変更にはハード面の改変も 京都市バス
京都市交通局が2017年10月14日(土)、15(日)、28日(土)、29日(日)の4日間にわたり、市バスで、現状とは異なる乗降・支払い方式の実証実験を行っています。対象は、京都駅前〜五条坂(清水寺)〜祇園〜岡崎公園 美術館・平安神宮前〜銀閣寺前を結ぶ「洛バス」100号系統の全便です。
京都市バスには車両中ほどの扉から乗車する(画像:写真AC)。
現行方式は、車両中ほどの扉から乗り、前部の扉から降りる際に料金を支払う「後乗り・前降り・後払い」方式ですが、実証実験ではこれとは正反対の「前乗り・先払い・後降り」方式を試行します。実験の背景を京都市交通局に聞きました。
なお、本来はバスの前輪と後輪のあいだにある乗降扉を「中扉」、後輪の後ろにあるものを「後扉」といいますが、事業者によっては「中乗り」「中降り」であっても「後乗り」「後降り」と呼称する場合があります。京都市のケースでも、使用するのは後扉ではなく中扉です。
——なぜ乗降・支払い方式を変えるのでしょうか?
バス車内の混雑を緩和するためです。現状の「後乗り・前降り」方式では、たとえば車内後方に乗られていた方が降りられる際に、車内の人ごみををかき分けて前方まで移動されるため、時間がかかります。後ろの扉から降りられるようにすれば移動距離が短くなって降りやすくなるのでは、という話が出て、実験することになりました。
——現行の方式はいつから採用されているのでしょうか?
1972(昭和47)年からです。ほぼ全車がワンマン運転になり、かつ均一運賃区間外である調整運賃区間(乗車区間によって運賃が異なる区間)の運行が始まったことから、他社のバスと乗車方式を揃えました。
——変更にあたって、どのような準備が必要なのでしょうか?
運賃箱を後扉付近に取り付けたり、バス停の位置などを調整したりする必要があります。車両設備の変更はさほどコストはかからないと思いますが、バス停にかかる費用はまだ試算できていません。なお、実証実験ではバス停についてはそのままで、停車位置のみを変更して行っています。
地元に長年根付いた方式、混乱なく変えられる?
——新方式導入の課題はどのようなことでしょうか?
45年にわたり統一されてきた方式を変えることもあり、お客様が「どちらの扉から乗ればよいのか」と戸惑われることが想定されます。混乱を最小限にするうえで周知の方法が課題といえます。
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京都市バスの実証実験は現在のところ、前述した10月の4日間のみ。実験結果を、局内や市民からなる「市バスの乗車環境を考える懇話会」などで十分検討するといい、全面的な変更の時期などは決まっていないそうです。
「前乗り・前降り」から「中乗り・前降り」へ 栃木・関東自動車
栃木県最大のバス事業者である関東自動車(栃木県宇都宮市)も、乗降方式の変更を検討している事業者のひとつです。同社の方式は「前乗り・前降り・後払い」で、中扉はあっても原則使われません。これを「ICカード乗車券の導入に伴い、『中乗り・前降り・後払い』方式への変更を検討している」といいます。
「車内へのICカード読み取り機の設置、運転席側のみについている整理券発券機などの中扉付近への移設が必要です。停留所についても、ガードレールや縁石など乗り降りに支障するものがある場合に、道路管理者と連携して調整していかなければなりません。将来的にICカードのシステムを全車へ導入していくにあたり、従来の『前乗り・前降り』と新たな『中乗り・前降り』が一時的に混在することが予想されますので、混乱を最小限に抑えるため広く周知することも課題です」(関東自動車)
京都市バスにおける車内の動線イメージ。上が「後乗り・前降り」、下が「前乗り・後降り」の場合(画像:京都市交通局)。
宇都宮駅に停まる関東自動車のバス(Y.Nさん撮影)。
関東自動車のバスでは、中扉は原則使われないため「しめきり」と表示されている(Y.Nさん撮影)。
関東自動車によると、「前乗り・前降り・後払い」は同社をはじめ栃木県内ほとんどの路線バスに採用されているものの、「他県から来た人、あるいは他県を訪れた栃木県民が(乗り方の)違いに驚く」ものだといいます。しかしながらその歴史は長く、「当社では少なくとも30年以上前、バスがワンマン化された当初からではないか」とのこと。「かつては後輪より後ろ側にある後扉のバスが多かったのですが、間口が狭くお年寄りなどが乗り降りしづらいことから、安全性を考えて前扉だけで行ったほうがよいと判断したのでしょう」と話します。
乗降方式バラバラも、10年以上年かけ順次変更 神奈川中央交通
このようにバスの乗降・支払い方式は地域、事業者、路線によっても異なり、同じ事業者内で複数の方式が混在している場合もあります。バス所有台数において東日本最大の神奈川中央交通(神奈川県平塚市)もそのひとつ。前乗りや中乗り、先払いや後払い、さらには乗車時に行先を運転士に告げて料金を支払う「申告式先払い」のバスもありますが、近年、営業所単位でそれら方式を順次変更しているといいます。課題をどのように克服してきたのか、同社に聞きました。
——これまでにどれほどの路線で乗車方式を変更してきたのでしょうか?
2006(平成18)年の伊勢原営業所を皮切りに、19営業所中16営業所において「中乗り・前降り・後払い」方式へと変更しました(編集部注:一部、従前のままとしている系統もある)。
——なぜ変更しているのでしょうか?
従来は、営業所を問わず路線や時間帯によっても乗降・支払い方法が異なっていたため、統一してわかりやすくするためです。また、乗車用と降車用の扉を分けて乗降をスムーズにする目的もあり、途中のバス停においては停車時間の短縮にもつながっています。間口の広い中扉を乗車用にすることで、ベビーカーや車いすを利用されるお客様の利便性も向上します。
——変更にあたってどのような準備をしたのでしょうか?
整理券発券機やICカード読み取り機、運賃箱、運賃表示器のデータを変更日の前日に更新したほか、バス停は前扉の位置から中扉の位置へ移設したり、移設ができないバス停ではバスの停車位置を変更したりしています。
——地元の人にはどのように周知したのでしょうか?
混乱をできる限り避けるため、変更日の約1か月前からバス車内をはじめバス停などにその旨を掲示したほか、ふだんバスを利用されないお客様に向け、弊社のプレスリリースや地元紙への掲載で周知を図りました。また、各自治体にもご理解とご協力をいただき、広報誌などで周知していただきました。
淵野辺駅に停車する神奈川中央交通のバス(画像:写真AC)。
神奈中バスの乗降方式変更を知らせるチラシの一部(画像:神奈川中央交通)。
中乗りのバスは、前面の行先表示器に「中乗り」と表示される(画像:神奈川中央交通)。
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バスの乗降・支払い方式は、各事業者がそれぞれの理由で決めているもの。変更にはハード面だけでなく、それが長く根付いた地元の人々へどう周知していくかも大きな課題になるようです。