cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_c3d2cb8fcc35_日本人は知らない大坂なおみの3つの側面「日本国籍はむしろプラス」「起業・投資に興味津々」 c3d2cb8fcc35

日本人は知らない大坂なおみの3つの側面「日本国籍はむしろプラス」「起業・投資に興味津々」

2019年10月31日 11:00 文春オンライン

「日本人とアメリカ人どちらだと思っていますか?」「このあともカツ丼を食べますか?」「もうちょっと笑える?」 記者たちの質問がつくりだす喧騒をものともせず、彼女はラケットを振り続ける。最後には人差し指を口に近づけて、静かにするよう指示する。

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 そしてキャッチコピーの登場。「世界を変える。自分を変えずに。」。年間1,000万ドル契約と噂されるNikeキャンペーンは、国際社会における大坂なおみのイメージを見事に捉えた映像だ。

賞賛を呼んだライバルへの返信

「大坂なおみの自信と謙虚さの絶妙なるバランスは、多くの大人には決して真似できない代物だ」(Vogue)

 大坂なおみはアメリカでも非常に人気のあるテニス選手だ。知名度が上昇したきっかけは、もちろん2018年全米オープン決勝戦。対戦相手セリーナ・ウィリアムズと審判のあいだで激しい口論が起きたためブーイングに包まれるグランドスラム初優勝となったが、そこで冷静さと礼節をもって対処した姿にも注目が集まったのだ。

 ウィリアムズの謝罪メールへの哲学的な返信も賞賛を呼ぶ(ウィリアムズの審判への抗議について、「人々は強さを怒りと誤解することがある。2つの区別がつけられないから」と返信し、慰めていた)。こうして瞬く間に尊敬を集めた大坂は、アメリカの人気TV番組や一流雑誌からひっぱりだこな新星スターとなった。同試合で使用したラケットは1.5倍も全米売上をのばしたそうだ。

日本人の知らない側面1:静かで謙虚なスーパースター

「ネクスト・セリーナ」と見立てるメディアもあったが、両者は正反対のキャラクターと言えるだろう。北米において、黒人女性差別問題にも果敢に取り組むウィリアムズは偉人然としたスーパースターだ。

 一方、大坂なおみは、静かで謙虚な人物として受け止められている。TIME誌が「謝りすぎるほど謝る」と書いたこともあったし、英Telegraphに至っては「風変わりな新種スター──学園映画で例えるなら、食堂の端っこに1人で座っているオタク生徒、だが我が道を行くために独特の敬意を払われている」と評している。

 同時に今どきの若者らしい親しみやすさもはずせない魅力だ。グランドスラム優勝後もゲームやジョークを楽しむその姿は、ソーシャルメディアで若者を中心とするファン層を形成している。

「正直で礼儀正しく謙遜的な大坂なおみほど、グローバルで多文化な未来を象徴するテニス・チャンピオンはいません」(クリス・エバート、TIME100への寄稿文)

日本人の知らない側面2:多様なルーツにマーケターが大喜び

 2019年10月には日本国籍を選択したが、そのことがアメリカでネガティブに働く可能性は低いだろう。日本を含める多様なルーツこそ、人気の要因になっているからだ。ハイチのルーツを持ち大阪で生まれ幼少期より米国で育った大坂なおみの多文化的な側面は、主要メディアにおいて「次世代の象徴」として賞賛されることが多い。

 欧米メディアが大坂なおみを評す際のもう一つの決まり文句は「マーケターが大喜びする存在」といったもの。多様なルーツを持つ大坂は、日米ハイチのみならずさまざまな地域で支持を獲得できるポテンシャルがある。マーケティング業界からすれば「さまざまな地域で収益を見込めるスター」となるわけだ。

 事実、彼女をグローバル・ブランドアンバサダーに起用したMastercardは、契約に際して「日本のみならず世界中の若き人々にインスピレーションを授ける選手」と讃えている。大坂本人は、ルーツについて問われても「私は私」と返しているのだが、その姿勢も、複雑なアイデンティティを生きる若者やマイノリティ層からリスペクトを得る要因だろう。

「私のような人が頂点に立つのは見たことがない」

 スポーツ界で絶大な影響力を誇るNikeがadidasと激しい競争を経て巨額契約したことも働いて、早速2019年度SportsPro Media『もっともマーケタブルなアスリート』第1位に選出されており、経済誌Forbes『世界で最も稼ぐ女子スポーツ選手ランキング』ではウィリアムズに次ぐ第2位をマークしている。スポンサーシップ契約も華やかだ。P&Gや資生堂、セイコーといった大企業のほかに、国際展開を狙う新興ブランドともディールを結んでいる。

 前出の、静かで謙虚なイメージも広範囲な人気とマーケティングの鍵になっている。とくに北米において、スター・アスリートは、話し上手で派手な人柄が多い。そのなかで「あまり話すことに長けてない」と自己申告する大坂はまさしく特異であり、本人ですら「私のような人が頂点に立つのは見たことがない」と認めるほどである。

 SportsPro Mediaに取材されたマーケターは、大坂の内気さがブランドに落ち着いた印象を与えるメリットを指摘している。消費者に親近感を与えるイメージも重要だ。ソーシャルメディアが影響力を高める昨今、若年層は完璧なスターではなく、彼女のような共感できる存在を求める傾向にある。

日本人の知らない側面3:起業・投資分野に興味津々

 日本であまり知られていない大坂のイメージとして「意欲的なビジネス・パーソン」であることが挙げられるかもしれない。アメリカのスポーツ界では、ベテランになってから起業・投資分野に本格参入する選手が多いのだが、22歳の大坂は経済誌Forbesにてキャリアの早くから事業を行う決意を表明している。

 インタビュー中、お抱えのチームに自身の興味や性格と合致するブランドを探すことを依頼したと明かした大坂は、スポーツ飲料を手掛ける「ボディーアーマー」、フィットネス機具を手掛ける「ハイパーアイス」、電子機器を手掛ける「ミュージック」のベンチャー企業3社とパートナーシップを結んだだけではなく、3社の株式も受け取っているという。 「テニスコートの内外で世界的な影響を与えたい」と言ってミュージック社のスマート・ヘッドフォン製作にも携わってしまったというのだから驚きだ。

 男性選手よりも報酬が低い傾向にある女性アスリートだが、昨今はソーシャルメディアを駆使してさまざまな高報酬ビジネスが行える環境ができあがりつつある。ビジネス面でも、大坂なおみは新時代の象徴と言えるだろう。

 アスリートの商業的キャリアは、結局のところ、本業での勝利に支えられる。大坂が出場する次なるグランドスラム、そして2020年東京オリンピックは、世界中から注目を浴びる大舞台になるだろう。

 もちろん、本人は外部の風評など関係なしに未来を見据えているはずだ。「私にできるのは前に進んでベストを尽くしつづけることだけ」と語る大坂に、テニス界の女王クリス・エバートが最大級の賛辞を送っている。「なおみはうしろを振り向かない。それこそチャンピオンの証ね」。

(辰巳JUNK)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_aaf59898c0e5_日本将棋連盟・佐藤康光会長が語る「札幌に全国5番目の研修会設立」の理由 aaf59898c0e5

日本将棋連盟・佐藤康光会長が語る「札幌に全国5番目の研修会設立」の理由

2020年1月26日 11:00 文春オンライン

「もともと他の人が言っていた手を指すのは好きではないタイプです。将棋ソフトが見つけた手はなおさら指す気になりません」

 インタビューで、きっぱり言い切ったのは佐藤康光氏。タイトル通算13期、順位戦A級通算23期、竜王戦1組26期。50歳となった今もA級で戦い続けるトップ棋士である。

 AI全盛の将棋界。近年、戦法や戦型の流行のペースが速いのも、AIの普及と決して無縁ではない。棋士は勝負師、研究者、芸術家の3つの顔を持つと言われるが、佐藤氏の強いこだわりに棋士の一分と言ってもいい誇りを感じる。

 ちなみに佐藤氏が色紙にしばしば揮毫する言葉は「天衣無縫」。その意味は辞書によると、天人の衣服には人工の縫い目などがない意から、詩歌などに技巧をこらしたあとがなく、いかにも自然で完美であるさまの形容、とある。

設立されれば札幌は5番目となる

 ところで佐藤氏には現在、もう1つの顔がある。日本将棋連盟の会長だ。その将棋連盟が北の大地・北海道で、かねてからの悲願を叶えようと動いている。

 東京以北で初となる研修会の設立である。奨励会がプロ棋士の登竜門として存在する一方、研修会は機能が若干異なる。

 同じように実力でクラス分けされるのは奨励会と同じ。一定ランク以上になると奨励会への編入や女流棋士デビューへの道が開かれるが、必ずしも奨励会の下部組織ではない。

「将棋を通じた、お子さんの精神修養や健全育成の貢献を目指しています」(佐藤氏)

 研修会は将棋のすそ野拡大も狙いとなっている。東京、大阪以外では名古屋、福岡にすでにあり、設立されれば札幌は5番目となる。

「研修会の設立を機に、さらに将棋への関心が広がればありがたいですね。今年10月のスタートを予定しているところです」(佐藤氏)

 1月15日発売の「財界さっぽろ」2月号では、「札幌に研修会、北海道の将棋界を盛り上げる」と題し、来札した佐藤氏のインタビューを掲載。昨今の将棋ブームの背景、プロ棋士YouTubeチャンネル、SNSなどについても話を聞いた。

「財界さっぽろ」2月号は、北海道内の書店、コンビニとAmazonで好評発売中。財界さっぽろホームページ(https://www.zaikaisapporo.co.jp/bookshelf/digital/)から、パソコンやスマホで読めるデジタル版も購入できる。

(「財界さっぽろ」編集部)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_6cae0f337a6f_“超多忙”将棋連盟会長・佐藤康光九段が「それでもファンとの指導対局に時間を割く理由」 6cae0f337a6f

“超多忙”将棋連盟会長・佐藤康光九段が「それでもファンとの指導対局に時間を割く理由」

2020年1月26日 11:00 文春オンライン

 佐藤康光九段が日本将棋連盟会長に就任してから、2月で3年になる。会長職とプレイヤーを両立するのは難しく、研究会の時間を減らしているそうだ。竜王戦で1組、順位戦でA級の最高クラスをキープし、各棋戦での本戦進出。第一線で戦えているのは、佐藤九段の地力と独自路線の戦法で戦うスタイルがあってのことだろう。

 多忙な日々を送っているが、意外なことに佐藤九段はアマチュアとのイベントにも積極的に顔を出している。指し初め式の前日、佐藤九段の指導対局を取材した。

◆◆◆

「将棋&囲碁&麻雀」を同時に行う芸

 東京・西荻窪の「囲碁・将棋スペース 棋樂」。1月5日、佐藤康光九段は先崎学九段、貞升南女流初段と指導対局を行った。

「囲碁・将棋スペース 棋樂」は、将棋棋士の先崎学九段、囲碁棋士の穂坂繭三段の夫妻が運営している。棋士との距離が近いアットホームな雰囲気で、レッスンだけでなく、ゲストを呼んで様々なイベントを行うのが特徴だ。指導対局やサイン会、棋士同士の対局、トークショーとバラエティに富んでいる。先崎九段が将棋、囲碁、麻雀を同時に行う芸を披露したこともあった。

黒沢くんとの20秒将棋麻雀に囲碁も私と打つという、、あり得ない3面打ち❗️そのうち村中七段のyou tubeチャンネルで詳しくご覧頂けます😊 pic.twitter.com/DEnT3uWD6H

— 囲碁将棋スペース・棋樂 (@gmf1tn) December 16, 2019「同時にやるのは将棋×麻雀、将棋×将棋、将棋×囲碁もやったことがありますが、将棋だけのときがいちばんきついですね。いい手を指そうと考えてしまうから、頭を使うんですよ」(先崎九段)

将棋×麻雀、将棋×将棋、将棋×囲碁の10秒対決💦🔥将棋×将棋が一番キツかった😂先崎 pic.twitter.com/UFV3fDm9yo

— 囲碁将棋スペース・棋樂 (@gmf1tn) November 27, 2019佐々木大地君と一手10秒の2面指し
気楽に始めたものの途中からお互い負けられないと恐ろしくムキになり1勝1敗😅先崎 pic.twitter.com/tpZVfcMh7Q

— 囲碁将棋スペース・棋樂 (@gmf1tn) November 23, 201910秒・将棋麻雀、黒沢くんと楽しいひととき☺️(先崎) pic.twitter.com/huwdb2Igli

— 囲碁将棋スペース・棋樂 (@gmf1tn) November 13, 2019 先崎九段が一味違うイベントをやるようになったのは、谷口由紀女流三段がきっかけだった。

「彼女と『おゆきとワイワイ』という酒を飲みながら話すイベントをやったら、面白かったんですよ。十数坪だからこそ盛り上がる、お客さんとの一体感があったんです。それから色々と考えるようになり、『聞き手はつらいよ』という女流棋士の聞き手をテーマにトークショーをやってみたら、すぐに席が埋まりました。参加できなくても、SNSでタイトルを見るだけで笑ってほしいんですよね。プロがアマチュアに楽しみ方を押し付けてもいけない。そこは長年の経験で、空間をデザインする感じです」(先崎九段)

 当日のイベントは『会長と指し初め』。指導対局、ゲーム大会、サイン会のプログラムで、午前と午後で2回行われた。

「お正月だから、今日は色々と盛り込みました。棋士の基本は盤を挟むことです。この空間は狭いですから、近くでプロの本気を見て欲しいと思っています」(先崎九段)


 記者が訪れたのは午後の部の中盤で、指導対局の真っ最中だった。すべてが「駒落ち」と呼ばれるハンデ戦で、プロの駒を少なくし、戦力をダウンさせて指す。アマチュア初段なら、プロ棋士が飛車と角を落とす「二枚落ち」が妥当だろう。

「まずほめてあげなさいよ、もう理屈っぽいんだから」

 指導対局は棋士ひとりで同時に複数のアマチュアを相手にすることが多いが、今回の「ぐるぐる将棋」は複数の棋士がぐるぐると会場を歩き回り、目についたところからどんどん指し継いでいくスタイルだ。参加者は8人で、老若男女の将棋ファンは真剣な面持ち。「うーん」とため息が漏れ、顔を真っ赤にして考える。緊張をほぐすためか、先崎九段が「いや、今年見たなかでいちばんよい手だねぇ。今日しか将棋盤を見ていないけど(笑)」と話しかけていた。

 指導対局といっても、スパルタで教えられることはない。佐藤九段は飛車取りをうっかりしたファンに優しく指摘し、貞升女流初段は好調な指し回しを続けるアマチュアに「いやー、どうすればいいか分からないですね」とにこやかに笑っていた。

 同世代の佐藤九段と先崎九段の軽妙なやり取りも面白い。勝利を収めた女性が「木村(一基)王位には勝たせてもらえないんです」とぼやけば、「参考にならない受けをされそう(笑)」とひと言。また、ある男性が詰みを熟考のすえに発見した。投了した佐藤九段が「こうすれば勝ちが速かったですね」と感想戦を始めようとすると、先崎九段が「まずほめてあげなさいよ、その詰みを見つけたことに。もう、理屈っぽいんだから」と厳しく突っ込む。佐藤九段も思わず苦笑していた。

研究会を減らしているのに、指導対局をするのはなぜ?

 指導対局の終了後、佐藤康光九段に話を聞いた。

――年末年始はどのように過ごされましたか。

佐藤 28日が将棋連盟の仕事納めで、それからゆっくりしました。いままでは1月2日に研究会で指し初めをしていたので、年が変わってものんびり過ごすイメージがあまりなかったんです。でも今年は三十何年ぶりかにやらず、休養させていただきました。

――昨日は群馬県高崎市の「上州将棋まつり」に出演されました。

佐藤 森内(俊之九段)さんとの席上対局は完敗でしたね。指導対局は3面指しを1回で、羽生(善治九段)さんと森内さんもやっていました。
先崎さんの会場は初めてで、10人ぐらいの規模で指導対局をやるのは珍しいです。「会長と指し初め」なので、初手と投了は私の役目でした(笑)。

――先崎九段は将棋、囲碁、麻雀の3面指しを披露したこともあるそうですよ。

佐藤 彼にとっては仕事みたいなものでしょう(笑)。

――2月で会長職4年目を迎えます。多忙で研究会を減らしているにもかかわらず、指導対局に時間を割かれるのはなぜでしょうか。

佐藤 休みの日になるべく受けるようにしています。ファンの方の声を聴くことが大事だと思っているからで、ヒントを得ることも多いです。今日来たのは、先崎さんも頑張っているので、協力できるところは協力したいですから。

初心者は王手に気づくだけでも、強くなっている

――指導対局で心がけていることはありますか。

佐藤 まずはファンの方に実力を出し切ってもらいたいですね。トッププロは相手の力を発揮させない技術に長けていますが(笑)、それを見せてはいけないと思います。

――初心者が指導対局にデビューする目安を教えてください。

佐藤 駒の動かし方や反則など、ルールを覚えていただければ、プロがしっかり教えます。あとは、王手の意味が分かることですかね。王手に気づくだけでも、かなり強くなっているんですよ。飛車と角で遠くから王手されると、うっかりしやすいですから。

「負けました」と言うのはやっぱり大変です

――プロの対局を観るのが好きな「観る将」ファンに聞いた話です。スマホで初心者用のコンピュータ相手に将棋をやると、王手をかけられたら教えてくれたり、駒の利きを表示する機能があるので指しやすいそうです。指導対局はそれがなくなるから、将棋をルール通りに指すだけでもハードルが高いといっていました。

佐藤 子ども大会を見ていても、王手放置と二歩の反則がけっこうありますからね。特に初級者の部だと、5局に1局はそれで勝負がつくイメージで、実際に詰まずに終わることもままあります。1手詰みが分かるのもかなりの実力なんですよ。アマ有段者でも実戦で3手詰めに気が付かないケースもありますし、羽生さんでも一手頓死したことがあるぐらいですから(笑)。

 将棋はルールを覚えてから、7~8級までは難しい気がしますね。どうしても負けが込みますし、将棋は「負けました」といわないといけないゲームです。それが自分を律する意味では長所なんですけど、やはりいうのは大変ですし。

 自分なりの楽しみ方で続けて、強くなるきっかけをつかめれば、あとは自然と上達していくと思うんですよ。プロの将棋を見ているとイメージは自分なりに湧くと思うので、それにヒントを得られればいいかなと思うんですけど。

――最後に、今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催され、佐藤九段は京都で聖火ランナーを務めます。

佐藤 最初で最後の経験で、しっかり準備して臨みたいですね。実はこの前、先輩棋士とその話をしていた時に「練習したほうがいい」とアドバイスを受けました。のんびり構えていたんですけど、試しに走ってみたらすぐに息が上がってしまったんです。もう年なんですね(笑)。普段、私は走ることがあまりないので、練習しないといけません。

◆◆◆

 最後はゲーム大会とサイン会が行われた。催し物のひとつが「黒ひげ危機一髪」。若手のとき、棋士同士で遊んだゲームだ。佐藤九段と参加者が交互に剣を樽に刺していく。午前中は全勝だった佐藤九段、残念ながら午後の部は負けが込み、黒ひげがポーンと跳ぶたびに体をビクッとさせて驚いていた。

 数字当てゲームのあとは、先崎九段から10の質問。最後の「今年の将棋界は明るい?」に、佐藤九段は堂々と○を挙げた。

(小島 渉)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_a76d4cc6791a_「なぜ初対面のおじさんについていったの?」誰かに受け止められたかったゲイ男子・七崎良輔さんの心境 a76d4cc6791a

「なぜ初対面のおじさんについていったの?」誰かに受け止められたかったゲイ男子・七崎良輔さんの心境

2020年1月26日 11:00 文春オンライン

 ゲイ風俗やゲイバーで働いた経験を赤裸々に発信し、ツイッターのフォロワー数53万人超えのもちぎさんが、幼少期や10代の頃のことを綴ったエッセイ『あたいと他の愛』を上梓。同性パートナーと出会うまでの半生を綴ったエッセイ『僕が夫に出会うまで』の著者で、江戸川区を中心にLGBTQの啓発や同性婚実現に向けた活動をしている七崎良輔さんとの対談が実現しました。

【画像】悩む七崎さん

 もちぎさんと七崎さんの意外な共通点、七崎さんがぶつけられてモヤモヤした言葉、もちぎさんの一人称「あたい」に隠された深~い理由……様々な話題が飛び出した、ユーモラスな2人のトークをお楽しみください。(全2回の1回目/後編を読む)



七崎『あたいと他の愛』、とっても楽しく読みました。まったく違う人生を歩んでいながら、似ている部分もあって……自分の過去のことも振り返ることができて、いい経験になりました。

もちぎ 自分も、『僕が夫に出会うまで』めちゃくちゃおもしろく読みました。やっぱり、印象に残っているのは自分の経験と重なっているような部分です。たとえば、七崎さんの高校時代のお話で、大柄な友人の「あず」ちゃんが登場するかと思うんですが、僕も高校時代の親友が、大柄な女の子だったんですよ。

七崎 腐女子のカナコちゃんですよね。

もちぎ そうそう。枠から外れた者同士、でもないけど、同じような仲間が集まるときって集まるんだな、って思い出しました。

七崎 逆に、私とまったく違う経験をされているなと思ったのは、もちぎさんと、初恋の相手でもある中学校の先生とのエピソード。私は理解のない先生たちに出会うことが続いてしまったから、大人や社会に対する反骨精神ばかり育っちゃったんです。25歳くらいまで、先生という人種がすごく苦手だった。

もちぎ 七崎さんが小学校の人気者の先生に「ぶりっ子してるから、いじめられるんじゃない?」と説教されるエピソードはすごい衝撃でした。自分、キャラクターとしてのもちぎの一人称は「あたい」だし、ブリブリな感じでホゲてるんですけど(*1)、これまでずっと、いわゆる“男の子らしい”男の子だったんですよ。

*1 ホゲる……男性による、いわゆる“女性らしい”言動のこと。

七崎 そうなんですね。2丁目で働いているときは、ホゲてるんですか?

もちぎ ゲイ風俗のときはまったくホゲてなくて、ゲイバーではちょいホゲくらい。でも、普段はすーん、男の子です、って感じ。「ゲイだってバレたらどうしよう」って葛藤もなかったので、幼い頃から「自分は周囲と違う」って感じていた七崎さん、とてもつらかっただろうなと思います。

「スーツを着たゲイ」を見て発信しようと決めた

七崎 もちぎさんが、発信を始めたのって『おっさんずラブ』がきっかけと聞きました。

もちぎ そうなんです。2018年の10月からSNSでの発信を始めたんですけど、テレビでパートナーシップ制度について報じられたり、『おっさんずラブ』で女装していない、化粧もしていない、スーツを着たゲイがマスメディアに登場したタイミングでした。

七崎 スーツ、というのが一つポイントなんですね。

もちぎ スーツが好きだからってのもあるんですけど(照)。年上や権威を象徴しているのが好きというか……。

七崎 私もスーツの人、好き。でも、自分は制服を着ていたいというか。そういうプレイはたまに彼とします。

もちぎ なるほど。オフレコですね、これは(笑)。

 今までマスメディアで見るゲイって、何か突出した人だったと思うんです。女装家であったり、奔放だったり、センスが良かったり。でも、『おっさんずラブ』は普通のサラリーマンが題材だった。『きのう何食べた?』に至っては、主人公たちがゲイである特別な理由はない、もはや確率みたいな話になってきたな、って思ったんです。

七崎 いい意味での驚きがありましたよね。

もちぎ 当時はびっくりしました。それを見て、もっと身近なゲイの話をしたい、自分たちが見てきた話をしたいと思ったのがきっかけです。

七崎 それで、実際経験された、ゲイ風俗の話をされるように。

もちぎ はい。ゲイやレズビアンといえば、真実の愛をつかんでいて、権利を求めてがんばっている人ばかり、というのもちょっと違うなと思って。LGBTQの中でも、いいやつも、悪いやつもいるし。

 ゲイ風俗も、「風俗に勤めているからには何か特別な事情があるんだろう」って思われがちですけど、実際は同年代のゲイのコミュニティがそこしかなかったから勤めている子もいたし、おじさんにちやほやされた経験を捨てられずに、就職したのに辞めて戻ってきた子もいたし。そういうリアルな事情や、誰でも持っている弱さも発信していきたいなって。

「ちやほやされたい」という気持ちはわかるかも

七崎 ちやほやされたいって気持ちは、わかるかもしれないです。私も、カミングアウトするまでは自分の周りに壁を作って、男らしくしなきゃと思いながら生活してたから、ありのままの自分を受け止めてくれる人がいるってことがすごく嬉しかったんですよ。それが、たとえ身体だけの関係であったとしても。もちぎさんはサポ(*2)の経験があると本で書かれていましたが、実は私もサポの経験があって。

*2 サポ……援助交際のこと。

もちぎ おお、そうだったんですね。

七崎 でも、振り返ってみると、お金に困ってたからやった、というよりは、ゲイの自分を喜んでくれる人がいるっていうのを実感したかったんだと思います。紆余曲折があって結局働かなかったけど、ゲイ風俗の面接も受けたことがありました。だから、もちぎさんの話には、なんというか、巡り合わせを感じます。ちなみに、サポっていくらくらいでした?

もちぎ 男同士入れるようなラブホもない田舎で、毎回スーパー銭湯の無料開放してる駐車場の中で、という感じで……だから、相場も分からず、4000円くらいで買い叩かれてました。

七崎 今思えば、私も買い叩かれてたな。私は銀座からちょっと行ったところに細い家を持ってる人の自宅に行ってサポ受けたけど、5000円でした。大人になってから、どれだけ危ないことしてたかやっと気づいた。

もちぎ ツイッターでもつぶやいているんですけど、お店に在籍していれば、手取りは減るかもしれないけど買い叩かれはしないし、性教育もしっかり受けられる。今は、サポしている子を見つけたらお店に誘うようにしてます。本当に危ないですから。

 七崎さんの場合、初体験が掲示板で出会った初対面のおじさんだったって本で書いていましたよね。苦いご経験だったみたいですが、それは大丈夫だったんですか。

七崎 当時はね、利用されたって感覚は全然なかったんですよ。ゲイの人って地球上に数えるほどしかいないんじゃないかと思ってたから、ようやく会えたのがすごく嬉しくて。焼き鳥買ってくれて、エッチもしてくれて、訳も分からずビデオ撮影されちゃったけど、でも「やったーありがとう」って感じ。

もちぎ 純粋だ……。

「なぜ初対面のおじさんの家に」と聞かれて

七崎 本を書いているときに「そもそも、なんで初めて会ったおじさんの家に行っちゃったの?」って編集者に指摘されて、ようやく「あれ、私、ズレてたんだ」って気づいたの。でも、誘われるがままついて行ってしまったのは、当時、ゲイの話をするのに、都会のカフェじゃ人目が気になるって思っちゃったからだったんですよ。

もちぎ なるほど、隠れなきゃいけないような気持ちになってしまったんですね。そうやって、社会の目を気にしなければならないから被害が闇に隠れてしまう、さらに被害に遭う機会が生まれてしまう……ゲイの世界ですごくよくあることだと思います。

 今ってSNSがあるから、昔よりマイノリティの姿が可視化されているし、マイノリティ同士でつながりやすくなった。自分たちの世代からすると隔世の感があるけど、かといって若いゲイがその分生きやすくなっているかというと、疑問な部分はあります。

七崎 私たちなんて、iモードとかEzwebの世代だもんね。今は、格差じゃないけど、自分のセクシャリティを早くから受け入れて楽しい生活をしている子もいれば、傷ついている子たちもまだまだいる感じがします。

(続き「『マイノリティは人生懸けて声をあげろ』はおかしい ゲイ作家・もちぎさんが覆面を貫く理由」を読む)

写真=平松市聖/文藝春秋

 

「マイノリティは人生懸けて声をあげろ」はおかしい ゲイ作家・もちぎさんが覆面を貫く理由 へ続く

(「文春オンライン」編集部)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_b22d1d9649bc_『私の知らないわたしの素顔』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪 b22d1d9649bc

『私の知らないわたしの素顔』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

2020年1月26日 11:00 文春オンライン

 四十代も九年目で、板についてきた。だから普段は年相応に暮らしているけれど、ときどき急に、二十代ぐらいの気持ちに巻き戻ってしまうときがある。可愛い服をみつけてワクワクしたときとか。あと、最近だと、昔の少年隊をYouTubeで観て「ニッキのダンススキルすっげー! 推せる~~~!」って急に思ったんですよね……。

 ただ、そういうのは白昼夢みたいなもので、ほんの数分で我に返る。

 でも……? もし戻ってこられなくなったら? どうなっちゃうんだろう?

 そうだな。洋服は、本当に着たかったら人目を気にせず着ていいんじゃないか。アイドルも自由に応援していいはず。服は“一人”の、アイドルは“一方向”の愛で、誰のことも困らせる心配はないわけで。つまり、もし戻れなくなっても、それはそれで楽しい日々になりそうだ。

 でも。じゃあ……。“双方向”の場合は……?

 さて、この作品は、パリで暮らす五十代の女性を主人公にした、醒めない白昼夢のサスペンス映画なのだ。

 クレールは大学で文学を教える才媛。ある日、SNSで二十代のふりをして、若い男アレックスと親しくなる。嘘によって作りあげられた架空の女性は、純粋なアレックスを振り回すが、若い彼の行動力によって、クレールもまた追い詰められる。危険なラブストーリーは予想外の方向に二転三転して!?

 名優ビノシュの抑えた演技によって、“双方向”の白昼夢に、観客のわたしも巻きこまれていった。冷静さを保っていたはずの彼女が、生身の相手からのレスポンスに翻弄され、バランスを崩す姿の凄絶さ! あぁ、人間って、人間からの刺激によって何をするかわからない、恐い生き物だったんだなぁと痛感しました。

 古き良きフレンチ・ノワールの器に現代的なツールを載せた、手練れの作品。じくじくと楽しめます。

INFORMATION

『私の知らないわたしの素顔』
Bunkamuraル・シネマほかで上映中
http://watashinosugao.com/

(桜庭 一樹/週刊文春 2020年1月30日号)

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石田衣良さんも「びっくり」 「池袋ウエストゲートパーク」がアニメに

2020年1月26日 06:00 文春オンライン

 石田衣良さんの人気小説シリーズ「池袋ウエストゲートパーク」(IWGP)が今年TVアニメとなる。

 原作はトラブルシューターのマコトがストリートギャングのGボーイズと池袋で起こる様々な事件を解決するミステリー。実際の社会問題をタイムリーに取り上げるリアルさが人気を集め、シリーズは外伝をふくむ17作に。今でも年に一冊のペースで新作単行本が刊行されている。

「常に今の時代や社会って何だろうと考えながら書いています。すると面白いネタが引っかかる。IWGPは何を入れても読み物として出来上がる器なので安心して書けます」

 監督・堤幸彦、脚本・宮藤官九郎、主演・長瀬智也という布陣で制作された2000年放送のドラマは伝説として今でも語られ、2017年には舞台にもなっている。

「ドラマに舞台、あと何があるのかなと思っていたときにアニメの話が来てびっくりしました。日本のアニメは本当にレベルが高くてクリエイティブな才能が集まっていると思うので、IWGPのアニメには期待してます」

 アニメ化に際して「数々の傑作アニメを観てきた」とコメントを寄せた石田さん。

「覚えている一番古いアニメは『エイトマン』とか。そこからジブリ、『エヴァ』、『まどマギ』まで、名作とされるアニメはほとんど見ています」

 今夏には文春文庫より傑作選が刊行予定。読者による好きなエピソードと登場人物の人気投票も実施中だ。

「僕が好きなのは「水のなかの目」(『少年計数機』収録)みたいなダークな雰囲気のタイプ。あとは「ワルツ・フォー・ベビー」(『電子の星』収録)のような泣かせ回。最近は「七つの試練」(『七つの試練』収録)のようにネットの恐怖を書くのも好きです。アニメ化をきっかけに、たくさんの人に小説を読む楽しみを思い出してもらえたら嬉しいです」

いしだいら/1960年東京都生まれ。97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞受賞。2003年『4TEEN』で直木賞。

INFORMATION

TVアニメ『池袋ウエストゲートパーク』
アニメ情報は 公式Twitter @iwgp_anime
人気投票は IWGP公式ページ http://www.bunshun.co.jp/pick-up/iwgp/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年1月16日号)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_1fac4b7b5981_福島第一原発の現在地 現場の30代技術者が語る“廃炉の最前線”「燃料取り出しは、遠い未来じゃない」 1fac4b7b5981

福島第一原発の現在地 現場の30代技術者が語る“廃炉の最前線”「燃料取り出しは、遠い未来じゃない」

2020年1月26日 06:00 文春オンライン

 2019年10月現在、1日3000人から4000人が作業員として働く福島第一原子力発電所。構内の入り口近くにある入退域管理施設から眺めてみると、4つ並んだ原子力発電所はそれぞれ佇まいが違っているのがわかる。

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 1号機は天板もなく、四方の鉄骨だけがむき出しになっており、2号機は上部に「燃料取り出し用構台」というプレハブ小屋のようなものが設置されている。3号機には天板の上に円筒状のドーム屋根が作られ、4号機には真横から建屋を支えるような鉄骨構造物が建てられている。

防護服が必要ないエリアは96%に

 だが、震災の頃の風景と比べてなにより違うのは、構内を歩く作業員の姿だろう。原発建屋の近くでも防護服を来ている人はおらず、一般の作業服姿で作業に従事している。

「一部のエリアではカバーオール(防護服)が必要ですが、いまは構内の96%のエリアが一般の作業服で作業ができるようになりました」

 東京電力の担当者がそう解説する。

 敷地内の建屋に近いエリアを見ると、地面の至るところがコンクリートのようなもので覆われている。放射性物質の飛散を防ぐため、地面を広く遮蔽していたのだ。

 そこまで環境整備が進んだことで、廃炉の作業も進みやすくなっている。

「今後の廃炉の作業工程で、一番の課題は燃料デブリ(破片)の取り出し。これをどのように進めるかは技術的にも難しいところになると思います」

700グラムの燃料デブリを持ち上げた

 その第一歩となる作業が、2019年2月に行われた。

 2号機の格納容器に穴を空け、ロボットアームのような機械を炉内に送り込み、床面に堆積する燃料デブリをいくつか持ち上げる。その調査に成功したのである。

 持ち上げた燃料デブリは最大で約700グラム。わずかなものだが、実際に持ち上げたスタッフたちにとっては、それ以上の重さを感じる実験だった。

 行っていたのは、2号機の開発元である東芝のチームだった。

「非常用電源が使えなくなるとは想像もしていませんでした」

「固まっているデブリをどう切り出すのか、取り出したデブリをどう安全に処理するか、という課題はあります。それでもデブリをつかんだ。次はそれを持ち出すこと。それは遠い未来じゃないと思います」

 そう語ったのは、東芝エネルギーシステムズで原子力福島復旧・サイクル技術部に所属する中原貴之(38)だ。中原は東日本大震災の当日も福島第一原発のそばにいた。当時、30歳になるという若手社員だった。

 立っていられないような激しい揺れに驚いたが、地震直後に「スクラム(制御棒を核燃料に差し込んで運転を停止する)した」という連絡を受けており、「それなら(原発は)止まるな」と考えていた。

「まさかそのすぐあとに十数メートルの津波が原発に降りかかり、非常用電源が使えなくなるとは想像もしていませんでした」

 その後、中原は福島第一原発にずっと関わってきた。

困難に次ぐ困難の繰り返し

 冷温停止、使用済み燃料の取り出し、汚染水対策、燃料デブリの取り出し……。言葉で記すと、簡単に映る作業だが、その内実は困難に次ぐ困難の繰り返しだったという。

 なぜなら廃炉という作業は、やろうと思ってもすぐできることではなく、十分すぎるほどの入念さで事前の調査や段取りをしておかねば、進められない作業だったからだ。

 中原が言う。

「『燃料取り出し』という目標があります。でも、それに着手するには、その前にやるべきことが1000個くらいあるんです。初期で言えば、瓦礫の撤去、高い放射線量を避けるための遮蔽や清掃。また肝心の現場では、線量が高いので数分しか作業できない。また、燃料を取り出す装置すら壊れているので、一からつくらねばならない」

 ネックになっているのは言うまでもなく、放射線だ。

世界初の“廃炉”に挑む30代の若手社員たち

 すべての作業員は、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告により5年間で100ミリシーベルトが被曝の上限とされている。その数値を守りながら、目の前の課題を解決していく。「万が一」を起こさないため、想像力を駆使して手順や段取りを想定し、実行していくのが、これまでの廃炉作業の工程だった。

 そして、そうした世界初の慎重な作業をデザインし、実際に実現させてきたのはみな30代の若手社員たちだった。

 では、デブリをつかむに至るまでにはどのような過程を経てきたのか。「文藝春秋」2月号および「文藝春秋digital」に掲載の「廃炉最前線 福島第一原発の『若き指揮官』たち」でその詳細を記した。

※「文藝春秋」編集部は、ツイッターで記事の配信・情報発信を行っています。@gekkan_bunshun のフォローをお願いします。

(森 健/文藝春秋 2020年2月号)

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試合中に帰宅したことも……“激情の人”高木守道の「頑固もの」伝説

2020年1月26日 06:00 文春オンライン

 元中日監督の高木守道さん(享年78)が1月17日、急性心不全で亡くなった。

 高木さんで印象に残るのは、やはり1994年に巨人と最終戦で優勝を争った「10・8決戦」の話だ。

 高木さんはこの年の8月に、シーズン後の監督解任を通告されている。

「そりゃあカッとしました。まだ巻き返すチャンスはあったのに、何でこんな時期にってね」

 後任に故星野仙一さんが内定したのが理由だった。それまで神頼み、仏頼みなどしたことなかったのに、その日から本拠地の試合では、自宅を出る前に仏壇に手を合わせるのが日課になったという話をしていた。

「今日も一日、いい加減なことをしないように親父、お袋、見守っていてくれ!」

 手を合わせた高木さんは、毎日そう念じていたという。

「むっつり右門」と呼ばれた無口で地味な印象とは裏腹に、実は激情の人である。

 現役時代には理不尽に監督に詰(なじ)られたことに激怒し、試合中に家に帰ってしまったことがある。ヘッドコーチを務めた徳武定祐さんによると、コーチ会議で何が気に入らなかったのか、「今日は何もせん」と宣言。ベンチに座るとサインも出さず、選手交代も一切しないこともあったという。

 ただ94年だけは、毎日、仏壇に手を合わせて感情を押し殺し、チームをV字回復させて「決戦」へと導いた。結果的に優勝は逃したが、シーズン後には球団が頭を下げて続投が決まった。しかし翌年に再び成績が急降下すると、今度はシーズン途中に高木さんの方から辞任している。

「10・8決戦」で守道さんが見せた“普段通り”

 このときは大阪遠征の最中に、大恩のあった故加藤巳一郎オーナーの訃報に接し、すぐに名古屋に帰ることを希望した。球団が認めないと、ナイターで退場(おそらく故意だった)になり、球場を出て新幹線に飛び乗ってしまった。

 沸点も低かったが、義理人情に厚く、強い信念を持った人だった。

 遊撃手だった県立岐阜商業時代に、コーチに訪れた立教大の長嶋茂雄さんが「センスはあるが肩が弱い。セカンドならプロになれる」と推薦して、名手への道を歩み始めた。

「長嶋さんに憧れ、ああいうプレーをしたいと思った。でもプロに入ってすぐにあれは長嶋さんだからできると悟った」

 その後は、他の選手が打撃練習をしている間、1人で壁に向かってバックトスの練習に励み“職人”の道を歩み続けた。

 その長嶋さんと激突した「10・8決戦」。三本柱を惜しみなく投入したミスターの劇場型采配と対照的に、普段通りの継投、野球に徹した采配が頑固な守道さんの真骨頂だった。

(鷲田 康/週刊文春 2020年1月30日号)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_dc473d3e3dc9_宇宙の歴史から地球温暖化を捉え直す……ビル・ゲイツが11億円を出資した「ビッグヒストリー」とは? dc473d3e3dc9

宇宙の歴史から地球温暖化を捉え直す……ビル・ゲイツが11億円を出資した「ビッグヒストリー」とは?

2020年1月26日 06:00 文春オンライン

「あなた方は、私たちの声を聞いている、緊急性は理解している、と言います。私はそれを信じたくありません。もし、この状況を本当に理解しているのに、行動を起こしていないのならば、あなた方は邪悪そのものです」

 今やその一挙手一投足がメディアに取り上げられる、スウェーデン出身の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん(17)。彼女の言動が特に注目を集めたのは、昨年9月にニューヨークで開催された気候行動サミットでの“怒りのスピーチ”だった。

 サミットに集まった各国の代表達を、「私達は大量絶滅の始まりにいるのです。なのに、あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり」などと強烈に批判したのだ。

 事実、地球温暖化は確実に進行しているものの、日本を含めた各国政府は具体的な対策を打ち出せていない。まさにそこに迫っている危機を、うまく認識できていないようにも映るのだ。

人類の歴史を捉えなおす「ビッグヒストリー」

「そんな時、『ビッグヒストリー』が大きな役に立ってくれるのです。この学問が与えてくれる広大な視野で世界を眺めてみれば、地球環境に今何が起こっているのかを、より深く理解できるはずです」

 こう語るのは、歴史学者のデイヴィッド・クリスチャン氏(73)。クリスチャン氏が1991年から提唱しはじめた「ビッグヒストリー」は、人類の歴史を、ビッグバンから始まる宇宙の138億年の歴史として捉えなおそうというものだ。

 マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「ビッグヒストリー」に魅了された1人で、その普及のための教育プロジェクトに1000万ドル(約11億円)を出資している。

 クリスチャン氏が「文藝春秋」の独占インタビューに答え、ビッグヒストリーから見た気候変動の問題について解説した。

ホモ・サピエンスの誕生は100分前

 地球はその誕生時から数十億年もの時間をかけて、地表の温度を生物の存続に適したものになるよう調整してきた。ビッグヒストリーの観点から見れば、その地球の温度調節機能を、わずか20万年前に現れた“新参者”であるホモ・サピエンスが一気に破壊しているということになる。

 分かりやすく時間を縮めると、宇宙の誕生が13年8カ月前としたら、地球に生命が誕生したのは3年9カ月前、ホモ・サピエンスが誕生したのはわずか100分前となる。

 なぜ我々人間は他の生物と違って、ここまで地球環境に影響を与える“異質”な存在となったのか――。

 人間を特別にしている能力は「言語」だと、クリスチャン氏は言う。

人間が獲得した「集合的学習」とは?

「もちろん、多くの生物はお互いにコミュニケーションをとることが可能です。例えばヒヒは鳴き声をあげることで、群れの仲間に捕食者の接近を知らせることが出来ます。しかし単なる鳴き声だけでは、情報の量や密度、正確さは限定される。動物の言語が共有できるのはごく単純な概念だけで、ほぼ全てが目の前の事実に関わるものとなります。

(中略)それに対して人間は、限られた言語を無限に組み合わせることによって、様々な意味を生み出すことが出来ます。複雑なコミュニケーションが可能となり、目の前にないもの、抽象的なもの、架空の存在など、様々なことについて他者に語り始めました。

 そうなると、言語を介して人々の間で有益な情報が共有され、それが世代を追うごとに蓄積されていくことになります。このメカニズムを『集合的学習』と呼びます」

 この「集合的学習」を人間が加速させていった結果、「農耕革命」、そして地球温暖化の始まりとなる「化石燃料革命」へと結びついていくことになるという。

「集合的学習」を手にした人類が、非常に短い期間で環境に大きな影響を与えるようになった過程を辿り、その結果もたらされた地球温暖化を解決するための「視点」を提示したクリスチャン氏のインタビュー「138億年の歴史と地球温暖化」の全文は、「文藝春秋」2月号、「文藝春秋digital」に掲載されている。

※「文藝春秋」編集部は、ツイッターで記事の配信・情報発信を行っています。@gekkan_bunshun のフォローをお願いします。

 

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年2月号)

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cat_oa-rp89662_issue_c3d2cb8fcc35 oa-rp89662_0_9171926fcb0e_「組員6000人の顔写真を入手済み」警察vs.山口組「特定抗争」指定をめぐる水面下の暗闘 9171926fcb0e

「組員6000人の顔写真を入手済み」警察vs.山口組「特定抗争」指定をめぐる水面下の暗闘

2020年1月25日 19:35 文春オンライン

 国内最大の指定暴力団「6代目山口組」のナンバー2、若頭の地位にある高山清司が2019年10月18日に恐喝事件の刑期が満了し、東京の府中刑務所を出所したのと前後して暴力団抗争事件が続発した。

【写真】流出写真には現場に残された自動小銃とみられる凶器が

 年が明けた2020年も、各地で流れ弾による一般市民の巻き添えなどが危惧されたが、静かな年始を迎えた。

 抗争事件を抑え込もうと、山口組と「神戸山口組」双方の本部事務所などの関連施設がある兵庫や愛知、大阪など6府県の公安委員会は、2020年1月7日付の官報で、暴力団対策法に基づき双方を「特定抗争指定暴力団」として公示し、強力な規制に乗り出していた。「特定抗争」指定となったことで、今年は年初から警察と暴力団の間で新たな局面を迎えた。

 今年は、東京五輪が開催される「オリンピックイヤー」でもある。暴力団業界では国家的な事業が行われる期間中には、社会に迷惑を及ぼすような抗争を起こさないという暗黙の了解から事件が控えられているのか、それとも、特定抗争指定が効力を発揮しているのか。

 水面下の動向は不明瞭だが、2020年のスタートとともに警察と暴力団との間の暗闘の幕はすでに切って落とされている。

特定抗争指定で何が変わる?

「特定抗争」指定された暴力団に対しては、暴力団対策法に基づいた強力な規制が効力を発揮する。公安委員会が定めた神戸市や名古屋市、大阪市、京都市など、6府県の10市の「警戒区域」内で、組員が5人以上で集合▽組事務所への立ち入り▽対立する組の事務所周辺をうろつく行為などが禁止され、違反すれば警察当局は即逮捕出来ることになっている。

 名古屋市には山口組の中核組織「弘道会」の本部事務所があるほか、神戸市には神戸山口組の中核組織「山健組」が本部事務所を構える。山口組の本家も同市内にある。大阪市内には双方の多くの組織が事務所を置いている。だが、特定抗争指定以降は、警戒区域内の10市にある約130の事務所が使用禁止状態となっている。

 昨年、大きな衝撃を持って受け止められたのが、11月に尼崎市で発生した、元山口組系幹部、朝比奈久徳が米軍用自動小銃「M16」を乱射し、神戸山口組幹部の古川恵一を射殺した事件だった。現場は買い物客などの通行が多い商店街ということも話題となった。

 

 警察庁幹部によると、朝比奈は2018年12月に、所属していた山口組傘下の竹中組を破門されていたという。しかし、警察庁幹部は「破門は偽装かもしれない。しかし、破門となっていようが、特定抗争の指定は団体間の抗争なので関係ない。被害者は神戸山口組の幹部。やった方が全くの無関係ならまた別の問題となるが、この事件では山口組との関係性はかなり濃厚。多くの抗争事件を除いて、この事件だけ取り上げても指定に問題はない」と強い口調で解説する。

 古川射殺事件だけでなく、高山が刑務所を出所する前の2019年10月10日には、神戸市の山健組本部前で、同組系組員2人が射殺された事件が発生。さらに出所後の同年11月18日には熊本市内で神戸山口組幹部が刃物で刺されたほか、翌19日には札幌市内で、別の同組幹部宅に車両が突入する事件も起きた。

 警察庁幹部はいずれの事件も、「高山の出所という影響で、山口組傘下組織が動き出した」と指摘している。

特定抗争指定で九州の抗争は鎮圧

 特定抗争指定暴力団に指定されたケースは2012年12月、ともに福岡県を拠点とする指定暴力団「道仁会」と「九州誠道会」(現・浪川会)の例がある。路線対立から一部グループが2006年に道仁会を離脱して九州誠道会を結成し、その後は対立抗争事件が続発した。

 一連の抗争で47件の事件が発生し、一般市民を含め14人が死亡した。山口組から2015年8月に一部の幹部が離脱して神戸山口組を結成し抗争が始まったのと構図が重なる。山口組と神戸山口組の間では、これまでに約120件の事件が発生し双方で9人が死亡している。

 約6年間にわたって繰り返された道仁会と九州誠道会の間の対立抗争事件だったが、双方が特定抗争指定されると、事件はピタリと発生しなくなった。山口組や住吉会などに所属する多くの指定暴力団幹部は、口調を合わせるようにヤクザとしての心情を次のように説明する。

「(対立組織との)ケンカで懲役に行くのは当然のこと。これはヤクザである以上は、常に覚悟はしておかねばならない。しかし、バカバカしいことで逮捕されるのはまさにバカバカしい」

 道仁会と九州誠道会の特定抗争指定の効果は大きく、抗争事件の発生はなかっただけでなく事務所の使用が禁止されたため幹部が集まる定例の会合が開けなくなり、道仁会と九州誠道会の双方の統制が取れなくなり離脱者が相次ぎ弱体化。特定抗争指定は2014年6月に解除された経緯がある。

 当時、警察庁で組織犯罪対策を担当していた幹部は、次のように指摘する。

「携帯電話やメールなど通信機器が発達したとはいえ、お互いに顔を突き合わせて定期的に会合を持たないと物理的なだけでなく気持ちの上でも距離感が生まれてしまうようだ。親分が子分に携帯で電話して伝達事項を話しても、疑心暗鬼となり、信頼関係が薄れて次第に統制が効かなくなり勢力が弱くなっていったのは事実」

 その上で、道仁会と九州誠道会の弱体化の過程について、次のように付け加えた。

「これは警察も同じ。各県警の本部長は定期的に県内の署長を集めた署長会議を開き直接訓示する。警察庁が全国の本部長を東京に集めた全国本部長会議で長官が訓示するのも同じ。ヤクザも警察も似たようなところはあるのは間違いないところ。だから(道仁会と九州誠道会が)集まることが出来ずに弱体化して行ったのはよく分かる」

「新幹線利用は報告」「連絡は電話のみ」

 特定抗争指定が効力を発揮する1月7日以前、山口組の組員らに本部から通達があった。

「5人以上で集まるな」
「新幹線を利用する場合は報告せよ」

「5人以上」の意味合いは、特定抗争指定された後、山口組、神戸山口組の双方の組員が、おおむね5人以上で集まれば即座に逮捕されるためだ。

 ある程度の人数で集まるということは拳銃や刃物などの凶器を携えて対立抗争事件を引き起こそうとしているか、事件の事前謀議を行っていると警察は解釈するはずだという懸念からこうした指示が出ているという。

 このような通達は専門の担当者を置いて全て電話でやり取りがなされているという。ファックスやメールなどでは証拠が残るためだ。

 意図せず偶然の場合でも逮捕されることを回避するための用心深さも窺える。例えば東京駅と新大阪駅の間を行きかう東海道新幹線に偶然に山口組の組員5人がばらばらに乗っていた場合、警戒区域に指定されている名古屋市に到着した段階で、新幹線の車内で逮捕されることが予想されるため、新幹線利用の際は事前に報告が求められている。

 偶然であっても、警察は「対立抗争事件に向かうにあたり、警察を警戒して車内で分散して新幹線に乗車していたのだろう」との強引な解釈で逮捕に乗り出してくることを危惧。このため、新幹線を利用する際には山口組本部に報告することが義務付けられ、複数での乗車の可能性があれば利用する新幹線の変更の指示がなされることになっているという。

 このほか、山口組全体の定例の会合については、警戒区域外の弘道会の傘下団体の事務所で会合を開くことにしているという。この事務所は100人ほどが入っても問題ない広さがあり、定例の会合には支障がないとしているほか、傘下の2次団体の多くも警戒区域外でそれぞれ個別の会合を開くとしており、警察への警戒から水面下での活動にシフトしている。

組員6000人以上の顔写真データ

 警察庁によると、2018年末時点での山口組の構成員は約4400人、神戸山口組は約1700人となっている。山口組の勢力範囲は43都道府県、神戸山口組は32都道府県にそれぞれ2次団体、3次団体とピラミッド型に傘下組織が存在している。新聞や週刊誌に顔写真が掲載されているような大幹部ならまだしも、これだけの大人数のうち、わずか5人ほどで集まったことを、警察はどのように把握するのか。

 今回の特定抗争指定の作業を進めてきた警察庁幹部は、次のように強調する。

「6代目(山口組)側の4400人と、神戸(山口組)側の1700人のほぼ全員の顔写真の画像データはすでに入手済みだ。顔写真だけですぐに、どの傘下組織のどういう役職のどの人物と特定できる体制になっている」

 さらに、今後の捜査手法について、次のように自信をのぞかせる。

「全国に捜査員を張り付かせて、5人以上で集まったかどうか、尾行や張り込みで組員の行動を細かく確認する訳には行かない。物理的に無理。しかし、『抗争事件に備えた動きがあったようだ』などとする情報に基づき、全国の主要地点に設置されている防犯カメラの画像を分析し、顔写真データと照合して5人以上で集合していた状況が確認されれば、即座に逮捕するなど強制捜査に乗り出し弱体化を図る。未設置の主要地点には防犯カメラを随時、増設していく」

 特定抗争指定された暴力団は、5人以上の集合や対立組織の事務所周辺でのうろつきなどの行為で逮捕の規定があるが、この警察庁幹部は、「ほかにも、縄張り荒らしの禁止、勢力拡張の禁止という規定があり、この点でも双方の弱体化に期待ができる」との見通しを語る。

「例えば(山口組系の)弘道会が(神戸山口組系の)山健組と付き合いのある飲食店などの店舗で、弘道会を名乗って入店し、さらには弘道会との付き合いを要求するなどの行為も、『縄張り荒らしの禁止』や『勢力拡張の禁止』にあたり、即アウトとなる。

 これは弘道会に限らず、当然のことながら山健組も同様の行為に出たら、これもダメということだ」(同前)

逮捕者第1号をめぐる攻防

 すでに警察による山口組と神戸山口組の双方への揺さぶりは始まっている。それどころか、警戒区域を管内に持つ大阪や兵庫、愛知などの警察本部では、逮捕者第1号を自らの手で成し遂げたいと虎視眈々と狙っているだろう。

 関西に拠点を置いている山口組系幹部が打ち明ける。

「5人までではなくとも数人で集まったというだけで、(特定抗争指定の規制の効力が始まった)7日以降、早くも枝(傘下団体)の組員が警察署で取り調べを受けたようだ。厳重注意で帰らされたと聞いた」

 今回のケースでは、「おおむね5人での集合」との警察の判断で取り調べとなったようで、逮捕にまでは至らなかったという。

 特定抗争指定後、表向きは平穏に推移しているが、水面下での鍔迫り合いはすでに始まっている。

(敬称略)

“武闘派ヤクザ”高山若頭の支配力――山口組が大きく揺れ始めた「2007年のある殺人事件」とは? へ続く

(尾島 正洋/週刊文春デジタル)

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