新型コロナウイルスの感染拡大で学校が休校になるなど、困難な中での受験となった2021年度医学部入試。その中で合格通知をつかんだ、合格者たちの声をお届けします。
石畝敬さん 桐朋高(東京)→東京医科大
中学3年の時に、修学旅行で東北へ行きました。震災学習を通じ、災害医療や救急医療の重要性を知り、医師を目指そうと思いました。高校2年の時の入院も医師を目指す大きな理由になりました。野球部の活動中にボールが頭にぶつかり、脳出血を起こして1週間入院したんです。いったん帰宅したのですが、すごく頭が痛くて、近くのクリニックに行ったら救急搬送。そこで医師と話し、脳が人間の体に及ぼしているダイナミックさを知りました。また、自分は将来何をしたいのかをじっくり考えられ、医師への思いを強くしました。
野球部の方針が「文武両道」だったので、部活動も一生懸命やりました。新型コロナウイルスの感染拡大で休校だった時は、夏の大会をやるのかやらないのかが気になってしまい、勉強に関しては不安だらけでした。ただ、学校の成績は落とさない気持ちで、「とにかく毎日勉強する」ということは決めて実行しました。1時間しか取れない日もありましたが、そんな時は集中して密度を濃くすることを心がけました。
模試では、数学の点数がなかなか安定しませんでした。「解き方だけでなく、時間配分も大事だ」との塾の先生の助言とともに、点の取れるところを確実に取る、そして取れるところを広げていくイメージで取り組みました。
コロナ禍で、医療の話題が増えました。苦しい中でも踏ん張って治療にあたる医師の姿を見て、自分自身もそんな仕事をしたいとポジティブに受け止めました。
学校推薦型選抜一般公募では、野球と勉強を粘り強く頑張ってきたことをアピールしました。いま、やっぱりこう思います。「最後まで粘り強く頑張った人が合格する!」
幸田悠希さん 甲陽学院高(兵庫)→大阪大医学部
高校2年の夏休みに、大阪大学病院で実施された「早期医療体験プログラム」に参加しました。心臓血管外科の澤芳樹教授が中心となった4日間のプログラムで、心臓手術の見学をしたり、人工心臓をつけて心臓移植を待っている患者さんと対談したりしました。最も心に残ったのが、心臓病の治療のため、iPS細胞から作った心筋シートの研究や製造の様子の見学です。再生医療の研究を行いつつ、その成果を臨床的に応用することができるような医師になりたいと思っています。
受験勉強では、根拠の無い自信が大切だと思っています。「このままだと受からないかもしれないからもっと勉強しよう」という考え方ではなく、「絶対に受かる」という根拠の無い自信や余裕をもって勉強することで、受験勉強は「他人と焦りあいながらの闘い」から「自分との闘い」に変化するのではないのでしょうか。この二つの「闘い」それぞれから受けるプレッシャーの大きさは全く違います。受験はいかに自分への心身の負担を減らすかにかかっています。ちょっとした意識の違いで心理的な負担を減らすことができるので、試してみるといいと思います。
その上で、他人の勉強時間に惑わされず、自分が続けられる時間を設定することが大切です。人によって勉強効率が違うため、「○時間勉強した」は関係ありません。私は学校がある時は1日3時間、ない時は1日7~8時間を目安に勉強していました。勉強はあくまで質(+量)>時間です。
無駄に我慢しないことも大事です。受験生とはいえ、ずっと集中して勉強するのは無理。どこかで集中力が切れて効率の悪い勉強をしているタイミングがあるはずで、自分の趣味の時間を少し入れると、ストレス解消になる上、切り替える力がつき、より短時間で一気に集中して効率的に勉強ができるようになります。私も釣りやゲームなどの自分の趣味の時間を欠かさず取っていました。
また、「毎日コツコツ全教科勉強する」という方法は、自己管理能力が他の人と比べて卓越していて一日中勉強することが出来るような人でないと真価を発揮しません。さらに、スケジュールの組み方に失敗してしまった時のダメージがあまりにも大きすぎます。私は1教科をその時その時に集中的に勉強するという形を取っていました。そうすることで、1教科を確実に究めることができていることが保証されるため、安心感が得られます。そして、残された時間をより効率的に使おうとするので、残りの教科も非常に効率良く勉強することができると思っています。
島田遥加さん 大阪教育大付属平野高→大阪市立大医学部
小学3年の時、胃腸炎で入院したことがあります。夜中の2時ぐらいにあまりの痛みに目が覚め、救急車で搬送されました。経験のない痛みと苦しみ。自分の体の中で何が起きているか分からない恐怖がありました。そんな時、担当の医師が毎日声をかけてくれ、丁寧に説明してくれました。それが安心感につながりました。この経験から、患者の心に寄り添える医師を目指すようになりました。
新型コロナウイルスによる休校もあり、大変な1年でした。学校は動画配信などをしてくれましたが、それでも生活リズムは変わってしまいます。年度当初は、春休みの延長線上のような日々で気持ちもふわふわし、思うように勉強のリズムが作れず、受験学年という自覚がないままスタートを切ってしまいました。ただ、コロナ禍で、医師はその専門性から人々の生活に密接に関われる職業だと改めて感じました。病床不足や医療崩壊のニュースを聞き、将来の自分にできることは何かを考え、より使命感にかられました。
大阪市立大へは学校推薦型選抜で入学しました。定期試験や授業はきっちりやる性格だったので、学校推薦型選抜が利用できるなら利用したいと思っていました。学校の成績と共通テスト、面接、小論文が課されました。小論文では、大学のオープンキャンパスに行った時のトリアージ体験に引きつけて、自分の考えを書きました。こうした「経験」「体験」を自分の引き出しに多く入れておくことは大事だと思います。また、日頃から医療関係のニュースに目配りしていないといけません。
大阪市立大は手技が早くから学べ、1年生から臨床実習もあります。早く現場を知り、医師への道を歩み始めたいです。
田中朋樹さん 青雲高(長崎)→長崎大医学部
幼いころに頭を切る大けがをしました。治療した医師の姿に感銘を受け、医師という職業に憧れを抱きました。長崎県南島原市と佐世保市に住み、地域間での医療態勢の差を実感したことも影響しています。住んでいる地域に関係なく、すべての人が最高の医療を受けられるようにし、長崎県の地域医療が、日本の地域医療の手本となるよう、尽力する医師になりたいです。
そのためには、まず確かな技術や知識を身につけ、地域の方々とのコミュニケーションを大切にすることが重要だと考えています。地域の方々と緊密な関係を築き、生活状況を把握し、治療を行うだけではなく、患者さんが気がねなく訪れられる医師になりたいですね。また、学校や自治体などと連携し、地域全体の健康増進を担っていきたいです。
コロナ禍で様々なニュースを耳にして、医師という職業の魅力を再発見できました。感染する恐れがあるにもかかわらず、患者さんに尽くす医師の姿から、医師という職業の一番の目的が「人の命を救う」ことだと改めて感じました。また、医療従事者への誹謗(ひ・ぼう)中傷や差別があったことも知り、厳しい道への覚悟も必要だと感じています。今後も、新型コロナウイルスのような未知の病気の出現が予想されます。すべての医師が未知なるものへの探求心や常に高みを目指す向上心を忘れてはならないと思っています。
\n(フリーライター/庄村 敦子)
(山下 知子)