(写真左から)高知東生、たかまつなな
三浦春馬さんの死でよみがえる母の自殺
「仕事を一緒にしたことはないけれど、三浦春馬さんが亡くなったニュースを見て大きな衝撃を受けました。おふくろの自殺が脳内でフラッシュバックして、しんどかったんですよ。彼の訃報を知ったあと、おふくろに対する“見捨てられた”という寂しさや、(自殺を)防げなかったもどかしさとか、いろんな感情が出てきました。正直な話、おふくろの自殺は僕にとってずっと“恥”であったし、これまでは、つらかった経験を周りに明かすのも恥ずかしくて、言えなかった」
「自死遺族がこんなにたくさんいること、また、みんな気持ちを秘めて、自分を抑えて生きてきたのだいうことに驚きました。多くの人が勇気ある分かち合いをしてくれたことで“俺はひとりじゃなかったんだ”って思えて、逆に元気をもらいましたね」
「“自分にもおふくろがいたんだ”と喜んだのも束の間、酒におぼれる母との暮らしは散々でしたね。数日にわたって家を空けることも珍しくないし、料理もろくにしてくれない。酔っ払って帰ってきて、夜中に叩き起こされることもしばしば。キャバレーのような場所に連れていかれて、ホステスたちにもみくちゃにされることもあった。そんな毎日から逃れたいし、ばあちゃんに会いたくて2、3回、脱走をしたこともあります。途中で連れ戻されて怖かったけど」
中学からは全寮制の学校に入り、母親と距離を置いていた。そんななか、母親が突然、自ら命を絶った。享年41、高知さんは当時、17歳。最後に言葉を交わしたときの後悔は、今も消えないという。
「実は、おふくろは自殺をするその日にいきなり、自分で車を運転して俺のもとへ会いにきて“今日じゅうに進路を決めろ”、“任侠の世界だけは絶対にアカン”と言ってきたんです。そして夜、帰る直前に“ねえ丈二(高知さんの本名)、私、きれいかな?”って、聞いてきた。“気持ち悪い、実の息子に何言うてるの。俺は行くぞ”と返したんですが、車のドアを締めたときのおふくろの顔は、泣きながら笑っていました。
……それが、俺とおふくろとの最後。なんであそこで“おお、きれいやぞ”って、ひと言でもかけてあげられんかったかな、っていう思いを、いまだに引きずっています」
おふくろを生き返らせろと叫びたかった
「むしろ生きているときは恨んだし、“本当に俺を生みたかったのか”くらいに思っていたし、“俺なんかいなきゃよかったんじゃないか”と、自分を責めたこともあります。でも、いま思えばおふくろは、いちばん俺を愛してくれてたなって感じられるエピソードもあるんです。絶対に俺のことを否定しなかったし、育て方は知らない人やけど、そんな人でも俺の最大の味方であった、っていうのは間違いじゃなかった。思えば、亡くなる半年くらい前には、学校に差し入れを持って来てくれたりもした。失って、初めて大切さに気づきました。もう恨みは一切ありません」
「当時は何が起きたのか冷静に判断できなくて、頭の中がぐちゃぐちゃになっていました。仲間は“何かあったら言えよ”っていうけど、“じゃあ、おふくろを生き返らせてくれよ”と心の中では思っていた。でも、それは叶うはずもないから、誰にも話せなかった。
今だから言えるんだけど、とにかくそっとしておいてほしかったし、俺が喋りたくなったときに、ただ受け入れてくれればそれでよかった。変に責任感とか正義感のようなものを押し付けられている気がして、“かえって余計なお世話だよ”と思ってしまっていましたね。今なら、純粋に心配してくれていたんだろう、と分かるけれど」
「結論から言うと、“生みの親父”と“育ての親父”がいて、今まで父親だと認識していた人は後者だったんです。名前を見た俺が“あれ? これ誰だよ”って祖母に聞いたら、彼女はオロオロしながら“言ってなかったけれど、これがあなたの本当のお父さん”って」
「“おふくろをこんな目に遭わせて、のうのうとしやがって!” と、怒りにいこうと思ったんです。元任侠の人で、庭付きの大きな家に住んでいました。外からのぞいたときに、その人と自分よりちょっと歳上の子どもが、大型犬とじゃれあう姿見えたんです。それを見たら“邪魔しちゃいけないや”と思い、急に冷めちゃって。“ばあちゃん、俺、もういいや”って言いました。“いいの?”と聞かれましたが“うん、なんか、もういい”と、会わずに帰りましたね」
目標は持たない。毎日を楽しむだけ
「正直“いつでもやめられるだろう”という甘い考えでいました。芸能界に入ってからは、ほぼ使わない時期も長かったけれど、捕まる1年くらい前からストレスが増え、ドラッグに頼る頻度も高くなりました。そのころの自分に対して、どこかで“ヤバい、ヤバい、ヤバい”とは思っていた。だから、50歳を過ぎて逮捕されたときは“これで、ついにやめられる”と、ホッとしましたね」
「依存症に悩む人は何よりも、ひとりで苦しまないでほしい。抱え込まずに勇気を持って、経験のある人に頼ってほしいなと思う。僕自身、今は“考える会”の仲間たちの存在に、本当に助けられています。孤独だったころとはぜんぜん違うし、最近はストレスフリーですっごく楽。今の目標? 目標を持ちすぎると、達成できない苦しさが生まれそうで、また薬を始めてしまう恐怖があるから、持たないようにしているんです。毎日を楽しみ、小さなことに幸せを見つけています」
(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)
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たかまつななと高知東生さんの対談をYoutube『たかまつななチャンネル』内の動画で公開しています。リンクURL→https://youtu.be/eAExVKG0R3g