに前回訪れた時は、空港近くでBMW i8と擬装した2シリーズがテストドライブをしている現場にも遭遇しました(ファミレスの駐車場に停まっていました)。おそらく多くの自動車メーカーがこのあたりでテストをしているものと思われます。
モハベ空港、そもそもどんなところなのか
モハベ空港の正式名称は「Mojave Air & Space Port」というもので、「Space Port」(宇宙港)の名の通り、ヴァージンアトランティック社(イギリス)をはじめとする宇宙船の母港でもあり、開発や整備を行う拠点も敷地内にあります。このほか、アメリカ国立のテストパイロット養成学校(NTPS)や、そこで使われた訓練用飛行機のモニュメントなどもあります。
サーブTF-35XD「ドラケン」。テストパイロット養成学校の訓練用飛行機として使用された(2017年11月、加藤博人撮影)。
モハベ空港は現在定期便の就航はありませんが、自家用飛行機の発着場として利用されています。また、映画のロケ地としても利用頻度が高い場所です。ハリウッド地区から100マイルと比較的近く、航空機で大型機材を直接、搬入できる利便性の高さも評価されているようです。これまで、『ダイ・ハード2』や『24』など、様々なアクション映画やテレビドラマのロケ地として使われてきました。
そして「Airplane Boneyard」(飛行機の墓場)と名付けられたこの場所は、モハベ空港の敷地内にあります。とにかく広い場所。地図で見てみると、飛行機の墓場だけで700m×1000mほどのスペースがありそうです。もちろん、いま以上に広がっても大丈夫そう。解体を待つ機体、中古航空機として第二の人生を待つ機体、売却先が決まって整備や塗装を待つ機体…様々な事情の航空機が並んでいます。
日本でおなじみだった機の姿も
ここにある航空機は、航空会社のカラーリングそのままの機体もあれば、どこの航空会社の所属だったのかわからないよう、真っ白に塗られた機体もあります。尾翼だけが白いものも。
判別できるものとしては、タイ国際航空、カンタス航空、サザン航空、エバー航空、アトラス航空、ルフトハンザ航空…そして、我らがトリトンブルーのANA(全日空)機777-200も鎮座しています。機体番号もしっかり残されており、「JA8197」の文字が見えます。あとで調べたところ、このANA機は日本初のボーイング777として1995(平成7)年に導入された機体でした。2016年8月15日に羽田発伊丹行きNH41便として最後の商業フライト後、羽田に戻って整備を受け、1週間後の8月22日に羽田空港からアンカレッジ経由でモハベ空港に運ばれて来ました。
リサイクルパーツとしての第二の飛行機人生を待つJA8197機(2017年11月、加藤博人撮影)。
撮影したのは2017年11月初旬なので、モハベに来て1年2か月が経過していた状態です。すでに、解体というか、部品取りモードに入っていてドアは開放されたままです。こののち、JA8197機の使えそうな部品はすべて外され、エアライン各社に販売されたあと、メンテナンス用の中古部品としてリサイクルされるようです。もちろん、販売される前に各パーツ類は厳密に分析、調査されて、調整や補修が必要な場合は厳しい基準で整備されたあと出荷されます。車でいうところの「リビルトエンジン」などの再生パーツのようなものでしょうか。
解体待ちだけじゃない? 中古機、それぞれの「その後」
ここにある機体はすべてがみな、解体されるわけではないようです。なかには、中古航空機として買い手がつき、第二の飛行機人生を迎えるため整備されている機体もあるようです。新たな就航地が決まると、新たな航空会社のカラーリングが施されます。数年間置きっぱなしという機体も珍しくありません。また、航空会社の余剰となった航空機を一時的に保管する場所としても使われています。数か月、ここに駐機して再び自国に戻る…というパターンもあるのだとか。
各国各社の機がずらりと並ぶが、なかには余剰機の一時保管として駐機されているものも(2017年11月、加藤博人撮影)。
「乗降口も開けっ放しで大丈夫なの?」と思ってしまう機体もありますが、ここは年間降水量がわずか2~3インチ(50~70mm前後)という大変乾いた砂漠ですから、長期の保管も問題ないのでしょう。全米に数か所ある「飛行機の墓場」も、モハベと同様の環境で、とても乾燥していて、そして大変広い場所です。中古飛行機の保管場所としては理想的な場所なのでしょうね。
サーブ 32「ランセン」は1955年から1960年にかけて約450機が生産された複座の軍用機。写真の機はA 32A型で、対地・対艦攻撃機(2017年11月、加藤博人撮影)。
ここを訪れてみたいという航空機ファンの方もいらっしゃるかと思います。おすすめはロサンゼルス空港からレンタカー利用がベストですが、モハベ空港の周辺を観光する現地ツアーもあるようです。アメリカでクルマの運転はちょっと…という人はツアーを利用するのも良いかもしれません。