■空前のアイドルブーム
全国津々浦々、日夜様々なアイドルグループが活動し「群雄割拠のアイドル戦国時代」「空前のアイドルブーム」と呼ばれるようになって久しい。
その火付け役となったのはAKB48を始めとする秋元康氏プロデュースによるアイドルグループのブレイクに他ならないだろう。
以降、AKB48の手法を手本にし、ライブハウスを活動拠点とした会いに行けるアイドル=ライブアイドルが星の数ほど生まれたのは周知の事実。
■冬の時代を牽引したご当地アイドル
そんなAKB48誕生以前の「アイドル冬の時代」において、密かにアイドルシーンを牽引していたのがNegiccoを始めとするご当地アイドルだったことはご存知だろうか?
Negiccoは新潟のご当地アイドルとして結成され、その歴史は2003年からと実に15年にも及んでいる。新潟名産の「やわ肌ねぎ」のキャンペーンの一環で結成されたNegiccoは、今や全国区のアイドルに成長したことで地元・新潟のPRに多大な貢献をし、現在も尚、地元に根ざした活動を並行して展開するなど、ご当地アイドルのあるべき姿、目指すべきところを体現している貴重なグループと言えよう。
【写真を見る】ねぎを上から見た?ジャケ写が話題のNegicco
他にも山形県酒田市のSHIP、広島のPerfume、同じく広島のサンフラワー、千葉のC-ZONE、青森のりんご娘など全国各地から誕生したアイドルグループが当時のシーンを牽引していた。
憶測に過ぎないが、後に誕生した48グループが打ち出した地域性も、この時期にご当地アイドルの隆盛があってこそと推察することもできるだろう。
・彗星の如く現れたPLIME
時を同じくして、ご当地アイドルシーンに彗星の如く現れたグループがいた。東京・八王子を拠点とするPLIME(プライム)だ。
現役高校生(当時)の6人が同級生で結成したPLIMEは、教室の中ではしゃいでいる女子高生の日常を垣間見ているような等身大で飾らない存在で瞬く間にファンを増やし、一気にメジャーデビューまで駆け登った言わばアイドル界のダークホースだった。
・関係者が絶賛
「PLIMEはとにかく歌唱力とパフォーマンスと楽曲のクオリティが段違いでしたね。初出演の1曲目からいきなりア・カペラでハモるんですよ。凄い子たちが出て来たと皆一様に驚きました。」(アイドルイベント関係者)
「PLIMEと共演するとファンを取られちゃうから、正直ウチの子たちと共演してほしくなかったですね。でも本人たちは我々のような他事務所のスタッフにも気遣いができるとても良い子たちで、つい応援したくなって色々と協力しちゃいましたね(笑)。」(共演アイドル所属事務所関係者)
「楽屋では腰が低くて親切なのにステージに立つと圧倒的でした。あるイベントでPLIMEさんのオケが途中で止まってしまうトラブルがあったんですけど、そのままオケ無しでハモりながら最後まで歌いきったのを見た時は共演者みんなPLIMEさんのファンになっちゃいましたね。」(共演アイドル元メンバー)
と、当時を知る関係者が口々に絶賛することからも、人格、実力共に優れたグループであったことが窺える。
・演者として質の高いアイドル
当時のアイドルファンもまた「PLIMEはライブの度に必ず何かやるんですよ。客席にサッカーボールを蹴り入れてきたり天井から号外が降ってきたり、毎回何が起こるか楽しみにしていました。バンド演奏までするというのもAKBよりも前にやっていたわけですしね。作詞作曲や振付にもメンバーが関わっていて、そのクオリティも高かったですね。」と語るように、ともすればキャバクラ化している昨今のアイドル商法とは真逆の、演者としてのパフォーマンスや演出で対価に見合ったものを提供していたグループであったことを窺い知ることもできる。
・プロデューサー浅野ケンの手腕
そんなPLIMEを手掛けていたのは作曲家・音楽プロデューサーの浅野ケン氏。音楽ユニットのギタリストとして活躍していた同氏が作曲家に転向して間もなく、初めて総合的なプロデュースをしたアーティストがPLIMEである。
同氏曰く、当時のPLIMEの躍進は全て周囲の協力とメンバー自身の力であったとのことだが、「音楽面だけでなくステージの演出やマネージメントまでケンさん(浅野ケン氏)が全権を持ってプロデュースしていた印象でしたね。彼は作家さんだから特に音には拘っていて、イベントに応じてアレンジを加えたオケを使っていたというのもPLIMEの特徴でした。当時そこまでやるローカルアイドル(=ご当地アイドル)はいませんでしたから。」(前出アイドルイベント関係者)
「彼がプロデューサーを退いた後にPLIMEは路線変更をして“らしさ”がなくなってしまいましたね。元々そこまでローカル色を前面に打ち出したグループではありませんでしたが、メンバーの飾らない個性にリンクしたアイドル性、アーティスト性、ローカル色が絶妙なバランスでミックスされていたのがPLIMEの“らしさ”だったと思います。路線変更後は背伸びして表面的なアーティスト性を打ち出した印象で、最終的にはメンバーも総入れ替えで個性まで損なわれてしまったように感じました。正直PLIMEが元の路線を貫いていたら脅威でしたから、当時のライバルとしては安堵しましたが、今となっては心底勿体なかったと思います。」(前出共演アイドル所属事務所関係者)
と、周囲はPLIMEの凋落を惜しむ一方で浅野氏の手腕を評価している。
■新たなご当地アイドルRe:Jewel 誕生!
その後の浅野氏は、同じくご当地アイドルとして活躍していたC-ZONE(千葉)のプロデューサーに収まり、後にC-ZONEからアニソンシンガーの池田彩(プリキュアシリーズ主題歌等)が輩出されたことを機に、同氏自身も徐々に活躍の場を変えて行くことになったのだが、そんな浅野氏が10年以上の歳月を経て新たにご当地アイドルを手掛けるとの情報が届いた。
鳥取を拠点とするRe:Jewel(リジュエル)だ。
・十代にして7年のアイドル活動歴
Re:Jewelは“おおくらあゆな”(19)と“たけうちりおな”(17)の二人から成るアイドルユニット。二人とも十代にして7年のアイドル活動歴を持つベテラン。前身となるグループが前所属事務所の都合により今春解散。そこから自らの足で力強く歩み始めたばかり。その足掛かりとしてライブ配信サービスSHOWROOMで開催されていた楽曲提供イベントへ参加を決めた。
・楽曲提供とCDデビューを獲得!
「りお(たけうちりおな)と二人で叶えられなかった目標に向かって頑張りたいって思っとって、でもステージに立つためには楽曲が必要で、そんな時に母がSHOWROOMに1位になったら楽曲提供してもらえるイベントがあるって教えてくれて、やる!って即答でした。」(Re:Jewel・おおくらあゆな)、「これまで活動していたグループが3月に終了してしまったけど、これからももっと頑張りたい、これからもライブがしたいって気持ちだった時に、あゆさん(おおくらあゆな)からこのイベントの話を聞いて、え!?出たい!って思って参加を決めました。」(Re:Jewel・たけうちりおな)とメンバーそれぞれが語るように、自らが置かれた状況を打破するために、夢物語としての1位の座ではなく、明確な目的意識に基づいた獲るべき1位として臨んでいたようだ。
先人達は度々、想像できる未来は実現できる未来だと語っているが、彼女たちは自らの想像通り1位に輝き楽曲提供とCDデビューを獲得したのだった。そう、このSHOWROOMイベントこそが浅野氏が主催する「オリジナル楽曲deデビュー」であり、これが両者の出会いの場となったのだ。
・Re:Jewelと浅野氏、運命の出会い
SHOWROOMにおけるイベントは、原則的にギフトと呼ばれる視聴者から投じられる仮想のアイテムによって得られるポイントで決まるため、主催者は選出に関与しないものが多い。同イベントにも同様のシステムが採用されており、アイドル以外からも幅広く参加者を募っていたことからも、Re:Jewelと浅野氏の出会いは偶然に他ならない。しかしこの偶然を運命と捉えたらどうだろうか?かつてのご当地アイドルの雄が、時を経て再びご当地アイドルを手がけるというところにドラマを感じずにはいられない。
イベントの詳細を見れば、あくまでも1タイトルのシングルCDリリースという音楽制作に限定されたワンショットプロデュースのようだが、公式資料に記された「鳥取から世界へ!」の文言からも、この先、両者によるさらなるドラマがあるのではないかとも期待してしまう。
・作曲 浅野ケン 作詞はPLIME元メンバー若林愛
Re:Jewelの1stシングルには表題曲「Re:START」とカップリング曲「Rolling! Going! Blow away!」という浅野ケン氏作曲による2曲が収録される。
「Re:START」は浅野サウンドの真骨頂とも言えるアッパーなポップロックに、前身ユニット解散という逆境から立ち上がったRe:Jewelの力強さと、変わらず支え続けてくれた身近なスタッフやファンへの感謝の思いが綴られた歌詞が乗ったナンバー。対する「Rolling! Going! Blow away!」はライブ感溢れるスカコア。アイドルソングのメインストリームとは一線を画す攻めたナンバーだ。いずれも作詞は前出のPLIMEの元メンバーで、現在は作詞作曲家として活躍している若林愛によるものである点も本稿においては特筆すべき事項であろう。
・一味違う新しいRe:Jewelに
「一度、浅野さんと2曲について作戦会議をさせて頂いたんですけど、その時に自分たちのわがままを全て話して、そのわがままを全て叶えてくださって、その中に私たちらしさが散りばめられつつ、でも新しい私たちがいる!みたいな感じでした。」(Re:Jewel・おおくらあゆな)
「Re:Jewelらしさを残しつつ私たちの要望が全部盛り込まれていて、Re:STARTというタイトルのように、今までとはまた一味違う新しい私たちをお見せできるんじゃないかと思います!」(Re:Jewel・たけうちりおな)
と、メンバーも提供された楽曲に確かな手応えと期待を寄せている。
・アイドル界に帰って来た浅野と「Re:START」
「今はケンさん(浅野ケン氏)が陣頭指揮を取ってやっていた頃に比べて何十倍も何百倍ものアイドルがひしめき合っているので、正直なところ楽な戦いではないと思います。ただ、見方を変えれば分母が増えただけで質が高いアイドルが増えたわけではない。彼らしいプロデュースワークで再びこの界隈で存在感を示してくれることに期待したいと思います。」(前出アイドルイベント関係者)、
「Re:Jewelさんのエピソードから感じる雑草魂は浅野くんが好きそうなポイントですね。本気で臨んできたら怖いなー(笑)。」(前出共演アイドル所属事務所関係者)
と関係者も注目のタッグ。きっと今作「Re:START」が意味するものはRe:Jewelにとっての再出発だけでなく、アイドル界に帰って来た浅野氏にとっての再出発をも含んでいるのではなかろうか?
時はアイドル戦国時代。
図らずもRe:Jewelという兵(つわもの)を得たかつての雄のお手並み拝見と行きたい。
TEXT:海野幸夫