長瀬智也('19年11月『NHKスペシャル 食の起源』取材会)
『白線流し』の美少年から『IWGP』でヒーローに
「14歳のとき『ツインズ教師』('93年・テレビ朝日系)で俳優デビュー。俳優としての最初のブレイクは17歳で主演を務めた『白線流し』('96年・フジテレビ系)でしょう。天涯孤独な身で、定時制高校に通う少年を演じ、少女漫画から飛び出てきたような美貌と繊細な演技に注目が集まりました。その後、'05年まで2年ごとにスペシャルドラマが放送されました」(テレビ誌ライター)
「定時制に通う長瀬は、昼間の学校で同じ席に座る医者の娘(酒井美紀)と交流しはじめるという物語。ある種の格差でもあり、異種学園ものであり、愁いと憂いのある初々しい長瀬を思い出します。私だけじゃないんだと思った記憶があるくらい、『白線流し』が好きだという中年のおじさんおばさんが多いこと。ある一定の年齢層にとても響くドラマでしたが、あれは第二の『北の国から』と言えなくもない」(吉田さん)
「“めんどくせー!”とボヤきながらその人柄と行動力で問題を解きほぐしていく長瀬のリアルな熱血漢ぶりは、'00年代の新しいヒーロー像になりました。当時は多くの男子がマコトに憧れ、マコトと同じ携帯の着信音『Born to Be Wild』にするのが流行りましたね(笑)。20年経っても風化しない面白さに加え、脇のキャストも今では主役級の俳優ばかりということもあって、“伝説のドラマ”と語り継がれています」(テレビ誌ライター)
長瀬らしい“素直さ”や“一途さ”
「“やさぐれているが目はきれい”“男性ホルモンは多そうなのに俺様感や、やらかし感がない”“女性に頭が上がらない、というか最低限の敬意をしっかりもっている”などなど、長瀬のイメージはいろいろですが、『うぬぼれ刑事』こそ彼そのもの。家まで買っておきながら婚約者に逃げられ、惚れっぽいために容疑者の女性に毎回恋をしてしまうという刑事の役でしたが、そのバカバカしさの中に一途さがあり、“純愛ドラマ”だったと信じています」(吉田さん)
『タイガー&ドラゴン』や、脚本家・岡田惠和が長瀬のために書き下ろしたドラマ『泣くな、はらちゃん』('13年・日本テレビ系)でも、その“らしさ”が爆発しているという。
「『タイガー&ドラゴン』は落語に魅せられたヤクザを演じましたが、落語家(西田敏行)を脅迫して落語を教わるという“素直さ”や“一途さ”がありました。反社会的な人間でありながら“人として大事な部分”をちゃんと持ち合わせている“優しさ”も伝わる。魅力的なクズだったと思います。
『泣くな、はらちゃん』は漫画のキャラクターが現実の世界に飛び出してきて、作者である生身の女性に恋をするというファンタジーですが、その設定が長瀬にぴったりで。要するに純粋で常識のないキャラクターなので、そのおかしさもあるし、一途に恋をする姿というのも“長瀬っぽさ”全開なわけです」(吉田さん)
一生懸命やって「笑われてる」ほうがいい
『TOO YOUNG TO DIE!』では地獄の赤鬼でバンド・地獄図(ヘルズ)のボーカル&ギターのキラーKを演じたが、KISSよろしく全顔を真っ赤にペイントし、牙をつけて奇抜な衣装……ともはやジャニーズアイドルの面影は一切ない。こんな規格外のキャラクターを違和感なく演じてしまうのが長瀬のすごいところ。宮藤はインタビューで《どんな無理な設定でも、絶対面白くしてくれる》と俳優として絶大な信頼を寄せていることを明かしている。
《僕がやる手だてっていうのはギリギリまでやるっていう、それしかなくて。それが『どうすれば一番伝わるか』ってことに対する僕の答えなんですよね》(『CUT』'05年4月号)
《『人を笑わせてやる』みたいなのはヤなんですよね。自分がすっげえバカなこと一生懸命やって『笑われてる』ほうがいい。そうするとすっげえ自分もワクワクしてくる》(同上)
「透明な容器」として役者に向いている
「あれだけ濃い顔立ちに完璧なルックスなのに、“男としての弱さや幼さ”を前面に出すのがあまりに上手すぎて、“自己評価が低い”と思わせる。そこが俳優としての魅力ではないかと思います。“弱みを見せない正義の味方”が活躍しがちな日本のドラマで、しかもジャニーズ事務所の所属とくれば、大方は“賢くて特異な才能をもっていて、必ず周囲から一目置かれる存在に描かれる”わけですが、長瀬は別格というか別枠で描かれることが多い。
しかも“よく泣く”。男泣きとかむせび泣きとかそんなカッコいい泣き方ではなく、顔をゆがめておいおい泣く、みたいな。みっともなさと情けなさが満タンの泣き顔が多いです」(吉田さん)
「けっしてセリフ運びが素晴らしいとか活舌がいいとか、技術的なことが褒められる人ではない気がします。自己評価が低いぶん、“透明な容器として役者に向いている”という話。芸能人、ましてやジャニーズといえば、“俺が俺が”と目立って光って輝いて、がナンボの世界ですよね。その中で“何者でもない自分”というのが、すがすがしくて気持ちいいのかも」(吉田さん)
「親の介護」という等身大のテーマに挑む
「もともと、役柄に対してはビジュアルの細部までこだわりをもつ長瀬さんですが、今回はプロレスラーの役作りで体重を12キロも増やしたというのだから、並々ならぬ気合いが見てとれますね」(テレビ誌ライター)
「親の介護が必要になったとき、自分は、家族はどう対処するのか。そこには悲劇も喜劇もありますし、愛憎もあります。きれいごとではない話になるだろうな、でもお涙頂戴にはならずに笑わせて、意外なところでホロリとさせてくれるだろうなと期待しています」(吉田さん)
《けっして適当になんてできない。身を削ってでもやり遂げる責任が、自分をはじめとして送り手側にはある。そういう気持ちは常に忘れないようにしてきたし、これからも変わることはないです》(『SKYWARD』'08年12月号)