昨年1月、実父から虐待され、わずか10歳で生涯を終えた栗原心愛ちゃん。2月21日から始まった父親の裁判員裁判では狡猾な小男の素顔が浮かび上がってきた。周囲から“普通”と言われた男がなぜ―。
栗原勇一郎被告
「ママー!! 嫌だー!」「苦しいよ! 死んじゃいそうだよ!」「ウァー!ウァー!」
暴力行為は否認
「事件直後から今日まで娘にしてきたことがしつけを超えていたと反省してきた(中略)成長を楽しみにしていたのに私が将来を奪ってしまった。みーちゃんに謝ることしかできません」
反省、後悔を述べる一方で心愛ちゃんへの暴力行為は否認。法廷で流された心愛ちゃんへの“虐待動画”にも、裁判で明らかになった凄惨な虐待の数々を読み上げられても表情は崩れない。
「権力には従順」
母が語る息子・勇一郎
「勇一郎は小学校から野球をやっていて、高校のころには工場やコンビニでアルバイトをしていました。明朗快活で友達が多い子でした」
「小学校のときから数人の生徒と弱い者いじめをしていた。自分より弱い者には強く出るタイプ」
「なぎささん(33・心愛ちゃんの母=勇一郎とともに逮捕)とは2回目の結婚で、別れた先妻との間に子どもがいます。最初の結婚相手は、なぎささんのように見た目はおとなしいが勇一郎とよくケンカする気の強い面がある女性でした」(凪子さん)
「最初の奥さんは勇一郎の暴力が原因で逃げた」
「沖縄に気分転換に行きたいと言っていたが、仕事もやめていたので引っ越し費用と生活費を貸し、月に15万円から20万円援助していました。総額は2000万円くらいだと思います」(裁判での母の証言)
「勇一郎は幼いころ病弱だったので、家族で頻繁に沖縄に旅行していました。だから勇一郎にとって沖縄は楽しい場所なんでしょうね」(勇一郎をよく知る知人)
「被告には悪い印象がある。明るかったなぎさはすぐに泣く子になってしまった。子育てができないと泣いて怯えていた。何をするにも怖くてずっと怯えている状態になってしまった」
妹が語る兄・勇一郎
「非常に温厚で穏やかでコミュニケーション能力もあった」
「上から目線でプライドが高く仕事を頼みにくかった」
「自分より地位の高い人にはいい態度で接するが、低い人にはそうではない」
「ごめんね」
妻が語る夫・勇一郎
「お父さんが相手のお宅に“お邪魔してすみません”と菓子折りを持ってやってきて丁寧すぎて怖いくらいにお礼を言ってきたそうです」
「心愛に話を聞いたら“毎日が地獄だった。夜中にパパに起こされたり立たされたりする”と言っていた。心愛を助けてあげたくても勇一郎の監視や束縛が激しかったためどうすることもできなかった。(勇一郎が)怖かった」
*
「(罪を)後悔はしていると思うが、心からの反省はしていないと思う。自分がしていたことが虐待だという認識がないとみられる。どことなく心愛さんのせいにしているところを感じる。反省する心があったらこんなことにはなっていない」
「勇一郎被告は性格的に歪んでいる。心愛ちゃんへの虐待が暴力に加えて屈辱を与える行為からもうかがえます。汚物を持たせたり、失禁させたり……。母親(なぎさ)は嫌がらせと言っていましたが、まさにそれで、嫌がることをネチネチとしているな、と感じました。被告の言うように“いい父親になりたくてやった”しつけの延長線上じゃないような気がします。心愛ちゃんのことが単純に嫌い、辱めてやるという感じです。心愛ちゃんのこと、好きじゃなかったのかもしれません」
「心愛の正義感のある性格が(勇一郎は)嫌いだったんだと思います」
「妻(なぎさ)が病気で子育てができず、2人の子どもの子育てをしなければならないストレスが一因だと思う」
「私たちにとって心愛さんは初孫ではありませんでした。しかも8年間会っていない、突然8歳の子どもが現れて祖父母としては戸惑うところがあった」
「息子は孫以上に可愛い。私から(虐待を)疑われるのは勇一郎がかわいそうだと思った」
「児童相談所が(心愛ちゃんのことを)要保護児童とかハイリスク児童と教えてくれていれば」
「(虐待のアンケートは)心愛が嘘を書いたと思う」
裁判で争われている勇一郎の罪
2017年頭殴打事件
自宅で当時9歳だった心愛ちゃんの頭部を手で殴るなどして暴行を加えた。心愛ちゃんの当時の担任によると「真っ赤な目で登校してきた日があった。そのときにどうしたのか聞いたら“結膜炎”と心愛さんが言ったが、のちにお父さんに殴られたと教えてくれた」と証言した。
2018年7月大便事件
浴室内で心愛ちゃんに排便させ、その大便を手に持たせたのち、ケータイのカメラで撮影。
2018年12月顔面打撲、骨折事件
'18年12月30日から'19年1月3日まで、心愛ちゃんの両腕をつかんで引きずったのち引っ張り上げ、その手を放して身体を床に打ちつけ、全治1か月の顔面打撲と胸骨骨折を負わせた。
2019年立たせ続け事件
1月5日ごろ、心愛ちゃんに対してリビングで「責任とれよ、大みそかに時間戻してくれよ、俺お前のことなんか何も信用してねえよ。生活あんだよ、お前と違って。全部お前のせいで台無しだよ。風呂行けよ、行け」などと語気荒く告げ、心愛ちゃんを怖がらせたうえに首を横に振ったり、母に助けを求める心愛ちゃんをつかんだり「いいよ早く!」などさらに怖がらせて浴室に行かせ、脱衣所に立たせ続けた(ちなみにこの当時の野田市の気温は1度ととても寒い)7日に小学校の新学期が始まるも顔に暴力の痕があったため「心愛は妻の実家の沖縄にいる」と虚偽の電話をかけ休ませた。新学期から死亡するまで心愛ちゃんは1日も学校に通えなかった。
傷害致死事件
'19年1月22日の夜から24日の夜にかけて、心愛ちゃんに食事を与えず飢餓状態にするとともに、リビングや浴室に立たせ続け、肌着で浴室に放置し、浴室内で濡れた肌着だけを着用した心愛ちゃんに「5秒以内に脱げ」と命じ、その後、冷水を浴びせ「シャワーで流せよ、なんでお湯なんだ」と言うなどしたほか、リビングにうつ伏せにさせ、その上に座り、足を引っ張って身体を反らせたり、寝室に入ろうとした心愛ちゃんに「ダメだから」と言い、浴室に引っ張り込み、顔に冷水シャワーを浴びせ、ショックによる致死性不整脈または溺水により死亡させた傷害致死罪。