(写真)Avalon/時事通信フォト 第14回は、「無人コンビニと従来のコンビニの違い」です。
皆さん、「Amazon Go」「Bingo Box」という名前を最近耳にしたことはありませんか?
これらはAmazon、中山市賓哥網絡科技(中国広東省)という企業が経営している無人コンビニの名称です(現状は店内に商品補充などのための人員がいますが、無人コンビニを目指しているといえます)。
Amazon GoはAmazonの本社があるシアトル、Bingo Box は北京、上海、広州などで実店舗を見ることができます。ぜひ、皆さんも旅行や出張の際に一度、ご自身の目で未来のコンビニがどのようなものかを確認されるとよいでしょう。
モノロジックではなく、コトロジックの発想でつくられている
Amazon GoもBingo Boxもコンビニエンスストア(以後、コンビニ)という業態の中に含まれます。しかし、セブン‐イレブンやローソン、ファミリーマートなどの従来のコンビニとどこが違うのでしょうか?
Amazon GoやBingo Boxは、従来の小売業の通説(価格、品揃え、サービス、店舗内環境等の小売ミックス至上主義)に縛られない新たな発想で作られたコンビニなのです。
従来のコンビニは限られた店舗スペースにいかに売れ筋の商品を在庫切れなく、品揃えするかに力点を置いてきました。いわゆる、商品中心のモノロジックの発想です。
しかし、Amazon GoやBingo BoxはICTやAIにより、忙しい消費者の買物の負担を少しでも解消することに力点を置いています。つまり、利便性の向上というコトロジックの発想でつくられているのです。
2つある「無人コンビニが提供する付加価値」
Amazonや中山市賓哥網絡科技が、Amazon GoやBingo Boxで提供する価値は2つあります。
1つは自社にとっての「生産性の向上」(在庫最適化、店舗運営面での経費削減〈人件費、光熱費等〉、スマホ決済の導入など)です。日本もそうですが、中国でもコンビニで働くパート人材の確保は難しく、人件費も高騰しています。それを無人コンビニは解消できるのです。
もう1つはAmazon GoやBingo Boxでは、事前にスマートフォンのAmazon Goアプリ、あるいはBingo Boxアプリをダウンロードし、入店時に自身のスマートフォンで入り口にあるQRコードを読み取ると、個人認証が完了し、店内で商品を検討し、購入後、決済は、Amazonの場合、Amazon Pay、Bingo Boxの場合、AlipayやWeChat Payで済ませることができます。
無人コンビニは、サービス面における「生産効率、利便性」という点で、消費者に付加価値を提供しているのです。
「ニューリテール戦略」を進める理由と背景
中国では、アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)会長は2016年末に新たな小売成長戦略である「ニューリテール戦略」を発表しました。
「ニューリテール戦略」とは、日本でいう「チェーンに基づく個店経営」に近い概念です。本部に該当するのが、アリババやテンセントなどのプラットフォーマーで、店舗はプラットフォーマーの仕組み(チェーンオペレーションシステム)を使って、地域の商圏特性に合わせ、店頭マーケティングを実施するという概念になります。
中国ではアリババやテンセントといった2大プラットフォーマーが自社のイノベーションを推進するためにこの戦略を推進しているのは、両者ともネット事業だけではさらなる成長が見込めないことを悟ったということでしょう。
「データを保有するものが、小売りを制す」
現在、彼らはリアル小売業(百貨店、GMS、スーパーマーケット〈SM〉等)を買収や提携で取り込むことに躍起になっています。
そして、取り込んだリアル小売業に対し、自社の強みであるICT技術に基づく、ビッグデータ解析、AI、DSCM(消費者視点を持ったSCM)、One to One Marketingのノウハウを無償で提供しています。
その結果、特に地域の中小小売業(商店)はリアル大型小売業(GMS、SM、コンビニ等)に対し、販売価格面での不利、在庫リスクを一気に解消しつつあります。
ただし、その一方で彼らは地域の中小小売業に自社の決済サービスを使用することを強制し、顧客の貴重な購買履歴データを決済時に入手しています。この顧客データを基に自社グループの品揃え、商品開発(PB)、メーカーに対する購買力を強化しているのです(Bingo Boxなどもニューリテール戦略の一翼を担っています)。
これは「データを保有するものが、小売りを制す」の典型的な事例です。かつてはその雄がウォルマートでしたが、今はその存在がネット小売業のAmazonやアリババ、テンセント、日本では楽天等に代わってきているのです。
無人コンビニはまだ商圏特性に柔軟に対応できない
ただ、無人コンビニが従来のコンビニに劣っている点があります。
それは地域固有の商圏特性(イベント、食の好み等)にフレキシブルに対応できない点です。
従来のコンビニでは店舗で発注をする際、自動発注とマニュアル発注を併用しながら、店舗固有の商圏特性に対応し、販売機会ロスを防いでいます。
しかし、無人コンビニでは人が店内に介在しないか少ないため、自動発注を行います。そのため、上記のような地域イベントが発生した場合に販売機会ロスは免れません。
品揃えでも、従来のコンビニは消費者からのニーズや不満を直接聞けるため、その貴重な情報を本部に上げ、新たな商品開発のヒントを得られます。
ところが、無人コンビニではID-POSや消費者の購買動線の分析しかできないため、新商品開発等の需要創造や適切な品揃えが実は難しいのです。
従来のコンビニは「効率と効果のハイブリッドモデル」
つまり、従来のコンビニは「仕組み(効率)と店頭マーケティング(効果)のハイブリッドモデル」といえるわけです(小売業にとって、人はコストではなく、投資と見る考え方もあるのです)。
日本でもJR東日本が2017年11月に大宮駅でコンビニ(キオスク)の無人店舗実証実験を行いました。決済ツールは電子マネーのSuica。この実験の鍵を握るAI技術は、サインポスト社が手掛けており、お客が店内で商品を手に取るたびに小型カメラが商品を取ったことを識別し、AIが合計金額をレジで計算する仕組みになっていました。
アメリカや中国とは違い、日本の消費者はモノ(商品)の良さばかりではなく、サービスの良さも店舗選択の際、非常に重視します。今後、日本のコンビニも、こうした点を踏まえながら「日本人の消費、ライフスタイルに合った独自の無人コンビニの姿」を模索することでしょう。未来のコンビニから目が離せませんね。
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