俳優のオダギリジョーが9日、公益社団法人日本外国特派員協会で行われた自身の長編初監督作品となる映画『ある船頭の話』の記者会見に出席した。
同作は先日開催された第76回ヴェネチア国際映画祭の「ヴェニス・デイズ」(コンペティション)部門に正式出品され、オダギリも監督として参加したばかり。その感想を「自分が想像している以上にあたたかい拍手をいただいて、本当にしあわせでしたし、あまりに皆さんの反応がよすぎて『いやいや、そんなに拍手をいただくような映画じゃないんですよ』みたいな居心地の悪さも感じた」と独特の言い回しでよろこびを表現。「次の日に街を歩いていた時も『昨日、映画を観たよ』、『すごくよかったよ』と声をかけていただき、反応が直に感じられて自信になりました」と手応えを語った。
映画監督を目指してカリフォルニア州立大学に留学し、間違えて演劇コースを選択したことによって俳優の道へ進んだオダギリ。これまで監督業に乗り出さなかったのは「俳優の立場を利用する形で映画を撮るのはいいことではないと思った。ほかの映画監督からしたらおもしろくない話だろうし、本気で映画に向かっても俳優オダギリジョーが作ったといういくつものフィルターが入ってしまい、フェアな評価がいただけない気がしてこれだけ時間がかかってしまった」。
それでもあえて挑戦した理由を「健康診断を受けた時にあまりよくない結果が出まして。大げさですが残された自分の時間でなにをするべきかを考えた時に、本当は映画を撮りたかったのに変なプライドでやりたい気持ちを閉じ込めていたな、と。(そこで)『1本映画を作りたい』という思いが大きくなった」と吐露した。
映像の完成度の高さに質問が及ぶと、まず撮影監督のクリストファー・ドイルの存在の大きさを挙げ「僕がこの映画を通して表現したかったことをすべてクリスが実現してくれた。『ジョーはとにかく俳優に芝居をつけ、アートや画作りを考えて、やりたいことを全部教えてくれ。それがどうやったらできるのかを考えるのが自分たちの仕事だ』と最初に言われ、僕はやりたいことをすべて細かくクリスに伝えた」。続けて「クリスが100%サポートしてくれたので、100%自分がやりたかったことを画にできた。クリスはただの酔っぱらいじゃないなと思いました(笑)」とおどけて笑いを誘った。
また、印象的な音楽や音響を「ずっと趣味で音楽を続けていて、音楽や音に人一倍こだわりを持っている」としたうえで「今回はいかに5.1chサラウンドを有効に使うかを考えて音を設定していったので、劇場で観ないとこのよさは伝わらない。自宅で環境を整えるのは不可能に近いでしょうから、この映画を本当の意味で100%楽しめるのは劇場しかないと思ってます」と断言。さらに作品の時代背景である明治に時間の流れを合わせるなど、監督としての揺るぎない美意識に記者からの指摘が相次いだ。
監督作への自身の出演を問われ、「台詞を覚えるのはけっこう面倒くさくて、絶対に出たくなかった(笑)。監督として自分の作りたいものに集中するのであれば、俳優をやっている暇はないと思っていたので、今後も出ないと思います」ときっぱり。また、同じ俳優に対する演出を「(主演の)柄本(明)さんもそうだし、橋爪(功)さんや草笛(光子)さんなど、本当に尊敬するとても多くの先輩方に出ていただいているので、先輩たちに芝居をつけるのは避けました(笑)。俳優は役を考えるのが当たり前で、その役を深めることが仕事なので、いちいち監督が説明するのは野暮」と解説すると、同時通訳から一瞬「ヤボ?」と返されるひと幕も。
「時代や自分の置かれた環境がどうであれ、自分の信じたことを持てているかどうかが自分にとってのしあわせなのかな、という思いを込めた」というオダギリ。文明の波に直面した山村を舞台に、黙々と渡し舟を漕ぐトイチを通して人間の本質を問う意欲作、映画『ある船頭の話』は9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国で公開される。
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