2020年、大活躍を見せた少女がいる。クールな目元が印象的な子役俳優・白鳥玉季だ。現在10歳、小学5年生の白鳥は、ドラマ「凪のお暇」(2019年、TBS系)白石うらら役で注目を集め、2020年は「エール」「麒麟がくる」(ともにNHK総合ほか)「テセウスの船」(TBS系)「極主夫道」(日本テレビ系)などドラマ6作品に出演という売れっ子ぶり。山田孝之と父娘を演じた「ステップ」など出演映画も3本公開された。彼女の魅力は、大人顔負けの“凛とした強さ”の表現だ。
「極主夫道」では極道にもひるまない少女を好演
本日12月13日(日)に最終回を迎える「極主夫道」(毎週日曜夜10:30-11:25、日本テレビ系)では、元極道で今は主夫の道を極める龍(玉木宏)とキャリアウーマンの美久(川口春奈)の娘・向日葵を演じている白鳥。
「極主夫道」はコミックが原作だが、向日葵はドラマオリジナルキャラクター。ハチャメチャなキャラクターたちが巻き起こす騒動を描く本作にあって、白鳥演じる向日葵は冷静沈着、周囲の大人たちよりもよっぽど成熟した佇まいで無言のツッコミを入れていく。向日葵の存在が、大人たちの破天荒ぶりを引き立てるいいエッセンスとなっている。
2010年1月20日生まれの白鳥は、10歳ながら芸歴じつに9年。2011年に企業広告ポスターなどに出演したのを皮切りに、数々のCMやWEB広告に出演するほか、映画やテレビドラマでも活躍中してきた。
テレビドラマデビューはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016年)。ヒロイン・常子(高畑充希)の親しい友人・星野武蔵(坂口健太郎)の娘・青葉を演じた。ほか、「ハロー張りネズミ」(2017年、TBS系)、「民衆の敵」(2017年、フジテレビ系)などに出演。映画「永い言い訳」(2016年)では週2回面倒を見てくれるおじさん・幸夫(本木雅弘)相手に無邪気な笑顔を振りまき、「アウト&アウト」(2018年)では遠藤憲一演じる元ヤクザと探偵コンビを組む小学2年生・栞を演じるなど、大物俳優とも共演してきた。
2018年のドラマ「ルームロンダリング」(TBS系)では、生駒里奈演じる大野まくずの幼少期、「映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!」(2016年)では、浜辺美波演じる南海カナミの幼少期を演じるなど、子役の花道である人気女優の幼少期役でも実績を残している。
「私たち、親が思ってるほど子どもじゃないから」
彼女が一躍注目を集めたのが2019年のドラマ「凪のお暇」。主人公・凪(黒木華)が引っ越した安アパートでの隣人・うららを演じた。
シングルマザーである母・みすず(吉田羊)の苦労を間近で見て育ち、どこか冷静で冷めた雰囲気のうらら。だが、友だちである凪が元恋人・慎二(高橋一生)になじられると、黙っていられず「凪ちゃんをいじめないで!」と体当たり。体を張って凪を守る気概を見せた。
うららが鮮烈な印象を残したセリフがある。安アパートに住み、犬も飼えない自分の境遇を恥じ、友達にたくさんのウソをついていたうらら。だが、凪との交流をきっかけに友達にウソをつくことをやめ、本当の友だちも見つけた。
「ねぇ凪ちゃん。私たち、親が思ってるほど子どもじゃないから。一緒にいて楽しい子は自分で考えて選べるし」そう静かに宣言した彼女の凛とした声の響きは、“カッコいい女性”のそれだった。
「凪のお暇」うらら役で大人顔負けの演技を見せる白鳥に、視聴者からも「白鳥玉季ちゃんの演技が上手すぎて鳥肌」「芯のある表情、りりしい表情。カッコいい!」「雰囲気が大人っぽい!ほんとに9歳!?」といった声が上がった。
白鳥が演じるキャラクターの魅力は、このカッコよさ。視聴者が“カッコいい”と憧れてしまう強さと説得力が、小学生にしてすでに備わっている。同年代を見渡しても、彼女ほど“カッコいい”の声が上がる少女子役は見当たらない。
生意気じゃないカッコよさ
ルックスの愛らしさもさることながら、何よりも、大人だろうが極道だろうがひるまない意志の強さ、賢さが、そのカッコよさの源だ。幼い子どもが大人と渡り合うさまは、さじ加減を間違えば“生意気”ともとらえられるが、彼女の場合そんな印象はまったく与えない。ふとした表情やせりふ回しに、揺るがない意志の強さや思慮深さが感じられるからだ。
2020年は、そんな白鳥の持ち味を活かした出演作が次々と放送・公開される飛躍の年となった。
日曜劇場「テセウスの船」(2020年、TBS系)では、主人公・田村心(竹内涼真)の姉・鈴(貫地谷しほり)の少女時代を演じた。幼い頃の鈴は、真っすぐで意地っ張り、でも正しいことを正しいと言える女の子。粗野なところがある父・文吾(鈴木亮平)に対しても、間違っていると思えば堂々と反論する。
9話では、殺人未遂容疑をかけられ行方がわからなくなった文吾に一度は「人殺しのお父さんなんてもう帰ってこない方がいい」と口にした鈴。だが最終話では、父が疑われる根拠が“ワープロで打たれた文字”だけであることを知り「ワープロの文字なんて誰が打ったって同じだよ」と指摘。「お母さんはお父さんのこと信じてないの?私はこの間お父さん疑っちゃって、すっごい後悔した。お父さんが悪いことするわけないよ」と自分の間違いを認め、「私、お父さんを信じたい!」と訴えた。前を真っすぐ見据えたその目は、強い信念を宿していた。
ワンシーンで鮮烈な印象を残した「エール」
「エール」では、主人公・裕一(幼少期・石田星空)をいじめる気の強い少女・とみを演じた。セリフのある出演シーンは1回のみだったが、そのシーンで裕一に「あんたのそのどもり、父ちゃんのせいなんだべ?父ちゃんが商売ヘタだからそんなになったんだべ」と冷たい言葉を浴びせ、強烈な印象を残した。去り際の冷たい流し目も印象的だった。
とみが大人の女性(演じたのは堀田真由)になって裕一の前に現れ、裕一をこっぴどく振った時、初回から見てきた視聴者なら誰もが「あの時の女の子!」とピンときたはずだ。幼少期のとみは、“妬み”や“怒り”がエネルギーの源であることを十分すぎるほど表現していた。ほぼワンシーンでこれだけの情報と存在感を残したのだから、さすがというほかない。
「麒麟がくる」では主人公・明智光秀(長谷川博己)の長女・お岸役で第25・26回に登場した。のちに将軍となる足利義昭(滝藤賢一)を臆することなくニコニコともてなし、光秀が義昭について美濃へと出発する際には、意志の強いまなざしで父を見送った。
その強さは「エール」のとみ、「テセウスの船」の鈴、「極主夫道」の向日葵とも違い、武士の娘であることの誇りや責任感から来るもの。常にどこか緊張感を保ちながら生きた武士の暮らしの一端をしっかりと垣間見せた。
役柄にふさわしい強さと賢さをにじませる白鳥。これだけの引き出しを持つ10歳を“子役”と呼んでよいものかどうか、ためらってしまうほどだ。2020年はこのほか、よるドラ「彼女が成仏できない理由」(NHK総合)、「一億円のさようなら」(NHK BSプレミアム)にも出演した。
「本番では芝居を変えてきた」
スクリーンでの活躍も目覚ましい。
2020年に公開された出演映画は3作品。山田孝之と父娘役を演じた「ステップ」(武田美紀6~8歳)、酒におぼれる父(渋川清彦)を冷めた目で見つめる「酔うと化け物になる父がつらい」の田所サキ(幼少期)、田中圭演じる花屋さんの恋模様を見守る姪っ子・さほを演じた「mellow」。いずれも、演じたのは年齢よりもどこか大人びた少女だ。
「mellow」のメガホンを取った今泉力哉監督は白鳥について「オーディションで初めてお会いしたのですが、とても魅力的でした。彼女の持つクールさやまなざしに惹かれました」と起用理由を説明。
「ステップ」の美紀役もオーディションで勝ち取った。大人の役者に混ざってもしっかりとした演技ができるだけでなく、父親役の山田と1対1で対峙(たいじ)しても負けない強さを見せられることが決め手だったという。
飯塚健監督は、白鳥をほかの俳優陣と同じように1人の“役者”として扱い、同じように演技指導を施したという。飯塚監督は「玉季は、クラスメートが家族のエピソードを語るシーンで、最初は一緒になってケラケラ笑っていたけれど、美紀はそんな笑い方しないんじゃないかと言ったら、そこから自分で考えて本番では芝居を変えてきた」と振り返る。
“強さ・賢さ・カッコよさ”を武器に、ことし「ちょっと気になる子役の女の子」から「圧倒的存在感を放つ10歳の人気女優」へと脱皮を果たした白鳥玉季。2021年はどんな活躍を見せてくれるのだろうか。年が明けてもまだ11歳。女優としても大きく成長する彼女に興味は尽きない。