未曾有の事態のなかで、クリエイターたちは何を考えてすごしていたのか? コロナ禍を経て、ファッションの世界はどう変わっていくのか? ジャンルの異なる5組8名にズーム・イン! 今回は森永邦彦と豊田啓介組。
デジタルとフィジカル
約100万円という高額で落札されたTHE FABRICANTのデジタルドレス(写真上)、ホワイトマウンテニアリングの21年春夏はライゾマティクスとチームアップ(写真下)。「あつまれ どうぶつの森」では、ハイ・ファッションブランドも衣裳を提供する。
コロナ禍のファッションコレクション、デザイナーと建築家はどう見たか。
パンデミックという非常事態に際し、2021年春夏のメンズコレクションは、ほぼすべてのブランドのショーをデジタル配信した。そんななか先進技術に通じるファッションデザイナーの森永邦彦さんが注目したのは、デジタルとフィジカルを融合させたアプローチで話題を集めたジョナサン・アンダーソン率いるロエベのコレクションだった。
森永 みんながオンラインに向かっているからこそ、逆にオフラインの価値は上がっています。そもそもファッションショーというのは、選ばれた人だけが出席し、限られた人しか見ることができないから価値があった。デジタル配信は誰もが平等に観覧できるというメリットがある半面、その特別感が失われてしまっています。その点、リアルに届けられるグッズとともにショーを楽しむというジョナサン・アンダーソンがやった手法は画期的でした。そのフィジカルなグッズは僕には届かないわけなので、届いた人がどんなものを受け取ったのか、すごく気になりました(笑)。そうして選ばれた人にとっての特別感は保たれ、優越感を得ることもできる。いまの時代にとてもフィットしているなと感じました。
一方、技術的な面からコンピューテーショナルデザインの第一人者である建築家の豊田啓介さんが注目したのは、ホワイトマウンテニアリングとライゾマティクスによるフルCGのランウェイショーだ。
豊田 オリンピックの開会式やPerfumeのツアー、サウス・バイ・サウス・ウエストのライブなど、ライゾマティクスにはこれまで積み上げてきた分厚い基礎技術があります。そのひとつひとつをどのようにリアルタイムで合成し、人の動きや会場という物理的な要素とシームレスに結合するのか─その表現と技術において、彼らはダントツ。リアルではないから伝わらないことも制限も多いですが、そのかわりに型紙というファッションに紐付いたメタデータ(付加的データ)を取り入れることに成功しています。
森永邦彦 ANREALAGE デザイナー
豊田啓介 建築家・noizパートナー
Zoom接客
ファッションには、手触りや匂い、実用性など、データ化不可能かつ重要な情報が多く含まれている。そんなオンラインには乗せづらい情報も、さまざまな創意工夫によって森永さんは懸命に伝えようとしている。
森永 製品にリアルに触れていただくことができないため、すべてのバイヤーさんにスワッチ(生地見本)を郵送するようにしています。コミュニケーションと体験の場としてオープンしたショップにも、いまは来店できないお客様が数多い。そこでZoomを介したリモートショップというサービスをスタートし、ご自宅にスワッチをお送りするほか、拡大鏡を使って画面越しでも素材の違いがわかるようなプレゼンテーションをしています。
アンリアレイジは先進のテクノロジーをファッションの表現として見事に取り込む一方で、伝統的で職人的なクラフトワークが冴えるパッチワークのアイテムも根強い人気だ。
森永 パッチワークは設計図のない、完全な手仕事でした。でも豊田さんにアンリアレイジらしいパッチワークのパターンというものを解析していただいて、コンピューター上でパターンを組むことができるようになりました。これはとても感動的でしたね。ファッションのパワーは、人の手から手へとフィジカルに伝播すると信じています。でもぼくにとっては、その真逆にあるかのようなテクノロジーとも重なる。サイエンスの裏側には、職人的で涙ぐましい地道な努力がありますからね(笑)。これからもテクノロジーとクラフツ、量産とハンドメイドの中間にあるような、自分たちにしかできないモノづくりを続けていきたいですね。
建築界ではすでに一般的となっているコンピューテーショナルデザインを、ファッション界でいち早く取り入れ伝統的な手仕事と融合させる森永さん。豊田さんは、森永さんの姿勢から、「ファッションと建築が、"身を守る"などのキーワードでつながる可能性を感じる」と評する。そんなふたりのコラボレーションがファッションでも建築でもない、まったく新しい〝領域〟を生み出すなんてことも、ありえない話ではなさそうだ。
パンデミックの渦中で「すべてのデザインを自宅で行った」という、21年春夏の「アンダーカバー」。誰もが公式サイト上で閲覧できる3Dルックブックとして発表され、モデルのルック画像を自由に回転、拡大し、細部まで詳細に確認することができる。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、直接来店できない顧客のためにZoomによるリモート接客をスタートしたアンリアレイジ。写真下は、さまざまな残反をひとつひとつ手作業でパッチワークした布製マスク。内側のフィルターは市販品と交換が可能。
PROFILE
森永邦彦
ANREALAGE デザイナー
1980年生まれ。早稲田大学在学中にバンタンデザイン研究所で服作りを始め、2003年にリアルとアンリアル、エイジを由来とする「アンリアレイジ」を設立。「神は細部に宿る」という信念のもと、職人技術と最新テクノロジーを融合させた創作を行う。
PROFILE
豊田啓介
建築家・noizパートナー
1972年生まれ。安藤忠雄建築研究所などを経て、2007年から東京と台北で建築デザイン事務所noiz(ノイズ)を共同主宰。コンピューテーショナルデザインによる建築、プロダクト、都市、ファッションなどの設計や製作、コンサルティングを手掛ける。
Photos 刈馬健太 Kenta Karima
Words 飴李花 Junya Hasegawa@america
Editor marble studio