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「生まれながらにして免疫力には、血液型による差があります。免疫学的に、いちばん病気に強いのはO型です」
そう言い切るのは、免疫学の権威として知られる、東京医科歯科大学の藤田紘一郎名誉教授。
O型は免疫力が常に活性化
「人間ドックを受けた成人5000人の血液から、白血球の成分の一種、リンパ球の割合を調べたところ、O型が39%と全血液型のなかで最多でした。次いでB型が37%、A型が36%、AB型が34%という結果だったんです」
免疫物質であり、ウイルスや細菌と闘う抗体は、リンパ球から作られる。リンパ球が多いということは、抗体がよく生産されていることを意味するという。でも、どうして血液型によって差があるのか?
「O型の人は、血漿(けっしょう)中で抗A抗体と抗B抗体という2つの抗体を絶えず作り続けています。つまり、免疫力が常に活性化されているということなのです」
そんなO型と対照的なのがAB型。血漿の中で、抗A抗体も抗B抗体も作られていない。よってAB型の免疫力は、ほかの血液型と比べて最も低いという。
では、抗B抗体を作っているA型と、抗A抗体を作っているB型では、どちらが免疫学的に優位なのだろうか?
「抗A抗体を作るほうが免疫力は高くなるため、2位がB型。そして3位がA型ということになります」
動物、植物、細菌にも血液型がある
「人間の歴史は細菌やウイルス、寄生虫といった病原体との闘いの歴史でもありました」
藤田名誉教授によると、人類がこれらの病原体や病気そのものと深く関わり合う中で、体内に血液型物質ができたと考えられているという。
「血液型は人間にのみ存在すると思っている人もいるかもしれませんが、大間違いです。動物や植物にも血液型物質はあります。
そもそも地球上のあらゆる細菌は、それぞれA型、B型、O型などの血液型物質を持っています。そして、約200種100兆個ともいわれる人間の腸内細菌も、やはり血液型物質を持っているんです」
腸内細菌の代表格である大腸菌属の細菌類でも、その種類によってA型物質を持つもの、B型物質を持つものなどに分けられるという。
藤田名誉教授は、かつてこんな実験をしたと話す。
「B型物質を多く持つサルモネラ菌を、人間の各血液型の血漿に混ぜ、菌の増殖を調べました。その結果、サルモネラ菌はA型とO型の血漿ではあまり増殖せず、B型とAB型の血漿では大幅に増殖しました」
A型とO型の人は抗B抗体を持つ。それがB型物質を持つサルモネラ菌の侵入に対して働き(抗原抗体反応)、菌の増殖は阻止される。そのため、A型とO型は菌に感染しにくく、仮に感染しても重症化しにくかったことが予測される。
「A型物質を持つ大腸菌でも同じ実験をしたところ、やはり(抗A抗体を持つ)B型とO型の血漿ではあまり増殖せず、(抗A抗体を持たないA型とAB型の血漿では大幅に増殖しました。肺炎球菌はB型物質を多く持っているので、B型とAB型は抵抗力が弱いと言えます」
民族の血液型分布には病気が影響
感染症のなかには、民族の血液型構成に影響を与えたものまであるという。
「まずは梅毒です。梅毒はもともとアメリカ大陸の地方病でした。1492年にコロンブス一行がアメリカ大陸からヨーロッパに持ち込み、拡大しました」
と藤田名誉教授。20世紀なかばに特効薬のペニシリンが開発されるまで猛威をふるった。
「O型の人は梅毒に感染しにくく、重症化もしません。特にAB型の人がかかりやすく、重症化しやすい。アメリカの先住民の9割がO型であることは事実ですし、ヨーロッパも比較的O型優位の人口構成になっています」
一方、南西アジアで大流行したのはコレラ。
「インドのベンガル地方で発生し、激しい下痢で身体の水分を奪われ、1〜2日でコロリと死んでしまうほど恐ろしい病気でした。
B型の人はコレラへの抵抗力があり、O型の人は重症化しやすかった。その結果、コレラが流行したインドのベンガル地方、パキスタン、アフガニスタンなどは、もともとB型優位の国ではありましたが、コレラによってO型の人口が減り、さらにB型の割合が増えたと考えられています」
一方、血液型に対するマラリアの影響を指摘するのは、長浜バイオ大学の永田教授。
「マラリアは、世界的に見て最も患者が多く、また犠牲者も多い感染症のひとつです。アフリカを中心に毎年、40万人以上が死亡しています。そのマラリアにO型は強い抵抗力を持ち、そのほかの血液型は重症化しやすいと'90年代から言われ始め、今日までにそのデータが世界中で確認されています」
マラリア流行地帯と非流行地帯では、O型の比率が大きく異なるという。
「流行地帯であるナイジェリアでは87%、スーダンでは62%、ケニアでは60%がO型です。逆に、非流行地帯では北欧のフィンランドで66%、スウェーデンは62%、スイスは60%が非O型。
そのため、“マラリアが地球規模での血液型分布を決めたのではないか”との仮説が提唱されているほどです」
血液型ごとに身体に合う食物がある
「前述のとおり、私たちが日ごろから食べている動物や植物にも血液型物質は存在します。牛はA型物質とB型物質の両方、豚はA型物質だけです」
と藤田名誉教授。植物の場合、ごぼうや白菜はO型物質、ぶどうや昆布などはAB型物質を持っている。A型物質を持つのはツバキやブナなど、B型物質を持つのはモチノキやニシキギなどだが、いずれも食用とは言えない。
「血液型によって合う食べ物・合わない食べ物は理論上、存在します。例えば(抗A抗体を持つ)B型の人が、(A型物質を持つ)豚肉を食べた場合。
豚肉のタンパク質をきちんと消化できていればまったく問題ありませんが、十分消化しきれず、大きなタンパク質のかたまりのまま身体に取り込んでしまった場合、アレルギー反応のような症状が起きても不思議ではありません」
最近は食物アレルギーを持つ人も増えている。
この背景について、藤田名誉教授は、
「最近の日本人は、食物を十分に消化できなくなってきているからです」
と、警鐘を鳴らす。血液型の特性を知って、今日から健康に役立てよう。
〈PROFILE〉
藤田紘一郎 教授◎医学博士 東京医科歯科大学医学部名誉教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。メディア出演、著書も多数
永田宏 教授◎理学修士、医学博士 長浜バイオ大学教授。医療情報システムの研究に従事したのち、鈴鹿医療科学大学教授を経て現職