YouTubeを始め、TikTok、17LIVEなど多くの動画コンテンツプラットフォームが近年急激に成長している。動画クリエイターになりたいと望む学生に加え、クリエイターをサポートするマネージャーや、動画編集の専門職に就きたいと考える学生も増えているという。動画コンテンツをめぐる様々なスキルを学ぶ場として、2021年4月、株式会社UUUMの協力を得て、専門校「バンタンクリエイターアカデミー」が開校する。本稿では、その運営責任者である、株式会社バンタン・事業開発部副本部長の沼田伸一さんへのインタビューをお届けする。
(参考:人気クリエイター元バディが語る、UUUMの「クリエイターマネジメント・サポート」論)
動画コンテンツ業界には「“わくわく”しかない」と断言する沼田氏は、動画クリエイターになるために必要なスキルを身に着けることは「様々な企業、業界で活躍できる」ことに繋がると語る。クリエイターの能力は、なぜ汎用的なものなのか。それらを身につけるためにするべきことは何なのか。また、将来を担っていく若者たちは、いまどのように変化しているか。若い世代をすぐ近くで見守る沼田氏に話を聞いた。(桂木きえ)
・「コンテンツをつくる人」を育てたい
――バンタンでは、「世界一、社会に近いスクール」として、即戦力となる人材の育成を目指されています。これからの「社会」と、そこで必要となる人材をどうとらえていますか。
沼田伸一氏(以下、沼田):インターネット広告の市場規模が昨年、2兆円を超え、テレビの市場規模を超えました。IT産業はどんどん成長していますよね。そんな中で、IT人材が圧倒的に不足していて、必要とされていくだろうと考えています。
IT人材とは、プラットフォーム=「がわ」を作る人材と、中身のコンテンツを作る人材に分かれると思っています。ITプラットフォームを作る人材を育てるスクールとして、バンタンでは2020年4月にプログラミングスクール、「バンタンテックフォードアカデミー」を開校しました。しかし、プラットフォームだけではなく、コンテンツを作る人材、自分自身がコンテンツになることができる人材を育てる必要もあります。そんな中、コンテンツ業界では”テレビ業界を目指す”という専門学校はあったけれども、次世代メディアでのコンテンツに特化したスクールはなかった。「なら我々がやっていこう」という経緯で、2021年4月に「バンタンクリエイターアカデミー」を開校することになりました。YouTubeをはじめとするコンテンツプラットフォームで活躍するクリエイターを育てることを目指しています。
――「バンタンクリエイターアカデミー」の開校に対して、学生たちからの反応はどうですか。
沼田:そもそも、かなり前から小中学生の「なりたい職業ランキング」で動画クリエイターが上位に入っていますよね。業界が伸びている中で、若い方たちも(動画コンテンツ制作に関わる仕事を)「やりたい」と思っていることがわかります。実際反応も多く、専門部・高等部あわせて募集定員100名だったのに対し、約300名の方からお問い合わせをいただきました。現在は定員を100名追加し、当初の倍の200名まで増やしています。
希望する職種としては、動画制作に関わりたい人とマネージャーなどサポートに関わりたい人が半々くらいです。とはいえ、バンタンとしては、動画制作に関わる人、マネージャーなどサポートに携わる人、どちらも「コンテンツをつくる人」と認識しています。
――「コンテンツをつくる人」になるためには、どのようなスキルが必要だと考えていますか。
沼田:動画クリエイターで、いま成功されている方の能力やスキルを分解していくと、「企画」「撮影」「編集」「動画をアップするチャンネル運営」「アップした動画をアナリティクスで分析」「分析からPDCAを回してまた企画を立てる」……など多くの能力を持っていることがわかります。これらに加えて、毎日投稿など「継続的に投稿」できていること。また、チームで活動する方も多いので「チームマネジメント」ができることも必要になってくる。さらに、自分自身が出演するため「プレゼンテーション能力」も大切です。そうした多くの能力やスキルを持ち、またそれらのマネジメント能力が高い方たちが、現在の動画コンテンツ業界で成功されているんです。
こうした総合力を持った人材は、どういった進路においてもチャンスがあります。つまり、企画を考えられる・撮影手法のわかる出演者、出演する側の気持ちがわかる編集者、企画・撮影・編集のサポートをしながら分析もできるマネージャーは、非常に大切な人材になるわけです。たとえば、芸能人のマネージャーは「番組の枠を取ってくる」「芸能人のサポートをする」という仕事がメインですが、動画クリエイターのマネージャーは「一緒に動画の企画を考える」ことも「編集をサポートする」ことも「アップ済み動画の分析をする」ことも仕事です。これまでのマネジメント業とは仕事の質が違うので、総合力が必要になってきます。
また、近年では一般企業もオウンドメディアの必要性を感じ、自社商品を宣伝するためのチャンネルを作ることも多くなってきています。お話ししたような総合的なスキル・能力を身につけていれば、そうした、一般的なメーカーなどでの就職のチャンスも広がります。
――YouTubeなど動画プラットフォームでのコンテンツづくりを通して、動画コンテンツには直接関係ない業界や企業でも活躍できるチャンスが広がるということですね。
沼田:お話ししたような総合的なスキルは、すべて「インフルエンサーマーケティング」の知識です。会社員であっても「個人の力」が求められるようになっている今、「インフルエンサーマーケティング」は広く必要とされている知識ですし、自分自身がコンテンツでその知識を使って成功していれば、関係ない業界・企業の仕事でもやりやすくなる。就職して副業をするという選択肢も生まれますし、高等部の学生たちは大学のAO入試に生かすこともできます。幅広い進路に対応できるスキルだと思います。
・総合力を身につけるための実践教育
――コンテンツづくりのための「総合的なスキル」を身に着けるためには、どのような教育をすべきなのでしょうか。
沼田:これらを身に着けるために必要なものは3つあります。まずは動画の企画、撮影、編集などに関する「専門的な知識、スキル」。またその中で、自分が何が得意なのかを知り、発信をする「セルフブランディング」です。そして、それらを活かして仕事をしたり、継続的に勉強していくために必要なのが「ネットワーク」、多くの人たちとの人脈です。
これらを教育していくために、私たちが考えているのは、長期での有償インターンシップ。そして、現役のプロの方から直接指導を受けること。また、チームを組んで他の生徒から学ぶ、ピア・ラーニングです。
インターンシップは、バンタンクリエイターアカデミーの開校に協力いただいているUUUMはもちろん、株式会社サイバーエージェントや、株式会社ホリプロデジタルエンターテインメントに受け入れてもらうことも考えています。幅広い意味でのコンテンツマネジメントを、実地でお金をもらいながら経験するという教育です。直接指導をしてもらう現役のプロの講師としては、UUUMの市川義典氏、現在チャンネル登録者数約35万人の現役YouTuber「PKA channel」のメンバーや、サイバーエージェントの藤田晋氏などが登壇予定です。バンタンクリエイターアカデミーでは18歳以上の専門部と15歳以上の高等部の生徒は分けないで授業を行いますので、ピア・ラーニングでも幅広い年齢層の生徒同士でチームを作ります。その中でお互いの強みを発見し、活かし、SNSを使って動画を出していってもらう。卒業した後もこのチームがネットワークとして続いていけばいいと思いますし、いちばんの理想は、在学中にこのチームで、自分たちのコンテンツからアドセンス収入を得られるようになることですね。
――座学というよりも、実地での実践的な教育に重きを置いているということがわかります。講師として登壇されるのは、実際に動画コンテンツづくりをされている方ばかりではないのですね。
沼田:動画の編集の仕方、企画の仕方を教えるだけではなく、伝えたいことを探して伝えること、また、伝える場所を問わずにどう伝えるか、といったことを教えたいと考えています。YouTube上でもバラエティ的なコンテンツだけではなく、ミュージックビデオやドラマで人気のコンテンツも多くなっている。また、現在はYouTubeだけではなくTikTok、17LIVEなど、特性や使い方の異なる多くのメディアが存在しますよね。現状はYouTubeが最も大きい動画メディアですが、一つのメディアに依存せずに、様々なメディアの使い分けを学んでいくことも大切だと思っています。いろいろなメディアやクリエイティブが出てきて、多様化してきているからこそ、生徒たちには多くのクリエイティブの形を学び、その中で何がやりたいかを考えてほしいのです。
登壇予定の様々な分野の講師の方々は、メディアに携わる方としていろいろなコンテンツをご存じです。そうしたコンテンツの多様な形を知るだけでも生徒たちにとっては勉強になると思います。また、コンテンツをつくる方としても、皆さん何かしら「バズらせる工夫」を持っているはずです。その考え方を教えてあげてほしいと思っています。
・若い世代の変化と希望
――主に10代に向けた専門校を運営されている立場として、動画コンテンツやメディアに対する若い世代の変化をどう感じられていますか。
沼田:若い世代で、既に世界で活躍している方はたくさんいますよね。例えば、クライミングやスノーボードといったスポーツの選手など。バンタンでもスケートボードの専門コースを開講していますが、生徒たちは、YouTubeで海外のトップ選手のプレーを見て、勝手にどんどん学んでいっています。レべルが上がるスピードが速い。これは、インターネットで、海外のものも含めていろいろなコンテンツが観られるようになったからこそ可能になった現象だと思います。
動画コンテンツづくりでも同じことが起きていますよね。TikTokを観ていても自然に海外の投稿がレコメンドされてくる。そうした中で、「指ハート」(韓国で写真を撮るときの定番だったポーズ)など新しいエンタメが自然に輸入されるようになっている。
我々の世代の考え方が古くなっているのも感じます。たとえば、eスポーツ。我々の親の世代からしたら、ゲームは「オタクがするもの」だという感覚があると思いますが、若い方たちにとってはそうではない。HIKAKINさんがあれだけ面白いゲーム実況をするなかで、ゲームやゲーム実況は海外のものも含めて、ただの一つのバラエティ番組のようなコンテンツでしかないわけです。海外のコンテンツを当たり前のように浴びている若者たちにとっては、ドメスティック・グローバルという境界線を引く考え方自体が古くなっている気がします。
また、簡単にアプリで動画編集をしてインターネットにアップすることができる今、若者たちは、イラストを描く感覚で動画を編集しています。この素養が子どもの時から備わっているということ自体に、時代が変わる希望を感じますね。
――そんな新しい感覚を持っている若者たちに、さらに目指してほしい場所はありますか。
沼田:インターネット市場が伸び、動画コンテンツの業界では競争が厳しくなっていると言いますが、それは国内の市場の話ですよね。海外のコンテンツが自然に輸入され、日本からも海外に向けて発信できる時代です。若い方たちも自然に海外トレンドを取り入れることができるようになっています。せっかくなら、世界のトップチャンネルを目指して、夢を大きく持ってほしいです。
また、趣味で動画制作をしている方たちは、今は親御さんに「なんの役に立つの」と言われたりすることもあると思います。動画を編集して、いいねがいくつついたかを振り返って、それを分析するという考え方、それらを実行するということは、将来役に立つインフルエンサーマーケティングのスキルに繋がります。ぜひ自信をもって続けていってほしいですね。そういう若者たちに社会との接点を提供して繋げてあげるのが、私たち大人の役割だと思っています。
(桂木きえ)
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