■幽閉された処刑人
2020年8月2日に公開された『KING』はKanariaの2作目の楽曲。
作詞作曲を手がけたボカロPのKanariaは、処女作である『百鬼祭』で自身初の殿堂入りを果たすなど異才を放ち、今大注目されています。
そんなKanariaが作り出した『KING』は、意味深な歌詞やMV動画から「王が処刑される歌」「フランス革命をテーマにしている」など様々な考察が飛び交っています。
果たして『KING』にはどんな物語が隠れているのでしょうか。
今回は話題に上がったフランス革命説にも注目しながら歌詞を紐解いていきます。
Kanariaが作り出す独特な世界観に浸っていきましょう。
▲【GUMI】KING【Kanaria】
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
「幽閉」という不穏なワードから幕を開ける『KING』のお話。
「逝く前に」の歌詞から、死刑執行が予定されている処刑人がどこかの部屋に閉じ込められているようです。
2回繰り返される「利口」という歌詞。
「利口」は頭がよいことや要領がいいことを指します。
処刑人は「利口」な人ということでしょうか。
その後に続く歌詞では「ダーリン」と呼んでいることから、処刑人は主人公の「最愛の人」のようです。
ここでフランス革命を絡めて考察していきましょう。
フランス革命が進む中、当時フランス国王だったルイ16世はその責任を問われ2度軟禁されています。
ここが歌詞の「幽閉」と繋がりますね。
つまり、死刑執行を待つ処刑人とは国王のことなのです。
ルイ16世が1度目に軟禁された理由は、ルイ一家が一族の保身から国外逃亡を企てたことが理由とされています。
そこから考えると歌詞の「勘弁にしといてなんて残忍」は処刑人が罪から逃れようと必死な様子でしょうか。
しかし逃げられるはずもなく、その時は着々と近づいてきます。
続く歌詞を見てみましょう。
■他人に委ねられた処刑人の命とついに来たその時
王様の権利を剥奪されたルイ16世は、ルイ=カペーと呼ばれ一般階級に落ちます。
その後、国民の会議で罪人となり、「彼はどのように処されるべきか」と話し合いが始まりました。
処刑人がどのように処刑されるのか、その方法は国民に委ねられています。
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
そこから考察していくと、この歌詞は国民や世間の声に焦点を当てているのではないでしょうか。
「人様」は他人を敬った言い方です。
ここで国民や世間の声だということがわかります。
また「アイロニ」とは英語で「irony」を指し、「皮肉」や「反語」を意味します。
「人様」が処刑人を軽蔑している様子がうかがえますね。
続く歌詞の「無機質」は命が感じられない様子を指し、無慈悲にも誰もが彼の死を望んでいる状況を表しています。
また「一足先に始めてたいような」ということから、早く処罰を下したいという声もあるようです。
この後、処刑人はどうなっていくのでしょうか。
国民にとって「ハッピー」なショーへのカウントダウンが刻まれていきます。
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
「無いの新たにお願い1つ」とはどういう意味なのでしょうか。
もしお願いを聞いてくれるなら、身の振る舞いを変え処刑を免れてほしいという、主人公の願いと取れます。
しかし罪を認めたくない処刑人は聞く耳を持たなかったのか、続く歌詞は「愛も変わらずおまけにワーニングワーニング」と警告を鳴らされています。
この警告は、処刑人に死が迫っていることを知らせているのでしょう。
主人公は処刑人を「ダーリン」とも呼んでいることから、この歌詞は彼への愛は変わっていないことを指していると解釈できます。
また読み方としては「相も変わらず」とも読むことができます。
これは状況が変わっていない様子を意味し、処刑人は主人公のお願いをいつまでも聞き入れなかった、ということでしょう。
「張り詰めた思い込め」という歌詞から相当緊迫している様子が伝わります。
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
ここでまたフランス革命を絡めて考察します。
ルイ16世の処刑執行の場である革命広場には、当時2万人もの群衆が押し寄せたといいます。
右も左も傍観者に囲まれた処刑人が怒りや悲しみに打ちひしがれている様子を「歯をむき出し」と表しているのでしょう。
「照れくさいね」の歌詞は、たくさんの人に見られている彼を見て放った主人公の皮肉なのでしょうか。
「You are KING」は、最期の最期まで罪を認めず、王としての威厳を見せる彼に「さすがあなたは王だ」と、称えているようにも聞こえますね。
■処刑人と主人公の心の葛藤
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
「無邪気に遊ぶ 期待期待のダーリン」は処刑人の執行前の様子を表しているのでしょうか。
これから無残な死に方をするというにも関わらず、そんなこと知らないかのように振る舞った処刑人の様子が想像できます。
「痛い痛いの消える」は、死ぬ時の痛みは一瞬だと処刑人が言っているのでしょう。
処刑されるとわかっているから、その時までせめて楽しく過ごそうと「健気に笑って」いるようです。
「無様に〇ねる 苦い思いも無くなって」の歌詞から、処刑人は、大勢の前で処刑され恥を晒し消えれば、自らの心の葛藤も消えるだろうと踏んでいるようです。
「ダウン」という歌詞から処刑に使われるのはおそらくギロチン。
主人公は処刑人への気持ちを否定する姿が、「嫌い嫌いの最低泣いて」の歌詞から伺えます。
本心では処刑人を敬っていたのでしょう。しかし、罪を認めない彼を素直に受け入れることができず葛藤する様子が想像できます。
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
「毎度新たにお願い1つ」という歌詞から、主人公は幾度も処刑人に自分の振る舞いを見直すようお願いをしているようです。
しかしその直後も警告を鳴らしていることから、状況は良くなっていない様子。
そして「張り詰めた思いを込め」、再び処刑シーンへと突入します。
■主人公の正体とは
KING 歌詞 「Kanaria feat. GUMI」
この歌詞の主人公は処刑人を「ダーリン」と呼ぶことから女王とも取れますが、死刑執行人とも解釈できるのではないでしょうか。
テーマとされたであろうフランス革命時代、ルイ16世をはじめ数々の著名人の処刑に携わったある人物がいました。
彼の名は「シャルル=アンリ・サンソン」。
パリで死刑執行人を務めたシャルル家の4代目当主です。
彼は王政派であり、ルイ16世を崇拝していました。
しかし革命を止めることは叶わず、皮肉にも自らの手でルイ16世を処刑することになるのです。
そんな悲しみから彼は死刑制度を廃止したいと考え、「死刑囚が泣いて命乞いをすれば、人々も事の重大さに気づいたのではないか」と語りました。
MVに登場する人物は女の子ですが、もしもこの執行人をモデルにしていたとしたら、主人公は自らの手で愛する人を処刑した執行人ということになります。
自らが慕う最愛の王は、国民から嫌われた罪人。
彼の死を望む声が大きくなる中で、王への愛を叫ぶことは許されません。
王に身の振る舞いを変えれば、死を逃れられるのではないかと提案するも聞きいれてもらえず、その時は訪れます。
死に直面してもなお、王として振る舞う彼を愚かだと思いながら、最期を看取ったのでしょう。
あなたは『KING』の歌詞からどんな物語を見ましたか?
様々な角度からいくつもの物語が生まれます。
そんな不思議な世界を作り出すKanariaの『KING』。
ぜひ『KING』の歌詞からあなただけの物語を紡いでみてください。
TEXT マチオカ アム